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5章 6話 迷宮探索
《四十分後に、闘技会一年生の部準決勝、迷宮探索一年生の部決勝が始まります。選手の皆さんは、各自指定された待機場所へ移動して下さい》
「放送、かかってるわよ」
メアの声を聞いて、はっと現実に引き戻された。
これから競技が始まる。
僕の競技が一番最初だから、まずはしっかり勝ってこなければ。
勝って、すっきりした気持ちでメア達の応援をしたい。
「あ、ありがとう。行ってくるよ」
僕は人の間を縫って、教室の扉に辿り着く。
「負けないで」
「優勝してきてね!」
メアとスブシーディムの強気な応援を背に受けて、僕は決勝に向かった。
《繰り返します――》
◆
「一、二、三、四、五――よし、これで全員だ」
おなじみとなった例の先生が、頭の数を数えた。
集まったのは、僕を入れて五人。
もう一つのグループも、枠いっぱいの突破とはならなかったらしい。
僕以外の四人を見渡す。
一つだけ、見た事のある顔があった。他は全部、見た事のない顔だ。
彼は同級生――Sクラスの生徒のはず。僕は彼に向かって、軽く会釈した。
だが、彼からは何も返ってこない。気付かなかったのかな。
「それでは、ルールを説明する」
その言葉を聞いて、僕達は気を引き締めた。
「あなた達には、今から一時間、ダンジョンを探索してきてもらう」
これぞまさしく『迷宮探索』。決勝戦に相応しい競技内容だ。
「ダンジョン内の全ての物には『ポイント』が割り振られている。ポイントが高い物を見分け、持ち帰ってきなさい。数に制限は無い。ただし、時間を過ぎたら失格とする」
いくらダンジョンを長時間探索できたとしても、持って帰って来る物がぱっとしなければ、旨味は少ない。
予選では、基礎的な探索能力が問われていた。探索できる人が決勝に進出し、その能力のレベルを競う。
やっと、楽しくなってきた。
「これまでと同様、参加者同士で争う事は推奨しない。ただ、協力するも敵対するも自由だ。好きにすると良い」
競技に挑む際に、持ち込み禁止の物は無い。法律の範囲内で、だが。
僕は|空間収納袋《アイテムバッグ》をちらりと見た。獲得した物は、全てこれに入れれば良い。
荷物の運搬にも、狩りにも困っていない。組む必要は無いな。
「質問がある者は居るか?」
先生の問いかけに、誰も手を挙げず、声を発しもしなかった。
「競技開始まで時間がある。待機だ。緊張をほぐすと良い」
そうは言うものの、僕は一切緊張していない。それは、もう一人のSクラス生徒――ルアイも同じ様だった。
緊張していない同士で一緒に話そうかと思ったが、なんとなく話しかけづらい。
前に共闘したのは、一時休戦といった感じだったし。
「――時間になった。始めよう」
話しかけるか迷っている内に、競技の開始時間になったらしい。
僕は頭を切り替えて、迷宮に足を踏み入れた。
◆
「『|雷霆《らいてい》』」
一歩目を刻むと同時に、魔術を唱える。
ダンジョンのモンスターは雑魚だ。そう感じる僕にとって、スピードは命。
どれだけ深く潜って、強いモンスターを倒し、珍しいものを手に入れるか。
これは、それを競う競技だ。強さも大事だが、実力差があるなら速さの方が大事。
「ん? ああ、決勝だから」
ダンジョン全体に魔術の気配を感じたが、決勝――いや、魔法競技祭だからだろう。予選は見られないが、本選は観戦できる。
迷宮探索はダンジョンで行われる。そのため、一般人が中に入って直接観戦する事が出来ない。
魔術で、中の様子を中継しているんだろうな。
違和感の正体をそう結論付け、雷速でダンジョンを駆け抜けた。
ボス以外に用は無い。第一階層なんて、旨味が少ない階層だ。さっさと下に行くに限る。
『魔力探知』――『|夜影剣《マガビナス》』。
『魔力探知』でボスの位置を突き止め、雷速で接近、|夜影剣《マガビナス》を振るって息の根を止める。
ボスの死亡を確認したら、すぐに|夜影剣《マガビナス》を消して走り出した。手に持っていると走るのに邪魔だからね。
|夜影剣《マガビナス》――というかクロから、『もう使わないのか⁉』という悲鳴が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。気にしない、気にしない。
心配しなくても、この先に出番は十分にある。
第二階層――撃破。
第三階層――第四階層――第五階層――第十階層――第三十階層。
第三十階層を狩り場と定め、モンスターを殲滅していく。移動にかかる時間と狩りの長さのバランスを考えて、ここがベストだと判断した。
死体は全部|空間収納袋《アイテムバッグ》に詰めた。
容量が大きいと、選別せずにあれやこれやと詰め込みたくなる。どの部位に価値があるか分からない以上、全て持ち帰るのが安心だ。
――一時間。ここまでの移動に、十分位かかった。時間内に戻ってこようと思えば、三十分程で狩りを切り上げなければならない。
あまりゆっくりしていられないな。
先に、ボスを狩るとしよう。
――『魔力探知』。
第一階層に比べ、第三十階層は九倍以上広い。『魔力探知』するにも一苦労――探知範囲を広げると頭が耐えられないので、動き回る必要がある。
「居た」
ボスを発見した。接近する。
大きな魔力だ。強い。
|夜影剣《マガビナス》を抜く。
ボスが僕を認識する前に攻撃する。先手必勝だ。
ボスの姿が見えてきた。見上げる程の巨体だ。魔力の大きさに見合った。
上の方の階層とは|趣《おもむき》を変えて、第三十階層にはゴツゴツとした岩場が広がる。
足元が不安定で走りづらい。今、つまづきそうになった。大丈夫、踏ん張り直して走り続ける。
ボスの背中の方へ回り込む。相手はまだ気づいていないのか、動きを見せない。
強く踏み込んで、飛び上がる。|夜影剣《マガビナス》を構えて、首を狙った。
このままいけば、やれる。ボスが動き出す気配もない。
『っ、危ない避けろ! 下だ!』
クロの警告を聞いて、僕はとっさに風の魔術で自分の位置をずらした。
――それが、生死を分ける事になる。
地面から飛び出た長く鋭い|棘《とげ》が、空中で何度も枝分かれし、広がる。僕がさっきまで居た場所は、一番太い棘の真上だった。
もしあのままあそこに居たら、棘に貫かれていたかもしれない。クロに感謝だ。
「ありがとう」
しかし、まだ危機が去ったわけじゃない。
細く枝分かれした棘は、変わらず僕を狙って伸びてくる。
僕は空中で体を|捻《ひね》って、それらを切り落とした。
『来るぞ』
クロの短い言葉の後、ボスが動き出した。
巨体の腕を大きく振りかぶって、僕を押しつぶそうとしてくる。動作はゆっくり。避けるのは難しくない。
だが、そうしている間にもずっと棘は伸び続けている。巨体の動作とは違って、こっちは一瞬の内に何メートルも伸びてくる。
そして、棘は一本ではない。何本もの棘が、一斉に僕めがけて伸びてくるのだ。上を警戒しながら対処するのは、精神を削る。
棘を一気に切り払う。そうして生まれた空白地帯に、巨体の腕が迫る。
僕は敢えて避けず、迎撃した。巨体の腕を細切れにする。
手応えが軽い。もしかして――
『本体はこれじゃない』
クロも同様の気づきを得たらしい。
となると、巨体の相手をするのは得策ではない。
かといって、棘が本体なわけでもない。一度、僕は全ての棘を切り払ったからだ。
じゃあ、本体は?
『地中だ!』
「『土よ』」
クロの声に反応したわけじゃない、断じてそういうわけじゃないが、僕は地面を砕き、穴を埋められないよう土を固定した。
結果、ボスの本体が露出する。
腕で抱えられそうな、丸い肉の塊だった。
肉塊からは太い棘が何本も生え、地上の棘に繋がっている。
更に、そのうち一本は巨体に繋がっていた。
濃密な魔力だ。『魔力探知』に引っ掛かったのは、こっちかもしれない。
本体は露出した事に気付いているのか、肉塊を|蠢《うごめ》かせて、棘を伸ばそうとしていた。
だが、この距離なら、僕が剣を振り下ろす方が早い。
|夜影剣《マガビナス》が肉塊の中心に突き刺さった。
肉塊はなおも動き続けようとするが、やがて動かなくなった。
背後で、どさりという音がした。棘は伸びてこない。
初めてここを通った時は、メアが狙撃したから、僕は戦っていない。
直接戦うと、こんなに厄介な相手だとは。
メアは一撃で仕留めていた。スブシーディムの魔力探知の精度が高かったのだろう。
やっぱり、力だけじゃダメだな。
ぼろぼろになった本体と、先端が無くなった棘、片腕が欠損した巨体を、まとめて|空間収納袋《アイテムバッグ》に入れる。
ボスは居なくなった。この階層に居るモンスターは、ボスより弱い。
なら、楽勝だ。狩り尽くせ。
◆
第三十階層に足を踏み入れてから、三十分が経った。
そろそろ戻り始めなければならない時間だ。まあ、時計を見る限り、まだ大丈夫そうだけどね。
でも、不測の事態が起きて遅刻――というのは、絶対に避けたい。
魔素や魔力にはまだ余裕がある。『雷霆』を解除せずに帰れそうだ。
来た道を辿って、上層への階段を一段飛ばしで駆け上がる。
帰り道にボスは居ない。道中のモンスターを斬って、|空間収納袋《アイテムバッグ》に入れる。取りこぼしがあっても構わない。
第二十階層に着いた。
僕は足を止めずに、|夜影剣《マガビナス》を手元から消す。
念の為、|空間収納袋《アイテムバッグ》から出し入れしたように見せた。
第二十階層に、中継用の魔術があるとは思えないけれど。用心するに越した事は無い。
|夜影剣《マガビナス》の代わりに、拳を構える。
正面のモンスターは、雷が焼いてくれる。
横のモンスターは、僕に追い付けない。だが、素材が欲しいから殴って詰める。
第十階層に到着した。時計を確認する。まだ、十分弱あるな。
残り三分になるまで、ここで狩りの続きをしよう。第三十階層程ではないが、貴重な薬草もあるようだし。
僕は時計を見て、再び走り出した。
第十階層を出る前に、『魔力探知』。強そうなモンスターが居ないか調べる。
「ん?」
強い魔力の反応があった。モンスターではない。人だ。
というか、この見覚えのある感じ――ルアイだな。
この時間にまだこんな所に居るのか。
でも、大丈夫そうだな。出口の方向に向かっているようだし、僕と同等の速さで移動できるから、心配する事は無いだろう。
第一階層に出ると、出口に向かう最短距離を突き進む。
足を止めたら遅刻。少しでも曲がれば遅刻。
僕はダンジョンの出口に飛び込むようにして、ダンジョンを出た。
「時間だ」
僕が出た直後、先生の声が競技の終わりを告げた。
先生の周りには、僕以外に三人の生徒が立っている。――一人足りないな。
先生も同じ事を思ったのか、
「ルアイがいない。彼の居場所を知っている者は?」
全員が首を横に振った。
僕は手を挙げて、さっき見たことを伝える。
「さっき、第十階層で出口の方へ向かうのを見ました」
「わかった。彼は失格とする。君達は控室へ。結果発表まで待機だ。――いなくなった生徒を探す! 人手を貸してくれ!」
迷宮の入口が、にわかに騒がしくなった。
何人かの先生が、ダンジョンに入る。
僕達は別の先生に誘導され、控室に行った。