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Ⅳ「傍に」
黄昏に沈む並木道。
帰路を急ぐ生徒たちの気配は、いつの間にか霧散していた。
今、この場所には二人しかいない。
「ただ、あの炎使いについてなら、そのうちわかるさ。僕たちのクラスに席が一つ増えるから」
ドクリ、と心臓が跳ねる。
チカゼの歩みが凍りつく。
シュウがさらりと投げ出した言葉。
それは呪文のように耳の奥へとこびりついた。
(席が、増える)
一つの仮説が浮かび、指先が微かに震える。
それは恐怖ではなかった。
あの日の衝撃を再び味わえるかもしれないという、抗いがたい期待だ。
「……随分と具体的な情報ね。どうして黙ってたの」
シュウはゆっくりと振り返った。
どこか宥めるような、穏やかな眼差し。
「それはお互い様だ。隠し通せてると思ってたのかい? 君が避難の列からいなくなったことに気づいたとき……」
「あら、知ってたの。先生にバレないよう、すぐ戻ったのに。おかげで数十年ぶりに動いたっていう初代学園長像までは拝めなかったのよ」
「……君らしいよ。たまに突拍子もない行動をとるから怖い。心配で胃に穴が開きそう」
「開けばいいじゃない」
チカゼの平然とした様子に、シュウはやれやれと苦笑した。
「僕が掴んでいる情報は、今のでほとんど全部だ。でも、これからもっと増える」
彼は一歩、こちらとの距離を詰める。
「あの日、表向きは『犯人確保』と発表された。憲兵が連行した男も、おそらくは替え玉の類だろう。この学園で、何かが動き出そうとしている」
空気が一段と冷え込み、彼は真剣な面持ちで言葉を選ぶ。
「君には、一人で無茶をしないでほしい。君の力は信じているけれど、未知の脅威を相手にするにはリスクが大きすぎる。だから……」
彼は一度言葉を切ると、癖なのか、何かを決意した合図なのか、乱れてもいないネクタイを整え直した。
「……だから、何?」
チカゼは焦れったさを隠さず、冷ややかに促した。
シュウは、真っ直ぐな瞳で許嫁を見据える。
「この件は、僕たち二人の共同研究にしよう。必ず『一緒に』真実を確かめると、そう約束してほしいんだ」
甘い誘惑のような、それでいて、絶対的な自信に裏打ちされている。
「君と僕、二人合わせれば、どんな困難だって乗り越えられる。島のどんな魔法使いより上手くやれる。そう思わないかい?」