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Ⅵ「到来」
予鈴を待つ教室は、開演を控えた劇場の客席に似ていた。
チカゼは単語帳に視線を落とす。
どこか落ち着かない。
昨日までただの噂だった“海外からの転校生”という予感。
それが今、逃れられない現実として迫る。
(期待通りでありますように)
予鈴が鳴り、扉が開く。
一定の拍子で響く、乾いた靴音。
深紅のローブを纏った男子が現れ、黒板の前で立ち止まる。
彫りの深い顔立ち。
そこにある紅い眼光が、辺りを鋭く睥睨した。
「遠い異国から、ワーフウ国へ学びに来てくれました。グレンさんです」
グレンは、担任の紹介に会釈すら返さない。
恐怖というより、生存本能が警鐘を鳴らすような圧に、クラスメイトたちは背を丸めた。
(周囲を圧殺するほどの、魔力の残滓)
マツリカが言っていた“誰かのため息”の正体を、チカゼは察する。
「ではグレンさん、席は空いているところなら、どこでも好きな場所へ」
凍りついた空気の中。
チカゼはあえて大きく手を振った。
天変地異でも目撃したように狼狽するレト。
シュウの手から落ちたシャーペンが、床で虚しく跳ねる音。
(だって私の後ろ、空いているし)
チカゼの左隣には、背筋を伸ばし、静謐な気高さを保つシュウ。
真後ろではグレンが、長い脚を無造作に放り出し、不遜な構えで椅子に腰かける。
チカゼの席は、二つの強大な存在感に挟まれた。
「……グレンさんは、その強力な魔力に見合うだけの、卓越した実技能力を持っています」
担任は、グレンの態度をフォローするように言葉を継ぐ。
「ただ、公用語の読み書きについては、まだ学んでいる最中だそうです。それで、放課後に補習を手伝ってくれる人は――」
言葉が終わるより早く、涼やかな声が響いた。
「先生、サポートなら生徒会長の僕に任せてください」
シュウが、春の陽だまりのような笑みで手を挙げる。
その声は磁石のように、不安に揺れていたクラスメイトの心を一つに束ねた。
(冗談じゃない。シュウだけに獲物を渡してたまるもんですか)
シュウは座ったまま、自然な動作で斜め後ろのグレンを振り返る。
その蒼い瞳には、ただ純粋に、新しい友人を歓迎するような輝きがあった。
「よろしく、グレン君。分からないことがあれば、いつでも僕を頼ってよ」