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4月ー桜と共に③
第三話です。正座って慣れていないと大変ですよね、、痺れて歩けない笑
**4月ーしびれる足と、初めてのトラブル**
「う、動けない……。誰か、私の足を回収して……」放課後の作法室。畳の上で、舞は完全にフリーズしていた。茶道部に入部して初めての本格的な見学とお稽古。先輩たちの美しい所作に見とれていたのも束の間、15分ほど正座を続けた舞の足は、すでに完全に感覚を失っていた。1ミリも動かせないほどの激痛(痺れ)がビリビリと襲ってくる。「ふふ、長谷川さん、大丈夫? 最初はみんなそうなのよ。無理せず足を崩してね」先輩たちが上品にクスクスと笑いながら、優しく声をかけてくれる。「す、すみません……。お淑やかな道は、思ったよりイバラの道でした……」舞が涙目でなんとか足を崩し、自分の足をトントンと叩いていた、その時だった。作法室の襖(ふすま)が、ガラッと勢いよく開いた。「ハァ、ハァ……! 舞ちゃん、ここにいた……!」息を切らせて立っていたのは、いつもの冷静な姿からは想像もつかないほど慌てた様子の葵だった。「葵!? どうしたの、そんなに息切らせて。図書室の仕事は?」「それどころじゃなくて……! クラスで、大変なことが起きてるの」葵の言葉に、舞はピクッと眉を動かした。「大変なことって?」「今日の放課後、提出期限の『自己紹介カード』、覚えている? あれを回収して職員室に持っていくのが級長の仕事なんだけど……さっき、女子のグループが『誰が出してないか』で揉め始めちゃって。お互いに『私は出した』『あんたが無くしたんじゃないの?』って、クラスの空気がすごく険悪になってるんだよ」まだ入学して数日。お互いの性格もよく分からない時期だからこそ、一度ギクシャクすると修復が難しくなる。クラスをまとめる責任のある担任の高橋先生は、今は職員会議で席を外しているらしい。「誰が出してないか分からなくて、犯人探しみたいになってるの。高橋先生が戻ってくる前に、なんとかしないと……!」葵の話を聞いた瞬間、舞の目がスッと鋭くなった。「なるほどね。……よし、特攻隊長の出番じゃん!」舞はガタッと立ち上がろうとした。――が。「痛たたたたたたっ!!! 無理! 足が、足がまだ死んでる!!」立ち上がった瞬間に激痛が走り、舞はその場に崩れ落ちた。「舞ちゃんっ!?」「くそっ、私のポンコツ足め……! 葵、悪いけど肩貸して! 教室まで引きずってって!」「う、うん! わかった!」葵にガシッと肩を借り、生まれたての小鹿のようにヨレヨレになりながらも、舞は凄まじい気迫で教室へと向かった。◇ガラッと教室の扉を開けると、葵の言う通り、教卓の周りで数人の女子グループが言い争っていた。「だから、私は絶対に実里(みのり)の分もまとめてトレイに入れたってば!」「でも現実に1枚足りないんだから、あんたが落としたんじゃないの!?」周りの生徒たちも、関わりたくないというように遠巻きにハラハラしながら見守っている。ドンヨリとした、最悪の空気だ。「そこまでーーー!!」教室に、舞の地鳴りりのような大声が響き渡った。一瞬で静まり返る教室。全員の視線が、葵の肩を借りて泥縄式に現れた級長・舞へと集まる。舞は葵の支えをそっと外し、まだ少し痺れる足を床に踏みしめて、教卓へと歩み寄った。「誰が無くしたとか、誰が出してないかとか、そんなの今言い合ってもカードは出てこないでしょ! 犯人探しする時間があるなら、サクッと解決する方法を考えようじゃん」「え、でも、先生に怒られちゃうし……」反論しようとした女子を、舞はニカッと笑って制した。「怒られないよ。出していない人が誰か分からないなら、今ここで、全員でもう一度『名簿チェック』すればいいだけでしょ。葵、名簿持ってる?」「うん、学級委員用の予備があるよ」後ろに控えていた葵が、すっと手際よく名簿とペンを差し出した。これぞブレインの連携だ。「よし! じゃあみんな、今から私が名前を呼ぶから、カードを出した人はハキハキ返事して! 1分で終わらせるよ!」舞の圧倒的なリーダーシップと、葵が用意した名簿のおかげで、クラスの女子たちは気圧されるように「は、はい!」と返事を始めた。出席番号順に名前を呼んでいくと、ある一人の大人しい子のところで手が止まった。「……あ。ごめんなさい、私、カバンの奥に入れたまま出すの忘れてました……」申し訳なさそうにカードを取り出したクラスメイトに、さっきまで揉めていた女子たちが「なんだぁ……」と脱力する。「よし、全員分揃ったね!」舞はカードをトレイに綺麗にまとめると、忘れていた子にポンと優しく肩を叩いた。「次から気をつければいーのよ! 誰も悪くない、これにて一件落着!」張り詰めていた教室の空気が、一気にフワッと緩んだ。揉めていた女子たちも「……長谷川さん、ありがとう。ごめんね」と少し気恥ずかしそうに頭を下げた。「ふぅ……」無事にカードを抱えて職員室へ向かう廊下で、舞はどっと押し寄せた疲れにため息をついた。「いやー、初トラブル焦ったわ。葵が名簿持っててくれなきゃ、あんなにスムーズにいかなかったよ。マジで助かった、ありがとね」隣を歩く葵は、嬉しそうに目を細めた。「ううん。私は名簿を出しただけだよ。あの険悪な空気を一瞬で変えて、誰も責めずに解決しちゃうのは、舞ちゃんにしかできないよ」葵は舞の顔を覗き込んで、ふわりと笑った。「やっぱり、舞ちゃんは最高の級長だね」「へへ、そっか? ……あ、それより葵、職員室終わったら購買部寄っていい? 足の痺れに効くか分かんないけど、なんか甘いもん食いたい!」「あはは、おごってあげるよ」新学期、初めてのトラブル。凸凹コンビの鮮やかな連携で、二人の絆はまたひとつ、強くなったのだった。
**4月ー決まらない言葉、私たちの進む道**
「――というわけで、今日の放課後は初の学級活動。この1年間の『学級目標』を決めたいと思います。司会進行は、級長の二人にお願いね」担任の高橋先生がのんきな声でそう言うと、教壇の横にある司会者用のパイプ椅子をトントンと叩いた。クラス中から「うわ、出た」「何にするー?」とガヤガヤと声が上がる。(えっ、マジで!? 私たちが仕切るの!?)舞は内心、めちゃくちゃ焦っていた。思ったことをズバッと言ったり、揉め事を力技で解決するのは得意だが、「型にハマった formal な司会進行」なんて、これまでの人生で一度もやったことがない。ガタガタと震える膝を隠しながら教壇の前に立ったものの、黒板の前に立つと、クラス全員の視線が突き刺さるようで頭が真っ白になった。「えーっと……じゃあ、今から、あの、学級目標を決めまーす。えー……何がいいと思う?」あまりにもノープランな問いかけに、教室内がビミョーな空気で静まり返る。高橋先生は後ろの席でニコニコと見守っているだけで、全く助けてくれる気配がない。(やばい、詰んだ……! 最初のセリフって何だっけ!?)舞が冷や汗をダラダラと流した、その時だった。教壇から一番近い、最前列の席に座る葵が、すっと自分のノートを舞に見えるように掲げた。そこには、葵の美しい文字でこう書かれていた。『①まずは、みんなからキーワード(使いたい言葉)を募集する』『②似た言葉を黒板にグループ分けする』『③最後はみんなで組み合わせる』さらに、葵は口パクで「大丈夫、落ち着いて」とふわりと微笑んでくれた。(……神様、仏様、葵様……!)ブレインの完璧な先回りサポートのおかげで、舞の心にすっと余裕が戻ってきた。「コホン! じゃあね、まずはみんなが『このクラスでどんな風に過ごしたいか』、使いたい言葉をどんどん挙げていって! はい、そこの席の人から順番に!」舞のハキハキとした声に引っ張られるように、女子たちが次々と意見を口にし始めた。舞は葵の手順通り、黒板にチョークで言葉を書き殴っていく。「みんな仲良く」「楽しいクラス」「メリハリ」――。ここまでは順調だった。しかし、目標を一つに絞り込もうとした段階で、新学期最初の本格的な「揉め事」が勃発した。「やっぱり、私立女子中だし、四字熟語でガツンと『一致団結』とか『切磋琢磨』っしょ! カッコいいし!」クラスの派手めな女子グループのリーダー格が、腕を組んで主張した。周りの数人も「確かにー! 体育祭とかで使えそう!」と盛り上がる。すると、窓際の席に座る大人しめな女子グループの一人が、おそるおそる手を挙げた。「あの……でも、それだと運動会とかで無理やり熱くなれって言われてるみたいで、ちょっと苦手かも……。私はもっと『それぞれのペースで居心地がいいクラス』みたいな、優しい言葉がいいな……」「えー? でもそれじゃ目標っぽくないじゃん。ちょっと緩すぎない?」「……う、うん。ごめん……」お互いまだ出会って数日。遠慮があるからこそ、激しいケンカにはならない。しかし、だからこそ教室内には「言いたいことが言えない」ピリピリとした、どんよりとした空気が広がってしまった。(うわ、どっちの言い分も分かるけど……。多数決で決めたら、負けた方が絶対に一晩中モヤモヤするやつだ、これ)舞はチョークを握ったまま、うーんと考え込んだ。クラスが真っ二つに割れそうな、最悪の空気。その時、最前列の葵がすっと綺麗に手を挙げた。「先生、長谷川さん。二つの意見を組み合わせることはできませんか?」葵の声は、静かだけれど不思議と教室中の耳にすっと届いた。「『一致団結』も、みんなで頑張るために素敵な言葉です。でも、普段からずっと気を張っているのは疲れちゃうから……普段はそれぞれの個性を大切にして、やる時はやる、っていう両方のいいところを取りたいです」葵の柔軟なアイデアに、揉めかけていた女子たちが「あ、それなら……」「それなら私もいいかも」と顔を見合わせる。「よし、決まった!」舞は黒板をチョークの裏側でコンコンと叩いた。「二つの意見を合体させてさ、『普段はのんびり、やる時はやる! 凸凹だけど最強のクラス』ってのはどう!? 四字熟語みたいにカッコつけてないけど、うちららしくて一番しっくりくるじゃん!」飾らない、でも全員の気持ちをすくい上げた舞の言葉に、一瞬の静寂の後、誰からともなく「あはは、何それ可愛い!」「いいじゃん!」とドッと笑いが起きた。パンパンパン、と教室中に満場一致の拍手が響き渡る。後ろで見守っていた高橋先生も、「うん、素晴らしい学級目標だね」と満足そうに頷いた。◇「ふはーーー!! 終わったぁーーー!!」終礼が終わり、生徒たちが帰り始めた教室で、舞は机に突っ伏した。「級長の仕事って、頭フル回転させなきゃいけないから、部活の正座より疲れるわ……」「ふふ、お疲れ様、舞ちゃん」葵が自分のスクールバッグを持って、舞の席まで歩み寄ってきた。「最初の司会、すごく堂々としててカッコよかったよ。最後のまとめ方も、舞ちゃんらしくてみんな笑顔になってた」舞はむくっと起き上がると、葵の手をガシッと握りしめた。「何言ってんの! 葵のメモがなかったら、私、最初の3分で泣きながら教室逃げ出してたからね!? それに最後のナイスアシスト。やっぱり葵は私の最高の相棒だよ!」真っ直ぐに感謝をぶつけられ、葵は「もう、大げさだなあ」と照れくさそうに顔を赤らめた。でも、その表情はとても嬉しそうだった。『凸凹だけど最強のクラス』黒板に残されたその目標の言葉は、まるで正反対な自分たち二人の関係そのもののようだと、舞は心の中でこっそり思ったのだった。
読んでくださりありがとうございます!書いていてこれ一つ一つに分けたほうが文字数も減って読みやすいのかなって思ったのですがどうですかね。このシリーズがいつまで続くかもわからないので、、、
まあ読みやすいように工夫したいです。誤字脱字には気をつけます。