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7 一瀉千里な決着
二人の速さ自慢が向かい合っていた。
まるで互いの目から放たれた二色の電流が衝突し合い、これから激しいぶつかり合いが始まりますよ、とでも言いたげな雰囲気。
「オメェ、名前なんて言うんだ?」
「キリンジだ」
「き、キリンジぃ……? めちゃくちゃ変な名前だなぁ! 親のセンスどうなってんだ!?」
ねっとりした口調で煽る盗賊。
「じゃあ、お前こそ何だ? 人の名前を馬鹿にするしかできないぐらい、クソつまらん哀れな名前なのか?」
「クッ……テンメエ、また煽りやがったなぁ?」
「お互い様だろ」
「ヘッ、まあいいぜ、特別にボクちゃんの名前を教えてあげよう! ボクちゃんは心が広いからね!」
演劇の悪役を演じているかのようなクサい言葉遣いに、キリンジがキツめの視線を浴びせる。
そんな視線をものともせず、盗賊は自分に酔いしれていた。
「**ルパン**。それがボクちゃんの名前さ。どうだい、キリンジ?」
「どうだいって……お前、その名前の元ネタ知ってるのか?」
「は? 元ネタぁ? いやいや、ボクちゃんのパパとママが考えたオリジナルなんだけどぉ!」
「……何という偶然」
果たしてこの世界に『アルセーヌ・ルパン』というキャラクターが存在しているのかは分からないが、もし知らないでその名前を付けたというなら、彼の両親は素晴らしい先見の明を持っていると言えよう。
ルパンの頭に巻いているバンダナが風になびく。
「さぁて、キリンジぃ! このボクちゃんと速さ比べでもしようじゃないかぁ!」
「比べるのは速さだけか?」
「いいや、強さもね!」
「分かった。そのケンカ、買った__いや、お前に対しては《《ひったくった》》方が良さそうだな」
一瞬の沈黙、ルパンが狂ったように歯を剥きだす。
「……おいおい、面白いのは名前だけだなぁ! キリンジぃ!」
ルパンはポケットから宝石が埋め込まれたナイフを取り出し、ベルトにぶら下がっていたゴーグルを着けた。目に虫やゴミが入らないようにするためだろう。
一方、キリンジは武器も何もない、己の身体だけが唯一の武器である。
鷲掴みするように両手を地面へ押し付けて、足のかかとを浮かし、つま先を地面へ引っ掛ける。
「おいおい何だそれぇ、まさかそんな態勢で戦うってかぁ? やっぱジョーク以外は面白れぇなぁ! キリンジぃぃ!!」
直後__ルパンは砂ぼこりだけを残し、キリンジに差し迫った。
金ピカのナイフを振り上げ、狙うのは無防備な後頭部。
「ヘッ、遅ぇ!」
勢いよく振り下ろされたナイフが、キリンジの後頭部を強烈に捉えた。
外から刃が見えないぐらい、ナイフは深く刺さっている。
にも関わらず、キリンジは無反応だった。
しかも、血さえ流れてこない。
「はぁ?」とルパンが声を漏らす。
あまりの手ごたえの無さ、ルパンが底知れぬ違和感を覚えた、
__次の瞬間、キリンジの身体が霧をはらったみたいに消滅する。
「遅いのはお前だろ」
そう、ルパンが刺したのは《《残像》》だった。
では、本物のキリンジはどこへ行ったのかというと、既にルパンの真後ろに回り込んでいたのだ。
キリンジは右手を手刀の形に構える。
そして、この戦いの勝者は自分だと言わんばかりに、ルパンの後頭部へ手刀を振り下ろした。
まるでギロチン、ルパンは防御することさえ叶わない。
「グエェ!!」
あまりの衝撃にゴーグルが外れ、舌が情けなく飛び出す。
バンダナのおかげか頭蓋骨は凹まなかったが、これでこれで重症。
ルパンは前にぐったり倒れた。
死んだナメクジみたいなルパンに、キリンジが言い放つ。
「どうせ気絶してるだろうから言ってやるが、駆け出しは中々速かったぞ」
そして、キリンジは革のバッグを持って、女性の元へ戻ろうとルパンに背を向けた。
だが「待て」と弱々しい声がキリンジを振り向かせる。
「待てよぉ、キリンジぃ……お前と、話したいことがあるんだぁ……」
「何だ?」