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1 無謀な男
**「……どこだッ!? どこにあるんだッ!? 聞こえたら返事をしてくれッ!」**
息を切らしながら、森林をかき分けるロン毛の男がいた。疲れが溜まった足を物ともせず、男は唇の横を流れる汗を舐めとる。
「水、多めに持ってくればよかった……」
口の中に広がる塩味が、頭の中を後悔の念で埋め尽くす。男は今にも熱中症でぶっ倒れそうに見える。先にお目当ての《《アレ》》を見つけるのが早いか、ぶっ倒れて死ぬのが先か。
幸運にも男はお目当ての《《アレ》》を見つけることができたのだが、その頃にはすでに男の身体は限界を迎えようとしていた。
しかし、このロン毛の男のいう《《アレ》》とは何なのだろうか。
この男のいう《《アレ》》とは、すなわち**雑草**であった。
ただし、ただの雑草ではない。《《麒麟が食べたという伝説が残されている》》雑草だ。それが由緒正しいのかは誰にも分からないが、伝説というのは大体そういうものだ。
このロン毛の男は、そんな伝説の雑草を食べる為だけに、日本からはるばる中国の熱帯雨林までやってきた。
中国の熱帯雨林を自分の汗だけで八時間歩き続けている男__キリンジはお目当ての雑草を口に入れたが最後、意識がプツンと途切れた。
目の前が真っ白になって、真っ黒になって、グチャグチャになった。
跡形なく混ざり合った意識が元の形に戻り、目の前がパッと鮮明になった。なんとか意識を取り戻しかと思われたキリンジ、しかし、目の前の光景は現実とは到底思えなかった。
「これは何だ? 幽体離脱ってヤツか?」
キリンジは何故か雲の上にいた。
周辺におびただしく広がる雲は、激しく触れるとその分ポヨッと跳ね返る。まるでトランポリンのようだった。
しかし、キリンジはトランポリンで遊ぶ年でもないので、変な態勢で飛び跳ねながらそこら辺を歩き回るだけ。十分、遊んでいるように見えるが、これは仕方のないことだった。
「子供の頃もこうやって遊んでたなぁ……」
キリンジが懐かしみながら雲の上を飛び跳ねていると__突如、辺りを激しい閃光が包んだ。思わぬ眩しさに目をひそめるキリンジ。その目には一瞬だけ、今までの人生の憎悪だけを煮詰めて、それを戦いの方向に研ぎ澄ましたような獣の視線が浮かんでいた。
閃光が弱くなるにつれて、人影が姿を現す。完全に閃光が止むと、顎ヒゲを立派に生やした老人がキリンジの目の前に立っていた。その恰好は白の布を身体に纏っただけの変態スタイル、片手に杖を持っている。
物怖じせず、キリンジが問いかけた。
「お前、何者だ?」
「まあまあ落ち着け、キリンジよ」
キリンジから醸し出される正気ではない敵意を、慣れた手つきでたしなめる老人。あのキリンジを片手間に抑える老人は、あからさまに普通の人間ではない。
老人は、右手に持っている木の杖を野球のバットみたいに肩の後ろに回す。
「わし、神様じゃ」
「__は?」