公開中
アキとイチ 4
イチがまた泣いていますが前回の話とは関係ないです
「いゃ、これ、ぃやだぁ、ぁう、いや、っ」
イチがいやだと言って泣いているのは、細い手首に巻かれたバンドだった。この前俺と鬼ごっこをしているときに転んで、捻ってしまったところだ。
「バンドが嫌なのか?どうして?」
「ぁって、これ、ここ、いやだ、ぁ」
しゃくりあげながら指差すのは、バンドの端についた汚れ。ああ、と納得がいく。
イチは神経質で、こういうことに極端に敏感だ。俺にも少し潔癖症の気があるから気持ちはよく分かる。でも捻挫が治っていない以上バンドを外させるわけにはいかないし。
「きもちわるぃ、やだぁ、外すっ、外す!」
「、それはだめだ。ここ、治ってないだろ?」
暴れる腕を押さえて手を取り、バンドの上から手首を指す。イチはボロボロ涙を溢しながら俯いて、でもやだ、外すの、とぐずった。
「イチ〜…」
困ったな。こういうとき母さんなら、うまく言いくるめて納得させられるのに。父さんだったらきっと、影絵とか犬の声真似とか、イチが喜ぶことをして気を逸らすんだろう。
でも俺は?俺は何ができる?
とりあえず無理やりバンドを外したりしないように両手を握ったけれど、こうしてるより後ろから腕ごと固定した方がいいかと思って膝に乗せた。
俺の膝の上で抱き抱えられたイチは相変わらず軽くて、でもちゃんと身体は熱く、一丁前に怒ってるんだなあと気づく。
「バンド、嫌なんだよな」
「ん、んぅ、うん…」
「そうだよな、嫌だよな。悲しいよな…」
「んー…」
イチの気持ちに寄り添って囁きながら、身体をゆっくり左右に揺らす。一定のテンポで揺られて、実際よりも大きく膨らんでしまった気持ちを丸ごと包まれて、泣いたばかりのイチの目は眠たくとろけていく。
怒りと悲しみから来る震えがだんだんと収まり、力の入っていた指先もぽかぽかと温まって緩んできた。
「ん、…ぅー…んぅ……」
数回むずかるような声を出したあと、イチの目が閉じた。すぐに規則的な寝息が聞こえてくる。涙の跡が残った頬はまだ熱いけれど、もう怒っても悲しんでもいない。思わずほっと溜め息が出た。