公開中
朝の霧
視点:白雪鶴
眼の前の女性がこちらをちらちらと見て、たまにこちらに質問を投げかける。それに答えると、手慣れた様子でカルテに情報を書き込んでいく。
黒い髪に茶のアッシュ、黒い眼。黒いワイシャツに薄汚れた白衣を着て、赤いネクタイをつけている。
雨宮深雪、28歳。病院職員。
「じゃあ、この前も痛みがあって、家族の好きなものを忘れてしまったと。」
「あ、えっと、そうです。昨日はちゃんと覚えてたんですけど…いまはもうなんだかさっぱりで。」
質問された声にしっかり答えたつもりだったが、声はやけに弱々しかった。
雪のように白い髪は姫カットにされ、眼の色が薄い水色と黒と左右で違う。大きめの温かそうなニットカーディガンを羽織っていて、『冬』って感じの見た目だ。
白雪鶴、14歳。忘雪華病の患者。
「なるほどね。わかったよ。」
深雪がカルテに書き込んで頷くと、こちらに向き直る。
「じゃあ頑張ったご褒美にわたしがいいことを教えてあげよう。」
いたずらっ子のような笑みで微笑みながら発された言葉に興味がないわけではない。そのまま次の言葉を待っていると、深雪はこちらに顔を近づけて鶴の耳に手を当てた。
「晴人いるじゃん、日野晴人。」
日野晴人というと病室が隣なので割と話す患者だ。物腰が柔らかく、誰にでも優しそうだ。という印象がある。そういえば知り合いだったか…と思い当たる。
「あいつ、実はカッコつけて一人称俺にしてるんだよ、知ってた?」
「えぇ、そうなんですか?」
「そうそう。さらに…」
「俺の一人称が何です?」
話に夢中になっていて気づかなかったが、病室の入口に茶髪に黒い眼、片足が義足の人物が立っている。
日野晴人、19歳。霧散病の患者。
当の本人は一見笑顔だが、雰囲気が尋常じゃない。まるで微笑む般若である。
「あぁ〜、晴人サン。これは、その白雪と晴人の友好を深めるために…ね?」
深雪が必死の言い訳をした後こちらにね?と無言の圧をかけてきた。
いや、ね?って言われてもなぁ…
これ以上なにか言うと面倒なことになりそうなので急いで首を縦に振る。晴人はイマイチ納得していないようだが、それでも雰囲気を和らげた。
「僕…いや俺は深雪さんに余計な情報を言われにここにいるわけじゃないですよ?」
溜め息を一つ吐いてから晴人はこちらに向き直ると、口元に自身の指を持っていき、しーっのポーズを取った。
「ということで、白雪さん。このことは口外厳禁でお願いしますね。」
それに肩をすくめて答えると、鶴は自分のベットを見回して言った。
「誰かに言おうともわたし、ほぼこのベットの上にいるので言う人殆どいませんよ?」
「それもそうか。よろしくね、白雪さん。」
そう言ってにっこり微笑む晴人に笑みを返すと、晴人の体がぐらん、と傾いた。というか、落ちたという方が正しい。
「ちょ、!晴人!?」
晴人は目を覚まさない。よく見ると、義足じゃない方の足が霧のようにふわりと漂って消えた。
「白雪!ナースコール職員室につながってるから押して!それと電気とかなるべく明るくして!」
突然のことに頭が真っ白になったが、震える足に鞭を打ってベットから飛び降り、電気関係の方に駆け寄る。電気のスイッチをすべて押しナースコールボタンを押す。
「はい、どうしましたか?」
出たのは深雪と同期の白鷹美羽だった。患者と基本的に仲が良く、鶴とも割と仲がいい。
「えと、あ、日野さんが、足、あし…無くな…!」
「日野晴人さんですね。近くに医者は居ますか?」
「は、、あまみ、やさん、います!」
「わかりました。すぐに向かいます。」
そういうと少しの雑音の後、無線が切れた。すぐに美羽と数人来るだろう。
鶴は冷や汗の中で、晴人のなくなった足だけを見つめていた。
出演:雨宮深雪、白雪鶴、日野晴人、白鷹美羽