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光が侵食する
視点:榊渚
ひたひたと雨脚が強くなる。小雨は豪雨に変わり、屋根でタップダンスをし窓をノックし続ける。
影が差す病院の廊下は無人で、壁が無機質に佇んでいた。
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一つの病室から何かが散った。黒くすべてを飲み込む…影のような三角の物体。
僕は溜め息を一つ吐き捨ててからその病室の扉を開けた。
髪と影のように黒く、モノクロ写真のような人物。病院着を着た首元は襟足でほぼ隠れ、何かの漢字が見え隠れする。銀製の丸眼鏡の奥は髪と同じ影色の眼。
そして、最も目を引くのは首元など所々が欠けた彼女の影だ。その姿は触れただけで消えてしまうのではないか…と思わせる。
|月影茜《ツキカゲアカネ》、18歳。影欠症候群の患者。
「やぁ、茜ちゃん。元気?」
「…今まさに病気で苦しんでいる患者に元気と聞くのは野暮だと思うけど。」
冷めた目でこちらを見てくる茜。最近は軽蔑のこの目線に哀れみが入ってきた気がする。
「まぁ〜、それはそうだね。」
「…あなた以外の医者がいいと…頼んだ気がする。」
「しゃーないでしょ、万年人手不足なんだから。」
溜め息一つ。悲しい限りである。
しかし、万年人手不足なのは事実だ。患者11人に対し医者6人。あれそうでもない…?
しかし事務作業などもあるので一人2人は荷が重い。交代制であるものの。
まぁこの病院の人で事情などどうでも良かろう。
「じゃぁ、問診、診察やっていきますねー」
ものすごく嫌な顔をされたのはこの際見なかったことにすることにして、簡単な問診、診察をし、その結果をカルテに書き込んでいく。
「…そういえばさっきも、すこし影が欠けたなぁ」
自分の影を眺めながらそう呟いた茜に、僕は無言で頷くことしかできなかった。
「…うし、コレで問診診察は異常ですー、また夕飯の時。」
「…会いたくない」
「辛辣ぅ」
そんな軽口を叩いてから部屋を出る。こんな軽口を叩けるようになったのも最近だ。少しずつ心を開いて言ってもらってるのかただただ嫌われてるだけなのかは定かではないが、どっちにしろ仲良くなるならいいことだ。
そんなことを考えているうちに、職員棟に着いた。この病院は職員棟と患者棟に分かれている。日和見感染を防ぐためらしい。
職員室に入ると、三死が居た。なにやらニヤつきながらコーヒーを啜っている。
夜のような漆黒のセミロングはあっちこっちにはねている。四六時中笑みを絶やさない眼は光がなく全てを吸い込むようだ。
|三死無望《さりなむぼう》、36歳。病院職員。
「あぁ、三死さん。どうも。」
「…お前か。もう診察は終わったのか」
どうやら忘れられて今思い出されたようだ。頭の中でこっそり苦笑しながら頷くと、三死はへぇとだけ言ってパソコンとにらめっこし始めたコレ以上お前と話す気はないということだろうか。
少しの間、気まずい沈黙が流れた。気まずいと思っていたのはこちらだけかもしれないが。
何年一緒に働いていてもどうにも打ち解けられる気がしない。何故だ、何故なんだ。
「コーヒー、無糖ですか。」
空気に耐えられずなんとなく聞いた問いだが、三死はこちらを睨んだ後、小さく頷いた。yesと捉えて話を続ける。
「僕、無糖飲めないんですよね。砂糖2本ぐらい入れてようやく飲めるぐらい。」
「ガキかよ」
その一言だけ帰ってきた。これでも27歳である。
その後話題が見つからずだんまりを決め込んでいると、すこしガタが効いた職員室の扉が開け放たれた。
「あっ、妖くん。やっほ」
黒いくせ毛の髪は腰まで長く、三つ編みでまとめられている。右目が髪で隠れており、そのすぐ横のもみあげも三つ編みにしている。細い糸目、眼は赤と紫のマーブル模様。髪と同じ色のタートルネックに白衣を羽織り、萌え袖のようだ。身長は低めで、男性の中でも低めの渚も見下ろすことができる。
一見女子に見えてしまうが、喉元を見ればしっかり喉仏がある。
|一ノ瀬妖《いちのせよう》、25歳。病院職員。
「こんにちは。お二人ともベテランなだけあって速いですね。」
そうにっこり微笑むと、妖は自分のデスクに腰掛けた。そして、すぐ事務作業に取り掛かり始める。
やる気が起きなかった僕は、二人に断ってすこし散歩に出かけた。出かけるって言ったって病院内の屋上だけど。
なんとなく空を見上げてぼーっとしていると、きぃと音がして屋上の扉が開いた。
出演者:榊渚、月影茜、三死無望、一ノ瀬妖