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冷えた情熱を氷に閉じ込めて
視点:前部→雨宮深雪
後部→宮美向日葵
「はい、…はい。わかりました。ありがとうございます。」
冷たい病室に、晴人の部屋のナースコールで職員室と電話する自分の声が木霊した。
その声は。、絶望を感じさせた。
ナースコールを切り、そのまま誰も居ないベットにボフッと座り込む。
晴人が、死にかけた。
その現実が、嫌になるほど頭に響く。
頭は冷え切り、もう何も感じなくなっている。
晴人がいつか死んでしまうなら。いっそ、ここで自分が死んだほうが何も感じなくなるのではないか。
そんな考えが、また頭に響き、掠れたうめき声が病室に木霊した。
震える手でカッターナイフを取る。
喉元に突き立て、手に力を込めた。
直後、何かが倒れる音がした。
目の前に、誰かが居た。
誰なのかも、わからなかった。
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楽しげな鼻歌が廊下に響いた。
廊下の真ん中、宮美向日葵がるんるんと歩く。
宮美向日葵、14歳。純熱氷結晶症の患者。
「今日もひまりは元気いっぱい〜♪ひまりは絶対負けたりなんかしないもん!」
不意に、手首より先に違和感ができた。
動かしにくくなるような、ひやりと冷気が来る感覚。
手先を見ると、冷気をこれでもかと振りまいた氷の結晶が咲いていた。
「うぅ、また咲いちゃった…。っ、いやいや!ひまりはこれくらいでへこたれてたまるもんですか!」
頭をぶんぶんと振って、いつもの楽しげな笑顔に戻ると、どこからか、うめき声のような声が微かに聞こえた。
立ち止まり辺りをきょろきょろと見回すと、一つの病室に女性がうずくまり、カッターを喉元に当てていた。
ここらへんは病室から遠いためあまり来ないのだが、ここは確か日野晴人さんの病室だった記憶がある。
そして、うずくまっている女性は、明るく、よく話していた医者の深雪さんだ。
嫌な予感が頭をよぎり、必死に走り出し、喉元に突き立てられ、牙を剥こうとしていたカッターナイフをはたき落とす。その拍子に深雪諸共倒れた。
「深雪さん、どうしたの!?なんでじ、自殺なんて…!」
「…あ、ぁ。宮美?別に、なんでもないよ。」
深雪は光が無い瞳で笑うが、頬は引き攣り、無理して嘲笑っているのが目にわかる。
「なんでもなくない!心まで負けちゃダメなんだよ!ひまりみたいな人を幸せにするためにお医者さんになったんでしょう?」
「幸せにしたいっていうか…可哀想って思ったから職員になったんだよ。でも、こんなにつらいなら…いっそ、死んだほうがまし、じゃない?」
「可哀想?」
ふと後ろから声がして振り返る。
そこには車椅子に乗った部屋の主、日野晴人と、車椅子を引く白鷹美羽が佇んでいた。
白鷹美羽、20歳。病院職員。
「深雪さんはいっつもそうだ。奇病にかかった僕や他の患者さんのことを『可哀想』って思ってる。僕達は自分から奇病にかかったわけじゃないし、それで『可哀想』って言われる筋合いはない。」
晴人は珍しく厳しい目をして、真っ直ぐ深雪を見つめていた。
「だっ、て、…だって、晴人や他の患者さんは、いずれ亡くなってしまうかもしれない。そして、今も苦しんでるんだよ。それは、可哀想ってものじゃ…」
「僕達はちゃんと今を生きてる。どれだけ苦しくても、僕達は可哀想って思われたくない…!」
晴人の声は、最後に向かうほど悲痛な叫び声のようになっていった。
「はると、ごめっ、ん、ごめん…なさ」
「泣かないで。僕達はちゃんと生きてるから、深雪さんにも、他の患者さんやお医者さんにも笑っていてほしいんだ。」
晴人は車椅子の上から手を伸ばし、蹲った深雪の頬に流れる涙を拭った。
「そうだね。私も患者さんの前では笑顔で居られるように努めてる。」
「そうだよ!病気に心まで負けちゃダメだよ!みんなで一緒に元気になろう?」
美羽と向日葵が優しく笑った。
「ほら、見てください、この氷の結晶。今日も綺麗に咲いてるでしょ?」
向日葵が先程咲いた氷の結晶を見せ、深雪が涙を流しながら、笑った。
引きつった笑いではなく、本当に心からの笑顔だった。
出演:日野晴人、雨宮深雪、宮美向日葵、白鷹美羽