公開中
紅い花
さよならの時、紅い花が咲いた。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・
風の音が、いつもより大きく聞こえる。
冷たい風が、頬を伝う。
あ、違う、風じゃない。
涙だ。まだ、流せる涙があったのか。少し自分に驚いた。
フェンスの外。風に揺らされたフェンスが、キシキシと音を立てる。その音も、心地よい。そりゃあそうだ。今から、
解放されるのだから。
---
「クスクス・・・」
「ねぇねぇ・・・」
ああ、うるさいなぁ。
「キャハハハ!」
「なに突っ立ってんの~?」
こっちも、うるさい。
馬鹿みたいに騒いで、自分の馬鹿さを世にまき散らして。
何がしたいの?
「アハハ!早く座れば?」
うるさい。言われなくても座るし。
でも、きっと彼女達が言いたいのはそうじゃない。
きっと、僕の机の落書きになにか反応して欲しいんだ。彼女達は、他人の不幸を糧にして、生活しているから。人が悲しむのを見て、楽しむ人種だから。
「はい、おはよう」
先生が入ってきた。でも、先生はまるで見えてないかのように机の落書きを無視する。きっと、関わりたくないんだ。いじめなんて、めんどくさいだろうから。それとも、本当に見えていないのかな?
「クスクス・・・」
「はい静かに。えー今日は・・・」
あぁ、辛い。いや、辛いのか?なんだか、分からなくなってくる。
その日の授業は、よく分からなかった。
昔、小学校の道徳の時間で、いじめの話があった。
「皆さんは、人が嫌がることをしてはいけません」
先生はそう言った。
「はいせんせー!」
「どうしました?」
「嫌な事されてる人がいたらどうするんですか?」
先生は微笑んだ。
「その時は、その子に優しく話しかけてあげてくださいね」
その時は真面目に、話を聞いて、そうしようと思った。でも、大人になるにつれて、そんなことをする奴は、優しい馬鹿か、英雄になりたい馬鹿のどちらかなのを知る。
---
放課後。彼女達に呼ばれた。
「あ、来た」
「アハハ、いつもだけど、気持ち悪い顔~!」
あぁ、うるさいなぁ。
そんなことを考えていたら、みぞおちを蹴られた。
「睨むなよ。何様のつもり?」
また蹴られる。僕は地面に倒れた。
「ねぇ、まだ学校に来るの?醜いからさ、不登校にでもなってくれない?」
「ほんとだよ。邪魔」
頭も、顔も、腕も、腹も、足も、何もかも、泥だらけの靴で、蹴られ、踏みにじられる。
「・・・」
「何で黙ってんのー?まぁ、喋ってもキモイけどw」
「あーもー、早く死なないかなー」
「アハハ。言うじゃんw」
会話を聞くのも拷問だ。自分とは全く思考回路が違う、この会話。頭の悪い、知性なんて全く感じないこの会話。
もう、やだな。
---
「ただいま」
「あら、ゆずる、帰ってたの・・・あのね、お母さん、話したい事があるの」
「ゆずるなら、聞いてくれるよね?」
「・・・うん」
家に帰ると、母が薄暗いリビングで、虚ろな目をしていた。
今日もまた、これか。
「ねぇ、何でお父さんは私と結婚したのかな。何でかな」
「・・・」
「答えてよ。ねぇ!」
バチンッ!
・・・痛い。頬がヒリヒリする。
「分かりません・・・」
「はぁ?」
母の顔が歪む。リビングのテーブルに対になって座っていた母は、少しずつ僕ににじり寄ってきた。
「何で分からないの」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
「何で」
繰り返し、そう言う。
バチンッ!
また、叩かれる。
「私は、あんたをそんな馬鹿な子に育てた覚えないわよ!!!」
髪を掴まれた。痛い。引っ張らないで。お願い。
「やっぱり、あんたもあの人と同じなのね。馬鹿な男。最低な男。そりゃそうよ。あの人と同じ血が入ってるんだもの・・・」
母が包丁を持った。カシャリ、と音を立てる。
「何で・・・」
母は泣き出した。
「何で私を捨てたの・・・!?」
「ねぇ!!!!!」
母が怒鳴る。耳が痛い。そんなの、僕は父じゃないから知らないよ・・・
「あんたなんて・・・」
母が壊れた。いや、前から壊れてるか。
「どっか行け!!!!」
母は包丁を振り回す。僕は、家から逃げ出した。
学校に入る。部活などがあるので、学校は開いている。
屋上に駆け上がる。
屋上のドアを開ける。
そこには・・・
「え・・・?」
少女がいた。名前も、顔も知らない・・・あれ、でも、どこかで・・・
「|草薙《くさなぎ》さん・・・?」
「え、あ、えっと・・・」
名前を知られてる・・・?
「あ、ごめんね、私、同じクラスの田所です・・・」
「あー、そういえば、いたような・・・後ろで、見てた人?」
その時、彼女の顔が少し青ざめた。
「ご、ごめんなさい!その、助けられなくて・・・」
そんなつもりで言った訳ではないが、彼女にとっては、僕が恨んでるように聞こえたらしい。少し申し訳ない。
「ううん。それより、何で屋上にいるの?」
「あ、それは・・・」
彼女は少しうつむいた。
「死のうと思って・・・」
「!!」
同じだ。そう思った。
「僕もだよ」
「え!?」
これ以上は言わなかった。言わなくても、きっと伝わる。
「・・・そっか」
「うん」
「じゃあ、もう私、死ぬね!もう、あんな息苦しいクラス、いたくないし!」
彼女は笑って、フェンスをくぐった。そして、
「・・・あ」
彼女の姿は、見えなくなった。
---
僕は、フェンスをくぐった。
浅く深呼吸をする。
さぁ、今、解放されよう。
ヤナギです。今回なんとなく書きました。てきとーに自殺といじめの話作りたいなーって思って書きました~。読んでくれると幸いです~!ちなみに明日農泊~(現在6月13日)