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7話「水上都市『モンベル』」
「……あと数時間だな」
そうシュルトがほそりと呟く。
モンベルはまだ見えないが次の中継地点は見える。
中継地点の『フォレト』
ここはほぼ山岳地帯らしい。
ここで休憩を数分済ませてから出発。
到着。
という形だ。
「…あ!『フォレト』です!」
フォレトの街並みが見えてきた。
山・山・山。
それだけだ。
「聞いてた通りに山だらけですね…」
「まぁそんな感じの街ってことで」
竜車から降りると
どこからか声が聞こえたような気がする。
魔法の詠唱のような——
シュルトはそれに気づいた。
「…!**ディフェンシング——**」
それでも。
遅かった。
シュルトが遠くへ飛ばされる。
風魔法だ。
そうして木陰から現れた彼は、剣を取り出して。
「**アイシクルウーズ・セコンズ ブレードモード**」
氷魔法を剣に纏わせる。
風魔法も使っていた観点から、おそらく多属性適性持ちだ。
2つ…いやそれ以上あると考えた方が、もしもの時の保険にもなる。
「はぁ。なんで俺がこんなことをしなきゃいけないんだ。国王サマが直接出向けばいいだろ。めんどくせえオイボレだ」
「あなたは…?」
「俺はリーエンだ。そのちっぽな脳みそによく刻み込んでおけ、バカ。まぁお前の脳みその力じゃ刻み込む前に肉片になってると思うがな」
「は…?」
驚きの声を出したのもつかの間。
氷が纏われた剣がアルトを襲う。
1撃目は何とか避けたが——
2撃目が直撃する。
「がは__ッ!」
アルトが地面に叩きつけられる。
息遣いもだんだんと荒くなっていく。
あれ?
そういえば——
シュルトが、いない
「**アイシクルウーズ・セコンズ 近接攻撃**」
手から小さな短剣を生み出してリーエンの背中を狙う。
でも、そんなのは既に読まれていて。
「あっさい攻撃方法だな。そんなんじゃノミも倒せねぇよ?この脳無しが」
リーエンはさっきの風魔法を2方面展開。
1つはシュルトの攻撃へ。
2つは背中に忍び込ませていた盾を時間差で前面に押し出すように。
グルトとの戦闘を見ていた国王から得た情報で後ろからの近接攻撃を警戒しておけと言われたらしい。
完璧な奇襲を防がれ、シュルトが息を呑む。
リーエンは冷酷な笑みを浮かべたまま、小馬鹿にするように鼻で笑った。
「あのボケ老人の国王サマから、ご丁寧に教えてもらってたんだよ。お前らがグルト相手に泥臭く戦ってたっていう、涙ぐましい低レベルなデータをな。『後ろからの近接攻撃を警戒しておけ』ってよ。対策済みの奇襲に突っ込んでくるなんて、救いようのないマヌケだな、おい」
叩きつけられた床の上、アルトは荒い息の下で、自身の内に眠る魔力を練り上げていた。アルトの適正魔法は——「火」。
リーエンがシュルトを「ゴミ」と吐き捨て、完全に意識を逸らしたその瞬間。アルトの突き出した掌から、激しい炎の弾頭がリーエンの顔面めがけて解き放たれる。
**ゴォッ**
と空間を爆ぜらせる熱波。
「あっつ、……!?」
リーエンの顔から血の気が一瞬で引き、余裕の笑みが消し飛んだ。
氷の剣を強引に盾にして炎をかき消したものの、その肌を焼くような熱気だけで、リーエンはアレルギー反応を起こしたかのように激しく総毛立ち、狂気的な拒絶の表情で後退する。
「な、……に、しやがる……!」
呼吸が急激に浅くなり、リーエンは自分の胸元を掻きむしるようにしてアルトを睨みつけた。
その瞳は、先ほどまでの冷徹な見下しではなく、本気の嫌悪と恐怖、そして激昂に染まっている。
「近付けるな、その薄汚い火を俺に向けるんじゃねぇ、この脳無しが! 焼き殺す気か、カス! ゴミが……!!」
「っはぁ…適当に魔法は撃ってみるもんですね。これで終わりです。リーエン」
「な……に、を……する気だ……」
「ファイアリングウーズ・セコンズ 火炎放射+α」
アルトの手元、そしてリーエンの背後。
そこに、2つの火の玉が展開される。
押し寄せる熱波に、リーエンの脳内で拒絶反応が最悪の形で悪化していく。
呼吸は浅くなり、体の震えは止まらない。
それでも彼は表情の仮面を剥ぎ取られることを拒み、いつも通りの、しかしどこか掠れた低い声で、息を吐くように呪詛を紡いだ。
「……やめろ、このゴミ。……どけ、ドブカス。……何で俺が、魔法を使うことでしか生きていけない下等国民の熱に……なんでここまで押されなきゃいけないんだ……意味わからんな、死ね……」
激しい発作で視界が歪み、吐き気が喉までせり上がっている。その極限状態ですら、彼はいつもの暴言と皮肉の語尾を絶対に崩さない。理性の力だけで恐怖をねじ伏せ、天敵を睨みつけたまま、静かに氷の剣を握り直した。
「発射」
次の瞬間、展開された火の玉から凄まじい勢いで火のビームが撃ち出された。
猛烈な火炎放射。
それはリーエンの骨すら残さないほどの圧倒的な火力だった。
アルトはただ冷徹な目で、かつて強敵だった男が死にゆく光景を見つめていた。
激しい炎がすべてを呑み込み、やがて消え去る。
一連の容赦ない光景を特等席で見ていたシュルトは、「こっわ……」という引き攣った声を漏らした。
ぽつりと溢した独り言。
だが、それが聞こえたのだろう。
アルトがシュルトの方を一瞬だけ鋭く睨みつける。
その冷ややかな視線の圧力に、シュルトは思わず「ひえ……」という情けない声を漏らして体を強張らせた。
いろいろあった『フォレト』だが、出発の時が来る。
ここでいよいよ『モンベル』へ到達する。
2人は竜車に乗り込み、水上都市『モンベル』が見えてきた。
水の都で、1部は水の上に浮いている。
きれいな光景だ。
「わぁ……」
アルトがそんな声を漏らす。
『モンベル』は世界でもよく知られる観光スポットだ。
冒険者なども休息の場として訪れることが多いそうだ。
やがて『モンベル』に着いた。
竜車の出口前に立ち——
絶対に……
国王に勝つ。
そんな決意を新たにしながら、2人は『モンベル』へと足を踏み入れる。