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第四話
3日後、復帰したルークはザインの執務室に向かった。
この3日間、イリーネとは何もなかった。と、いうより寝込んでいたので要件があっても受け取れない状況にあったのだが。
「陛下、失礼いたします」
『ルークか。入れ』
執務室に入るとザインは沢山の書類から顔をあげた。
「珍しいな?お前が3日も休むなんて?」
「申し訳ありません。」
(どこかの誰かさんに大量の仕事を振られた挙句、よくわからない交渉をさせられたもので)
胸の中で悪態をつく。ルークは知らない。情報収集に長けたルークがザインとイリーネの計画を知られないために仕事が大量に回されていたことに。
その言葉の真偽を探るかのようにザインはルークの目を見ていたが、胡散臭い笑みを浮かべているので余計に分かりづらいのか、ザインはルークの観察を諦める。
「まぁよい。早速だが、お前に任せたい案件がある。」
「かしこまりました。」
「今回の相手はエリック・トーマス伯爵だ。」
エリック・トーマス。前々から悪い噂の絶えない貴族。
噂ではこの国で禁止された奴隷を買い漁り、多様な用途で使い潰しているとか。
しかし、以前抜き打ちで屋敷を捜索したが、そのような証拠は一切出てこなかった。
その調査は戦時中の16年前のもので、前国王と深いつながりがあったため揉み消された可能性もある。
しかし。なぜ、今更この人物を標的に?その疑問はザインが続けた説明に答えがあった。
「そこで働いていた使用人からの密告だったんだが、なんでも国に収めるべき税を横領しているらしい。それに、何やら怪しいものを取引している現場を見たとか。お前にはその真偽と、その取引されているものの調査をしてほしい。」
「わかりました。」
なるほど。身内からの密告。だからこの十六年も前の事柄が今になって出てきたのか。ひとまず案件の説明が終わったので一礼して執務室を出ようとするルーク。それを見たザインが「待て」と告げる。
「まだ何か?」
「潜入先は既に決められている。」
ザインが一枚の紙を差し出してくる。どうやら報告書のようだ。
てっきり全体の調査から始まると思っていたので、先に大まかな調査が進んでいるだけでルークは感動した。と、同時にいつもこのぐらい先に調査してくれたら楽なのに、と思う。
報告書は実に綺麗にまとめられていた。そこに書いてある情報によるとどうやら伯爵にはお気に入りの夜のお店があるようだ。
つまり――――
「この娼館に潜入すればいいのですね?」
「そういうことだ。頼んだ。」
「かしこまりました。」
ルークは今度こそ執務室から出ていく。
――――この後何が起こるか、今の二人には知る由もないのであった。
+++
この国には齢8になると、神殿で「耳開けの儀」という儀式を受けなければならない。
「耳開けの儀」とは右耳、左耳、合わせて5つずつ小さな穴を開ける儀である。
これは、この国で信仰されている火の神【トゥーメス】の両耳に10のピアスがしてあったことが由来となっている。
この国ではピアスの形、色、位置によって階級が示せる。これを偽造することは国王の許可なく行うことはできない。もし許可なく行えば、重い処罰が課される。
ルークは、自分のピアスを外し貴族の三男坊を表すピアスを付ける。己の黒い髪を少し乱し、貴族の子息のような服をあえて着崩して着る。最後に少々品のないぐらい多くのアクセサリーで着飾る。
これで、遊び人の貴族の三男坊の偽装は完璧だ。ルークが部屋を出るためドアを開けると―――
「宰相様の変装、いつ見てもすごいよね〜」
「・・・」
なぜかキリスが立っていた。
一体どこで聞きつけたのだろうか。いや、もしかしたらザインとの会話をどこかから聞いていたのかもしれない。
ルークは宰相ではなく、貴族の三男坊の表情を作り、キリスに話しかける。
「はじめましてぇ。ダバラーン子爵の息子のぉ、アル・ダバラーンと申しますぅ。」
ルークの妙に語尾を伸ばす喋り方と、いつもは見せない軽薄な笑顔にキリスはニマニマとしている。
「なるほど、りょーかいです。」
「君はぁ?見たところ貴族って雰囲気じゃないけどぉ」
「オレ?キリス〜。アル様が「蝶の館」に行くって聞いたから付き添いに♡」
「⋯ふぅん?」
蝶の館とは、今からルークが調査する予定の娼館の名である。
女漁りでもするのだろうか?などと失礼なことを考える。
けれど、考えている時間もない。そろそろ行かないと|標的《ターゲット》が現れる時間帯に間に合わない。
ひとまずルークはキリスが着いて来るのを黙認して、移動し始めるのだった。
+++
目がチカチカするぐらい下品に装飾された店内。むせが得るほどの数々の香水の香り。甲高い女どもの笑い声。着飾る大きな宝石や丈の短いフリルがふんだんに使われた衣装。その体には衣装では隠しきれないぐらいの折檻痕。
こういうお店に誘われることは数あれど、その中でも特に品のない爛れた印象の店だった。
もう正直帰りたい。これが今のルークの嘘偽りない感想ではある。しかし、仕事で来ている以上ここで帰るわけにもいかない。
「えへぇ?アル様こんな感じの店が好きなの?も〜そういう趣味ならそうと教えてくれてもいいのに〜」
によによとしているキリスを正直殴りたい衝動に駆られたが、今目立つのは良くない。後で普通にしばこう。そう心に決めたルークは席から標的を確認する。
伯爵はそれは派手に遊んでいた。何人もの女性に囲まれながら酒をガバガバと飲み、品のない笑い声が店中に響いていた。
店でもだいぶ目立っているのでこれなら視線を向けても怪しまれなさそうだ。
この点だけは調査がしやすいので感謝してもいい。
さて、接客する女性たちを適当にあしらいつつ、ついでにウザ絡みしてくるキリスを無視しつつ、監視を続けよう。そう思った矢先、凄まじい音と共に店のドアが開く音がした。