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君と僕との一ヶ月 〜Memory Weave Booksで、お待ちしております〜
🩺 聖明中央病院 診療カルテ(患者:結城 紡)
• 患者氏名:結城 紡(ゆうき つむぎ)
• 年齢 / 性別:16歳 / 男性(女の子に間違えられるほど中性的で非常に繊細な骨格)
• 傷病名(病名):『星彩結氷性 忘却症(せいさいけっぴょうせい ぼうきゃくしょう)』
📋 [主訴および詳しい病状・特性]
• 過去の家庭環境(両親への強い拒絶)に起因する、重度の感情喪失および記憶障害。
• 【失彩(モノクロの世界)】 体内の感情と記憶がまるで月食のように少しずつ闇に蝕まれており、患者の認識する世界からは色彩が完全に失われ、すべてが灰色と黒に見えるモノクロームの世界を生きている[health]。瞳の輝きが消えた虚ろな目が特徴。
• 【結氷(一度きりの涙)】 涙を流す機能が麻痺しており、「生まれてから一度しか泣いたことがない」と供述。流せなかった感情や温かい涙が心の奥底で冷たく凍りついているため、周囲に対して常に冷酷で頑なな態度をとる。
• 【忘却(1ヶ月の宿命)】 1ヶ月周期で脳内の記憶の星が完全にリセット(忘却)される。本人はこれに対し「無くしたっていい」「どうせ消えるゴミだ」と極めて冷淡、かつ達観した態度をとる。
• 身体の衰弱が著しく、少しの歩行で激しい息切れを起こすため、常に車椅子または一人掛けソファでの安静を要する。
⚠️ [取扱注意(拒絶反応・毒舌)]
• お父さん、お母さんという存在に対して激しい嫌悪感を示す。
• また、自身の病状に対して「可哀想に」「気の毒に」と同情や哀れみの目を向ける人間を激しく嫌悪する。(※彼らにとっての同情は、自己満足の傲慢な憐れみにしか見えないため)。
• これらの接触があった際、患者は極めて冷徹なトーンで「うるさい」「黙って」「死ねばいいのに」という鋭い毒(拒絶反応)を吐き出すため、周囲の人間は一律で対等な距離を保つこと。
🔍 [経過観察(痛いときの仕草)]
• 病状や身体的な痛みが激化した場合、周囲に「可哀想」と同情されるのを嫌って執拗に1人になろうとする。
• 心を失っていると自称しているが、何故かいつも特定の『家族の愛の物語』の本ばかりを指名して手元に置き、静かにページをめくっている強い矛盾(愛情への飢え)を抱えている。
📖 [お気に入りの本(彼が求めて仕入れる本)]
• 『あの空が綺麗な夜に、君と見つめて紡ぐ未来』
📕 Memory Weave Books(司書:キオ)
• 名前(あだ名):キオ
• 性別:女性
• 年齢:??(不明 / 見た目はおっとりとした大人の女性)
• 誕生日:??(不明)
• 立場:町外れの図書館の司書
🎒 [お気に入りの持ち物]
• 革表紙の古い本:いつも大切そうに胸に抱えたり、カウンターに置いている古い本。
• 結晶が詰まった小瓶:透明なガラスの小瓶。中には、光の反射で優しくきらきらと光る不思議な結晶のようなものが入っている。
👃 [好きな匂い]
• 古い本の匂い、および、丁寧に淹れられた紅茶の湯気の匂い。
📋 [対・結城紡への対応記録(口調・セリフ)]
• 紡が「死ねばいいのに」と鋭い毒を吐いた際、おっとりとしたトーンのまま、「……毒を吐くごとに、あなたがあなたを消していますよ」と、どこか哀しげに、けれど優しく諭すように告げる。
🔍 [経過観察時の処置(痛いときの仕草への対応)]
• 紡が「可哀想」と思われるのを嫌い、周囲に同情されないよう1人で自分をつねって激しい痛みに耐えているとき、哀れみの言葉をかけることは一切しない
⚠️ [特記事項(距離感)]
• 紡のこれまでの人生(両親への激しい憎しみ)や、なぜ感情がないと言い張りながら『あの空が綺麗な夜に、君と見つめて紡ぐ未来』ばかりを仕入れて読んでいるのか、そういった紡の深い部分にはあえて絶対に突っ込んでこない。
聖明中央病院の409号室に…。1人ベットで本を読んでいる男の子がいる。
そう。僕、結城紡だ。
僕は、重い病気を持っている。その病気の名は星彩結氷性 忘却症。
それは世界で最も残酷で、最も美しいと称される、記憶と感情の奇病。
激しい心の傷によって引き起こされるその病の始まりは、世界からあらゆる「色彩」が抜け落ちていくことからはじまる。見上げる空も、咲き誇る花も、すべてが冷酷な灰色と黒だけのモノクロームへと塗り潰され、患者の瞳からは生気という名のきらめきが失われていく。
流せなかった涙、拒絶した温かい感情は、すべて心の奥底で冷たく凍りつき、氷の塊となって魂を縛る。そのため、この病に侵された者は、生まれてから一度しか泣くことができない。心が完全に凍結しているがゆえに、周囲に鋭いトゲのような毒を吐き、身体の内側から冷えていく激しい痛みに声を殺して耐える。
そして一ヶ月。ちょうど三十日が経ち、凍てついた世界が極限を迎えたその瞬間、心に積み重なっていた記憶の星たちは、パリンと硝子が割れるように一斉に砕け散る。
脳内は完全な抜け殻(リセット)となり、また新しい一ヶ月のカウントダウンが始まる。本人はそれを「どうせ消えるゴミだ」と冷淡に笑うが、星が砕けるたびに、その命の糸もまた、少しずつ摩耗していくのだ。
そんな病気にかかった僕は、いつも病室で本を読んでいる。
「…。ずっと、読んでいるこの本。飽きないなぁ」
僕は、とある本を手でなぞる。
「『あの空が綺麗な夜に、君と見つめて紡ぐ未来』…か。僕には、一生できないことが書いてある。」
内容は、主人公と、その幼馴染との恋のお話だ。
僕は、幼馴染もいないし、恋愛をしたいとも思わない。
「紡さーん。注射の時間ですよー。あと、面会が来ています。」
看護師さんが僕の病室に入ってきた。
注射をされるけど、痛みも何も感じない。
というか…面会?
「まさか…お母さんとお父さん?」
あの人たち、また来るの?良いんだけど…。
「はい。紡さんのお母さんお父さんです。でも、面会は本人に許可を取らなければならないので確認しに来ました。」
「断ってください。もしくは、寝ていたと。」
僕は、隙間を空けずに答えた。
看護師さんは少しびっくりした。
僕は、お母さんとお父さん…あの人たちが嫌いだ。
あの人たちのことを思うと胸が締め付けられるように痛い。
あの人たちは上辺の言葉で僕を慰めてくれる。
望んでいないのに、「悲しかったね」「辛いね」「可哀想だね」なんて。
何がわかるの?何もわかんないじゃん。
僕は、ずっとそう思っている。
「っ!は、はい。では、寝てくださいね。…その本。やっぱり、紡さんって本が好きなのですよね?」
看護師さんに聞かれて、僕は、頷く。
こんな状況でも、本だけは好きだ。
自分とは違う誰かの人生を書くのって、すごい。
「病院を出たら、近くに素敵な図書館さんがありますよ。ぜひ、行ってみてください。」
看護師さんはそういい部屋を出ていく。
…。図書館か
最近、行ってないな。
「…行ってみるか」
あの、本をお守りがわりに持っていく。
この本を持つと、あの思い出が蘇ってくる。
「…これあげる!私が書いた、1番の自信作っ!」
…あの言葉は、今でも僕を安心させてくれる。
病院から出て、まっすぐ進んで右に曲がると、古くてモノクロな雰囲気の図書館、
`Memory Weave Books `
があった。
「…なんだろう。この安心感。」
僕は、そう思いながらもドアを開けた。
「いらっしゃいませ。」
優しい声が、僕の耳に入る。
聞き心地のいい声だ。
僕が、その声の主を見ると、不思議なオーラを放つ女の人がいた。
おそらく、司書さんだ。
腕には、古い本を抱えている。
「Memory Weave Booksは、好きな本や、探している本を必ず、見つけれますよ。」
そう言うと、司書さん貸出カウンターに座り、その本を読み始める。
司書さんに話しかける勇気はないので、そのまま図書館を見まわし始める。
不思議で、綺麗なオーラが漂っている。
肌に触れると何かが安心する。
何か、他とは違う感じがするし蝶々がたまに飛んでいる。
本棚に触れば胸元がホワホワする。
目を閉じれば、誰がが僕の心を優しく包み込んでくれるような…
ふわりと鼻を掠める心地の良い本の匂い、美味しそうな紅茶の匂い。
僕は、目を開ける。
こんなに、素敵でずっと過ごしたくなる場所、あるのかな。
家よりも、安心するし好きだ。
「…スゥ」
僕は、息を吸う。
いい空気だ。本の匂いも入ってくる。
いい気持ちになったからか、癖で本をぎゅっと抱きしめた。
そのときだった。
「っ!光ってる…?」
本が突然光り始めた。
師匠さんは、その眩しさに気づき、こっちに来た。
僕の光ってる本を見ると、目を見開いて立ち止まった。
でも、すぐににっこり笑顔なり、僕に言った。
「その本、少し貸していただけますか?」
僕は、司書さんの大きく暖かそうな手に本を載せる。
司書さんは本をぎゅっと抱きしめる。
そのまま手を閉じ、呪文?を唱える。
「Wrapping up the stars of that day, the memories of that day, and the feelings of that day... You are who you are. It’s not right for you to break yourself. Let's meet again for the first time in a month.」
なんで言ってるんだろう…。けど、司書さんが言い終わった後には本はもう、光を失って、普通の本になっていた。
「…?」
僕が呆気に取られていると、司書さんは僕の腕に本を置いてくれた。
ドシっと少し重くなり、ちゃんと頑張って受け止める。
司書さんは僕がよろめくのを支えてお辞儀をした。
「急にすみません。私は、Memory Weave Booksの司書、キオと言います。」
司書さん…キオさんはにっこりと微笑む。
「…よろしくお願いします。えっと…ここすごく不思議な図書館ですね。あと、さっき光ったのは…?」
僕が問いかけると、キオさんは言った。
「不思議な図書館…ありがとうございますね。光ったのは…まだ知る必要はありません」
そう言って、首を振る。
教えてくれないのか。
まぁ、流石に初めて会った人には、教えたくないこともあるよね。
…自己紹介されて、しないのって不公平だよね。
「えっと、僕は…結城紡と言います。… 聖明中央病院に入院しています。この本は…小さい頃、もらったんです。」
…病院にいるって知ったら今までの奴らは「なんの病気?」「可哀想。」って言ってきた。
この人は…。
「…自己紹介ありがとうございます。ここは、朝の6時に開店し、夜の11時に閉店します。ここでは、お茶や雑談、基本何でもできますよ。では、私は貸し出しカウンターにいるので。」
キオさんがそう言い、貸し出しカウンターに行こうとする。
「あっ!」
僕は、思わずキオさんの袖を掴んだ。
キオさんは、びっくりして僕を見る。
僕は、キオさんに本を押し付けるように言った。
「…あの、この作者さんの本はありますか?」
僕がそう、震えた声で聞くとキオさんは少し目を開いた後に、すぐに言った。
「こちらです。…どうぞ、楽しんでください。借りたくなったら貸し出しカウンターにお越しください。」
キオさんは、僕に他の本とは一際違う本棚に僕を連れてきてくれた。
「…雰囲気、全然違うな。…この本、読もうかな」
僕は本棚の3段目、右から4番目の「君の目には海がある」という本をとった。
作者さんと名前はやっぱり書いていない。
でも、ここにはたくさんこの人の本が置いてある。
僕はその本も、お気に入りな本も、ぎゅっと握って中庭に行った。
綺麗な中庭だ。
お話や、童話に出てきそうなティーパーティができそうなくらい。
そこには、老夫婦がいた。
「…先客か。あっちに座ろう」
僕がそう思い、回れ右したとき、老夫婦のうちの1人、おばあさんが話しかけてきた。
「あらぁ。初めて見る子ねぇ…こちらにおいでなさい。お話ししましょう。」
げっ。バレた。
おじいさんもこっちを向いて、手招きしてくるので仕方がなく座る。
「…こんにちは。」
僕は、最低限の挨拶をした。
老夫婦はニコニコしながら、会釈をしてくれた。
「あなたは、なぜここに来たの?」
おばあさんは紅茶を飲み、僕を見て言った。
僕は、考えて言った。
「…僕の担当の看護師さんに教えてもらいました。」
僕が考えた理由はただ一つ。
看護師といえば、病人ということがバレてしまうから。
僕がお婆さんの目を見たらお婆さんは目を見開いて行った。
「あらぁ…。もしかして、病人の方かしら。…つらいわね。私も、癌なのよ。…夫も。」
夫も…?夫…つまり、おじいさんも?
僕がお爺さんの方向を見ると優しく微笑んで頷いた。
「ワシもなんだよ。癌とか、他の病気は恐ろしいからのぉ。…君も、頑張るんじゃよ。その手に持ってる本。」
おじいさんが、僕の読もうとしていた本を指さす。
この本がなんだ?
「…いい本だよなぁ。ワシも、読んだ。実を言うと、ここは15年間あるんじゃ。わしは、ここの常連や。この本を読めば、病気に勝てる気がしたんだよなぁ。」
お爺さんは、拳をぐっと握る。
…病気に勝つなんて、普通はできない。
申し訳ないけど、癌も相当苦しいし、治しにくいと思う。
「…はい。がんばります。」
…なんで、泣きかけてしまったんだろう。
暖かい、接し方は慣れてないんだもんなぁ…。
「明日も、明後日も、生きれるまで一緒にお話ししましょう。」
おばあさんは、僕の手を握る。
「わしらも、きっといい暇つぶしになるじゃろ…!」
おじいさんが、僕の肩に手を置く。
僕は、初めて暖かさを知る。
「じゃあ、私たちはここで。」
「またな。」
お二人の老夫婦は、席を立ち上がる。
僕に、2人とも手を振ってくれた。
「っ!あのっ。」
僕は喉に何かがつっかえたように、言えなくなる。
つまり、初めて言うから緊張するからか…
でも、言いたい!
「また、会いましょう!」
老夫婦は、にっこり笑って言った。
「もちろん。」
僕は、その後この本を借りるために、貸し出しカウンターに言行った。
「…これ、借りたいです」
僕が、本を出すとキオさんは、後ろのバーコードを読み取り、貸し出し準備をしてくれた。
そのとき、キオさんが僕に言った。
「忘れていましたが、貸し出すためには図書カードを作りましょう。名前をお書きください。それだけでいいです。」
ペンと、カードを出してきた。
すごく綺麗なカードだ。
僕はそこに、名前を書く。
「…これでいいですか?」
僕がカードをキオさんの方に押し出すと、キオさんはそれを受け取り、貸し出しを完了した。
その後、キオさんは僕の図書カードの文字をなぞる。
「?」
僕は、意味が分からなかった。
けれど、すぐにキオさんは僕にカードを返してくれたので、考えもしなくなった。
「貸出感謝します。…またのご来店をお待ちしております」
僕は、お辞儀をして、ここから出た。
…今日はいい1日だったな。
僕は、それからたくさん老夫婦と話した。
たっくさん話した。
病気のこと、本のこと、キオさんのこと、そして、自分の命のこと。
老夫婦は、僕にとって親当然になった。
一週間、二週間、どんどんすぎて行った。
キオさんとも、たくさん話すようになった。
そんな幸せが、ずっと続くと思っていた。
ある日のことだった。
「紡さん…入りますよー?朝ごはんの時間でーす。」
看護師さんが入ってきた。
この時までは、ずっといつも通りだったのに…。
朝ごはんを食べ終わった後、僕の病室がガラッと開いた。
「?」
看護師さんかと思った。
でも、全然違かった。そこにいたのは…
お母さんとお父さんだった。
僕にとって、その2人は誰よりも会いたくない人だった。
僕の目から光が消えていくのが分かる。
お母さんが、キョロキョロしながら気まずそうに僕に言う。
「…紡。病状は大丈夫?…可哀想に。」
は?
「紡、お父さん達は味方だからな。」
は?
「安心して!大丈夫よ!」
は?
「あぁ!お父さん達はお前が大好きだ!」
は?
「何も知らないくせにっ!」
僕は大声を出した。
2人ともビクッとする。
「僕のこと、何も知らないくせにっ!可哀想だ?大好きだ?味方だ?大丈夫だ?何うわべのことの言ってんだよ!ふざけんなよっ!」
僕は、今までの気持ちを全てぶつける。
そのとき、お母さんが反論してきた。
「っ!なによっ!あんたを心配して!というか、そもそもあんたには金がかかってた。死んでくれたらラッキーよ!早く、とっとと死ねっ!毎回、毎回、一ヶ月ごとにここに来て信じさせて。気持ち悪いのよっ!あんた!」
…
お父さんも乗ってくる。
「そうだ!テメェなんかに金なんかかけたくねぇーんだよ!とっとと死ねっ!」
そう言って、2人は僕に暴行を始めた。
痛いよ…
頬が赤くなる。
腕が青くなる。
頭が痛くなる。
意識が遠くなる。
…この人たちは、親なのかな?
その時だった。
「っ!何してるのっ!あなた達!…出ていってください!…誰か!409号室に来てくださいっ!」
看護師さんだった。
看護師さんの声にビビり、2人は出ていった。
そこで、僕の記憶は薄くなっていった。
目が覚めると、僕は点滴に繋がれてベットに横たわっていた。
「シュコーシュコー」
僕が横を見ると、看護師さんがいた。
看護師さんは、点滴と、口についているものをとってくれた。
「…ありがとうございます」
僕は、感謝をした。
看護師さんはにっこり笑って、言った。
「大丈夫だよ。紡さんこそ大丈夫?」
僕は頷く。
そうして、立ち上がる。
「ちょ、待って!立ちあがっちゃダメじゃない!」
看護師さんは止めるけど、僕は立ち上がる。
「…図書館に行きたいもので。」
看護師さんが、止めるのが聞こえたけどそのまま病院から出て行った。
病院から出て、まっすぐ進んで右に曲がると、古くてモノクロな雰囲気の図書館に来た。
入ると、キオさんはいなかった。
「あれ?いつもここに居るのに。」
僕は、キョロキョロと探すけど、見つからない。
(まぁ、一回2人の元に行くか。)
僕が、中庭に行ったとき、美人なお姉さんとキオさんがいた。
お姉さんは、泣いている。
どうしたのかな?
「…キオさん。その人は?」
僕がそう言うと、キオさんは、いつもの笑顔はどこかに答えてくれた。
「…2人の孫だって。」
?いつもの丁寧語も、笑顔も、ふわりとしたあの匂いも、全てがない。
お姉さんは、僕をみて泣きながら言った。
「ッ……おばあちゃんと、おじいちゃんはァッ!…亡くなったわ…。ッ。癌よ。」
その言葉に、僕は全てを打ち尽くされた。
それからのことはよく覚えていない。
気づいたら、病室にいた。
よく見たことのある、ただの病室だ。
…数週間ずっと引きこもっている。
光のない、僕の目に映るのはどうでもいい灰色の中庭と、どうでもいい、灰色のベンチだけだ。
あの、両親は何がしたかったの?
ただ僕に、いらないよって伝えて。
ただ僕を捨てただけ?
馬鹿馬鹿しい…
そう思うのに、手は震えたままだ。
何かが、僕に近づいてきてはこういうんだ。
「お前はいらない子だ。」「ダメな子だ」「死んでもいい子だ」
と。
耳鳴りがして、鳴り止まない。
そうやって、ずっとずっと引きこもり続ける。
楽しくも、つらくもない。
ただ、布団にくるまり、ご飯を食べ、寝る。
気づいたら、あと残り一週間だ…。
あの2人がいないあの世界は、虚しくて、生きている意味もない。
体育座りをした時、ふと、ポケットにあったものを見つけた。
図書カードだ。
「またのご来店お待ちしております。」
キオさんの声が、頭に響く。
…行ってみよう。
残り、すくなくたっていいか。
どうせ、忘れるんだし。
僕は、そうして図書室に行った。
「いらっしゃいませ。数週間、来なかったですが大丈夫ですか?」
そうキオさんに言われ、僕は頷く。
「…今日も、本棚に行かせてください。」
返事も聞かず、僕はそのまま本棚に行った。
いつもの本棚も、僕からしたら色がなかった。
「…あれ?」
僕は、ふと気づいた。
いつもの本棚に、いつもない本が置いてあった。
その本をとって、本を開く。
「っ!」
少し、内容を読んだだけで僕は分かった。
僕と、キオさんは普通の関係ではないと。
その本の本に記載されていた内容は
世界にたった1人にしかならない、星彩結氷性 忘却症。
星彩結氷性 忘却症になった人が出た瞬間に、失う感情と、記憶そのものがこの世に出来る。
その人の名前は、「`キオ・メモリー・スリープ`」だ。
星彩結氷性 忘却症の人に、「キオ・メモリー・スリープ」が入れば、星彩結氷性 忘却症が治る。
つまり、キオさんは…
「僕の、失った感情と、記憶、そのものなんですよね」
キオさんは、僕を愛おしそうに見つめる。
「気づいちゃったんだね。紡。」
丁寧語がなくなる。
でも、今回は違和感がない。
「…キオさん、他にも僕に隠してることあるでしょ。」
僕は、あの本を手に持つ。
「…勘鋭いね。うん。」
その本とは…
『あの空が綺麗な夜に、君と見つめて紡ぐ未来』
だ。
「あの、本をくれたのはあなただったんだよね。あの時は、僕5歳だった。一歳の頃になったから、もうキオさんは存在してたはず…」
キオさんは席から立ってこっちに近づいてくる。
…これが、僕の感情と記憶そのものなのか。
「…そうだよ。私が見つけたあなたは、目から光がなくなっていた。だから、私が書いた本をあげた。あなたの記憶を元にね。」
っ!だから僕の絶対できないことを書いていたのか。
胸が苦しくなる。
そう…あの時の記憶が、また蘇ってくるのだ。
5歳の頃、僕は病気が嫌で嫌で。
灰色の世界で、ひとりぼっちな気がして…
対してどうでもいい、中庭で1人、座ってた。
風が吹く。
僕の髪が揺れる。
けれど、気にしない。
僕を、気にする人もいないのならば、いいだろう。
その時、目の前にあの女の人が立った。
「…なに?」
僕は、女の人を睨みつける。
人と接するのに、慣れていないから。
それでも、彼女は怯まずに、しゃがんだ。
手には、あの本があった。
女の人は、その持っている本を僕に渡してくれた。
「…これあげる!私が書いた、1番の自信作っ!」
その時、僕の目には光が入り、灰色の世界が少し、色づいて見えた。
本をもらっただけなのに。
なぜか不思議な安心感があって。
でも、彼女は僕が瞬きをした瞬間、すぐに消えてしまっていた。
あの時の人は、キオさんだったんだ。
「…僕は、キオさんが好きです。恋愛かって言われると、よくわかりませんけど…。」
僕に言われ、キオさんは優しく僕をギュッとしてくれる。
「っ!」
僕は、涙目になってしまった。
過去に一度泣いたから、もう泣かないとは思うけど涙目になるのはなんでだろう…
「…教えてくれてありがとう。私は、あなたが大切。だから、私はあなたの中に入りたい。」
その言葉に、僕は否定する。
「ダメだよっ!僕は、記憶を無くしたっていい!」
そう言っても、キオさんは諦めない。
「ううん。私は入る。だって、忘れたら元も子もないじゃん。」
「でもっ!」
僕が、首を縦に振ろうとしないと、キオさんは言った。
「これ、見て。いつも私が抱いてた本。」
キオさんの手元には、あの、キオさんがいつも読んでいた本があった。
こうしてよく見るのは実に初めてだった。
「これはね、あなたの記憶と失った感情が載っている本なの。それに、あの小瓶はあなたの記憶のかけら。」
っ!キオさんが大切にしていたものは…
`僕の、消えた記憶と感情に関するものだったのか`
「本は無理だけど…このかけらも一緒に、あなたの中に入る。…この本は、お守りとかにしてくれれば嬉しい。」
…僕は、何も言えなくなった。
ううん。何も言いたくなかったんだ。
「…私が消えても、ここは残る。だから…よろしくね」
その瞬間、僕の持っていた本が光り始めた。
「っ!?」
その本をキオさんがぎゅっと抱きしめた。
「…この光は、あなたの希望の光。いつも、光ってなかったんだけど…」
そう言いながら、キオさんは僕の胸元を触る。
「キオさん…」
「…まだのご来店をお待ちしております。」
そう言うと、図書館が光り始める。
「っ!」
光がなくなると、そこにはキオさんがいなくなっていた。
今まで忘れていた感情、記憶も元に戻ってきた。
僕の、灰色の世界から色が入る。
綺麗なはず…綺麗なはずなのに…
「…あぁ」
僕は泣き崩れた。
何かが足りない。
何かが、必要なのに…
そう。キオさんが…
キオさんが、必要なはずなのに
僕のせいで、キオさんがいなくなった。
そのとき、僕のポケットからあるものが落ちた。
「…図書カード?」
そこには、綺麗な字で「またのご来店をお待ちしております」と書いてあった。
その字を指でなぞる。
そのとき、頭にある声と、言葉が響いた。
『――貸出感謝します。またのご来店をお待ちしておりますね、紡くん』
その時、泣いてしまった。
病気が治ったんだなと改めて実感はするけれど
今はそれどころじゃなかった。
僕はその図書カードを、空っぽになった貸出カウンターに向かって、そっと掲げた。
今度は、僕のこの完治した心も、記憶も、未来も、一生あなたに預けるために。
「キオさん。……僕のこの全部を、あなたにお貸しします。だからずっと、僕の中で見ていてね」
僕は涙を拭い、初めて心からの笑顔を浮かべて、静まり返った空間に、けれど僕の胸の奥の心(キオさん)にダイレクトに響くように、力一杯に伝えた。
「大好きです」
「あ、あのっ!」
女の子が、病院から出て、まっすぐ進んで右に曲がると、古くてモノクロな雰囲気の図書館、
`Memory Weave Books `
に来ていた。
「…いらっしゃいませ」
僕の声が、今日も響いている
うわーん!
こんなに書いたの初めて!どうかな?