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アレキサンドライトのお願い
「…えぇ、だれ?」
「あ、拾ってください!人間です!」
「いやいやいやいや、人間ですじゃないのよ!」
私は魔界と人間界の狭間の空間に住む人外だ
種族名がないのはいろんなものが混ざってるから
元は悪魔、その後に鬼を喰い、人魚や天使さえも食べさせられ、結果はこんな紛い物
おそらくまだ食べてないのは人間くらい
「?人間です!拾ってください!」
「…あのね、ここは狭間、人間は入れない筈なんだけど」
「お母さんにここに置いてかれたので知らなかったです!」
めっちゃ元気よく返事するからちょっとよくわからない
「…これから吹雪くよ」
「え、じゃあ早く拾ってもらわないと!」
「…本気で言ってる?」
「はい…?」
「ここには大体魔界から追い出されたやつが多いの、拾われてもすぐ喰われるよ」
「…でも、私寒さに弱いんですよね、ちなみにどれくらい吹雪きます?」
「1週間、だからこんな買い込んでるの」
「……」
あ、凹んだ、ダンボールのなかで丸まって考え込んでるのが少し面白くてそれを見つめる
「!じゃあ、拾ってください!お兄さん!」
「お姉さんだ!!!」
思いっきり野菜が入った袋で頭を引っ叩く
「え、女の人⁈」
「悪かったな中性的で」
「胸もないしめっちゃマッチ棒なのに⁈」
「おっけー拾わない」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「…料理できる?」
「いけます!洗濯料理掃除なんでもござれ!!」
「3食、衣食住保障付き」
「お願いします!」
ということで拾うことになりました
「ちなみに、なんで捨てられてたの?」
「あぁ、私がハーフだからですね」
「ハーフ?何との」
「宝石ですね、そのせいで寿命が短いんですよね〜」
「…ふーん、あとどれくらいなの?」
「大体1ヶ月ですかね?髪が宝石になっちゃったので」
どうやら宝石とのハーフは寿命が20年しかなくて
10歳で目、そこから段々と髪が宝石に変わり最後は肌が変わる、ということらしい
「…ちなみに名前は?」
「えー…そうですね、じゃあライトで」
「じゃあって何」
「覚えてないんですよー名前、だからライトで!」
「そう…」
「由来については変わってる宝石ですね!」
「へー…何なの?」
「アレキサンドライトです」
「だから色変わったのね」
この狭間の空間は時間の感覚がおかしい
夜であっても太陽が空を彩り平等に光を散らす
そんな太陽の下では青緑に光った髪と目は
今この部屋の中では赤紫に変わり別の光を見せている
「はい!結構綺麗じゃないです?」
「…まぁ、そうだね」
「あ!ご飯何がいいです?」
「その袋にあるやつで作って、色々あるから」
「はー、い?」
バっと袋を開けてライトが固まる
「どうしたの」
「えーと…これは」
袋から出されたのはこの狭間では定番の食べ物達
「それは悪魔の翼固め」
「…このなんかドロドロのは」
「人魚の臓物煮」
「…この炭みたいのは」
「鬼の角削り節」
「…人外食材ぃ…」
「当たり前でしょ…私キメラよ?」
「そうでした…も、もっと普通な…!ほら!このトマトみたいなのとか」
そっと取り出したのは真っ赤で丸いピッと皮が張った食べ物、でもそれは普通の野菜なんかじゃない
「それは天使の心臓球、高いわよ」
「変なのしかない⁈」
「ほら、どうするの?今からでも外出る?」
もう外では若干風と雪が窓から見える曇り空を彩りながら音を鳴らしている
「いや!!」
「じゃあお願い」
キッチンに袋を持って飛び込み悩む後ろ姿に
ふと疑問が浮かぶ
私はなんでも食べれるキメラ
だがライトに今の所一切の食欲が湧いていない
宝石なのは髪と目だけ、
肌もその内側の肉も何も変わらない筈なのに
その事を悩んでいると目の前にお皿を置かれる
「ふー…どうだ!」
「あら、早かったね」
「?もう20分経ってますよー」
「…ほんとだ、でこれは?」
「量産型天属生牛?のハンバーグです、まともなのこれくらいしかなくて…」
もじもじと指をこねる姿を揶揄いたくなって小さく呟く
「…ちなみに天属生牛は人喰いよ」
「えっじゃあ私共食いになる⁈」
「ならないわよ、それに嘘よ」
「な、ならよかった」
「本当は天使のなりそこないを餌にしてるわ」
「尚更ダメじゃないですか!」
「これは?この野菜みたいなの、どうやったの」
「えっと…たしか、説明書に…」
袋におまけとして入れられていた異食用の説明書の紙をめくりページを探している
「あ!これです、精霊の木の筋葉!」
「ありゃ人外殺しの植物だ」
「人外殺し⁈」
「うそよ、精霊の命で育つだけの植物」
「それでもやだー!!」
騒いでいるライトから目を避けて外を見ると
ガタガタと窓の音に
叩きつけるような雪が窓を覆って外が見えなくなる
「…?わ、すごい雪、窓開けたらここで小さな滑り台できそう」
「ただの積もった雪ができるだけ、ほらこたつつけるけど入る?」
「え、やった事あるの?入る〜」
小さなこたつ、一人分を想定して買っていたからかぎゅうぎゅうで…うん、近い
「近い…」
「まぁこれは…うん、仕方ないって事で!」
「ん…ねてた?」
こたつの中で寝てしまった事に気づいて
隣で寝こけているライトの頭を叩く
「いった!…え?」
「おはよ、どうしたい?」
「ぇ、えー…?」
「ここいてもすることないよ」
「…ん…じゃあいつもは何してるの?…あれ名前聞いたっけ」
「…言ってない」
「お名前教えて」
「サヘラサート・ストリッパージ・ユンドラ・ミシュトアン・ハリアミキュ・サフラン」
「…なんて?」
「サヘラサート・ストリッパージ・ユンドラ・ミシュトアン・ハリアミキュ・サフラン」
「……サヘラで」
「略すな」
「え、だって、さへらさんと、すとりぱじ、ユントラ、ミシュラン、ハリアニキ、そふらんだっけ?」
「サヘラサート」
「さへらさんと」
「ストリッパージ」
「すとりぱじ」
「ユンドラ」
「ゆんとら」
「ミシュトアン」
「みしゅらん」
「ハリアミキュ」
「はりあにき」
「サフラン」
「そふらん」
「……まぁいいや」
「よしサヘラ!いつも何してるの?」
「熊食べたことあるから冬眠できる」
「え、ずる!」
「どうするの、ライトは」
「…うーん、あ、じゃあ砕こっかなこれ」
そっと長く伸びている髪を一本摘んであげる
「…砕いてどうするの」
「一つにまとめておっきな宝石にでもしたら儲かるかなーって」
「1ヶ月しか無理なのに?」
「あ、忘れてた!それまでにこの体の使い道決めなくちゃいけないんじゃん!」
「…朝ごはん作って、その前に」
「?了解!」
まだ会って一日、それでも食べたいと思えない人間というだけ少しだけ心を開いてしまう自分がちょろいと思ってしまう
「え、まってもしかして昨日と同じ感じのしかないよね⁈」
「そりゃね、変わってないよ」
今回はちょっとデザート風だった
「はい!エルフの眼刻のケーキ!」
「あ、珍しいやつだ」
「ちなみにこれ何なの?」
「エルフの眼球部分を取った目元ら辺を甘く煮込んだやつ」
「うーんぐろい」
真っ白い肌のエルフが元だからか白に近い色のケーキにフォークを刺して口に運ぶ
「それをケーキに使うのもグローい」
「そう言いながら食べてるじゃん!」
「ま、ライトも食べれば?食べれるなら」
「…うぇぇ…」
「作ったなら食べてみ、ほら」
「…なんかあったら責任押し付けるからね!」
そう吠えながら差し出したフォークの先にあったケーキを口で覆う
「…あ、おいし」
「ほら〜」
「やっぱり人間じゃなくなってるってこと…?」
「まぁ、普通宝石とのハーフとかないしね」
「あ、そっか」
「ほら、食べるなら半分こしよ」
「わーい!」
「…雪止んだね」
ライトが作ったご飯を食べて、
お互いのことを話して、
やってみたいことも話して、
ライトの身体をどうするかの話をしていたら
あっという間に雪は止んだ
「でてく?ライトは」
「ううん、でてかなーい、あてもないしね」
残り三週間くらいのライトの身体はもう変わり始めていた
髪と目はもう変わりきっているからか
所々の肌が宝石となり始めていた
「…足の指からかぁ…動かしづらいんだよね、なると」
「ま、手はなってないからいいんじゃない?」
「うーんこのペースなら最後の一週間詰みでは?」
「?なんで」
「この一週間で足元、来週で胴体、なら多分…」
そっとこちらを覗いたライトは少しだけ不安そうな顔に見えた
「最後には作れないね」
「…なら今作ればいい、好きな食べ物あげなさい」
「え、でも人外食材でしょ?」
「それは安いし私にとっては美味しいから」
そう、いつもの食材は近くの店で安く売られた量産型系列の商品、
言ってしまうなら本物とはかけ離れているが
少しだけ入ったエキスだけでも
私には美味しく感じられるのだ
「高いやつなら人間界のもの、あるよ」
「…なら、私も見たい」
「いいよ、服は貸したげる…どんなの好き?」
「なんでもいいよ、一番は可愛いの♡」
「じゃあ私の変装用ワンピースでも着てなさい」
「変装用?」
「キメラだからって変な事する輩から逃げる用」
キメラは大抵迫害の対象か武器として扱われる
同族喰い
天使喰い
人魚喰い
そんなあだ名は当たり前
それで呼ばないのはそれさえも受け入れる
この街の住人と武器扱いの馬鹿どもだ
食べれるとその種族の特性を身につけるキメラ
それがこの街には多いせいで
それを別種族との戦争に使おうと誘拐を企てる奴が多すぎる
その為の変装用だ
私は基本黒しか着ないから勘違いをする
「へー…だからこんな明るい色の」
外に出ると変わる青緑の輝きに似合う水色のワンピース
それを身につけくるりと回る
「ほら、いくよライト」
「はーい」
扉を開けると外は晴れて雲もほぼない晴天だった
「お、嬢ちゃん珍しいね、久しぶり」
「おっさん久しぶり、人間界の食材はある?」
「せめておっちゃんにしてくれ…あるよ」
行きつけのいろんなやつを売ってるお店
奥さんがキメラだからかキメラが食べられる食材を見極めて用意してくれているから助かっている
「というか…その子は誰だい?」
そっとおっちゃんがライトを指して尋ねる
「私ライトです!サヘラの家の居候です!」
「3食ご飯作ってもらってる」
「…その髪、宝石かい?」
「あ、はい!」
「…お嬢ちゃん、ちょーっといいか?」
「何さおっさん」
「おっちゃんな」
「で、何?」
店の裏、こそこそとおっちゃんに耳打ちされる
「あの子の髪、ありゃ綺麗な宝石だ…うちに売ってくれたりはしないか?嫌ならいいが」
「…本人には確認するさ、今はまだ無理だね」
「そうか、まぁだよな…悪い」
「でも売るってなったらここにするよ」
「そうか、ありがとう」
「で、これだけ?」
「あぁいや、ちゃんと在庫は確認して…」
「__えぇ⁈ちょっいたぁ⁈__」
「…は」
小さくライトの声が聞こえておっちゃんの顔さえ見ずに急いで向かう
そこではライトが髪を誰かに無理矢理引かれていた
「痛い痛い痛い!」
「ちっ…デーモントード!」
痛がるライトを無視して引く姿にイラついて
わざわざ悪魔の特性を使ってそいつの顔面を蹴り飛ばす
「…ぁ、サヘラァ!」
「…あー…なんだ自動人形か」
声を出せない、命令以外のこともできない
自動人形、動かない様子からそれなのがわかりやすい
「おっと、大丈夫か?」
「おっちゃん、警備隊に連絡しといて」
「はいはい、あぁ、人間界品そこに集めといたから、好きに取っていきな、金は置いてね」
「はーい」
「すごいね、さっきの蹴りヒーローみたい」
「悪魔の特性使っただけ、はいお肉」
「わーい!…特性って?」
「各種族についてる特殊なやつ」
「へー?悪魔のは何なの?あ、野菜あった」
「空飛びと身体強化」
「意外とシンプルだ」
「キメラだから薄いけどね」
「他だと何なの?」
「天使は空飛びと羽使った加護の付与」
「加護?」
「人魚なら再生と水中呼吸」
「ちゃんと魚っぽい」
「精霊なら空飛びと空中に飛べる粉の生成」
「…空飛び多くない?」
「あんたがわかりやすそうなのが少ないの」
「まぁたしかに?あ、最後のあったよ」
結局あの襲撃野郎は警備隊に回収されて
私達はほしい商品を取ってお金を払って帰った
「…で、何作るの?」
帰ってすぐにライトはエプロンを着て準備を始めていく
「ハンバーグ!大きいのがいい?」
「作りやすいので」
「え、指定してよー!」
「…じゃあ大きめ」
「おっけー!」
数時間後、前に出されたのは丸いものだった
「…何これ」
「ハンバーグ!まさか血抜き0とは思ってなくて頑張ったんだよ?」
「ふーん…あ、美味しい」
「よかった!私も食べる!…!うん美味し!」
ばくばくとハンバーグとご飯を食べていく
早めにライトのお皿は空になった
「ふー…美味しかった」
「ね、ライト」
「?なに?」
「おっちゃんが、売るならうちにしてくれってさ」
「…そうだね、あの感じならいい扱いしてくれそう!」
それだけを返してライトは静かになる
「…ライト?…っておい」
急に静かになったから心配したら
さらっとハンバーグを一切れ取って行った
「…ね、サヘラ」
「…何?」
「私が全身なったらさ、どっかアクセにしてよ」
「…はぁ?」
「目ーとか、髪とか?指輪とかにしてさ、持ち歩いてよ」
「いやよなんでよ」
「えー?いいじゃん!それ以外は砕いて売ってよ」
「それ言われてできると思う?」
「そこは頑張ってよ」
にこにことしたライトの顔、それに私は少しだけむかついて足を蹴った
「いった⁈」
そこからは早かった
次の週にはもう足はほぼ変わり
その次の週にはもう胴体まで変わっていた
残った部分は顔と腕だけ、そんな状態になっていた
ライトは動けないわけではなかったけど
若干動かしづらそうにしていることが多くなった
「…サーヘラ」
「何、ライト」
「気になってさ」
「何が」
そっと私の前に座ったライトが尋ねる
「サヘラは、私食べなくてよかった?」
「…はい?」
「あとは人間だけなんでしょ?食べてないの」
「そうだけど…」
「私を食べてよ、私を最初で最後の食べた人間にして?お願い」
「…最後って」
「?最後じゃなくてもいいけど、最初がいいなって!」
最初と変わらない笑顔に少しだけ気持ちが揺らぐ
「…お願い、多分もうすぐ全部なっちゃうから」
手を握られて目が合う
「最後のお願い」
一つしかないベットにライトが座る
いつもならここでジャン負けで布団にする
でも今日は違う、
そっとライトに近づいて腕を持つ
「腕にするの?」
「違う」
「じゃあ、どこ?」
「…ライトの大事な所、人間の誓いのもの」
少し変わり始めている左手を持って
薬指を食む
「…いいよ、食べて」
ゆっくり微笑んだライトに見えないように手で隠して指を口の中で転がす
千切ったタイミングで小さな悲鳴が聞こえたけどすぐにそこも宝石になったお陰でそれもなくなった
「…美味しい?」
「…おいしいよ、ライト」
「…ありがと、…あぁー!あとどれくらいだと思う?」
儚げな雰囲気さえもぶち壊してライトが聞いてくる
「明日ごろには全部なるんじゃない?」
「あ、じゃあ今日中に準備しないとじゃん!」
「準備?」
「うん!ちゃんと砕いて売ってよ?」
「あーはいはいそれね…アクセも?」
「もちろんやってね!私を外に持ち運べー!」
「はいはい」
ギャイギャイといつもと変わらない掛け合い
でもそれは簡単に時間に消えていく
翌朝、その時は来た
「さ、へら〜…」
「ライト」
「んふふ…あさにおやすみかぁ…」
「どこでもどうせ太陽でてるわよ」
腕ももう宝石に変わり、残ったのは顔だけ
それでもまつげはもうきらきらと反射するようになってる
多分数分で顔全部が変わる
そしたら、話せなくなる
見えなくなる
命も終わる
「…さへらぁ」
「何」
「どこあくせにするの?」
「…髪でも指輪にしてやるよ」
「いいね…さへら」
「なに?ライト」
「ひろってくれて、ありがとね」
それだけ言ってライトは静かになった
「…ライト」
声をかけても、変わらない
顔が変わりきる前に、そっと顔を撫でる
目は閉じているのにえがおに見えて少し口角が上がる
あぁ、最期まで変わらない
完全に変わったライトを用意されていた道具で簡単に砕いて次の日おっちゃんの所に持っていく
「お、嬢ちゃん…あれ、あの宝石の嬢ちゃんは」
「飛んでったよ、ほら約束のやつ」
「お、おう…あの嬢ちゃん天使だったのか?飛んでったって…」
「比喩だよ」
「そうか…ん?なんだその薬指の指輪」
「…ふふ、綺麗でしょ?」
外からの光に反射して指輪が光を放つ
毎朝の声も、置かれた布団が使われることも
おそらくもうない
最初で最後のお願いはおそらく全てに適応する
それもわかって
私は心をライトに許した
アレキサンドライト、きらきらとひかるその宝石にそっと唇を添える
笑ったあの顔はいつまでも私の頭に残っている
だから一つだけ
またいつか会えるかもしれない希望へ
小さなお願いを込めて
「おはよう、ライト」