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山梨とはる#2
4月7日。始業式。私が2年3組にいくと山梨あらため吉井はもう来ていて、席に座って制服からハーフパンツに着替えていた。
それを見て、あ、そっかきょう、大掃除あるか、始業式の前に。なんてことをおもいだす。ハーフパンツを忘れた私はスカートを着たまま掃除することになる。教室の床の水拭き担当だったら汚れていやだけど、もしそうなれば仕方ないので腹を括る。
黒板に貼られている座席表から自分の席を探した。私の苗字は「川島」で出席番号は8番だ。廊下側から2列目の前から3番目だった。まあまあの席。よかった。
「やまなしー…よしい。」
席にカバンを置いたあと、ちょうど着替え終わってスカートを椅子に覆い被せるようにかけている吉井に話しかける。思わず山梨、と呼んでしまいそれとなく言い直すと、彼女は顔を上げて肩をすくめた。「どっちでもいい、そんなの。」
「あ、そう。まあ吉井でいく。」
「ふうん。」
「ねえ、メンタルつよいね。」
私がふと、という調子で口にすると彼女は不思議そうに何度かまばたきをした。本当にメンタルが強いといっそ感心しつつ、苗字変わったのに、と細く続けると、目の前のおおきな目は今度は不可解そうに切れ長になった。
「えっと、離婚はともかく再婚は、べつにそんな、でもない。」
「他人から見たら離婚か再婚かなんてわかんないよ。死別かもしれないし。」
「死別は苗字変わんないよ。」
「えっほんと。」
「離婚じゃないもん。」
「そうなんだ。」
なんで知ってるんだろう山梨。じゃなくて吉井。やっぱりまだ山梨のほうが馴染む。彼女のおおきなひとみは薄い黄色をしていてどこか梨に似ているし、なんていうのはほんとうは関係のないことだけど、ともかく吉井なんて顔じゃないのだ。
そんなでもどうせすぐに慣れてしまうんだろうと知りながら、私は言う。
「しばらくは山梨って呼ぶことにする。」
「あっそう。」どっちよ、と山梨はつぶやく。
続かないよ。