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山梨とはる#3
幸いなことに大掃除では私はほうきのゴミ取りに当たった。水拭きみたいに確実に床にスカートがつくのと比べれば圧倒的にマシだ。ベランダに出て、クラスメイトの宇野とふたりでひたすらほうきをゴミ取りで取る。宇野とは去年も同じクラスだったが、それほど親しいわけではないので、すこし気まずい。
「あ、そういえばさー。」
宇野は親しい友人に話しかけるみたいな軽い口調で私に声をかけた。意外とフレンドリーであるらしい。私も同じ軽さでかえすべきなんだろうけど、慣れていないせいで「なに。」とやや固くなってしまった。それでも宇野は気にしていないようでゴミを取りながらつづける。ベランダの地面に灰色のほこりが落ちていって、弱い風でも揺れ動くので、風の向きを考えてほこりの軌道上にいないようにしている。
「山梨さんって苗字変わってるよねえ?あれ。」
心臓がほんとうにわずかに跳ねた気がした。私が勝手に答えていいものか悩むが、苗字が変わったのはみんな知ることだろうしいいか、と首を縦に振る。
「うん。」
宇野はだよねーと言って、
「ええっとなんだっけ、よしい、さんになってる。」
「うん。」
もう一度うなずく。
「でも春休みの前は山梨さんだったよね?」
「それは、そうだね。」
うなずく以外の反応を示せない。宇野からすればただの事実確認だからそんなのでいいんだろうけど、私のほうでは、先ほどまでのすこし気まずいが結構気まずい、になってしまっていて、ゴミ取りを握る手に力がはいった。
「春休みでなにかあったのかなあ。」
宇野はそれほど興味のなさそうな、しかし完全に無関心というわけでもない、まさにただのクラスメイトに対しての気持ちとして大正解のトーンで言った。
「川島さんしってる?仲良いよね山梨さんと。」
ふつうに知ってるよ、おしえてくれたよ、心の中で答えた。でもそれこそ、一端の友人でしかない私がべらべら話してはいけないことだろう。うん、知らないことにしよう。そう決めて「ううん。」と言った。
「ふうん、川島さんでも知らないんだ。あ、わたし袋とってくるね。」
宇野は教室のなかの時計を見やってそろそろ掃除の時間が終わることを知ると、ほうきを置いて立ち上がった。私はすっかり綺麗になった自分のほうきを数秒眺めたあと、ゴミ箱に歩く宇野の背中に視線をやった。ちょうど山梨が、ちりとりを片手に教室に入ってくるのが見えた。
つづかないよ