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種あり葡萄と君
2026/05/31 種あり葡萄と君
みつこは泣いていた。声も出さないし表情も変わっていなかったけど確かに目から涙が出ていた。まつ毛が少し揺れた。私がそんなみつこをじっと見つめてもみつこはこちらに瞳をやりはしなくて、視線に気がついていないはずないのに、悲しみに浸ってこっちを無視するなよ、って無性に腹が立った。それでちょっとみつこのことが嫌いになった。不可解だとも思った。
「はは、みつこ、泣いてる。なんで?」クラスメイトの安西が笑った。そういえばここは昼休みの教室だということを、安西の声で思い出す。みつこの泣き方があまりに静かで私の意識がそちらに集中しすぎていたのか、あるいは実際に教室から音が失われていたのかもしれないが、過去のことはもうわからないので、私は思考を目の前の安西にすらした。みつこと安西は別に仲が良いわけではない、と今まで認識していたけれど、下の名前で呼んでいることを考慮すると交流があったのかもしれない。それもわからない。私は一向に口を開かないみつこの代わりに言った。「さあ、知らない。気づいたら泣いてた。なんにもしてない。」そう、本当に泣くようなことなんて何もしていないし、何もなかったのだ。私とみつこを含めた数人のグループで昼食をとっていた。話すことがなくなったので私が明日の天気は雨らしいよと言って、窓の外の空を見上げ、また戻した時にはみつこは泣いていた。
「てゆーか全然動かないけど、生きてんの?」安西は冗談ぽくヘラヘラと言った。確かに。私が机に身を乗り出しみつこの肩を揺すると彼女は自身のスカートのポケットからハンカチを取り出し、顎から頬までの涙を拭った。最後に目を優しくぽんぽんとして私を見やった。多少うるんでいるみつこの瞳に映った私はやけに熱情的に感じて自分じゃないみたいだった。「で、なんで泣いてたのみつこ?」安西が先ほどより大きな声で訊く。他のクラスメイトがやめなよ…などと小さな声で注意しているのが聞こえてきたが、安西は別にいーでしょとその言葉を簡単に振り払っていた。みつこは口をつぐんだままお弁当の蓋を閉めてふろしきで包み始めた。長い指で丁重に、シワのないようにしているみつこは、几帳面なんだなと思った。安西は無視されたことに不服そうにしてまた何か言おうとしていたがクラスメイトに阻止されて諦めたようだった。つまんねっと文句を垂れていた。
お弁当をカバンにしまい終わったみつこに私は言う。「みつこ。」みつこは私を見る。もう瞳は普段と同じ程度の潤いに戻っていて私は安心して続けた。「明日の天気は雨らしいよ。」また、泣くのかな、と思ったけど、みつこは今度は泣かなかった。だからやっぱりこれは彼女が泣いた原因ではない。よかった、という気持ちと、つまらない、という気持ちが同居しながら、私はデザートのぶどうを一粒口に放り込んだ。なんだ、種無しだと思ってたけど種あるんだ、これ。ごりっと奥歯で思い切り噛んじゃって顔をしかめた。みつこは席を立って、教室を出て行った。どこに行くのかなんて知らないし、興味もなかった。
安西の影に隠れてるけど主人公も大概デリカシーない。肩揺らすて…内心では何考えても自由だけど肩を揺らすのは…。