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お試しlover 3話
R!u.
石井side
「わっ」
「っうわ…びびった、マジしょうもないことすんなや」
今日は昨日の夜約束したお店に行く日。
待ち合わせ場所には先に新山がついていて、後ろから脅かしてみた。
「新山もビビるんやな」
「ビビらんやつおらんやろ」
次は俺が隙ついてビビらせたるわ、と言う新山に辞めろと返す。
2人並んで向かった場所は『sweet cafeteria』という店。
俺イチオシで、いつか誰かに紹介してみたかった店だ。
「ここやで」
まだ別の方向に進もうとする新山の手を引く。
「ばか、こっちやって」
握った手にお互い視線がいく。
「っ悪い、反射で…」
顔が赤くなっていく感覚がして新山に背を向ける。
「あ、いや、俺が悪かった…」
なんだか変にギクシャクして、楽しめるか不安。
「ここなんやろ、はよ入ろや」
今度は新山が俺の手を引く形で店に入る。
「いらっしゃいませ〜、何名様ですか?」
「2人で。」
「は〜い、ではあちらのお席にどうぞ〜。」
案内された席に向かうまで、その手は離れることを知らずに握られ続けていた。
新山side
石井に手を握られて、正直びっくりした。
でもその体温が心地よくて、もう一度握りたくなった。
だからそれっぽい感じで手を握っていた。
席について、惜しくもその手は離れ離れになる。
「全部うまそうやな」
「せやろ?」
自分ごとのようにドヤる石井を見て、可愛いなと思う。
「…ん?」
可愛い?
自分でも一瞬、当たり前のように可愛いと思った。
でも普通に考えたらおかしい。
やばい、俺変だ。
多分理由はお試し期間だから。
そういうことにしておこう。
「どうした?新山」
「いや、別に」
誤魔化すようにメニューと向き合う。
石井は一瞬不思議そうな顔をしたがすぐメニューに向き直って、
「俺はこれにしよっかな」
とお気に入りを選び始めた。
「じゃあ俺もそれ」
「ん、すみませーん」
手慣れた動作で店員を呼ぶ石井。
来た店員と知り合いなのか、楽しそうに会話している。
なんか、モヤモヤする。
お試し期間ということもあって、意識しすぎている気もする。
あんまり気にすると仕事にも支障が出そうだし、ここは距離をとった方がいいのかもしれない。
「…新山?来たよ」
考えているうちにいつの間にか商品が届いていた。
「…あぁ、悪い。食べよか」
「いただきまーす」と声を揃えて食べ始める。
「めっちゃ美味いやん」
直感で思ったことをそのまま正面にいる石井に伝えると、
「せやろー?ここのパンケーキめっちゃ美味いねん」
と自分ごとのように嬉しそうにする石井を見てまた可愛いと思ってしまう。
おかしくなる前にコイツから離れたい。
早く帰りたい。
その想いだけで最初の一口目以外はかき込む感じになってしまった。
石井side
食べている途中も、どこか変だなと思った。
2人きりでご飯を食べにいくのは滅多にないから会話が思いつかないだけかとも思ったけど。
昨日の夜からとの反応の温度差がマジで北極と砂漠。
「ごちそーさまでした」
ほぼ同時に食べ終えて会計を済ませる。
店を出ても新山は特に何も言わない。
まだ家を出て1時間少し。
それなのに、もう家の方向へと歩いていってしまっていた。
「…もう、帰るん?」
「この後用事あんねん、急がなあかん」
「なるほどな」
どうやら用事があるらしい。
昨夜は『明日はフリーやから』とかなんとか言っていた気がするが。
まあなかったことにしてやる。
いつもの分かれ道が来て、手を振った。
新山side
「はぁ〜…」
結局、変な嘘をついて帰ってきてしまった。
昨日『フリーやから』と言ったのは自分だったが、石井が特になんともない顔をしていたから誤魔化してしまった。
帰宅して1時間も経たないうちに、「もう一箇所くらい回ればよかった」と後悔する。
お試し期間は、どう頑張っても一週間だけ。
この一週間が終われば、きっと元通りになってしまう。
こんなドキドキできるのも、今だけ。
「…時間、無駄にしたわ」
ポツリと呟いた言葉に重ねてスマホが音を立てた。
石井からだ。
ロックを解除してトーク画面を開く。
<「新山」
開くと、そこには自分の名前が記されてあった。
「なんや」>
「どうした」>
と送ると、すぐに既読がつき返信が返ってくる。
<「今日、俺なんかしたか」
「別に何もしてへんやろ」>
<「今どこなん」
「家やけど」>
<「用事ある言うてたやん」
うわ、忘れてた。
変な嘘をついてまるで石井から逃げるように帰ってきた。
多分、嘘ってバレたな、コレ。
<「やっぱり」
<「あんなお試しせんければ良かったわ」
その言葉に血の気が引いた。
多分今コイツ、悲しい顔してる。
思ってないこと、言ってる。
居ても立っても居られなくなって既読無視状態で家から飛び出して走り出した。
石井side
『あんなお試しせんければ良かったわ』
あーあ、言っちゃった。
本当は思ってないし、きっと新山が帰ったのにも理由があったんだと思う。
でも、思いが爆発した。
適当な理由をつけて帰られるのなんて過去にもあったし慣れっこ。
だけどなんだか、寂しかった。
布団の投げ捨てられた枕に顔を押し付ける。
悲しいのを紛らわしたかった。
【ピロン】
ふと目をやると画面に映し出された『にいやま』という文字。
ロックを解除してトーク画面を開く。
<「石井」
返信する気力もなくてただ次のメッセージを待つ。
<「今家の前おる」
「は…?」
久しぶりに口から言葉が漏れた。
どういうことだ?
家の前って、俺の?
立ち上がってドアの前まで行く。
人影が見えて「マジで来てる…」と呟いて鍵に手をかけた。
カチャリと音を立てて鍵が回る。
すると新山が乗り込むように入ってきた。
「っわ、…なんで、」
「お前が悲しそうやったから」
そんなこと言われたら、泣きそうになる。
「…嘘ついて悪かった。お前のこと可愛いって思ってまう自分が変やったから…」
顔が熱くなっていく。
「…ばか、それを早く言えや」
いつまでも玄関に立っていたくなくて新山の手を引いてリビングへ向かう。
新山の手が冷たく感じるのは、俺の手が熱すぎるだけかもしれない。
「なぁ、石井」
ソファに座った新山に声をかけられる。
「…なに」
「今日泊まるわ」
は?と言おうとしたが口からは何も出なかった。
でももういっか、と思ってしまって頷いた。
「…ええけど…俺の服入らんやろ」
「せやな。大きすぎるなら着れるけど小さすぎるは無理やな…」
「否定はせんけどバカにしとるやろ」
「してへんわ」
どちらからともなく笑い出す。
午後3時前。
残り七日間から六日間に縮んだのにも、気づかないくらい今を楽しもうと思った。
もっと新山に想いを伝えたい。
明日も明後日も。
この一週間を全力で楽しんでやると思った。
end