編集者:R!u.
『お試し期間!貴方とあの人のlover♡』
お試しでお付き合いするさや香の小説をシリーズ化!
【全10話完結予定】
【1話 プロローグ】
【2話 1日目】
【3話 2日目】
【4話 3日目】
【5話 4日目】
【6話 5日目】
【7話 6日目】
【8話 7日目】
【9話 エピローグ】
【10話 番外編】
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目次
お試しlover 1話
『お試し期間!貴方とあの人のlover♡』
『プロローグ』
〜♪✴︎
石井side
「お試し期間?」
いつも通り帰宅する途中で見かけた掲示板。
そこには『お試し期間!貴方とあの人のlover♡』と意味のわからないことが記されている。
「loverって恋人やんな…?」
なんとなく、理解はできた。
ポケットからスマホを取り出しロックを解除してLINEを開く。
『にいやま』という名前を探してタップする。
「新山」>
<「なんや」
「(写真を送信しました)」>
<「何の掲示板やねんコレ」
「俺もよー分からんけど」>
「(写真を送信しました)」>
「ここの事務所に行けば参加できるらしいで」>
<「…やからなんや」
「行きたいねんけど」>
<「はぁ?ちゃう芸人と行けや」
「いやや」>
<「…いつの何時や」
「明日の昼2時」>
<「行けば良いんやろ」
「ええの?やった」>
珍しく長い会話をしてスマホの電源を切る。
どこかウキウキした心持ちで家へと向かった。
新山side
『お試し期間!貴方とあの人のlover♡』
その言葉が頭の中でループする。
アイツ、まさかその意味を分かっていないわけではないだろうか。
きっとコレは好きな子が好きな子に誘うやつ、みたいな。
だから俺たちみたいなおっさんが2人揃っていったら、事務所の方も驚くのではないか。
そう言った意味で断ろうと思ったのに、『いやや』なんて言うから。
「…アイツは今更何が言いたいねん」
モヤモヤする気持ちとワクワクする気持ちが混じって変な感じ。
…そもそも。
明日は石井が行きたいと言ったから予約した店がある。
忘れていたのか、それともそっちの方が大事なのか。
先ほど電源を落としたスマホともう一度向き直る。
ロックを解除すると開きっぱなしにしていた石井との会話が浮かび上がる。
「おい石井」>
返信は返ってこない。
数分待っていると既読がついた。
<「なに?」
「明日お前が行きたいって言っとった店予約してんねんけど」>
<「…せやったわ」
画面越しでも伝わってくる悲しそうなメッセージ。
<「予約キャンセル料とかあるやろ」
<「明日は店行こや」
「絶対明日不機嫌案件やろ…」
キャンセル料は全額返金とかじゃあるまいし、まあいいか。
そう思って石井にもう一度メッセージを送信した。
「別にええよ、キャンセル料とか。」>
「俺もちょっと気になるし、そっち行こか」>
<「…ええの?」
「ええよ」>
<「やった!明日楽しみやわ」
字から伝わる嬉しそうな相方の顔。
ふっ、と笑みをこぼして電源を落とした。
でも、この時これに行くことにしたのが人生を左右する出来事になるのだ。
1話 end
お試しlover 2話
『お試し期間!貴方とあの人のlover♡』
『1日目』
〜♪✴︎
石井side
「新山まだかな…」
例の掲示板を見つけてまだ24時間も経過していない。
俺は今、とある事務所に来ていた。
『お試し期間!貴方とあの人のlover♡』の本事務所。
ここに来ていろいろ話を聞いたら参加することができるらしい。
スマホを取り出してロックを解除しLINEをタップする。
一番上にある名前を押して、メッセージを送った。
「間に合うか」>
<「もうすぐつく」
返信は思ったよりも早く返ってきた。
「りょーかい、もう中入って待っとる」>
最後にそれだけ送って画面を閉じて中に入る。
カフェみたいでオシャレな店って感じ。
入るとすぐにお姉さんが立っていて話しかけられた。
「いらっしゃいませ。今回はどういったご用件で?」
「えっと、これに参加したくて…」
カウンターの机に張り出された一枚のポスターを指差す。
「こちらのイベントですね。お席まで案内させていただきます。」
爽やかに笑ったお姉さんについていく。
「今日お相手の方をいらっしゃいますか?」
「多分、もうすぐ来ると思います」
「ではパンフレットをお持ちしますね」
といって裏口から中に入るお姉さんを見届けて一息つく。
まさかこんなにしっかりしているとは…。
もう一度スマホを開こうとすると後ろから自動ドアが開く音がした。
「悪い、遅れた」
そこには新山の姿があった。
「今事務所の人がパンフレット持ってきてくれよるって」
「おう、隣ええか?」
うん、と頷いて新山が隣に座ると先ほどのお姉さんが戻ってきた。
「あ、お相手様も合流されたんですね。ではこちらを…」
そこからは約30分程かけて説明があった。
何コースでどれくらいするか、とか。
正直俺はどれでも良くて新山に決めてもらった。
その結果、俺たちが選択したのが『たった一回きりの大チャンス!?一週間loverコース』。
そしてコースの説明があり、やっと参加が決まった。
「ではまた一週間後に此処にいらしてくださいね」
ありがとうございました、と告げて店から出る。
「…なんか、思ったよりしっかりやな」
新山の口から溢れた本音に苦笑する。
「それは思った」
そもそもこんなにしっかりしてもらって何も進展がなかったらどうしようか。
不仲コンビでプライベートは関わりゼロと言われる俺たちが。
不安になりながらいつも通りの分かれ道で手を振った。
新山side
家に着いて風呂に入ってからは呆然としていた。
このお試し期間で俺たちの間に何があると言うのか。
今もなお、特にいつもと変わった様子はない。
お互いいつも通りなのだ。
ぼーっとテレビを眺めているとスマホが振動した。
手にとって見てみると石井からの連絡が来ている。
タップしてロックを解除した。
<「なー新山」
「なんや」>
<「なんか話そーや」
「急すぎひん?なんかあったんか」>
<「いや、そういうわけとちゃうけど…」
<「なんとなく、それっぽいことしたいなって」
<「思った」
<「だけ」
最後の方はもう、カタコトな感じだった。
それっぽいこと=恋人らしいこと。
コイツこそそんなこと言うキャラじゃないのに。
「ギクシャクするやん」>
<「ごめんごめん」
「…何話すん」>
<「…明日、どっか行きたいなって」
それから“LINEでの会話は”2時間くらい続いた。
結局、今日行けなかった店は明日行くことになった。
「じゃあ、おやすみ」
「ん、おやすみ…」
眠そうな相方の声が聞こえてきたところで俺も寝てしまっていた。
俺たちの1日目。
LINEに表示された最後の吹き出しには、
「【通話:3時間4分】」>
と、記されていた。
end
お試しlover 3話
石井side
「わっ」
「っうわ…びびった、マジしょうもないことすんなや」
今日は昨日の夜約束したお店に行く日。
待ち合わせ場所には先に新山がついていて、後ろから脅かしてみた。
「新山もビビるんやな」
「ビビらんやつおらんやろ」
次は俺が隙ついてビビらせたるわ、と言う新山に辞めろと返す。
2人並んで向かった場所は『sweet cafeteria』という店。
俺イチオシで、いつか誰かに紹介してみたかった店だ。
「ここやで」
まだ別の方向に進もうとする新山の手を引く。
「ばか、こっちやって」
握った手にお互い視線がいく。
「っ悪い、反射で…」
顔が赤くなっていく感覚がして新山に背を向ける。
「あ、いや、俺が悪かった…」
なんだか変にギクシャクして、楽しめるか不安。
「ここなんやろ、はよ入ろや」
今度は新山が俺の手を引く形で店に入る。
「いらっしゃいませ〜、何名様ですか?」
「2人で。」
「は〜い、ではあちらのお席にどうぞ〜。」
案内された席に向かうまで、その手は離れることを知らずに握られ続けていた。
新山side
石井に手を握られて、正直びっくりした。
でもその体温が心地よくて、もう一度握りたくなった。
だからそれっぽい感じで手を握っていた。
席について、惜しくもその手は離れ離れになる。
「全部うまそうやな」
「せやろ?」
自分ごとのようにドヤる石井を見て、可愛いなと思う。
「…ん?」
可愛い?
自分でも一瞬、当たり前のように可愛いと思った。
でも普通に考えたらおかしい。
やばい、俺変だ。
多分理由はお試し期間だから。
そういうことにしておこう。
「どうした?新山」
「いや、別に」
誤魔化すようにメニューと向き合う。
石井は一瞬不思議そうな顔をしたがすぐメニューに向き直って、
「俺はこれにしよっかな」
とお気に入りを選び始めた。
「じゃあ俺もそれ」
「ん、すみませーん」
手慣れた動作で店員を呼ぶ石井。
来た店員と知り合いなのか、楽しそうに会話している。
なんか、モヤモヤする。
お試し期間ということもあって、意識しすぎている気もする。
あんまり気にすると仕事にも支障が出そうだし、ここは距離をとった方がいいのかもしれない。
「…新山?来たよ」
考えているうちにいつの間にか商品が届いていた。
「…あぁ、悪い。食べよか」
「いただきまーす」と声を揃えて食べ始める。
「めっちゃ美味いやん」
直感で思ったことをそのまま正面にいる石井に伝えると、
「せやろー?ここのパンケーキめっちゃ美味いねん」
と自分ごとのように嬉しそうにする石井を見てまた可愛いと思ってしまう。
おかしくなる前にコイツから離れたい。
早く帰りたい。
その想いだけで最初の一口目以外はかき込む感じになってしまった。
石井side
食べている途中も、どこか変だなと思った。
2人きりでご飯を食べにいくのは滅多にないから会話が思いつかないだけかとも思ったけど。
昨日の夜からとの反応の温度差がマジで北極と砂漠。
「ごちそーさまでした」
ほぼ同時に食べ終えて会計を済ませる。
店を出ても新山は特に何も言わない。
まだ家を出て1時間少し。
それなのに、もう家の方向へと歩いていってしまっていた。
「…もう、帰るん?」
「この後用事あんねん、急がなあかん」
「なるほどな」
どうやら用事があるらしい。
昨夜は『明日はフリーやから』とかなんとか言っていた気がするが。
まあなかったことにしてやる。
いつもの分かれ道が来て、手を振った。
新山side
「はぁ〜…」
結局、変な嘘をついて帰ってきてしまった。
昨日『フリーやから』と言ったのは自分だったが、石井が特になんともない顔をしていたから誤魔化してしまった。
帰宅して1時間も経たないうちに、「もう一箇所くらい回ればよかった」と後悔する。
お試し期間は、どう頑張っても一週間だけ。
この一週間が終われば、きっと元通りになってしまう。
こんなドキドキできるのも、今だけ。
「…時間、無駄にしたわ」
ポツリと呟いた言葉に重ねてスマホが音を立てた。
石井からだ。
ロックを解除してトーク画面を開く。
<「新山」
開くと、そこには自分の名前が記されてあった。
「なんや」>
「どうした」>
と送ると、すぐに既読がつき返信が返ってくる。
<「今日、俺なんかしたか」
「別に何もしてへんやろ」>
<「今どこなん」
「家やけど」>
<「用事ある言うてたやん」
うわ、忘れてた。
変な嘘をついてまるで石井から逃げるように帰ってきた。
多分、嘘ってバレたな、コレ。
<「やっぱり」
<「あんなお試しせんければ良かったわ」
その言葉に血の気が引いた。
多分今コイツ、悲しい顔してる。
思ってないこと、言ってる。
居ても立っても居られなくなって既読無視状態で家から飛び出して走り出した。
石井side
『あんなお試しせんければ良かったわ』
あーあ、言っちゃった。
本当は思ってないし、きっと新山が帰ったのにも理由があったんだと思う。
でも、思いが爆発した。
適当な理由をつけて帰られるのなんて過去にもあったし慣れっこ。
だけどなんだか、寂しかった。
布団の投げ捨てられた枕に顔を押し付ける。
悲しいのを紛らわしたかった。
【ピロン】
ふと目をやると画面に映し出された『にいやま』という文字。
ロックを解除してトーク画面を開く。
<「石井」
返信する気力もなくてただ次のメッセージを待つ。
<「今家の前おる」
「は…?」
久しぶりに口から言葉が漏れた。
どういうことだ?
家の前って、俺の?
立ち上がってドアの前まで行く。
人影が見えて「マジで来てる…」と呟いて鍵に手をかけた。
カチャリと音を立てて鍵が回る。
すると新山が乗り込むように入ってきた。
「っわ、…なんで、」
「お前が悲しそうやったから」
そんなこと言われたら、泣きそうになる。
「…嘘ついて悪かった。お前のこと可愛いって思ってまう自分が変やったから…」
顔が熱くなっていく。
「…ばか、それを早く言えや」
いつまでも玄関に立っていたくなくて新山の手を引いてリビングへ向かう。
新山の手が冷たく感じるのは、俺の手が熱すぎるだけかもしれない。
「なぁ、石井」
ソファに座った新山に声をかけられる。
「…なに」
「今日泊まるわ」
は?と言おうとしたが口からは何も出なかった。
でももういっか、と思ってしまって頷いた。
「…ええけど…俺の服入らんやろ」
「せやな。大きすぎるなら着れるけど小さすぎるは無理やな…」
「否定はせんけどバカにしとるやろ」
「してへんわ」
どちらからともなく笑い出す。
午後3時前。
残り七日間から六日間に縮んだのにも、気づかないくらい今を楽しもうと思った。
もっと新山に想いを伝えたい。
明日も明後日も。
この一週間を全力で楽しんでやると思った。
end