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#8 推しカプ
この二人を知らない人は前シリーズ「あなたは私の顔で高らかに唄う」を読んでみてください。
あれは、いつものように放課後、推しを探していたときのこと。
ふと、普段はあまり行かない少し遠めの公園へ足を運んだ。
今思うと、これは神のお導きだったのかもしれない。
ベンチの方から何やら話し声が聞こえた。
何気なくそちらを見ると、小林さんと不良っぽい男子が一緒に話をしていた。
なんだ?カツアゲでもされてるのか?
もしそうなら大変なことだ。
俺はしばらく様子を見ることにした。
「そういやぁ美春。新しい学校はどうだ?」
「うーん。心を許せるほどの関係性のある子はいないかな。」
「⋯いじめられてるなら言えよ?ソイツ殴りに行くから。」
「ふふっ。ありがとう。」
ちょっと物騒だが、別にカツアゲとかではないらしい。
それはそうと小林さん。あんなにやまとなでしこって感じの彼女が不良といるなんて。
これはギャップの予感だ。実は女番長だったとかないかな?
「そっちはどうなの?まだお母様の好き好きアピール続いてる?」
「⋯お前のせいだからな?ダチまで俺をからかってんだよ」
「ふふふっ。楽しそうだね」
「んなわけあっか!」
多少語彙を荒げたのでヒヤッとしたが、小林さんは気にしていないみたいだった。
大物なのかもしれない。
すると、茂みの方で何やらヒソヒソ声が聞こえだした。
「ちょ、ヒロ押さないでよ。」
「だって聞こえないんだもん」
「別に俺らも会話まで聞こえてねぇよ。おい歩夢!頭出てる!」
「これでも低くしゃがんではいるんだけど?」
四人ぐらいの声だ。
一体ここで何をしているんだろう?
そして視線を再び戻すと小林さんが不良くんの頭をグイグイ引っ張って倒し、膝枕していた。
え?どういう状況?
湧き上がる茂みの四人。
「おまっ!こんなところで何してんだよ!」
「んー?私も勝斗のこと甘やかしてあげようかなーって」
「はぁ!?」
不良くん―――勝斗くんは顔を真っ赤にして起き上がろうとしている。
そんな彼の頭を小林さんは優しく抑える。
「っ!つーか!誰か来たらどうすんだよ!」
「別に誰もいないし、いいじゃん。」
ここにいるよ。俺含め五人。
「それに、誰か来てもカップルだと思って素通りしてくれるよ。」
「カップル!?」
「何?私とカップルと思われたら不満?」
「は!?いや、えっと⋯」
しどろもどろな勝斗くん。
意外だ。小林さんって、恋人にはグイグイ行くタイプの人なんだ。
そして、勝斗くんは押しに弱い。
何というギャップ。でも単体ではこのギャップは引き出せない。
これは、これは⋯!推しカプというやつができてしまったのでは!?
俺は初推しカプを目の当たりにした。
そして小林さんがからかうように勝斗くんの頬を突付き出す。
すると、彼は急に真っ赤な顔で飛び起き、小林さんにヒソヒソと何か話した。
驚いた顔の小林さんをベンチに残し、勝斗くんは茂みの方へ向かう。
「っおい。お前ら。んなとこで何してやがる?」
「あーバレちゃったかー」
「やっぱ歩夢の頭隠しきれてなかったか」
「俺じゃなくてヒロの声がデカかったからだろ?」
「ひどー!」
ゾロゾロと出てくる不良集団。
これは小林さんが萎縮してしまうのでは?と思ったがケロっとしている。
大者だ。肝が座ってる。
「はじめまして。小林美春といいます。」
「勝斗、こんな美人一体どこで見つけてきたのさ?」
「⋯黙れ野良猫野郎。」
ワチャワチャと小林さんを囲んで質問攻めにしている。
小林さんは笑顔で答えている。
勝斗くんはブスッとした顔で聞いている。
なんか、いいな。こういう関係。
俺は上機嫌でその場を去った。
「おい、お前。さっきからジロジロ見やがって。美春に何の用だ?」
公園を出たらふと背後から勝斗くんの声が聞こえた。
え?幻聴?初推しカプで気が高ぶって幻聴が聞こえる?
パッと振り返ると、本当に勝斗くんがいた。
思わず己の頬を引っ張る。痛い。
「お前だよ。見てたろ?何の用だ。」
「⋯。」
俺はツカツカと勝斗くんに近づく。
勝斗くんは腰を低くして飛びかかる準備をしているようだった。
が、俺は勝斗くんの手を取ると、ブンブンと振りながら目を輝かせた。
「君たちのヲタクです。」
「⋯は?」
「推してるんです。君たちを。」
「ん?え、は?」
「認知ありがとうございます。これからも陰ながら見守らせていただきます。」
「お、おぉ。⋯は?」
混乱している勝斗くんに深い深い礼をして俺はその場を去った。
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「ということでめでたく認知までもらって⋯」
「認知っていうか、威嚇じゃない?」
呆れたような親友の態度に思わずムッとする。
認知だよ。誰がなんと言おうとあれは認知だ。
認知以外の何者でもないのだ。
「それにしても、小林さんってあんまり他と関わり持とうとしないよね?」
推し友ののんびりした声に頷く。
「そんな彼女が心を許した関係。あぁ、尊い!」
「はいはい。もう昼休み終わるから帰るよ。」
親友がサッと弁当箱を持って教室へ向かう。
俺達もその後に続く。
(にしてもコイツ、妙に危機感ないよな。不良相手に「推してます」宣言とか。お前のほうが大物だよ。)
親友がそんなことを思っているとは露知らず、推しカプができた喜びに天へ舞えそうな俺だった。