俺はギャップのある人に弱い。
ギャップ萌えは非常にいいものだ。
そうだろ?親友。
これは、容姿端麗、文武両道な完璧男子が、親友にオタ活報告をする物語。
作者の一言:コメディです。
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目次
#1 非力なギャル
()は基本親友の心の声です。
俺、|高峰光《たかみねひかる》は学校で王子様というあだ名がある。
成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗。そして外面がいい。
しかし、俺の中身は―――オタクなのだ。
---
「今日も推しが尊いっ!」
放課後。
誰もいなくなった教室でそう叫ぶと、俺の親友の|水戸怜《みずとれい》は本から顔を上げ冷めた目でこちらを見てきた。
「で?今日は誰の話しなの?」
「よくぞ聞いてくれた我が親友。今日は|根津煌梨《ねずきらり》ちゃんの話しだ!」
「あー。あのギャルの子か。」
根津煌梨。
俺が推してる一軍グループの一人である。
キツめな美人顔で、毒舌な彼女は一見すると、怖いギャルだ。
だが、
「今日も相変わらず非力だった!」
「はぁ。」
そう、とんでもなく非力なのだ。
俺は今日の出来事を親友に語り始めた。
---
俺が職員室に日誌を取りに行った時だった。
「なんであーしがみんなの提出物運ばなきゃいけないわけ!?」
「そこにいたから。頼むよ。」
そこには数学の先生と煌梨。
そういえば昨日ノートを提出するように言われていたな、と思い出した。
そして了解を得る前に先生は大急ぎでどこかへ行ってしまった。
我が推しは仕方なく、ノートを持とうとしたのだが⋯。
「ふんっ!⋯うぅ⋯!」
先生がどこかへ行ってしまった後、ノートの束を懸命に持ち上げようとしている我が推し。
だが、全く持ち上がっていない。可愛い。頑張れ。
しばらく見ていたのだが、彼女の目に涙が滲んで来たので、慌てて駆け寄る。
「根津さん。俺、持つよ。」
「グズッ⋯え?あ、ありがと」
何やら赤面している。
持てなかったのが恥ずかしかったのかな?
そんなところも可愛いな、と思った。
---
「あの赤面でしか得られない栄養がある⋯!」
「あーはいはい」
テキトーすぎる相槌だが、きちんと聞いてくれてることがわかる。
その証拠に先程まで読んでいた本をちゃんと閉じてしっかりこちらを向いている。
そういう彼が可愛くて―――実は推してるのは、内緒である。
(光は自分の容姿をそこそこだと思っているっぽいけど本当は学校で一番容姿がいいんだよね。そして良すぎてみんな近寄りがたいみたい。で、そんな光と唯一友達の僕は光とただならぬ関係と誤解されて一向に彼女ができない。くそが。)
親友がそんなこと思ってるとはつゆ知らず、俺は今日の我が推し達のことを思い、ニヨニヨしていた。
親友のため息が教室に響いた。
---
次の朝。
「お、煌梨おはよう」
「ん。陸はよ」
「煌梨おはよう」
「那美早いね。」
「うん。今日遅刻したらおやつ抜きって言われた。」
「そ、そっか。」
「煌梨、おはよう。」
「はよ。璃子。」
「あ、煌梨ちゃん。おはようございます」
「美春。おはよ」
あー。推しグループが尊い。
「根津煌梨。キツめのギャルといった雰囲気で一部男子にとても人気。
しかし。実はとんでもなく非力でたまに自分のカバンすら持てない。
佐野陸。穏やかな好青年って印象の男子生徒。女子にも男子にも別け隔てなく優しい。
しかし。実はとんでもなく可愛いもの好き。そして怖いものが嫌い。
三原那美。無気力系な女の子。普段眠そうにしていて、とってもマイペースそう。
しかし。実は小さい弟達の面倒を見る、しっかりものなお姉さんなのだ。
新井璃子。基本無口で話してもたどたどしい感じのクール系。
しかし。実は関西弁でおしゃべりなことを隠しているだけ。
新島朔。無口な男子生徒で、基本誰とも話さない瓶底眼鏡をかけてて前髪が長い。
しかし。実はとんでもない美少年。もう目がパッチリしすぎてやばい」
「あー。知ってる知ってる。」
どこかうんざりした様子で俺の小声早口を聞いている我が親友。
「というか、いつも思うんだけどさ」
「ん?何を?」
「そんなに多くの情報、どうやって集めてるの?」
そりゃ、ね?
いくら親友でも教えられないよ。
サッと目を逸らす俺に親友がおい、とツッコむ。
すると、ふと何かに気付いたらしい。トントンと肩をつついてきたので耳を貸す。
「そういえば、最近転入してきた小林美春さんはどうなんだよ?」
「え?小林さん?」
うーん。小林さん、か。
小林美春。この学校で一番の美少女と言っても差し支えない彼女は成績は優秀。
運動は平均的。そして、柔らかな物腰。きっと男子生徒から今一番人気であろう彼女、なのだが。
「ごめん。ギャップがないから推しじゃない」
「どういう基準なのさ?」
親友の理解できないという顔を無視する。
ごめん。小林さん。ギャップがない人は推しとして見れない。
ギャップを見つけてから出直してきてね。
#2 爽やかな可愛いもの好き
昼休み、とある空き教室にて。
いつものように親友とお弁当を食べていた。
「今日も推しが尊いっ!」
俺の叫びに親友がまたか、と言いたげな顔をした。
「で?今日は誰の話なの?」
「よくぞ聞いてくれた我が親友!」
「聞かなかったらずっと騒がれるんだもん。」
ムスッとした親友の言葉はスルーして俺は今日あったことを思い返しながら話す。
「今日は佐野陸くんだ!」
「あー。あの一軍爽やかイケメン。」
そう。彼は男女分け隔てなく優しく、性格もいいし、何より顔が優しい。
もう優しいの権化だと言われても信じてしまうほど優しい彼。ただ、それだけでは推しにならない。
「今日もこっそり可愛いものを愛でていたのだ!」
「はぁ」
あれはそう、昼休みの一つ前の休み時間のことだ。
---
それは俺がトイレから帰ってきたときだった。
なにやら階段の方から声が聞こえてきたのだ。
こ、この声は⋯!
俺は急いでそちらを見ると、そう。我が推しの佐野陸くんがいたのだ!
「ふふ、今日も可愛いね。」
そして彼の手には小さい猫のキャラクターのキーホルダーが!
そう。彼はこのキーホルダーに話しかけていたのだ。
あぁ、今日も推しが尊いっ!可愛いのは君だよ!
そうしてしばらくそれを眺めていたのだが、急に廊下の方からこっちへ歩いてくる生徒が⋯!
このままだと推しがキーホルダーを愛でているところが見つかってしまう。
だが、推しは気づいていない。
仕方ない。一肌脱ぐかぁ!
俺はその生徒に見つかるより速く推しの方へ近づく。
「あれ?佐野さん。こんなところで何してるの?」
「え、あ。高峰。えっと。いや、別に。何か用?」
あー。推しに話しかけちゃった。
キョドってる推し尊っ。
ただ、別に用なんて、ない。
強いて言うならこれを誰かに見られたら推しが困ってしまうかもと思っただけだ。
うーん。何かないか。あ、そうだ。
「佐野さんってお姉さんいたよね」
「へぇぁ!?うん!」
我が推しは自分が可愛いものを持っている時の言い訳として姉がいると言っている。
しかし、本当は姉がいないのは確認済み。だが、それをわざわざ指摘はしない。
俺はポケットからとあるものを取り出した。
「じゃあ、こういうのって好きかな?」
そう言って取り出したのは可愛い丸いよくわからないキャラクターの小さいぬいぐるみ。
断じて俺が好きなのではない。
ただ、これをカバンに付けたら推しの視線がこちらに向かないかな〜?という淡い期待をしたから持っていたのだ。
「!うん!すごく嬉しい⋯ってお姉ちゃんなら言うと思う!!」
「⋯っ!そっか。よかった。どうぞ。」
「え!?ありがとう!」
推しの幸せそうな顔と、お姉ちゃん発言にもうそろそろ限界化してしまいそうだ。
鼻血出そう。ってか鼻血出てないよね?
あー。しんどい。推しが可愛すぎてしんどい。
とても軽やかな足取りで教室に向かう推しを見守る。
叫びたい。推しが尊いと今すぐにでも叫びたい。
その後、このデカすぎる感情を必死に抑え込んだ俺はスタスタと教室へ戻るのだった。
---
「いつも大人な感じの我が推しの『お姉ちゃん』はしんどい。マジで尊い。」
「あーはいはい。」
俺の早口に、親友は頬杖をつきつつ適当に相槌を打つ。
そして話が終わるともぐもぐとお弁当を食べる。
そんな親友も尊いな、と思う。
(コイツまた暗躍してたのか。というか、佐野くんの視線を集めるためだけにぬいぐるみ持ってくるとかコイツやべぇな。)
親友の蔑みなんて露知らず、俺は今日のことを振り返り、によによした。
親友の白い目が俺に突き刺さった。
#3 クールで可愛い
放課後。
今日は親友が委員会に出ている。
俺は一緒に帰るために親友が帰ってくるのを待っていた。
今日も推したちは尊かったな、と思い出す。
その拍子にふと、親友と出会った―――推しにしたときのことを思い出した。
懐かしいな、と思いつつ俺はその思い出に浸かっていった。
---
あれはそう、高校に入学して一週間も経たない頃。
俺は放課後に推しとなりそうな人を探して街を彷徨っていた。
なぜ推しを探すか?答えは簡単だ。学校に行きたくなる理由がほしいから!
俺は中学生の頃、学校が退屈で仕方がなかった。
クラスメイトはなぜかこちらを遠巻きに見てくるし、勉強はすぐ理解できてしまうし、運動もできた。
だから、できることをずっと強要される学校があまり好きではなかったのだ。
そんなある日、俺の人生は180°回転する。
とある一軍クラスメイトが実はヲタクだったと知ったときだ。
そう。俺はその時ギャップに目覚めたのだ。
さて、話を戻す。
俺は推しを探していた。
そして今、目の前で男子生徒が不良達に絡まれていた。
あの子は確か、水戸怜。
普段ぶっきらぼうで誰とも話さず本を読んでる物静かでクールな男子生徒。
顔が可愛いから一部の女子からすごく人気がある。
ふむふむとそんな情報を思い出していると、事態は悪い方向に傾く。
不良の一人が彼の胸ぐらを掴んだのだ。
小柄な彼の体が浮く。
すると、さっきまでクールだった顔が崩れ始めた。
プルプルと恐怖で涙目になってる。普段のクールさが消え、顔の可愛さが全面に出る。
そんな彼を見て、俺の心が高なった。
推し、みぃつけた!
颯爽と推しの前に駆けつけ推しを掴んでる不良の顔面を殴る。
驚いたような推しを横抱きして俺は一目散にその場を離れた。
「あの、助けてくれてありがとう。高峰くん、だよね?」
近くの公園で彼を地面に下ろす頃にはすっかりいつものクール顔に戻っていた。
それをちょっぴり残念に思いつつ、推しの言葉に頷く。
「お礼になにかしてほしいことある?」
こてんと首を傾ける推し。尊い。
「じゃあ、推しにしていい?」
「⋯は?」
推しはとりあえずお友達からで、と言ってその場を後にした。
これが我が親友との出会いだ。
---
懐かしい、とても懐かしい。
と思い出に浸っていると、ムニッと誰かが俺の頬をつついた。
そちらを振り返ると、親友がいた。
どうやら委員会の用事は済んだらしい。
「おまたせ。帰ろ。」
「うん」
カバンを持ち親友の後を追う。
(なんか顔ニヤついてたな。絶対推しの事考えてたんだろうけど。今日は誰のこと考えてたんだろ?)
親友がそんなことを考えているとはつゆ知らず、後ろ姿の親友も尊いな、と思った。
見上げた校舎はすっかり夕焼け色に染まっていた。
#4 無気力なオカン
「推しが尊い!」
昼休み。いつもの空き教室にて親友に叫ぶ俺。
親友はまたか、と言いたげな顔でため息を吐く。
「で?今日は誰の話?」
「よくぞ聞いてくれた我が親友!」
「あーはいはい。もういいから早く話してくれ」
どこかうんざりした親友の様子を華麗にスルーした俺は、お礼に親友の好きな唐揚げをあげながら思い出を噛みしめる。
「今日は三原那美ちゃんだ!」
「あー。あの無気力そうな子。」
普段眠そうな様子の彼女はどこか儚い見た目で守りたい女子一位(俺調べ)だ。
しかし、実はとてもしっかりもののオカン系女子なのである。
---
それは昨日の夕方。
いつものように親友と帰った後、俺は外へ出た。
もちろん推し目当てである。
あーどの推しに出会えるかなーとルンルン歩いていると、いつものように弟さんを園に迎えに来た推しを見つけた。
「真央くん?帰るよ。」
あー。いつもマイペースそうなのにしっかりものなのマジでギャップ。
しんどい。
弟とはぐれないように手を繋ぐ様はまさに聖母。
そうして弟と共に買い物へ行く聖母。
あー尊い。この店ごと買いたい。買えないけど。
そんなことを思っていると、事件が起こる。
聖母が目を離している少しの間に弟さんがたーっと走っていってしまったのだ。
まだ聖母は気づいていない。
⋯仕方ない。
俺は聖母を見るのを中断して弟さんを追いかけた。
泣きたい。もっと買い物してる推しの姿を見ていたい。が、弟さんに何かあったら大変だ。
弟さんはお肉売り場で止まった。
何やらキョロキョロと辺りを見回している。
一体どうしたのか?しばらく見ていると、弟さんの目に涙が浮かぶ。
「びゃぁぁっぁああああ!お姉ちゃんどこぉぉぉぉおおおおお!」
大号泣だ。
慌てて弟さんに近寄る。
「君、どうしたのかな?」
「お姉ちゃんっ⋯いなくなっちゃった!」
えぐえぐと泣きながら俺に訴えてくる。
どちらかというといなくなったのは弟さんのほうじゃ?というツッコミをぐっとこらえる。
「そっか。じゃあ一緒にお姉ちゃん探そうか。」
「⋯!うん。」
俺は弟さんを肩車する。
きゃっきゃと喜ぶ弟さんを微笑ましく思いながら推しを探す。
恐らくだが、推しは今頃弟さんを探し回っている頃だろう。
弟さんの年で行きそうな場所。
お菓子売り場に行ってみよう。
俺はお菓子売り場に足を運びつつ、大声で呼びかける。
「この子のお姉ちゃんいませんかー!」
そうしてお菓子売り場にそろそろ着くな、といった頃。
「真央くん!」
後ろから焦ったような声が聞こえた。
振り返るとやっぱり推しがいる。
「お姉ちゃん!」
俺は弟さんを床にそっと降ろす。
するとテトテトと推しの方へ向かう。
が、推しは驚いたようにこちらを見ている。どうやら俺と気づいたようだ。
「あー。よかったですね。《《お姉さん》》、弟さんが見つかって」
あくまで俺は気づいてないフリをする。
すると、気づかれていないと思った推しはサッと顔を伏せる。
「ありがとうございました」
モゴモゴとお礼を行った推しはこれ幸いとばかりに大急ぎで去っていってしまった。
バレてないと思ってる推し、可愛い。
俺は推し達を見守りつつ頬を緩めた。
---
「なんであんなに顔合わせてるのにバレてないと思ってるんだろ?可愛すぎる」
うっとりとする俺に親友が冷めた目を向ける。
(コイツ、僕と別れた後、そんなことしてるのか。キモ。ていうかそこまで行くとストーカーだろ誰か注意しろよ。)
「⋯それってストーカーじゃない?」
「家までつけてないからセーフ。」
アウトだろ、という親友の声を無視して唐揚げをもう一つあげる。
まぁ、口止め料である。
#5 クールな関西人
「今日も推しが尊い!」
俺は親友との通話を繋げて開口一番そういう。
「うるさいよ。何時だと思ってるの?」
「十一時!」
「あのね、通話するには些か非常識な時間だと思うんだよね。」
「すまない。どうしても今日起こったことを今日のうちに話したくて」
「だとしても、もしもしって言う前に叫ばれたら鼓膜破れちゃうでしょ?」
少し眠そうな親友の声にほんの少し心が洗われる。
が、その程度で今日の興奮が収まる俺じゃない。
「で?今日は誰の話なの?」
「よくぞ聞いてくれた我が親友!」
「うん。このやりとりずっとやってるからね」
「今日は新井璃子ちゃんだ!」
「あー。あのクールな一軍女子」
新井璃子。長い艶々した黒髪に切れ長の目。それに似合うクールな態度。
そう、誰が言ったか、学園の女王。
そんな彼女、実は関西出身で、おもしろ関西弁ねぇちゃんなのを知ってるのは多分俺だけだろう。
そんな彼女と今日、話してしまったのだ。
---
あれはそう。俺の両親が久しぶりに揃ったので、みんなでお好み焼きでも食べに行きましょう。
と言われたところから全てが始まった。
正直、なんでお好み焼き?とは思ったが、もしかしたら神のお導きだったのかもしれない。
店内に入ると、我が推しがいたのだ。
え、バイト?そんな情報入ってきてない。
俺の混乱をよそに、彼女が笑顔で接客してくる。
「いらっしゃーせ!何名様でしょうかー?」
若干関西訛りな声でこちらに話しかけてくる。
が、なぜか俺に気づかない。俺、推しに認知されてないのか。ショックで倒れそう。
だが、あまり人前で見せない関西弁の推しを見てプラマイゼロどころかプラスである。
案内された席に着き、注文を決めた俺達が店員さんを呼ぶと、我が推しが来た。
「ここオススメ何かありますか?」
とのんびり聞く父にやめろ困らせるな、と殺気を放つが、推しは笑顔で答える。
「実はうち、今日入ったばっかりであんまようわからないんです。店長!オススメなんかあります?」
店長さんのオススメと他の2つほど頼んだ俺達。
食べ終わった頃、推しが何やら困った顔で寄ってきた。
「ほんま間違ってたらすいません。高峰くんやんな?」
まさかの推しに認知されてた。嬉しい。好き。
そうだよ、と頷くと、ちょっと面かしてもらってええ?とヤンキー口調で言われた。
とりあえず、両親には会計をしてもらい、席を外す。
「どうしたの?新井さん」
「あーやっぱ気づいとったか!うちも高峰くん見てうわって思ったからお互い様やけど」
悲報、推しにうわって思われてた。辛。
すると、我が推しがパンッと両手を合わせる。
「お願い!うちがバイトやってることあんま言わんといてくれる?」
「いいよ」
「無理な話なんはわかって⋯ってええん?」
こくりと頷く。そもそも無理な話じゃない⋯あ、これ話のノリってやつか。
すると推しはニコニコ笑って高峰くんっておもろいな、と言った。
ごめん。そこまで面白い人間じゃないんだ。俺。
「まぁ学校でも仲良うしてな?」
「うん。もちろん」
「ありがとうな。ほな」
そう言って推しは上機嫌に去っていった。
---
「あー。あの容姿で軽快に笑う我が推し尊い!」
「関西弁については隠してくれとは言われなかったの?」
親友の不思議そうな声に、あぁ、そのこと、と呟く。
「実は我が推し。別に関西弁隠してないんだよ。」
「え?そうなの?」
「うん。普段関西弁喋らないのは『ファンサや』とのことです。」
それにしても。今日もなんやかんやこんな遅くまで通話に付き合ってくれる親友が尊い。
そう思っていると、親友の声がだんだん弱々しくなる。
「親友?」
「スー、スー」
可愛らしい寝息がきこえてきたので、おやすみ、我が推し、と言って通話を切る。
空で月明かりが柔らかくあたりを包んでいた。
#6 陰キャなモテ男
「今日も推しが尊い!!」
いつもの放課後、誰もいなくなったタイミングで親友に話しかける。
親友は読んでいた本をしまい、鬱陶しそうに顔を上げた。
《《そしてチラリと教室のドア辺りに目を向ける》》。
「それで?今日は誰の話?」
「よくぞ聞いてくれた我が親友!」
「あーはいはい。もう早く話せ。」
何やら投げやりな態度の親友。
けど、きちんとこちらを向く真面目さはやっぱり尊い。
「今日は新島朔くんだ!」
「あー。あのカースト底辺男子」
新島朔。誰とも話そうとしないボッチで長い前髪、瓶底眼鏡と今どきそんな人いる?といった風貌の男子生徒。しかしその実体はなんと中学校でモテにモテた超絶美少年なのだ。
俺は今日起きたことを振り返った。
---
朝、靴箱へ向かうと我が推しが手に持った何かを見て顔を真っ青にしていた。
我が推しにこんな顔をさせるのは何奴だ!
と、怒りつつ、しれっとそれを見ると、ラブレターだった。
「新島くんへ♡
ずっと、ず〜〜〜〜〜っと好きでした♡
告白の返事が聞きたいので放課後体育館裏で待ってます♡」
なんて中身のないラブレターだろうか。
俺ならもっと愛のこもったファンレターを送ってやれるのに。
それはそうと我が推し。固まったまま動かない。
「新島くん。おはよう。どうかした?」
ピクリと体を震わせて俺の方を見る。
そして何かを考え込んだあと、グシャグシャっと名前の部分を切り取ってラブレターを俺に渡してくる。
え、推しからの又貸しラブレター!?⋯又貸しラブレターってなんだ?
「高峰くんへのラブレターが僕の所に入ってたみたい。それじゃあ。」
「え、あ。」
俺にズイッとラブレターを押しつけた我が推しはスタスタとその場を去っていった。
俺はというと、普段あまり喋らない推しが俺のために話してくれたのが嬉しすぎてちょっと涙ぐんでた。
---
「ちょっと待て」
話していたところで急に親友からストップがかかる。
「なんだい我が親友?」
「いや止めるだろ。何?ラブレター押し付けられたの?お前。」
「うん。」
「で、さっきまでいなかった理由って⋯」
「よくぞ聞いてくれた我が親友!」
「お前まさか行ったのか!?新島くんの代わりに!」
「あぁ。その報告をしなければな」
(絶対ヤバいことになってるな、これ。)
---
そして放課後。
なにやら我が推しを見てニヤニヤしていた女子グループがいたが、なんだったのだろうか?
もしかして我が推しの尊さを知ってしまったのか?
そんなことを考えながら推しの代わりに体育館裏へ行く。
ちなみに我が推しが後ろをつけてきていたので手を降っておく。
驚いた顔でサッと木陰に隠れてしまった。
可愛いなぁ、我が推し。
しばらく待っていると、先程ニヤニヤしていた女子グループの一人がこっちに来て⋯固まった。
「え、へ!?高峰くん!?ど、どうしてここに。」
「あぁ、新島くんがどうしても来られないみたいだから、俺に頼んできたんだ。」
我が推しは全力で首を横に降っている。
必死で尊い。
「え、あの。ご、ごめんなさい!」
すると、急に女子生徒が謝ってきた。
ん?なぜ謝る?
「じ、実はこれ、嘘告で⋯」
「嘘、告?」
コクリと頷く女子生徒。
嘘告。へぇ?我が推しに。
「ねぇ。ちょっと他にこの嘘告企てた女子生徒たち、呼んできてくれる?」
「え、はい。」
俺は全員が集まったところでみんなの目を見る。
「ねぇ、嘘告って何?」
「え、っと。嘘の告白をして、」
「で?そんなことして何するの?」
「その、面白いかなって。」
しどろもどろな女子たちの態度にだんだんイライラしてくる。
そんなことのために我が推しの貴重な時間を無駄にしたのか?
コイツら。俺は低い声を出す。
「なぁ?それ全然おもしろくないからやめろよ」
「⋯ごめんなさい。」
女子生徒たちがひどく怯えた様子で謝る。
「いや、俺じゃなくて、そっちに謝れ。」
「え?」
見ると我が推しがアワアワしている。
え、何その動き。てぇてぇ。
ほんの少しばかりイライラが下がり、女子生徒たちが我が推しに謝る。
そうしてその場がお開きになったところで、我が推しが高峰くん、と呼びかけた。
「どうしたのかな?」
「その、知ってたんだね。ラブレター。僕宛だったって。」
「そりゃ、あんなに大きく広げてたら目に入るって。」
「⋯なのに、僕のために行ってくれて、ありがとう」
「いいよ。推しのためだしね。」
「え?」
キョトンとしている我が推しに耳打ちする。
「それに、ラブレター。苦手だもんね?」と。
驚いた様子で固まる我が推しをおいて俺は親友の待っている教室へ帰った。
---
「その時の我が推しの表情と言ったら⋯!」
「あー。はいはい。」
それで?と親友がこちらを見てくる。
「尾行は気付いたのに、こっちは気づいてないの?」
「?何の話?」
親友はハァっとため息を吐いてテクテクと教室のドアへ近づき、開ける。
「そんなところで聞いてないで入ってきたら?《《新島くん》》」
俺がギョッとしていると、真っ赤な顔をした我が推し―――新島朔が入ってくる。
「あー。その。ごめん。全部聞いてた。」
「いや、全然いい。むしろもっと聞いてくれ」
「いや!これ以上はちょっと、いたたまれないというか⋯!」
「いや、聞いてくれ。」
(こいつに恥の感情はないのか?ないんだろうな。)
親友にそんなことを思われているとはつゆ知らず、その日の放課後、下校時間ギリギリまで俺は我が親友と我が推しに我が推しのいいところを聞かせ続けた。
#7 推しであり友である。故に推し友。
「今日も推しg⋯」
「ちょっと待て」
昼休み。いつものように叫ぼうとしたら親友からストップがかかった。
「なんだ?気持ちよく叫ぼうとしていたのに」
「気持ちよく叫ぶな。じゃなくて。なんで新島くんがいるの!?」
親友がビシッと新島さんを指差す。
新島さんは何やら少し困ったように眉を下げた。
は?尊っ。
「昨日ヲタク会話が聞かれただろう?」
「会話っていうか君が一方的に話してるだけだよ」
「新島さんって中学校の頃色々あって友達とかあんまり作らないようにしてたんだよ」
「うん。なんでそれをお前が知ってるのかはもう聞かないけどさ。で?」
「新島さんが『自分をよく思ってて恋人探しに困らなさそうな顔してる人なら友達になりたかったんだ』って話してきて」
「嫌なヤツだな。それで?」
「『じゃあ推し友ってことで』って返した。」
「なんだよ推し友って」
「推しであり友である人のことだ。」
あーそう。と投げやりな態度の親友。
そんな親友の態度を見て推し友が不安そうに親友の方を見た。
「ごめん七峰くん。嫌なら俺は別の場所でご飯食べるよ。」
「⋯いや、いいよ。一緒に食べよう」
どこかホッとした様子の推し友にな?断られなかっただろ?といった意味の視線を送る。
それを察した推し友はへにゃりと笑う。は?尊いな。
しばらく俺達はもぐもぐとご飯を食べる。
「今日も推しがt⋯」
「わかった!わかったから。悪かったよ遮って。二度も叫ぼうとするな!」
ゲッソリとした顔の親友のツッコミに推し友がクスクス笑う。
「で?今日は誰の話なの?」
「あ、俺も気になる。」
親友は社交辞令、推し友は乗り気で聞いてくる。
あー。ここが天国か。このままこの二人がいかに尊いか話しても全然いい。
いいが、そうすると、今日の推し話ができなくなる。
「よくぞ聞いてくれた我が親友と我が推し友!」
「思ったんだけど推し友って言いづらくない?高嶺くん。」
「いや、そんなことは全く無い!」
もういいから早く話せ、と野次を飛ばす親友とニコニコ聞いている推し友。
案外似たところが多いと思う二人だが、ここまで正反対な反応をされるとあぁみんな違ってみんな尊いな、と思う。
「今日はいつもと少し違う。推しカプができたのだ!」
「はぁ。で?誰と誰?」
「小林美春さんと、s⋯」
「ちょっと待て。」
急に親友からストップがかかる。
今日はよく親友がストップをかけるなぁと思いながらなんだい?と聞く。
「この前小林さんは推しじゃないって言ってなかった?」
「あぁ。単体は推しじゃない」
不思議そうな顔をする親友の隣で推し友がなにか納得したような顔をした。
「あぁ。だから推しカプ。で?相手は?」
「よくぞ聞いてくれた我が推し友!その名は佐藤勝斗くんだ⋯!」
しばしの沈黙が流れる。
何やら反応が悪いな、と思っていると、推し友がオズオズと手を挙げた。
「えっと、誰?先輩?」
「いや、他校の生徒だ!」
「あぁ、だから聞いたことがなかったのか」
親友が他校の生徒の名前までよく知ってるね?と疑いのこもった目を向けてくる。
それを華麗にスルーして俺は今日起きたことを語り始めた。
あとがき
次回に続きます。
#8 推しカプ
この二人を知らない人は前シリーズ「あなたは私の顔で高らかに唄う」を読んでみてください。
あれは、いつものように放課後、推しを探していたときのこと。
ふと、普段はあまり行かない少し遠めの公園へ足を運んだ。
今思うと、これは神のお導きだったのかもしれない。
ベンチの方から何やら話し声が聞こえた。
何気なくそちらを見ると、小林さんと不良っぽい男子が一緒に話をしていた。
なんだ?カツアゲでもされてるのか?
もしそうなら大変なことだ。
俺はしばらく様子を見ることにした。
「そういやぁ美春。新しい学校はどうだ?」
「うーん。心を許せるほどの関係性のある子はいないかな。」
「⋯いじめられてるなら言えよ?ソイツ殴りに行くから。」
「ふふっ。ありがとう。」
ちょっと物騒だが、別にカツアゲとかではないらしい。
それはそうと小林さん。あんなにやまとなでしこって感じの彼女が不良といるなんて。
これはギャップの予感だ。実は女番長だったとかないかな?
「そっちはどうなの?まだお母様の好き好きアピール続いてる?」
「⋯お前のせいだからな?ダチまで俺をからかってんだよ」
「ふふふっ。楽しそうだね」
「んなわけあっか!」
多少語彙を荒げたのでヒヤッとしたが、小林さんは気にしていないみたいだった。
大物なのかもしれない。
すると、茂みの方で何やらヒソヒソ声が聞こえだした。
「ちょ、ヒロ押さないでよ。」
「だって聞こえないんだもん」
「別に俺らも会話まで聞こえてねぇよ。おい歩夢!頭出てる!」
「これでも低くしゃがんではいるんだけど?」
四人ぐらいの声だ。
一体ここで何をしているんだろう?
そして視線を再び戻すと小林さんが不良くんの頭をグイグイ引っ張って倒し、膝枕していた。
え?どういう状況?
湧き上がる茂みの四人。
「おまっ!こんなところで何してんだよ!」
「んー?私も勝斗のこと甘やかしてあげようかなーって」
「はぁ!?」
不良くん―――勝斗くんは顔を真っ赤にして起き上がろうとしている。
そんな彼の頭を小林さんは優しく抑える。
「っ!つーか!誰か来たらどうすんだよ!」
「別に誰もいないし、いいじゃん。」
ここにいるよ。俺含め五人。
「それに、誰か来てもカップルだと思って素通りしてくれるよ。」
「カップル!?」
「何?私とカップルと思われたら不満?」
「は!?いや、えっと⋯」
しどろもどろな勝斗くん。
意外だ。小林さんって、恋人にはグイグイ行くタイプの人なんだ。
そして、勝斗くんは押しに弱い。
何というギャップ。でも単体ではこのギャップは引き出せない。
これは、これは⋯!推しカプというやつができてしまったのでは!?
俺は初推しカプを目の当たりにした。
そして小林さんがからかうように勝斗くんの頬を突付き出す。
すると、彼は急に真っ赤な顔で飛び起き、小林さんにヒソヒソと何か話した。
驚いた顔の小林さんをベンチに残し、勝斗くんは茂みの方へ向かう。
「っおい。お前ら。んなとこで何してやがる?」
「あーバレちゃったかー」
「やっぱ歩夢の頭隠しきれてなかったか」
「俺じゃなくてヒロの声がデカかったからだろ?」
「ひどー!」
ゾロゾロと出てくる不良集団。
これは小林さんが萎縮してしまうのでは?と思ったがケロっとしている。
大者だ。肝が座ってる。
「はじめまして。小林美春といいます。」
「勝斗、こんな美人一体どこで見つけてきたのさ?」
「⋯黙れ野良猫野郎。」
ワチャワチャと小林さんを囲んで質問攻めにしている。
小林さんは笑顔で答えている。
勝斗くんはブスッとした顔で聞いている。
なんか、いいな。こういう関係。
俺は上機嫌でその場を去った。
「おい、お前。さっきからジロジロ見やがって。美春に何の用だ?」
公園を出たらふと背後から勝斗くんの声が聞こえた。
え?幻聴?初推しカプで気が高ぶって幻聴が聞こえる?
パッと振り返ると、本当に勝斗くんがいた。
思わず己の頬を引っ張る。痛い。
「お前だよ。見てたろ?何の用だ。」
「⋯。」
俺はツカツカと勝斗くんに近づく。
勝斗くんは腰を低くして飛びかかる準備をしているようだった。
が、俺は勝斗くんの手を取ると、ブンブンと振りながら目を輝かせた。
「君たちのヲタクです。」
「⋯は?」
「推してるんです。君たちを。」
「ん?え、は?」
「認知ありがとうございます。これからも陰ながら見守らせていただきます。」
「お、おぉ。⋯は?」
混乱している勝斗くんに深い深い礼をして俺はその場を去った。
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「ということでめでたく認知までもらって⋯」
「認知っていうか、威嚇じゃない?」
呆れたような親友の態度に思わずムッとする。
認知だよ。誰がなんと言おうとあれは認知だ。
認知以外の何者でもないのだ。
「それにしても、小林さんってあんまり他と関わり持とうとしないよね?」
推し友ののんびりした声に頷く。
「そんな彼女が心を許した関係。あぁ、尊い!」
「はいはい。もう昼休み終わるから帰るよ。」
親友がサッと弁当箱を持って教室へ向かう。
俺達もその後に続く。
(にしてもコイツ、妙に危機感ないよな。不良相手に「推してます」宣言とか。お前のほうが大物だよ。)
親友がそんなことを思っているとは露知らず、推しカプができた喜びに天へ舞えそうな俺だった。
閉幕 コロッケの秋
これにて一応完結です。
気が乗れば続きを書くかもしれません。
放課後、親友と帰る通学路。
なんやかんや俺はこの穏やかな時間が好きだ。
「ねぇ、コンビニ行っていい?コロッケ食べたくてさー」
「わかった。俺も寄る。」
肌寒くなってきたからね。
温かいものが食べたいよね。
俺は肉まんを買って外に出る。
「何買ったの?」
「ん?肉まん。」
「えーいいなー」
羨ましそうに見ている親友に苦笑する。
いつもはクールなのにこういう時だけ幼く見える。
「半分こする?」
「え?本当!?じゃあコロッケ半分あげるね」
肉まんを半分ちぎって渡すと親友は目をキラキラさせる。
親友からコロッケを半分もらい一緒に食べる。
「日が落ちるの早くなったよね。」
「そうだな。しばらく推し探索は控えたほうがいいかもしれん」
「いや、探索をやめろよ。」
親友にツッコミを入れられ、互いに顔を合わせると、笑い合う。
この時間が好きだ。
親友に言うと「気持ち悪い」と言われてしまうから言わないけど。
「そろそろ最推しにしてもいい?」
「なんで毎日聞いてくるのさ?駄目でーす」
「明日になったら気が変わってるかもしれないだろ?」
「残念ながら変わってなかったね」
ふふっといたずらっ子のように笑う親友。
「僕とお前は一生親友だよ。ざまぁないね」
一生親友。
その言葉に思わず頬が緩む。
最推しにできないのは残念だけど、こうして一人親友ができた。
ふへへっと笑うと親友が急に笑うな、と眉間にシワを寄せている。
ごめんごめんと言いながら肉まんを頬張る。
地面に長い影が落ちている。
柔らかな秋の風がススキを揺らして遊んでいる。
「帰ろうか」
「んー」
もぐもぐとコロッケを頬張りながら頷く親友に苦笑する。
ゆっくりお食べ、としばらく待つ。
俺達は歩き出す。
明日も明後日も、この通学路を二人で。
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「今日も推しが尊い!」
いつものように叫びだす俺。
「はいはい。で?今日は誰の話なの?」
いつものように聞いてくれる親友。
この些細な幸せが一番の幸せなのだと俺は知っている。
「よくぞ聞いてくれた我が親友!今日は⋯」
いつものように語りだす。
きっと明日も明後日も。
だって俺は、ギャップに弱いのだから。
これにて一応完結です。