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普通の魔法使いですが、歩く天災と相棒になります。【第六話】
王立マギウス魔法学校の5日目。放課後の職員室で、私は机を叩かんばかりの勢いで担任の先生に詰め寄っていた。
「先生! なんで私たちが、先生個人の特製コーヒー豆を隣町まで買いに行かなきゃいけないんですか! ただのパシリじゃないですか!」
そう、私たちは担任に『おつかい』を頼まれていた。
当の担任は、ヨレヨレの白衣のポケットからクシャクシャの紙切れを取り出し、軽いノリで平然と言い放った。
「いやいや〜、これは立派な学園外実習だよ? あ、これ、お駄賃。隣町名物プリンのペア引換券ね〜」
その瞬間、私の脳内は全く別の方向へと爆走した。
(超高級プリン……! 1個で銀貨5枚はする、あの予約殺到の幻のスイーツ!?)
チャンス到来とばかりに、私の表情は輝きを帯びる。三つ編みをきゅっと握りしめ、私は隣でぼんやり立っているアルの手をがしっと掴んだ。
「如月くん! これは国家の命運をかけた、非常に重要かつ神聖な任務だよ! 今すぐ出発しよう!」
「……え、あ、うん。」
手のひらを引っくり返した私に、アルはいつもの完璧な無表情のまま、少しだけ引いていた。こうして私たちは、初めて学校の敷地外へと一歩を踏み出した。
――が、学園一の天才エリートの私生活ポンコツぶりは、やはり外の世界ではさらに凶悪なベールを脱いだ。ガサッ、と衣擦れの音がして、隣を歩いていたはずのアルが、目的地とは真逆の方向へスタスタと歩き出している。
そこには『立ち入り禁止:魔獣出没注意』の看板がデカデカと掲げられていた。
「わっ、ちょっと如月くんストップ!! そっちはガチで危険な魔の森! 死ぬよ!?」
私は慌ててアルのベージュの上着の襟首を掴み、犬を引っ張るように引き戻す。
「……こっちの方が、プリンの匂いがした気がする」
「嘘おっしゃい! 鼻じゃなくて支給された地図を見てください! ほら、私の後ろを歩いて!」
もはやおつかいというより、危険な幼児の引率、あるいはただのお母さんである。
私の完璧なナビゲートにより、私たちはなんとか無事に隣町へ到着。無事にコーヒー豆を回収し、お目当ての高級プリンを口に運んだ。
「んん〜〜!! とろける! 美味しすぎる!」
まさかこんな高級スイーツをタダで食べられるなんて! 私は満面の笑みを浮かべ、幸せの絶頂に浸っていた。
……そう、一瞬だけ、プリンの美味しさに感動して目を離してしまったのだ。それが、すべての引き金だった。
「――あれ? 如月くん?」
ふと我に返ると、隣にいるはずの美少年の姿が消えていた。
「ちょっと嘘でしょ……!?」
冷や汗が背中を伝う。慌てて周囲を見回すと、遠くの茂みの奥で、サラサラの黒髪がふらふらと揺れているのが見えた。綺麗に光る野生のハーブに目を奪われ、無言のまま吸い寄せられていってしまったらしい。
「如月くん、待って! そっちはダメ――!」
私が追いかけた時には、時すでに遅し。アルの引き寄せられるような超弩級の方向音痴のせいで、気づけば周囲の景色は一変し、私たちは本当に『魔の森』の深部へと迷い込んでしまっていた。四方を不気味な巨木に囲まれた、薄暗い森の中。安全な町から一転して危険地帯に放り込まれたアルの様子は、明らかにおかしくなった。相変わらず顔は完璧な無表情なのだが、生まれたての小鹿のように、足元がガタガタと激しく震えている。アルは細い肩をビクッと震わせ、見たこともないほど涙目で、私の服の袖をぎゅぅぅっと力一杯掴んできた。
(出た! 迷子赤ちゃん状態……!ていうか誰のせいだと思ってんの!?)
その時だった。地響きとともに、茂みが激しく揺れ動いた。「ルオォォォォン!!」森の主である、凶暴な巨大魔獣『グランドベア』が鋭い爪を剥き出しにして、私たちを目がけて一斉に飛びかかってきた。学園の演習用ダンジョンとは違う、本物の野生の殺気に、私は恐怖で足がすくんでしまう。
「ま、まずい……防ぎきれない⋯⋯!」
私が叫びかけた、その瞬間だった。アルが着ていたベージュの上着のフードを、バサァッと深く被った。私の服の袖を涙目でガタガタ震えながら掴んだまま……その全身から、空気が自重で歪むほどの圧倒的な魔力が噴き出した。暴風のようなプレッシャーが森を支配する。
彼は無表情のまま、私の袖を掴んでいない方の片手を静かに魔獣へと向け、低く、驚くほど色気のある声で呪文を紡いだ。
「――俺のナビゲーターに触るな。『灰塵』」
彼が指先を向けた瞬間、森の木々を一切傷つけない、極限まで圧縮された超高火力の烈火の渦が放たれた。凶悪な魔獣は反撃する暇さえ与えられず、一瞬にして文字通り『消し炭』へと変えられてしまったのだ。あまりの次元の違う強さと、少女漫画みたいなセリフの破壊力に、私は呆然とする。……が、ふと手元を見ると、アルはまだ私の袖をがっちりとホールドしたままだ。静まり返る森。私はスッと真顔に戻り、容赦ないツッコミを叩き込んだ。
「如月くん。セリフだけ聞いたらめちゃくちゃ格好いいのに、やってることが『お母さんの服を掴んで離さない迷子』のそれなんよ。あと誰がナビゲーターだ。 あと火力が近すぎて私の服の袖、ちょっと焦げてます!」
「……ごめんごめん。ナビゲーターいないと帰れないから」
アルは申し訳なさそうな声を出しながら、森から離れるように私のに背中を押す。やっぱり色んな意味で規格外だ。なんとか学園に帰還し、担任にコーヒー豆を渡して任務完了。
「もう外任務はこりごりです……」
自室のベッドに倒れ込み、私は深くため息をついた。
リノのキャラデザ、日記に載せてみました!
良ければ見てみてください( . .)"