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金木犀の香りに誘われて
ファセリア
「あ、お帰りなさい。」
ある秋の日だった。斎藤が屯所に戻ってくるとそこには竹箒を持っている沖田の姿があった。どうやら敷地内に降り積もった金木犀を掃き掃除している様だ。
放っておくと量もそうだが匂いがあたりに充満してしまう、それを防ぐ為にも丁度暇だった沖田が掃除を始めたそうだ。
それを見た斎藤は帰って来てすぐにもかかわらず、近くにあった竹箒を手に取った。
「俺も手伝う。」
「おや、優しいですねぇ。」
2人で竹箒で金木犀を掃く音だけがあたりには響いている。その光景は何だかいつもの殺伐とした京では無く、本来あるべき姿の平和な京に見えた。
沖田がふと気づくと斎藤の肩に金木犀の花がちょこんと乗っている。それを取る為に沖田は斎藤の方へ近づくと足元の金木犀が邪魔をしてその場でうわっと言って躓いてしまった。
「…何をしているのだ。」
「いやぁ、斎藤君の肩に金木犀の花が乗っていたので、取ってあげようと思って。」
そう言うと沖田は自分を心配している斎藤の肩に乗っている金木犀の花を振り落とした。
「…ありがとう。」
斎藤がそう言うと沖田はふふっと笑った。それを何がおかしいんだと言わんばかりの目をしている斎藤を見てもう一度笑った。
そんな事をしていると突然風が吹き、金木犀の花弁が降り注いだ。先ほど掃除した場所にはまたこんもりと花が降り積もっていた。
「これじゃあ一生掛けても終わりませんよ。」
「そうなったらいつでも俺が付き合ってやる。」
「斎藤君は優しいですねぇ。お気持ちだけ受け取っておきますね。」
もうこれ以上掃除してもキリがないと判断したのか沖田はその場から立ち去り、縁側に斎藤を連れて来て、誰が入れたのか分からないほうじ茶を差し出した。
「明日も降り積もるかもな。」
「えぇ、その時はまた2人で大掃除しましょうよ。」
2人にとっての平和な時間は、夕焼けに照れされてより一層輝いていた。
あの時から数年が経ったある秋の日だった。
斎藤は庭に植えられている金木犀を見て微笑んだ。
「…あの時も、こうやって花が積もっていたな。沖田。」
その声は金木犀の香りに誘われてやって来た風に乗って、何処かへと舞って行った。