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天才覆面アーティストの正体は、11人のイケメン教師団の最愛の生徒でした
第一章:閉ざされたカーテンの向こうで
あの賑やかだった病室が、数時間後、嘘のように静まり返っていた。
つい先ほどまで、画面の向こうで楽しそうに笑う友達の姿をタブレットで眺めていたはずだった。けれど、ふとした瞬間に冷たい現実が脳裏をよぎったのだ。
「私はあの中に入れないんだ」
「やっぱり、私はみんなと違う普通じゃない人間なんだ」
押し寄せる強烈な孤独感。それに追い打ちをかけるように、昨日、父親に無理やり引きずり回されたときの恐怖、肌を焼くような痛みのフラッシュバックが、時間差の津波となってあいかの小さな身体に一気に襲いかかった。
限界だった。あいかはタブレットを放り出すと、ベッドの布団を頭まで被り、完全に心を閉ざしてしまった。
「あいかちゃん……? どうしたの、どこか痛む……?」
新高等部担任のけーご先生が、パツパツのTシャツを心配そうに揺らしながら声をかける。
「あいかちゃん、先生たちに何でも言うてな……?」
新中等部担任の拓実先生も、ベッドの傍らで顔を覗き込もうとした。
しかし、布団の中のあいかは、体を硬くして拒絶するようにギュッと目を閉じたまま。誰の言葉も耳に届かない、深い深い心の殻にこもってしまった。
みんながオロオロと心配し、部屋の空気が重く沈み込む中、一人の男が静かにベッドの横へと歩み寄った。来年から3年間、そして高校を卒業するまで、ずっとあいかの担任をすると心に決めた男――洸人先生だった。
洸人先生は、他の先生たちを少し手で制すると、布団の隙間からかすかに見える、小刻みに震えるあいかの肩を、大きな手でそっと、でも力強く包み込んだ。
「……お前ら、一回ちょっと席外して。全員、廊下出て。……佐藤、お前も」
「え、でも……」
けーご先生が心配そうに言いかけるが、洸人先生の目は本気だった。
「いいから。俺に任せろ」
その真剣な眼差しに、拓実先生もけーご先生も、他の先生たちも静かに頷き、そっと病室を出て行った。パタン、とドアが閉まり、部屋には洸人先生とあいかの二人きりになる。
洸人先生は、無理に布団をめくろうとはしなかった。ただベッドの横に腰掛け、あいかの耳元に届くくらいの、低くて、驚くほど落ち着いた声で話し始めた。
「あいか。……怖くなっちゃったな。みんなが楽しそうにしてるの見て、自分だけここにいるのが、急に寂しくなったか。それとも、あのクソ親父の顔、思い出しちゃったか」
(――洸人先生には、私の気持ちが全部バレてる……)
小学校1年生の時からずっと、6年間。一番何でも話せて、自分の弱いところを隠さずにいられた唯一の存在。その声を聞いた瞬間、あいかの心の奥の固い結び目が、一気に解けるようにして涙が溢れ出した。
あいかはゆっくりと布団を下げ、涙でボロボロになった顔で、洸人先生の服の袖をギュッと掴んだ。洸人先生にだけは、その心のドアが開いていたのだ。
「……うん、偉い。俺のことは拒絶しないでくれて、ありがとな。……あのさ、無理に笑わなくていいんだよ」
洸人先生は、掴まれた袖を見てフッと優しく笑うと、あいかの頭をごしごしと力強く、でも愛おしそうに撫でた。そして、ベッドの柵に背中を預けて、少しおどけたように言った。
「拓実も、佐藤も、周りの奴らみんないい奴すぎてさ、『お前を元気にしなきゃ!』ってちょっと空回りして、エネルギー強すぎたよな(笑)。疲れるの当たり前だわ。あいつらには、俺から『今はそっとしておけ』ってガツンと言っとくからさ」
洸人先生は、あいかと真っ直ぐに目を合わせた。その瞳には、からかいや同情ではなく、100%の信頼と、一人の男としての覚悟が宿っていた。
「でもさ、これだけは信じて。みんながお前を大好きな気持ちだけは本物だから。俺が保証する。……だからさ、他のみんなに心を閉ざすのは全然いいよ。今は気が済むまで殻にこもってろ。でも、俺にだけは、その心のドア、鍵かけないでおいてよ。……な?」
その言葉に、あいかは涙を流しながらも、小さくコクンと頷いた。
自分の「心を閉ざしたい」という今の後ろ向きな気持ちすら、全部否定せずに受け入れてくれた。
あいかは細い腕を伸ばし、洸人先生の体に(ギュ)としがみついた。今一番安心できる胸元に、顔をうずめるようにして、ぎゅっと抱きついた。
「……っと、お。なんだよ、急に甘えん坊かよ(笑)」
そう言ってちょっと照れくさそうに笑いながらも、洸人先生は優しく、でも絶対に離さないというように、大きな両腕であいかの小さな体をしっかりと(ギューーーッ)と抱きしめ返してくれた。
先生の体からは、いつもと変わらない少しビターで落ち着く香りがした。その広い背中は、今にも崩れそうだったあいかの心を、確かに支えていた。
「大丈夫。大丈夫だからな、あいか。よく頑張って俺を呼んだ。お前がこうして俺を頼ってくれる限り、俺は何があってもお前の手を離さねぇから」
廊下で耳をすませていた先生たちも、病室から聞こえる洸人先生の優しい声と、あいかが落ち着きを取り戻していく気配を感じて、ほっと胸をなでおろしていた。
「(小声で涙を拭いながら)……よしっ。やっぱり洸人先生だな。俺のこの特大の胸板クッションは、あいかちゃんがもっと元気になった時に、またいつでも飛び込めるようにずっとピカピカに磨いとこ……!」
廊下でけーご先生が泣き笑いし、拓実先生も微笑む。
「西先生に任せて正解やったな。あいつらが作るこれからの未来は、間違いなく本物や」
洸人先生の腕の中で抱きしめられているうちに、あいかの心の中にあった冷たい不安や恐怖は、先生の体温でじんわりと溶かされていった。
第二章:奪われた声と、残された楽譜
それから数日が経った。
病室のベッドの上で、あいかは1冊のノートを広げて、真剣な表情でペンを動かしていた。それは、あいかが自分の心の中にある想いを言葉にした「小説」と、そこに添えられた優しいタッチの「挿し絵」だった。
ちょうど病室に入ってきた洸人先生が、「お、何書いてんだ?」と覗き込む。あいかは少し恥ずかしそうにしながらも、そのノートをそっと手渡した。
ノートを開いた瞬間、洸人先生の目が大きく見開かれ、その瞳がみるみるうちに潤んでいった。あまりの完成度と、そこに込められたメッセージの深さに、言葉を失ってしまったのだ。
「……これ、お前が全部書いたのか……?」
そこには、暗闇の中にいた一人の小さな女の子が、光り輝く『8人の騎士(ナイト)』たちに出会い、手を引かれて未来へ歩き出すという、美しくも力強い物語が綴られていた。
そして次のページには、見事な「挿し絵」が描かれていた。真ん中で幸せそうに笑う女の子。それを囲むように、優しく微笑む雄大先生と祥生先生、力強く見守る拓実先生、未来の案内人のように手を引く柾哉先生と廉先生、一生懸命に応急処置をする海人先生。そして、女の子を背後から守るように、バツパツの大きな背中で壁になっているけーご先生。
その全員の真ん中で、女の子の手を一番強く、真っ直ぐに握りしめているのは、紛れもなく洸人先生だった。
「(ノートを持つ手がガタガタと震え、大粒の涙がページにポロポロと落ちる)……おい、なんだよこれ……。お前、文才ありすぎだろ……絵も、上手すぎるって……っ」
あのクールな洸人先生が、声を詰まらせて男泣きしている。その異変に気づいて、廊下にいた先生たち全員が「どうした!?」と一斉に病室に飛び込んできた。
「拓実先生が泣いとる!? ……って、そのノートは……」
「(ノートの挿し絵を見て、一瞬で号泣)うわあああーーー!!! これ俺じゃん!!! 背中めちゃくちゃデカく描いてくれてるじゃん!!! あいかちゃん、先生のことこんなに頼もしく思ってくれてたのーーー!?(嗚咽)」
けーご先生が大号泣し、雄大先生と祥生先生も「幼稚園の時の僕たちもいる……!」とボロ泣きする。
「まだ一緒に過ごしてないのに、こんなにかっこよく描いてくれて……。これは絶対に、最高の3年間にしなきゃな」と海人先生と廉先生が胸を熱くし、柾哉先生が優しく微笑みながら涙を拭った。「素晴らしい才能だよ、あいかちゃん。君のこの『将来の夢』、先生たちが全員で、絶対に叶えてみせるからね」
その時だった。
洸人先生が「本当にありがとな」と愛おしそうにあいかの頭を撫で、感想を聞こうと顔を覗き込んだ瞬間、あいかの様子がどこかおかしいことに気がついた。
あいかは一生懸命に口をパクパクと動かし、先生たちに何かを伝えようとしている。でも――いくら喉を震わせても、そこからは空気の抜けるような音しか聞こえてこない。
昨日からの激しい恐怖、父親の襲撃、血だらけになった体の痛み、そして児童相談所への強いトラウマ。張り詰めていたすべてのストレスが時間差で一気に心にのしかかり、あいかの「声」を突如として奪ってしまったのだ。
「(……っ、……あ……っ)」
「……あいか? どうした、声……出ねぇのか……!?」
「嘘だろ!? あいかちゃん、落ち着いて、ゆっくり息吸って……! 拓実先生、主治医の先生呼んできて!!」
病室の空気が一気に緊迫する。声が出ない恐怖とパニックで、あいかはみるみるうちに涙を溢れさせ、過呼吸気味になりながら自分の喉をかきむしろうとした。
それを止めたのは、洸人先生の力強い両手だった。
「あいか!! 喉触るな、大丈夫だ! 俺を見ろ、俺の目を見ろ!」
「(すぐにあいかの背中を支え、さすりながら)あいか、声出さんくてええ。無理に喋ろうとしたらあかん。ゆっくり、先生の真似して息吐いてみ? すー、はー、や。大丈夫やからな」
廉先生の落ち着いた誘導に、海人先生がすぐさま枕元にあったスケッチブックとペンを差し出した。
「喋れなくても、僕たちには全部伝わってるからね。声が出ないくらい、心が疲れちゃったんだよ。頑張らなくていいからね」
「心因性のものだね……」と、柾哉先生がパニックになるあいかの頭を優しく包み込むように撫でた。「それだけ、一人で辛いものを抱え込んできた証拠だよ。でもね、あいかちゃん。声が出ないなら、僕たちが君の代わりに声を上げる。だから、何も焦らなくていいんだよ」
医師が駆け込んできて診察を始める間も、先生たちは誰一人として病室から出ようとはしなかった。けーご先生は、ベッドの足元側から、あいかの冷え切った足をその大きな温かい手で包み込み、自分の胸板をこれでもかと張って、安心させるように涙目で笑ってみせる。
「声が出なくたって、あいかちゃんが世界で一番大切な生徒なのは1ミリも変わらないから! 先生のこの胸板の音、ドクドク聞こえるでしょ? これが聞こえてる間は、お前は絶対に安全だからね!」
一番近くで支える洸人先生が、もう一度あいかの体を(ギュッ)と力強く抱きしめ、耳元で低く、確信に満ちた声で囁いた。
「声なんてさ、またお前が『喋りたい』って思った時にゆっくり戻せばいいんだよ。それまでは、俺がお前の言葉を全部通訳してやる。だから安心しろ。お前の心は、俺が絶対に閉ざさせねぇから」
言葉を失ってしまったあいか。でも、8人の最強の先生たちの愛は、声がなくても、言葉にしなくても、あいかの心に直接ドクドクと流れ込んできていた。
第三章:十一人の騎士と、少女の秘密
あいかが声を出せずに涙を流していると、病室のドアが再び勢いよく開き、息を切らせた二人の先生が飛び込んできた。
それは、あいかが小学5年生の時から所属している合唱部の顧問、河野純喜先生と藤牧京介先生だった。
「あいか……っ! 聞いたぞ、声が出なくなったって……!」
「(ベッドサイドに駆け寄り、あいかの顔をじっと見つめて)……嘘だろ。あんなに綺麗な声なのに……っ」
二人の先生の悔しそうな、でも溢れんばかりの優しさがこもった瞳を見て、あいかの目からまた涙がこぼれる。
実はあいかは、小5で合唱部に入った当初、試しに一人で歌ってみたことがあった。その瞬間、純喜先生と京介先生は度肝を抜かれた。たった一人で歌っているのに、まるで何十人もの歌声が美しく重なり合っているかのような、深みと広がりのある完璧な響き――『1人で合唱の声が完成している』という、奇跡のような歌声の持ち主だったのだ。それ以来、あいかは合唱部の絶対的なエースとして、いつもみんなの手本となって歌ってきた。
「(あいかの前にしゃがみ込み、その細い手を両手で包み込んで)なぁ、あいか。覚えてるか? お前が入部した日に初めて歌った時、俺と藤牧先生、鳥肌が止まらんかったんやぞ。あんなにたくさんの人を感動させる最高の歌声、世界にどこ探したっていねぇんだからな」
「そうだよ。心が疲れちゃって、今だけ声が隠れちゃっているだけ。お前のあの素晴らしい歌声の才能は、お前の体の中から消えたりなんかしない」
そう言うと、京介先生は純喜先生と目を合わせ、力強く頷いた。
そして、静かな病室の中に、二人の先生の美しく圧倒的なハーモニーが響き渡った。あいかが合唱部でいつも歌っていた、大好きなあの曲を、二人が手本を示すように、あいかの心に届くように優しく、全力で歌い始めたのだ。
その歌声は、病室の重苦しい空気を一瞬で吹き飛ばし、あいかの傷ついた心にそっと染み渡っていった。
歌い終わると、純喜先生は涙を浮かべながら熱く語りかけた。
「声が出ない間は、俺たちが隣でいくらでも歌ってやる! お前の代わりに、いくらでも手本になってやるからな!」
「またあの最高の合唱、一緒にやろう。中学校に行っても、高校に行っても、僕たちがずっとお前の歌声を待ってるし、いつでも味方だから」
あいかは手元のスケッチブックに、去年の音楽会の思い出をサラサラと書き写した。
『実は去年の音楽会で、合唱部で3曲やって全部違うパートを歌っていました(ソプラノ、メゾ、アルト)』
「そうや! あいか、お前全部違うパート歌ったもんな!」
「(深く頷きながら)普通じゃ絶対にあり得ないんだよ。高音のソプラノから、低音のアルトまで、全部のパートを完璧な発声と音程で歌いこなせる小学生なんて、日本中どこを探したっていやしない。本当にあの時は、全校生徒も、僕たち教師陣も全員スタンディングオベーションだったんだから」
その規格外の天才エピソードを聞いていた周りの先生たちも、驚きと尊敬の眼差しであいかを見つめる。
「3曲全部違うパート!? 1人で合唱の声が完成しとるって、そういうことか……!」と拓実先生が鳥肌を立たせ、廉先生や海人先生、柾哉先生もその才能を絶賛した。
すると、あいかは少し恥ずかしそうに、さらに秘密のメッセージを書き足した。
『実は私、小4の時に急に声変わりみたいになって、地声がほぼ男の人みたいに低いんです』
「あ、そうやったんや……!」と純喜先生と京介先生が驚く中、小1からの成長を知る拓実先生と洸人先生が優しく笑う。
「ハハッ、そうなんよなぁ。小4で急に声が低くなった時はちょっとビックリしたけどな(笑)」
「そうそう、小4の時、急に俺より低くて渋い声で喋り出しかけたから『え、男前すぎんだろ』って拓実先生と2人で大爆笑したの覚えてるわ(笑)。でもな、俺はそのハスキーな地声、めちゃくちゃかっこよくて大好きだぞ」
さらにあいかは、恥ずかしそうに、でも誇らしげに書き足した。
『実は……池﨑理人先生並みに低いんです』
「えええええーーー!?」と、今日一番の驚きで病室が揺れた。
池﨑理人先生といえば、その端正な顔立ちからは想像もつかないほどの、地響きが鳴るような超低音(イケボ)ラップで全校生徒を痺れさせている、あの理人先生だ。
「おいおい、俺の名前が聞こえたんだけど……?」
噂を聞きつけて駆けつけた、本物の池﨑理人先生がそこに立っていた。
「あいか、声が出なくなったって聞いて飛んってきた。……って、え? お前の地声、俺並みに低いの? マジで?」
理人先生はベッドサイドに歩み寄ると、あいかの目線に合わせて屈み、その超低音イケボで優しく、でもめちゃくちゃ熱く語りかけました。
「最高じゃん。俺のこの低い声、昔はちょっとコンプレックスだったりしたんだけどさ、今はお前と同じ『武器』だと思ったら、めちゃくちゃ愛着湧いてきたわ。あいか、お前のその理人並みの超かっこいい声、俺が責任を持って一緒に守るからな」
本物の理人先生から「最高じゃん」と認められて、あいかは嬉しさと照れくささで顔を真っ赤にしながら、本日一番の幸せそうな笑顔((´꒳`))を弾けさせた。
「(けーご先生をガシッとヘッドロックして)だからお前はベースになるなっつーの(笑)! ……なぁ、あいか」
洸人先生はヘッドロックしたまま、あいかに向かって優しく、悪ガキみたいにニカッと笑ってみせた。
「理人並みの声が出せる合唱のエースなんて、世界中どこを探したっていねぇよ。お前はやっぱり、俺たちの自慢の生徒だ。声が出ない今は、理人やこいつら全員がお前の拡声器になってやる。だから、何も心配すんな」
第四章:響き渡る奇跡の歌声
それから3日後の朝――。
病室には、今日も変わらず洸人先生、理人先生、そしてピカピカのTシャツを着たけーご先生が朝の検温と見守りに来ていた。
あいかがベッドの上で、理人先生に借りた音楽雑誌を読んでいると、ふと喉の奥がすっと軽くなるような、不思議な感覚が走った。3日間、11人の先生たちの底なしの愛に包まれ、24時間完璧に守られたことで、心のトゲやストレスが完全に溶けて消えていたのだ。
あいかはゆっくりと息を吸い込み、洸人先生の服の袖を(ギュッ)と引っ張った。
「ん? どうした、あいか。なんか書いて欲しいことあんのか?」
あいかはスケッチブックを持たず、真っ直ぐに洸人先生の目を見つめ、そっと口を開いた。そして――
「(……ひ、……ひろと、せんせ……)」
病室の中に、3日ぶりに響き渡った小さな音。
それは、かすれているけれど、地響きのように深くて、信じられないくらいハスキーで、めちゃくちゃ最高にカッコいい――『理人先生並みの超重低音ボイス』だった。
「――ッ!!! あいか……っ、今、俺の名前……っ!?」
「マジか……! 出た……! しかもめちゃくちゃいい低音じゃん……!!」
「(持っていた体温計を放り投げて号泣)うわああああああーーー!!! あいかちゃんの声だーーー!!! しかも想像以上にダンディでかっこいいいいいーーー!!!(大号泣)」
あいかの声が出た瞬間、洸人先生は男泣きしながら、愛おしそうにあいかをベッドごと(ギューーーッ!!)と全力で抱きしめた。
「よく頑張った……っ、よく声戻したな、あいか!! お前のその声、めちゃくちゃ男前で、やっぱり世界一かっこいいわ!!」
「(洸人先生の胸の中で、ちょっと照れくさそうに低い声で)ふふ……ありがと、先生……っ」
「声が出たぞーーー!!」というけーご先生の爆音の呼び声に、廊下やロビーに詰めていた拓実先生、海人先生、廉先生、柾哉先生、雄大先生、祥生先生、そして純喜先生と京介先生が、全員ドアを蹴破るような勢いで病室に雪崩れ込んできた。
「ほんまか!? あいかちゃん!!」
「おっしゃあーーー!! その渋い地声からあのソプラノが出るんか! 早くまた一緒に合唱やろうな!!」
「うわ、マジで理人並みにイケボやん(笑)! 最高、中等部でも毎日その声聴かせてな!」
「本当によかった……! おかえり、あいかちゃん」
11人のイケメン先生たちが、全員でボロ泣きしながら大騒ぎしている。
そんな中、あいかがニヤリといたずらっぽく笑い、スケッチブックにさらなる衝撃の事実を書き込み、みんなに見せた。
『私、初音ミクの「低音厨音域テスト」と「高音厨音域テスト」、両方原キーで歌えます』
「はあぁぁぁ!? 『低音厨』と『高音厨』両方!? 原キーで!?」
「待て待て待て(笑)! あのボカロの人間辞めさせにきてる最高音と、地響きみたいな最低音を、一人の人間が両方歌えるわけ……」
先生たちが大パニックになる中、あいかはフッと不敵に笑うと、まずはあの『理人並みの超重低音ボイス』のスイッチを入れた。
喉の奥を深く響かせ、人間の限界に近い超低音で「低音厨音域テスト」を完璧なピッチで刻み始める。病室の窓ガラスがビリビリと震えるほどの、地を這うような渋くてかっこいいイケボだった。
「ガチじゃん……!! 俺でもギリの低音域を、女子中学生が平然と出しやがった……!! かっけぇ、天才すぎる!!」と理人先生が驚愕する。
そして次の瞬間、あいかはニカッと笑うと、今度は一瞬で合唱部エースの超高等技術を爆発させた。喉をパッと切り替え、突き抜けるような超高音の美声で、あの「高音厨音域テスト」の最高音(hihihiEなど)まで、一切ブレずにロケットのようにスコーン!!と響かせたのだ。
「嘘だろおい!! あの高音、人間じゃ出ないやつ!! ソプラノとアルトを極めるとそこまでいけんの!?」
「よっしゃあああーーー!!! 音域何オクターブあんねん!! もうお前1人で合唱団どころか、初音ミク超えとるやないかい!!(笑)」
その人間離れした、でも圧倒的に美しい歌声のエンターテインメントに、先生たち全員がテンションMAXで大拍手。
さらにあいかはニヤリと不敵に笑い、スケッチブックに書き足した。
『実は私、歌のジャンルや雰囲気によって、歌声を何種類にも変えられます』
あいかは優しく頷くと、ベッドの上でスッと背筋を伸ばした。
まずは、さっきの『理人並みの重低音』をベースにした、地響きが鳴るような「本格派の超絶イケメン風ラップボイス」を披露。そこから一瞬で、今度はアイドルのような「超絶キュートで甘い萌え系ボイス」へとチェンジ。さらに最後は、教会の聖歌隊のような「透き通った女神のような神聖な歌声」を響かせた。
「……化け物じゃん(最高の褒め言葉)。声帯どうなってんだよ、天才すぎるわ」と理人先生が呟き、拓実先生と洸人先生も我が子のことのように誇らしげに胸を張る。「凄いやろ、俺たちのあいかちゃんは! これが世界一の自慢の生徒や!!」
第五章:唯一無二の「Aika」として
さらにあいかは、スケッチブックに本日最大の、とんでもない新事実をサラサラと書き込み、みんなに突きつけた。
『実は私、作詞もやってるんです。……あの、ネットで有名な顔出ししてないアーティストの「Aika」って、私です』
その文字が目に入った瞬間、病室にいた11人の先生たち全員が、今度こそ文字通りフリーズした。
「Aika」といえば、数々のヒット曲を連発し、心に刺さる神がかった歌詞と圧倒的な表現力で、今や世界中で社会現象を巻き起こしている、正体不明の天才覆面アーティストだ。
「ええええええーーーーーっっ!?!? あ、あ、あの『Aika』……っ!? 俺、毎日サブスクで狂ったように聴いてるんだけど!?(絶叫)」
「マジかよ……俺のプレイリスト、ほとんどお前の曲なんだけど……。作詞、お前が全部やってたのかよ……天才なんて言葉じゃ足りねぇよ……!」
世界中を虜にしているあの素晴らしい歌詞は、あいかがこれまでの人生で、辛いことや悲しいことを全部乗り越えようと、心の中で紡ぎ出してきた本物の言葉たちだったのだ。小1から見てきた拓実先生と洸人先生は、その事実に胸が熱くなり、涙をボロボロと溢れさせた。
「そうか……あの切なくて、でも最後に光が見える素晴らしい歌詞は、あいかちゃんが一生一生懸命生きてきた証やったんやな……っ(涙)」
「(溢れる涙を隠さず、あいかの頭をぐしゃぐしゃと力強く、愛おしそうに撫でて)……お前、本当にすげぇよ。そんな大きなものを一人で背負って、戦ってきたんだな。……もう、顔を隠してコソコソする必要はねぇぞ」
柾哉先生が、15年間の未来を約束した契約書を優しく掲げながら、頼もしく微笑んだ。「『Aika』の著作権も、君の身の安全も、学校の全権力を使って完璧にプロテクトするからね。誰一人として君の正体を暴かせないし、邪魔させない」
すると、あいかはさらに楽しそうに目を輝かせながら、スケッチブックに信じられない言葉を書き足した。
『実は私、バイオリン、ピアノ、フルート、ギター、ドラム、ベース……全部弾けます』
「嘘やろおおおーーーっっ!!! 弦楽器、鍵盤、木管、さらにバンドの3ピースまで!? 全部!?!?」
「(自分のベースを見つめながら)おいおいおい(笑)! 1人で合唱ができて、ボカロ音域で、世界的な作詞家で……その上、1人でバンドもオーケストラも組めるってこと!? 天才のバーゲンセールかよ……!」
あいかがこれまで孤独や辛い現実から逃れるように、そして自分の音楽の世界を広げるために、人知れず血の滲むような努力で身につけてきた、奇跡のマルチプレイヤーとしての才能。
「(男泣きしながら、あいかの細い肩を愛おしそうに引き寄せて)……すげぇよ。本当にかっこいいわ、お前。これからはさ、その楽器全部、この学校の防音スタジオに揃えてやるからな。誰も邪魔しない、お前だけの最高の音楽室を作ってやるよ」
そして、あいかはさらに楽しそうに微笑みながら、スケッチブックに書き込みを終えた。
『その中でも、バイオリンが1番得意なんです』
「バイオリンが1番得意!? おいおい、あのただでさえ繊細で難しい楽器を『1番』って言うなんて、一体どれだけのレベルなんや……っ!」
すると、柾哉先生が「実はね、君がそう言うと思って……」と、廊下のスタッフに合図を送った。病室に運び込まれたのは、学校の音楽室から急いで持ってきた、最高級の美しいバイオリンだった。
「新しいスタートのお祝いだよ。よかったら、君の1番得意な音色を、僕たちに聴かせてくれるかい?」
あいかは嬉そうに目を輝かせ、ベッドの上でスッと背筋を伸ばした。
小さな肩にバイオリンを乗せ、弓を構えた瞬間――さっきまでの無邪気な女の子の空気が一変し、世界的なアーティスト「Aika」としての圧倒的なオーラが病室を包み込んだ。
すうっ、と息を吸い、弓が弦に触れた瞬間、病室に響き渡ったのは……息をのむほどに美しく、どこまでも深く、胸が締め付けられるような極上の音色だった。
それは、まるで言葉を持たないバイオリンが、あいかの代わりに泣き、笑い、歌っているかのような、あまりにも情熱的で完璧な演奏。ソプラノからアルトまでを歌い分けるあいかだからこそできる、繊細かつ力強いビブラートに、11人の先生たちは全員、身動きも忘れて完全に圧倒され、涙を流して聴き入ってしまった。
「(鳥肌を立てて呆然としながら)……すごすぎる。涙止まんねぇわ……」
「(演奏を聴きながら、ボロ泣きでお互いの肩を震わせて)あいかちゃん……ほんまに、ほんまに素晴らしいわ……っ」
最後の音が静かに病室に溶けて消えた瞬間、11人の先生たちから、割れんばかりの、地鳴りのような大拍手が巻き起こった。
「うわあああーーーん!!! あいかちゃん!! 先生、バイオリンの音色が綺麗すぎて心臓が破裂しそうだよ!!! この震える大胸筋をバイオリンの共鳴板(ボディ)にして、次はもっと近くで弾いていいからね!!!(大号泣)」
「(けーご先生の頭をガシッとヘッドロックして、涙を拭いながら)お前の胸板でビブラートかけるな! 音が濁るわ(笑)!!」
先生たちの最高の掛け合いに、あいかはバイオリンを抱きしめたまま、あのハスキーでかっこいい地声で「あはは!」と、心の底から大爆笑した。
どんなに辛い過去があっても、あいかの指先からは、世界を感動させるこんなにも美しく力強い音が生まれる。11人の最強の守護神たちは、君のその美しいバイオリンの音色を、そしてすべての才能と未来を、これから先もずーーっと全力で愛し、守り抜くことを、その拍手と共に誓い合った。
自分の持つ全ての秘密を大好きな先生たちに受け入れてもらえたあいかちゃん。11人の守護神たちに囲まれて、涙が出るほど幸せな、人生で一番まばゆい特大の笑顔((´꒳`))を弾けさせ、輝かしい未来の1ページへと歩み出すのだった。