公開中
A カルネ 【星を堕とす】
⑥
愚かでいとおしい子。
ホワイトのためになると嘯かれて、彼自身を殺してしまったね!
駄文。
閑話休題
〈あなたは選択した。最悪を。その罪を忘れることは許されない〉
---
あなたに助けてもらったあのときから、なにかあなたのためにできることがないか、探し続けていた。
あなたはきっと、覚えていないでしょう。覚えていたとして、結び付けられないでしょう。
そう願っています。あのころは、すこし幼くて、怖がりだったから。…でも、昔の自分のほうが、よかったのかもしれません。
まぁいいです。昔のことは。
どうしてもあなたのそばで、あなたのためになることがしたくて。側近を募集すると聞いて、すぐに駆け付けました。もちろん応募者は多かったけれど…それでも、選ばれた。私の熱意に、思いに遠く及ばなかったから。
あなたのそばで、働けることになって。助けてもらったころのあなたの姿と、
そばで見るあなたの姿は違くて、それでいて依然と素晴らしかった。
すこしおっちょこちょいで、ほかのアドミンたちのような頭の良さこそもっていないけれど、
素直だったり、周りを明るくしたり。ほだされそうになるその笑顔は、かわらず素晴らしかった。
日々に色が与えられ、幸福だった。
…そんな素晴らしい生活に影が差してきたのは、いつ頃だったのだろう?もう覚えていない。
仕事が忙しくなった。人々が、アドミンに対して要求することが多くなっていた。
…簡単に言えば、人々は傲慢になった。他のアドミンたちが、そんな人々に嫌気がさしているのは、簡単に分かった。けれど人々を見捨てないのは、ひとえにあなた…ホワイトのおかげだと。ホワイトはまだ人を信じていて、動き続けている。そのおかげで、ほかのアドミンたちは人々を見捨てないのだと。
私はわかっていた。
…わかっていたのに、どうしてこの選択をしてしまったのだろう。もっといいやり方があったはず。マリーツィア。その組織の主から話しかけられた。そのときに歯車が狂った。
マリーツィアの主は、私に囁いてきた。悪魔の声だった。
それに従ったのは、ほかでもない私だった。
やるときは一瞬だった。あなたに、「相談があります」とだけ言って、二人きりの時間を用意して。いつも通りのあなたの部屋で、あなたは背後をさらしていて。
電球を壊して、あなたが振り向くその瞬間の目に、ナイフを突き刺すだけ。簡単だった。
アドミンたちが使える…あまりにも強力なアドミン権限は、ナイフの力によって封じられていた。
赤色のカーペットが広がって、跳ねて。ものがぶつかる音、かすかな息。それだけだった。
そのまま押し倒して、あなたの左目を抉って、心臓を刺した。あっけなかった。致命傷だった。長くはもたなかった。
…すべて終わってから、私は涙を出していたことに気づいた。
…あなたは抵抗できたはずだ。黒き剣は、あなたのそばにあった。私ごときが上に乗っかったところで、すぐに抜け出せたはずだ。あなたは強かったから。もしかしたら、アドミンの中では最も強かったかもしれない。
でも、抵抗しなかった。
…それはひとえに、私が信頼されていたから?私のことを…まるで本当に大切な人かのように扱ったから。ああ、本当に?本当に私を大切な人だと?
あなたにとって私は、単なる便利な側近だと、思っているんだと、私はそう願っていました。そんなことはありえないとわかっていても。彼を一番近くで支えてきたのですから。ええ、わかっていました。それでも。
最後の言葉が怒りでも恨みでも、受け入れるつもりでした。
…なのに、なぜ謝ったのですか。なにに、だれに?どうして?それが最後の言葉?ありえない。変だ、変だった。
彼は私たちのような醜悪な化け物ではなく、純粋たるアドミンであり、人だった。
そのときに私は、あなたに恨まれたかった、怒られたかったのだと気づいた。
あなたの記憶に残りつづけたかった、そう思っていたこと。
もしかしたら、もうすでになれていたのかもしれないのに。
私が謝るべきだった。あなたがあやまるべきじゃなかった!
こんな愚かな思いを抱いて、あなたを害して。あなたのためになることがしたかったのに、私は、こんな……ことをしてしまった。
もう取り返しはつかない。
マリーツィアの拠点に戻って、あなたの目とナイフを献上して。すべてがぼやけて、何か言われているような気がしても、ろくな反応が返せなかった。
まるで英雄のように扱われて。あなたこそが英雄なのに。
部屋に戻ってようやく、すべてが悪夢ではなく、現実だと理解できるようになった。
マリーツィアのあの囁きに従わなければ、こんな思いを抱いていなかったら。いや、私が信頼されていたことを、気づけていれば。
自身が愚かでなかったら。
こんなことにはならなかった。
あのときは、囁かれたときは、まるでそれがあなたを助けるかのような言葉で…私は狂っていた。
あなたを殺すというのに。
すべてマリーツィアの、そしてその主のせいだと言えればよかったのに。でも、私は共犯者であり実行人であり…その囁きに自ら乗ってしまった愚か者だ。
あなたの血が、床に広がっていく姿を幻視する。
あなたの目が、私の顔を見ているように感じる。もういないのに。
これは罪から逃れたいだけ、わかっている。同時に、わすれないようにするための記憶であることも。
幸せだったころに戻りたい。そして、あなたにこんな思いをいだいてしまう前に、死んでしまいたかった。私自身を、殺してしまいたかった。
ここにいたくなかった。
ここではないどこかに行きたかった。
…寝れば解決するだろうか?いや、しないだろう。
それでも私は、眠りについた。逃げたかった。
今日がなければよかったのに。
実に愚か。そして、自身に一番従ったものでもある。