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8話「光属性」
旧校舎の地下深く。
画面越しに宣戦布告をしてきた神代景の通信は、あまりにも用意周到だった。
「だめ……完全に足取りを消されたわ。通信経路が多層偽装されていて、さっきのマップの座標もフェイクの可能性がある……!」
生徒会室のコンソールを叩きながら、神代玲奈が焦燥に満ちた声を上げる。
その赤い瞳は恐怖とプレッシャーにネオンブルーに激しく明滅し、綺麗な顔をクシャクシャに歪めていた。3月までのカウントダウンは、彼女の精神を確実に削っている。
「落ち着きなさい、神代さん」
俺——御堂綾(みどう りょう)は、色素の抜けきったプラチナホワイトの前髪をかき上げ、ガラスのようなライトブルーの瞳で画面のログを冷徹にスキャンした。
「ノイズに混ざっていた超低周波の音声データ、および学園AIの基幹サーバーに走った微量のエラーパケット。……これら複数の暗号を多角的にハックすれば、景の居場所を示す『確定な情報』が導き出せるはずです」
俺のガラスの瞳が、勝利の予感にバイオレットの不気味な光を宿す。
あと一歩。あと数行のコードを解析すれば、確実に逃げた『偽神』の首筋を捉えられる——
誰もが息を呑み、確定のエンターキーを押そうとした、その瞬間だった。
**ガタガタガタガタッ!!!! **
重厚な生徒会室の防音扉が、まるで大型重機でも衝突したかのような凄まじい音を立てて振動した。
いや、振動ではない。外から物理的に『超高速で連打』されているのだ。
「な、何事……!? 景の差し向けた刺客!?」
玲奈が椅子を蹴って身構える。
直後、バァァァン!! と凄まじい爆音と共に、頑丈なマホガニーの扉が勢いよく吹き飛んだ。
「イェア!! ハロー、マイフレンド! 噂の面白い一年生たちが、暗い顔してパソコン睨みつけてるって聞いて、挨拶しに来たぜ!!」
逆光を背に現れたのは、巨大な壁のような影だった。
身長2メートル21センチ。凄まじい筋肉の塊のような肉体に、黒いタンクトップと半ズボン。スキンヘッドにサングラスという、およそこのエリート学園の生徒とは思えない規格外の男。
だが、その胸元には確かに、俺たちより一つ格上の『二年生用デジタルバッジ』が鎮座していた。
男は、そのバカげた巨体に似合わず、小脇に最新鋭のノートパソコンを抱えている。
「……誰ですか、あなた。ここは一般の二年生が許可なく立ち入る場所ではありませんよ」
俺はポーカーフェイスを維持したまま、眼(レンズ)を男に固定し、その細部をスキャンした。
呼吸、1分間にわずか8回。信じられないほど強靭な心肺。全身の筋肉が超高密度に引き締まっている。
——いや、それだけじゃない。彼の周囲の空気が、微かに『歪んで』見える……?
「俺の名前は樽巻拳殴! あんたたちの先輩にあたる、陽気な二年生だ! 趣味は筋肉、好きなモノも筋肉だ!!」
男——樽巻はサングラスの奥の目をギラつかせ、白い歯を見せて豪快に笑った。
「あんたが神代景のアカウントを半分ハックしたドクターだな? 聞いてくれよフレンド! 生徒会のセキュリティインフラがあまりにもガチガチだったからさ、ちょっと『1秒間に22メートル』の速度でキーボードぶっ叩いて、二年生用の回線からファイアウォールを物理的に殴り倒して入ってきちゃったぜ!!」
「……は?」
さすがの俺も、言葉を失った。
ハッキング? いや、今の彼の言動は違う。
この上級生は、自身の身体動作を限界突破させる『加速能力』を、あろうことか『ノートパソコンのタイピング速度』に全振りし、力技で学園の電子防御網をハッキング(圧殺)したのだ。
「ウソでしょう……。あの景の作った基幹セキュリティを、タイピングの速度だけで突破したというの……!?」
玲奈が驚愕のあまり、先ほどとは違うベクトルで顔をクシャクシャに歪める。
「アッハハハハ! 筋肉は裏切らないが、電子の壁はすぐ裏切るな!! さあドクター、そしてレジェンド! 景の野郎を探してるんだろ? 面白そうな亡霊退治、二年生の俺の右ストレートとこのパソコンで、もっとカオスに加速させてやるぜ!!」
査定更新。被検体:樽巻拳殴。
確定情報を追う俺たちの前に乱入してきた、最凶の二年生。
俺のガラスの瞳が、新たな混沌の予感に、不気味なバイオレットの光を放った。
——本日の観測を終了。先輩の乱入を確認。
次回、「Please don't make an enemy of your muscles」