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5話「歪んだ血脈」
「……どうして、あなたがその名前を知っているの?」
静まり返った旧校舎の放課後。夕闇が迫る教室で、神代玲奈の声が微かに震えていた。
如月院を破滅させ、スコア「9242」を手に入れた俺を、彼女は怯えと困惑が混ざり合った瞳で見つめている
「神代 景。それが、この学園を統べる『生徒会長』の本当の名前だ。違うか、神代さん」
俺がその名を口にした瞬間、神代は力なく机に手を突き、観念したように自嘲気味な笑みを浮かべた。
「そうよ。神代景は、私の双子の兄よ」
窓の外から差し込む、血のように赤い夕光が、彼女の横顔を不気味に照らし出す。
「この学園の査定システム『AI』を作ったのは、私たちの実家……神代財閥よ。そして景は、幼い頃から『完璧な人間』として育てられた、財閥の最高傑作。あいつにとって、人間の価値は数値がすべてなの。妹の私ですら、ただの実験動物に過ぎなかった」
神代は自身の胸元——今は光を取り戻したバッジに触れながら、ぽつり、ぽつりと『あの日の反逆』を語り始めた。
「半年前、私はあいつの独裁を終わらせるために、生徒会の内偵を進めていたの。一ノ瀬や如月院を味方につけ、学園AIの基幹サーバーを物理的に爆破して、全生徒の格付けデータをリセットする。それが私の計画だった。集めたメンバーの忠誠心も、事前に完璧に査定したはずだったわ」
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「……あと少しでサーバー室に侵入」
ゆっくりとドアを開ける。
そこに待っていたのは——
「ようこそ。玲奈。一体どういう用でここに来たんだい?」
彼女の中で、これまで緻密に立てた計画が。
崩れていく音がした。
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彼女の目が、かつて『女王』として君臨していた頃の、鋭く冷徹な光を取り戻す。
「決行の夜、私は一ノ瀬の手引きで地下のサーバー室に侵入した。でも、そこに待っていたのは……爆弾じゃなくて、景本人だったの。あいつは私の計画を最初からすべて知っていた。一ノ瀬は最初から景のスパイだったのよ。景は私の目の前で、私が一ノ瀬に送った『サーバー室のセキュリティを解除して』という業務連絡の音声を、システム上で『テロの犯行予告』へとリアルタイムで改ざんしてみせたわ」
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「…」
玲奈はポケットの中に入っている電子機器を操作する。
「っふ…玲奈、君の反逆の意思はスコアにしてマイナス8000相当だ。肉親の情として、退学ではなく、家畜の身分で学園に置いてあげるよ」
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神代の呼吸が、過去の恐怖を思い出して一瞬、激しく乱れる。
「あいつは笑っていたわ。——『玲奈、君の反逆の意思はスコアにしてマイナス8000相当だ。肉親の情として、退学ではなく家畜の身分で学園に置いてあげるよ』って。その瞬間に、私のスコアは一瞬で『0』になり、昨日まで私を崇拝していた全校生徒から、ただのゴミのように扱われるようになったのよ」
肉親の情などではない。あいつは、自分に逆らった妹が『最底辺』へ叩き落とされ、プライドをズタズタに引き裂かれていく様を、最高品質の学習データとしてAIに喰わせたのだ。
神代の凄惨な過去。
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——白く冷たい部屋。脳を焼き切るような電流。
——そして、俺を見下ろして優しく微笑んでいた、一人の少年の姿。
『君の脳は素晴らしいよ、綾くん。君という極上のサンプルがいれば、僕のAIは完成する』
間違いない。 あの日、俺のすべてを実験材料として奪い、スコア『0』に査定して放り出した張本人。
俺の人生を壊した『神』の正体もまた——生徒会長、神代景だ。
「……面白い」
俺の口から、低く、ドロリとした笑い声が漏れた。
神代が驚いたように俺の顔を見る。俺の瞳には、もう人間らしい感情など残っていなかった。
「神代さん。お前の兄は、僕の人生も奪った。……僕たちの敵は、最初から同じだったわけだ」
「綾くん……?」
「スコア9242。手駒は、家畜に堕ちた元副会長の如月院。条件は揃った。さあ、兄妹喧嘩を始めようか。お前の兄が作ったその歪んだシステムごと、僕がすべてをバグらせてやる」
その時、俺のスマホが、無機質な電子音を立てて震えた。
画面に表示されたのは、差出人不明のメッセージ。
【スコア『9242』の到達を確認。御堂綾くん、神代玲奈さん。生徒会室にて、君たちの最終査定を行おう。——生徒会長・神代景】
神からの招待状。
「ここで全て終わらせてやるよ。偽神…!!」
すべての因縁が収束する、決戦の地への扉が、今、静かに開かれた。
——本日の観測終了。神代玲奈の血脈を確認。敵の正体を確認。戦闘に移ります。
次回、「カンスト9999」