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飛び魚と日落ち
今回は「飛び魚のバタフライ」という曲と少し絡ませました。
漣はさざなみとよみます。
ざざぁぁ…
秋になった。
少し冷たい海の水が、足にのぼってきて、また引いて行く。
なんか、渚みたい。
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中学三年生。あの日も今日と同じように、海に足をつけて空を見ていた。
あのちぎれ雲、かわいいなあ。ほら、ぼっちなかまだよ。おいで。
ひょこっ。
寝っ転がっていたところから、誰かが覗き込んでいる。
男の子だ。
やばい。私、男の子と向き合うと緊張しちゃって何もできなくなっちゃうんだ。
「……………だ…れ?」
「ん?俺の名前?いやそれより自分の名前言えよ」
ぐっ。こういうタイプ、苦手だ。
「潮。」
「へー。うしお。変な名前。なんて漢字書くの?」
「変な名前って…」
「かんじ、どうかくの!」
うぐ…気になることは教えてくれるまで諦めないタイプだな。
「しおってかく。」
「塩?」
あー、多分調味料の方思い浮かべてるな。
「潮風とかの潮。調味料の塩じゃない。」
「………ふーん、まあいいや。でさぁ、」
それだけ聞いといて、「まあいいや」?
ちょっとムカついたけど、それをいいかえす勇気もない。
「俺の名前は渚。」
こっちの凪かな。こっちの渚かな。
顔に出ていたのかもしれない。
「さんずいの方の渚。」
ふーん、まあでも本当にどうでもいいや。
「ねえねえねえ、なんでここにずっといるの?」
「ずっとなんていないよ。」
面倒くさいから嘘をついた。
「嘘だよ。さっきから見てたもん。」
「え、」
ずっといたの?なんのために…
「ね、なんでずっといるの。」
「もうちょっとで日の落ちだから」
「日没のこと?変な言い方するなあ」
「気にってるの」
今は5:22。今日はは5:30あたりに日の落ちが来る。
「日が落ちる時、海の青と日のオレンジが混ざるの。そうすると、綺麗な緑色になるの。」
「え、見てみたい!」
単純なやつ。ていうか私、なんで教えちゃったんだろう。私だけの色だったのに。
「あ、今あそこで魚が飛んでた!」
「飛んでた、ってことは飛び魚ってことかなぁ。」
「綺麗だった〜。見れた?」
「うん。」
嘘だ。こういう時はこう言っておいたほうがいい。
でもそれからずっと見ていても、もう現れなかった。
「あの雲、ソフトクリームみたい。」
「入道雲のこと?確かに。私には筆の先に見えるけど。」
「なら絵が描けるね!こんな綺麗なキャンバスにさ!」
この人精神年齢何歳なんだ。身体の年齢は私と同じように見えるけど…
「あ、そういえば。俺、中二。お前は?」
え。年下!?
「中三だけど。」
「ひえ〜、年上か。全然そう見えないのに。」
悪口だろうか…
「あ」
5:30。日が落ち始めた。
「………」
沈黙が流れる。
たまに聞こえる、魚が跳ねる音。
ばしゃばしゃ。
綺麗。
なんだかいつもに増して綺麗に見える。
あ、飛び魚。
綺麗な日の落ちの背景と、飛び魚とのコントラストが最高だった。
後ろから車のエンジン音が聞こえる。
渚の方から何か聞こえる。
「……き……た。」
なんといったのだろうか。
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それ以来、一回も渚と会っていない。
最後何を言ったのかも、渚がどこに行ったのかもわからない。
また飛び魚がいる。
実際、高校二年生になった今でも、何も変わっていないと思う。
ばしゃばしゃ。
そういえば、あの日と今日は日付が同じだ。
まだまだ日落ちは来ない。
寝っころがると、見上げる顔があった。
「な、渚!?」
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渚じゃなかった。
渚の弟さんのようだ。
とても似ていた。
渚と同じで波風に揺れる猫っ毛がとても綺麗。
「兄…渚は」
なんだろう。渚の今の状況が気になる。
「亡くなりました」
え。
「なんで?」
気づかぬうちに声が出ていた。
「それが、自殺だったんです。」
は。
「そんなの…」
「っつ…」
「嘘に決まってる!」
「僕だってそう思いたいです。ですが…飛び降りでした。遺書もあったんです。」
本気で死ぬつもりだったんだ。
「なんで自殺したかは遺書に書いてありました。学校でかなりのいじめにあっていたようです。兄とは4歳年が離れていますので同じ学校ではなかったので…」
「すすぅうぅぅうぅ…ふぅぅぅぅ…」
少し、落ち着いた。
「なんで、弟さんがこの場所を知っているんですか。」
「名前は拓海です。この場所を知っているのは、これに書いてあったからです。」
紙を差し出してきた。
遺書だ。
でも遺書にしては便箋だし、開けてみるとまわりが貝のマークで縁取られている。これはなんなんだ…
「見ても?」
「どうぞ。」
『拝啓、潮様。
僕のことを覚えてくれていますか。あなたが中三の時に海であった、渚です。
学校で苦しいいじめがあったのは、一年からなんです。
もうその時から自殺を考えていました。
実際、二年からは学校に行ってませんでした。
死に場所を探してうろうろしていると、海辺にあなたがいたんです。
そこでひとしきり話をして、気持ちのいい日落ちを見て、最後に一言を残して帰りました。
車のエンジン音を合わせて僕が言ったのは、
「君のこと、すきになった。」
あの日落ちを見て、もう少し生きてみようと思いました。
でも、苦しくなった。
もう一度行ったけど、そこにはいなかった。
ごめん。僕、心が読めるんだ。
気づかなかった?
もう一度考え直してみて。
ごめんね。前、飛び魚見てなかったんだよね。
だから、飛び魚、あげる。』
嘘。そんな死のうと思っているなんて。
飛び魚あげるってなんだろう。
「兄がその手紙と同封したものがあって。」
飛び魚の、絵だった。
いや、正確には紙に日落ちの絵が書いてあって、その上からセロテープで飛び魚のキーホルダーが貼られている。
それをぎゅっとして、
この飛び魚は、渚なんだな、と思った。
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信じられないほど時が経った。
もう日落ちの時間が来た。
弟さんは用事があるようで帰って行った。
日落ちしている海に飛び魚のキーホルダーをかぶせる。
心がつながった気がした。
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急にやってきては去っていく渚。
でもきっと、私の心になんども来てくれる。
まるで、漣みたいに。
海がテーマの小説を書きました。