平穏だった日常は、ある日突然終わった。
東京全域がドームに包まれ、住民たちは強制的に『デスゲーム』の参加者へと変えられた。
ゲームマスターから毎日0時に言い渡されるのは、あまりにも理不尽な『本日のルール』。
「大声を出した者は即死」「赤を身につけた者は排除」――。
さらに、目覚めた者たちにはランダムで異能力が与えられていた。
容赦なく命が奪われていく極限状態の中、
主人公・綺堂蓮は、与えられた地味な能力と、持ち前の悪知恵を武器に、日ごとに厳しくなるルールの「隙間」を探っていく。
絶望のカウントダウンが鳴り響く中、生き残るのは誰だ。
頭脳とルールの裏をかく、極限サバイバル・バトル開幕!
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目次
【序章】「壊れてしまった日常」
いつものように過ごしていた、ある日のことだった。
渋谷のスクランブル交差点を人々が埋め尽くし、スマホを眺めたり音楽を聴いたりしては通り過ぎていく。
新宿の高層ビル群の灯り、信号機の音や車の走行音が騒々しく響き、何処を見ても人や建物ばかりの場所が。
深夜零時を境に、完璧な「無音」へと塗り替えられていった。
「っ…?」
急に眩暈がし、蓮は足がふらつきそうになるのを必死に堪え、こめかみを片手で押さえながら空を見上げる。
そこには、異様な景色が広がっていた。
夜空の星々と同化しているため視認しにくいが、青白い光の線が街全体を覆うように、巨大な半球状のドームに広がっていく。
瞬く間に街一帯が半球状のドームに包まれる。脱出しようとした者もいるが、どれだけ衝撃を与えようと、ドームは壊れる様子を一向に見せない。
「…これは面倒臭いことになった。」
スーツを着た背の高い男性が、ポツリとそう呟く。蓮は辺りを見渡すが、365度全てがドームで覆われており、人々は混乱で持っていたスマホを落としたり、突然の出来事に恐怖で叫び声を上げていた。
「…閉じ込められた…?」
蓮も持ち前の状況把握能力と勘の鋭さで、状況を把握する。手に持っていたスマホがバイブ音を鳴らし、そちらの方へと目を向けてみる。
画面は真っ黒に塗りつぶされ、電源オフの状態と見違えるような暗さだが、赤い文字がノイズと混じりに浮かび上がる。
【アナタノノウリョク:足音の完全消去】
と書かれていた。
「は…?」
地味。あまりにも地味すぎる能力に、蓮は呆気に取られて声を漏らした。隣を見ると、別の男性が炎を手から生み出していた。
「すげぇ…!俺、魔法使いになった…!」
目をギラギラと輝かせ、笑みを浮かべて歓喜に震える男性と比べて、自分はあまりにも、地味すぎる能力を持ってしまった。
『本日のルールを発表します。本日のルールは【名前を呼ぶと死亡】です。』
ホログラムでできたモニターが空中に浮かび、機械の合成音のような、少女の冷酷な声が響き渡る。何も聞かされず言い渡されたその残酷なルールに、先ほど歓喜に震えていた男性の表情が凍りついた。
「名前を呼ぶと死…?おい、誰か…!」
震える声で辺りを見渡し、友人の名前を呼ぼうとその男性が大きく口を開いた瞬間─
『ルール違反の確認』
再度、少女の冷酷な声が響き渡る。刹那、男性の胸元、心臓辺りに銃で撃たれたかのように小さな風穴が開き、大量の血を吹き出して倒れた。
男性はぴくりとも動かなくなり、それを見た周囲の人々は、目の前で起こった信じられない光景に叫び、逃げようとその場から駆け出す者がいたが、男性と同様に何処からともなく銃で撃たれ、頭から血を吹き出して絶命する。
「おいおい、マジかよ……。」
蓮は目を見開き、冷や汗を拭うことも忘れて、震える声で絶句する。平穏に過ごしていたはずの自分が、人が死ぬような、まさに漫画でよく見る「デスゲーム」のようなとんでもないことに巻き込まれるなど思っていなかったからだ。
蓮は震える手でスマホを握り、歯を食いしばってモニターの方を睨みつける。
「絶対、こんな地獄から抜け出してやる…!!」
【第一日目】「名前ヲ呼ブト死」(前編)
「(名前を呼ぶと死…か。今日は誰かに話しかけるのはやめておいたほうがいいか…?)」
あの凄惨な光景を見たにも関わらず、蓮はその場に佇んだまま、顎に手を当ててその思考をフル回転させながら、冷静に状況を見据えた。
自身以外にもまだ他の人は沢山いるが、その大半が先ほどの光景を目の当たりにしたことによって、怯えて体を振るわせ、その場から動かずにいた。
「(まぁ、あまり勝手な行動を取られたらめんどうだからな…。)」
牽制するような冷たい視線を周囲に向けた後、空中に浮かぶモニターへと視線を移す。一日目のルールが終わるまでの、タイマーがそこには赤い文字でいつの間にか表示されていた。
【`24:38.21`】
まだ1時間も経ってすらいない。スマホは電源は入るが、何故か外部からのハッキングによって新しいパスワードが掛けられており、自分が設定したはずのパスワードが書き換えられているため、使い物にならない。
「…ほぼなにもないが─。」
蓮が独り言を呟いた瞬間、突如としてシュッと空を切り裂く音が蓮のすぐ側で響いた。刹那、頰にピリッとした痛みが走る。
ナイフのような鋭い刃物が掠めたのだろうか。血が頰からタラリと流れ、その輪郭をなぞるように伝っていく。
「誰だ…?」
頰に流れる血を片手で拭いながら眉を顰め、自身に傷を与えた犯人を見つけようとするが、人が多すぎる。
何十人もいる中、ましてやルールで行動が制限されている中、無闇に犯人を探して自爆するのはごめんだ。
「ねぇ、ドームの端行ったらどうなるんだと思う?僕は死ぬと思うんだよな。で、すぐそこだけどあんた行ってこない?」
思考に耽る蓮の近くに、つなぎの袖を腰で巻いた、作業員を思わせる風貌の男性─狛曇琥珀が歩み寄ってくると、ニコニコと食えない笑みでそう喋りかけてくる。
蓮は眉間に皺を寄せ、舌打ちを一つすると、青白い光の線(ドーム)へと歩み寄り、手で触れてみる。
静電気のような電流が手に流れ、バチッと音を立てて弾かれる。先ほどドームの外に逃げようとして死んだ人間とは違い、目に見えてわかるほどの逃げる意思などを持っていなければ、殺されはしないのだろう。
一つ分かったことが増え、心の奥底にある不安はほんの少しだけ取り除かれる。
ふと、ドーム内にある近くに立っているマンションが目に入る。そちらの方へと足を運び、マンションの中へと足を踏み入れる。
さっきまで綺麗であったはずのマンションの中は、何処か薄暗く、廃墟のような雰囲気を晒し出していた。事実、ビルの壁や床など所々ひび割れていたり、蜘蛛の巣が張っている所もある。
何か使えるものはないかと、足元に注意しながら、スマホの電源を入れてライトをつける。
「ねー、あんた、何してんの?」
背後から声が聞こえる。振り返ると、そこには、先ほど関わってきた狛雲が立っていた。何か自分に用があるのだろうかと一瞬思ったが、この男と面識は一切ない。
「…何か使えるものがないか探していただけ。」
冷たい視線を向け、興味なさげに狛雲から目を逸らす。ルール上、自己紹介をしようにも名前を呼ぶと死ぬため、お互い名乗れない状況だった。
それに加え、蓮の野生の勘がこの男とはあまり関わるなと警鐘を鳴らしている。昔から自身の勘を信じて行動してきた蓮にとって、この勘は間違っていないと、確信が持てていた。
「え〜、素っ気ねぇ〜。」
狛雲は冷たい態度を取られてもあまり気にしないように、ヘラヘラとしながら蓮と同じく探索をしようと思ったのか、階段を登っていく。
それを横目で見て、掴みどころがないなと思いながら、蓮はスマホのライトで周囲を照らしていく。
「あの…僕も手伝いましょうか?」
突然丁寧な口調で声をかけられ、声がした隣へと視線を向ける。カジュアルな服装をした、優しげな青年のようなイメージを持つ男性、伊吹幸人が立っていた。
「名前は名乗れませんので、警戒するかもしれませんが…。」
「…別にいい。勝手にしてくれ。」
今はあまり関わりたくないという拒絶のオーラを全面に出しながら、吐き捨てるように言った。
「…分かりました。」
そんな蓮のマイペースな様子を見て、伊吹は片眉をピクリと動かしながらも、スマホを取り出し探索をする。
その二人の様子を、陰からじっと見つめている者がいた。
「必死になって、バカだなァ…♪」
彼は不気味な笑みを浮かべてそう呟くと、踵を返してその場から離れていった。
【今回の出演者】
・綺堂蓮
・狛曇琥珀
・伊吹幸人
・???
中編へ続く─
【第一日目】「名前ヲ呼ブト死」(中編)
「……?」
ふと、さっきまで誰かがこちらをみていたような気がして顔を上げる。振り返り、物陰を見つめるも、そこには誰もいない。
「…?どうかしましたか?」
伊吹が蓮の様子に気付き、蓮が見ている同じ方向をチラリと一瞥すると、蓮の方へと顔を戻してそう問いかける。
「いや…何でもない。何かがいたような気がしただけ。」
物陰の方から目を逸らし、自分のスマホの画面へと視線を移す。探索に没頭していて気づかなかったが、かなりの時間が経っていた。
「…もう直ぐ夜だな。」
「そうですね。ですが、ドームの外に出ることができない。生活場所はどうしましょうか。」
伊吹は顎に手を当て、目を伏せて思考に耽る。確かに、家へ帰ることが出来ないため、生活空間をどうするかを考えていなかった。蓮は使える部屋がないかと歩き出し、近くにあった部屋のドアを開けようと、ドアノブに手をかけたその瞬間─
「ねぇ、使えそうな部屋あったよ!」
廊下の先からいつの間にマンションに入っていたのだろうか。黒と白のギンガムチェックなワンピースを着た、165cmほどの細身で華奢な女性が階段の先を指差しながら、大きな声で蓮と伊吹に呼びかける。
「…!?(声デカ…。)」
蓮はその声の大きさに目を見開き、ピクッと肩を震わせた。だが、蓮はその女性をどこかで見たことがあるような気がした。
「(…YouTuberの、茶湯 看炉か…?)」
そう心の中で呟くが名前を言ってしまい、死ぬのではと一瞬焦りで硬直するも、痛みはない。心の中で言うのは大丈夫らしい。
またわかったことが一つ増えたが、そういうのは大丈夫なら声を出さずとも心の中で会話できるテレパシー系の能力が欲しかったと蓮は思った。
「いつの間に探してたんだ…?」
「結構前だよ!早く行動してみんなの役に立ちたいから!」
何とも前向きだな、と蓮は心の中で思う。役に立ちたいといっても早く行動して勝手に死んだら元も子もないだろうという考えも思い浮かんだが、実際こうして役に立てている。
罠じゃないのかと一瞬疑ったが、茶湯からは悪意などが感じられない。
「………ありがとう。」
何も言わないのは流石に失礼かと思い、首元に片手を当てながらそう小さく呟いた。
「っえ…?ぃ、え…?」
茶湯はその小さな言葉を聞き逃さず、呆気に取られたようにポカンと口を開け、頰をポッと赤らめて驚く。照れ臭そうに人差し指で頰をかき、左下を見て俯いたまま動かなくなってしまった。
「…?、あ……。」
蓮はその様子を見て不思議そうに顰めるも、自分がかけた言葉が原因なのだと気付くと、ほんの、ほんの少しだけ頰を赤らめ、気まずそうに目を逸らし、固まっている茶湯の横を通り過ぎ、階段を上がっていった。
「…僕たちもいきましょうか。」
そのやりとりをさっきからずっと見ていた伊吹は、1番気まずそうにしながらも、固まっている茶湯の近くへと歩み寄り、その細く小さな背中を優しくポン、と叩いてそう促した。
「あ、はい…。」
声をかけられた茶湯はハッとして顔をあげ、目を覚まさせるように、両手で頰を軽くパン!と叩き、タタッと軽快な音を立てて、ワンピースの裾を揺らしながら蓮の後を追っていった。伊吹もそれに続くように歩を進め、階段を登る。
「じゃ、僕は他の人たち言ってくるとでもしようかなぁ〜。」
戻ってきた狛雲がその二人の後ろ姿を見てそう呟き、マンションの扉を開けて外へと出ていった。
【今回の出演者】
・綺堂 蓮
・伊吹 幸人
・茶湯 看炉
・狛雲 琥珀
後編へ続く─
【第一日目】「名前ヲ呼ブト死」(後編)
「何でこんな都合よくマンションに風呂と寝室と飲食物があるんだか…しかも、 `人数分 `。」
蓮は2階の1番奥にある部屋のベッドに腰掛け、頬杖をつき、足を組みながらそう呟く。
鍵は何故かドアの鍵穴にささったままで、部屋に入った時、中にはまるで最初からこのデスゲームが始まることを分かっていたように、部屋にそれぞれ人数分の飲食物と風呂や寝室などの生活空間が用意されていた。
だが…何故だろう。自分がいるこの部屋だけ、"飲食物の量とベットの数が明らかにおかしい"気がする。
「…もう一人来るのか……??」
と独り言を呟いているうちに、ドアをコンコン、とノックする音が聞こえる。やはり、誰かもう一人来るのだろう。
「どうぞ。」
ガチャリと音を立ててドアが開き、そこに立っていたのは、自身より小柄の、男性とも女性ともつかない人物が立っていた。
作曲家の石神侑李である。
「どうも、自分は─おっと、名前を言ってはいけませんでした。ただの一端の作曲家です。」
物腰柔らかく、落ち着いた声色で石神は自己紹介をした。
「…そうか。俺は普通の大学生だ。」
蓮もそれを見て軽く自己紹介をする。といっても、ただ職業などを言っているだけだから、自己紹介と言えるのかどうかは疑問だが。
とりあえず、同居人が異性でなくて良かったと、心の中で安心した。異性と住むなど未経験であり、そもそも異性と関わったことがあまりなかったため、もし同居人が異性であれば、どうすれば良いか分からなかったからだ。
「あ、飲食物はそこ、風呂と寝室はあっちにある。」
「分かりました。ありがとうございます。」
間取りなどを教えておこうとベッドに腰掛けたまま指をさしてそう言う。蓮はすでに部屋に入ってからある程度部屋の中を調べていたため、部屋の間取りを把握できていた。
「俺はまだもう少し探索してくる。」
腕時計を見てみれば、すでに夜の8時を過ぎている。だが蓮はあまり寝れない体質(夜行性)であるため、そう言って玄関の方へと歩き、靴を履いてドアノブを回し、扉を閉めた。
「なぁ!何してんの?」
まるで待ち構えていたかのように、エナドリを片手に持ってギザ歯を剥き出しにして笑う男、降鐘紫樹が蓮へと話しかけてくる。
「…何の用だ。」
「別に?気になったダケ!」
蓮は眉間に皺を寄せ、紫樹を睨みつける。だが紫樹はそんな蓮の視線など気にせずニヤニヤとしながら見下ろしてくる。
176cm(厚底込み)の蓮に比べて、目の前にいるこの男は188cmと12cmの身長差がある。
初対面で名前も何も知らないが、蓮はこの不快極まりない存在である紫樹に見下ろされていることに苛立ちを覚え、チッと小さく舌打ちをした。
「おいおい、それはないだろ?そんな警戒しなくてもサ!」
それを紫樹は聞き逃さず、わざとらしく眉毛を下げて傷ついたかの様に演技をする。もちろん、全く悲しんでも傷ついていないが。
「ドアを開けていきなり話しかけてくるやつに警戒するなという方がおかしい。ましてや初対面のやつにな。」
紫樹を一瞥し吐き捨てる様にそう言うと、紫樹の横を通り過ぎ、階段を降りて足早にその場から離れていった。
「…死んでも知らないぜ。」
紫樹はその場から一歩も動かず佇んだままその背中を見送りながら、不気味に笑ってそう言った。やがて紫樹もエナドリを口にしながら、自分の部屋へと歩いていく。
「(なんだったんだ、あいつは…。)」
一方で蓮は、誰もいない中、マンションを出て空を見上げていた。満月が浮かび、それに呼応する様にドームの光も青白く光っていた。
「…二日目は、何のルールになるかね…。」
蓮は空を見上げたまま、一人、そう呟く。夜風が吹いてその声をかき消し、肌をひんやりと撫でる様に通り過ぎていく。
突然デスゲームに巻き込まれてしまったため、これからどうなるかが全く想像がつかない。なぜ自分がデスゲームに巻き込まれる形になったのかは、今の蓮には知る由もなかった。
【今回の出演者】
・綺堂蓮
・石神侑李
・降鐘紫樹
第二日目 前編に続く─