鉄と泥

——異世界は、輝く聖剣と魔法の国などではなかった。そこは、冷たい鉄を持った強者が、持たざる者を泥へと踏みにじるだけの、残酷な現実の世界だった。 現代の金属加工職人だった男は、何のチート能力も与えられないまま異世界の戦場に転生してしまう。配給されたのは、今にも折れそうな錆びた鉄剣と、薄っぺらい革鎧だけ。 最初の合戦、男の前に現れたのは、巨大な鉄槌を振り回す狂戦士だった。 無双などできるはずもない。男は最初の一撃で剣を叩き折られ、恐怖で失禁しながら、死体の血と油で汚れた泥まみれの地面を這い回り、かろうじて生き延びる。 生き残った彼に与えられた役職は、戦場に転がる鉄屑や壊れた武器を回収する、最も卑しい「輜重兵兼・鍛冶奴隷」。 英雄になる夢は捨てた。美少女との冒険もない。男は、唯一与えられた地味なスキル【鉄屑の錬成】と、前世の金属知識だけを武器に、生き残るための「汚い工作」を始める。 敵の足元に錆びた釘を錬成して踏み抜かせ、鉄屑を尖らせて目潰しの毒針を作り、命乞いをしながら相手の鎧の隙間に鉄の破片をねじ込む——。 これは、きらびやかな魔法を一切使えない凡人が、鉄の冷たさを知り、泥をすすりながら、世界の底辺を泥臭く這い上がっていく物語。
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