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目次
We are in the back room.
気がついた時には、湿った絨毯の上に倒れていた。
見上げる壁は不気味な黄色だけ。
僕は、たしか自転車に乗っていたら石にぶつかってころんだはずだった。
起き上がって周りを見ても、明らかにさっきまでいた場所とは違う。
きっと悪い夢だと思い頬をつねってみても、この悪い夢は覚めやしない。
どこかのお化け屋敷に迷い込んだと思って、僕は2日間歩き続けた。
道中には謎の矢印が書かれた壁や、黒色の化け物がいたりもした。
あるけどもあるけども道に終わりは見えないし、人の気配すらしない。
歩いていれば足が棒のようになる。喉が渇く。腹が減る。
僕にはもう歩き続けられるような体力もないし、起死回生の一手も思いつかない。
考えつくことと言えば、バッグに入れていた開封用のナイフで喉元を掻き切り、
この悪夢を終わらせてしまうことくらいだ。
喉元にナイフを突きつけ、恐怖で荒くなった息を必死に押し殺して、
───ナイフを掻き切ったはずだった。
突然、誰もいなかったはずの壁の向こうから人の声が聞こえ、ナイフが床にカランと軽い音を立てて落ちる。
「新入りか?運がいいな。俺に見つかるなんて。」
現れたのは、擦り切れた服を着て、端がほつれた大きな魔女帽を被った人物だった。
ただでさえこの状況が意味がわからないのに、更にわけが分からない人間が出てきて、僕は何度も目を疑った。
「さて、五体満足なお前には2つの選択肢がある。」
「俺の目となって、少〜しだけ延命するか、」
「そのままここで野垂れ死ぬかだ。」
眼の前の人間はしゃがんで倒れている僕の返答を待っている。
僕は死にたくなかった。
だから僕は、カラカラに乾ききって声の出ない喉からなんとか声を絞り出そうとした。
けれど、どうやっても口から出るのはうめき声だけだ。
僕は、声を出すのを諦めて首を縦に振った。
そうすると、目の前の.....彼?彼女?は目を細めて笑った。
「そうだろうと思ったさ!」
「ようこそ!バックルームへ!」
「俺達放浪者は、君を歓迎するよ!」
第二話 who is that?
「あ、腹減ったんだろ?コレ飲め。」
そういって、魔女帽の人物は僕に黄色い缶を投げてきた。
ラベルには、
〔almond water〕と
書かれている。
明らかに怪しい。飲むのを渋っていることに気づいたのか、
魔女帽の人物はこちらを向いて呆れた顔をしている。
だが、こんな状況では選り好みなどしてはいられない。
たとえ泥水だろうと汚水だろうと、生きるためには飲むしかないのだ。
覚悟を決めて口に含んでみると、想像していたような味ではなかった。
薬のような苦みではなく、酢のような酸っぱさでもなく、アーモンドのやさしい甘い味だ。
僕が口を開いて唖然としているのを見て、もう落ち着いたと思ったのか、魔女帽の人物は話し始めた。
「すまんな。急に選択を強いて。」
「でも、俺の役に立ってもらわなくちゃ、ここでは置いていくことしかできないんだ。」
「承諾してくれて助かったよ。」
この黄色い空間を放浪しているうちに薄々感づいてはいたが、
この場所は、死にかけの人を助けることができないほどに危険なのだ。
もしくは、人を助けるほどの余裕を皆、持っていないのだ。
「自己紹介がまだだったな。」
「俺の名前は......
「……え〜と...」
「......あー.......」
「ちょっと後に回すね。」
名前を忘れることなんて、あるのだろうか。
それとも、こんな気の狂いそうな場所にいると自然に忘れてしまうのかもしれない。
「俺は見ての通り、ここから脱出する方法を3年くらい探してる放浪者さ。」
「途中でエンティティに襲われたりして、両目はなくなっちゃったんだけどね。」
確かにこの人は、さっきから今までずっと両目を開けていない。
だから、目の代わりとなってくれる人物に僕を選んだのか。
しかし、エンティティとはなんだろうか。
襲われるということは、危険な化物のようなものなのだろう。
「後は...名前.....名前ね......」
「思い出せないからとりあえず、先輩ってよんでくれ。」
先輩は、少し誇らしげな顔をしている。
こんなヤバい空間で生き残れているから実力者ではあるのだろう。
だがそれ以上に、イカれたこの場所でこんなに陽気でいられているところが怖い。
「さぁ、初仕事だ相棒!」
相棒とは、僕のことだろうか。
そこまでの仲は深まっていないように感じるが、先輩にとってはそうなのだろう。
拒否する理由もないので、そのまま話を聞き続ける。
「この黄色い空間を歩いて、階段を見つけてくれ。」
「階段と言っても、なにか文字とか書かれていたりしたらちゃんと知らせるんだぞ。」
どこかお母さんのような雰囲気も感じる。
ここがこんな異様な場所でなければ、少しは安心できただろう。
「あなたはついてこないんですか?」
歩き出した僕に対し、先輩は道の中央で仁王立ちしている。
「壁に手をついてないせいで周りがわからんくて歩けん」
すごーーーく無様な仁王立ちだ。
よく見ると足がプルプル震えている。
「.......こっちです、先輩」
無理やり手を引っ掴んで先輩を動かす。
ゆっくりではあるが少しづつ移動できそうだ。
「やめてくれ...クソ怖い....」
さっきまで威勢よくドヤ顔をしていたのが嘘のようだ。
「頼む、やめてくれ.....」
「あああ.....」
第三話 go to the Habitable Zone.
僕は、先輩の手を引いて、二時間ほど歩き続けた。
ずっと歩いていると、抵抗する気も失せたのか、慣れてきたのか、先輩も何も言わずに歩いていた。
「あっ!」
僕が急に止まると、先輩は僕が引っ張っていた手を繋いだまま気づかずに歩き始めたせいで、先輩は無様に顔面からころんだ。
「急に止まるんじゃねえよ....」
「そんなことより、見てくださいよ!」
僕はその方向を指さそうとしたが、先輩には見えないことに気づいてやめた。
まさか、こんな地獄にも蜘蛛の糸が垂らされてくるとは!
「EXITって書いてあります!」
「出口ですよ!」
僕が喜んでいるのとは逆に、先輩の顔からはどんどん血の気が引いていった。
「風船も、ニコニコマークも書いてあります!」
「早く行きましょうよ!」
僕はまだころんだままの先輩の手をひこうと、手を取ろうとした。
が、先輩にその手は叩かれた。
「それは罠だ。」
「とっとと離れるぞ。」
本当だろうか。だが、出口をわざわざ僕に隠す理由もない。
仕方無しに、僕はまた先輩の手を引いてその出口?から離れた。
「いいか、このバックルームでは、安全そうな場所は逆に危険だ。」
「賢いエンティティがいる可能性があるからな。」
さっきから言っているエンティティとは一体何なんだ?
「エンティティってなんですか?」
そうきくと、先輩は一瞬呆れたような顔をした後、また元の顔に戻って僕の質問に答えた。
「エンティティってのは.....簡単に言うと、危険な化物だ。」
「姿や生態は色々あるが、大体は生態とかを知っていれば対策できる。」
大体は、ということは遭遇を避けられないエンティティもいるということだろうか。
聞きたかったが、更に恐ろしい事実を知らされそうだったので何も聞かなかった。
また歩いていくと、周りの黄色い景色と浮いている地味な灰色の階段を見つけた。
「先輩、止まります。」
「おう。」
前には急に止まって先輩を転ばせてしまったから、なにかする時は声に出している。
目が見えないとはこうも不便なものなのか。
以前はどうやってこのバックルームを生きていたのだろうか。
「そういえば先輩って、僕と出会う前はどこにいたんですか?」
「真の最終レベルっていう、現実に帰れるらしい噂のある場所だ。」
「でも帰れなかったんですか?」
「ああ」
先輩は、現実世界に帰りたいのだろうか。
僕は特に生きる理由もなくのんびりと生きてきたから、
危険がなければあまり帰りたいとは思わない。
先輩が目が見えなくなろうと現実に帰ろうとするのは、なぜなんだろうか。
「先輩、なんで先輩って現実に帰りたいんですか?」
その質問を口にした瞬間、先輩の顔が豹変した。
僕に怒っているわけではないのはわかる。何か思い出したくないことや、辛いことを思い出したときのような顔だ。
「先輩、行きましょう。」
僕はまた先輩の手を引いて、灰色の階段へと足を踏み入れた。
第四話 A massive gray warehouse.
「で、次は赤い扉を探してくれ。」
赤い扉というのは、眼の前で嫌なほどに目立つ、赤い扉のことだろう。
しかし、ここまで目立っていると、何かの罠かと疑ってしまう。
だが、先輩が探すということなら、重要なものなのだろう。
「眼の前にありますよ。びっくりマークが書かれてますけど、安全なんでしょうね?」
「.........」
手を繋がれたままの先輩はそっぽを向いた。
もしかして、肯定できないのでは?
つまり、危険ということ。
「安全ですよね?」
もう一度聞いてみる。
先輩はこちらを向いて、笑顔でこう言った。
「君の足が速ければ安全だね!」
「それは安全じゃないってことじゃないですか!?」
足が速くなければということは、足が速いエンティティがいるということだろう。
それのどこが安全なんだ。
「他の道ないんですか!?」
「え〜、あるにはあるけどコレが一番早いんだよ」
何をそこまで急いでいるのだろうか。
僕達は会ってまだ数日ほどしか経っていないというのに。
そんなに現実世界に帰りたいのだろうか。
「それに、移動時間が長いほど道中エンティティに襲われやすくなるし。」
「う〜〜〜ん、そうなんですか?」
確かにとも言える理論だが、時間を短縮しようとして死んでしまったら元も子もないのではないか?
「そうそう!」
「さあ!入ろう!」