「 大丈夫。捨てねぇよ。 」
死柄木弔の幼少期__志村転弧が泣いていたあの夜。
誰か、手を差し伸べていたら……?
唯一手を差し伸べた1人の青年と1人の小さな男の子の物語。
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目次
泣いていたあの子は。 ~ 第1話 ~
ある夜。
1人の小さな男の子の泣き声が、静かな街に響く。
__志村転弧。彼の名前だった。
「うぅ"、ひっく、、」
目や首をガシガシと掻いたのか、赤黒く腫れている。
手には血がついており、通りすがりから見たら随分と珍しい姿だった。
行く宛てがなく、近くの公園のベンチに座った。
街灯が転弧を静かに照らす。
ザ、、と砂を蹴る音がして転弧は思わず振り向いた。
「…なにしてんの、こんなとこで」
手に缶ジュースを持った青年だった。
暗闇であまり見えないが、中学生くらいのようだ。
「、ぉ、おにいさん、、誰、…?」
青年は答えず、転弧をじーっと見つめている。
転弧が動揺していると、青年はツカツカと歩み寄ってきて転弧の隣に遠慮無しに座った。
「…アンタ、何歳?」
「、…ごさい、」
「家は?」
「、っ……お家、ない、、」
「……」
青年はしばらく黙ったかと思うと、すっくと立ち上がり言った。
「俺ん家来るか?」
転弧は目を瞬かせた。
街灯に照らされて、青年の顔がよく見えた。
とても綺麗で、整った顔立ち。
真っ直ぐに転弧を見つめる眼差し。
転弧は、思わず頷いた。
『この人なら、、』
いつの間にか、体の痒みはおさまっていた。
__それが、あの日の歪みになることも知らずに__、、
泣いていたあの子は。 ~ 第2話 ~
深夜1時__
「そこ座ってな。…水でいいか」
青年につられるまま、転弧は青年の家へ上がった。
柔らかいソファに体を埋めながら、部屋の中を見渡す。
全体的に綺麗だが、物がぐちゃぐちゃで大雑把なことがわかる。
青年から水を受け取ると、おそるおそる顔を上げた。
「、おにーさん、名前は、?」
青年はテレビをつけながら答えた。
「龍之介」
「りゅうのすけ、」
口の中で転がすように、龍之介の名前を繰り返した。
青年はその様子を横目で見ながら、雑に布団を投げた。
「寝なよ。もう夜遅いだろ」
転弧はぽす、と布団を受け取るが、龍之介はまだ寝る様子ではない。
手に違和感を覚えて視線をやると、触れていた布団が崩壊しかけていた。
「っ…!!」
反射でパッと手を離す。
ふるふると手が震えていた。
「…それ、個性か」
龍之介が転弧の手を見つめながら呟いた。
( どうしよう、また捨てられたら__!!! )
恐怖で龍之介の顔を見ることができない。
すると、ぽすっと頭に温かい感触が降ってきた。
おそるおそる顔をあげると、龍之介がいつの間にか近くに寄ってきていたのだ。
「ぇ、あ、えっと…っ」
声を振り絞るが上手く出すことができない。
「そんな怖がんなくていいから。大丈夫」
なにが大丈夫なのか。
わからなかったけれど、転弧にはそれが妙に優しく感じた。
少し時間が経って、ようやく転弧も落ち着いた。
少しずつだが「個性」のことを話した。
途中、龍之介はずっと黙って聞いてくれていた。
話終わると、震える転弧を抱きしめた。
「…大丈夫」
転弧を抱きしめる手は優しくて温かかった。
「、ぅ"…っうわあぁん、、ッ」
__ここまでが「幸せの"終わり"」である。
あれから10年以上の月日が過ぎた。
龍之介と転弧が共に時を過ごしたのはたったの一年弱。
それでも2人の心にはそれぞれ大きな傷を残した。
___________________
「…転弧?」
___________________
突然姿を消したあの日から、龍之介と転弧が交わることはなかった。
…そう、今日この日までは。
「、りゅうのすけ…?」
next▶︎▶︎▶︎
泣いていたあの子は。 ~ 第3話 ~
__路地裏。
煙草と生塵匂いが混じる中、2人の男達が顔を合わせていた。
「、りゅうのすけ…?」
どこか幼さが混じった声が路地裏の響いた。
「りゅうのすけ」と言った青年はフードを被っており、顔がよく見えない。
白髪に赤色の目…今最も騒がれているヴィラン、死柄木弔だった。
そしてその死柄木弔の本名は"志村転弧"である。
「…誰?アンタ」
反対側の男性も死柄木が言ったように龍之介だった。
髪が少し長くなり、悪ガキ感が無くなっていかにも大人というオーラが出まくっている。
口の悪さにも磨きがかかったようだ。
一方死柄木は黙って龍之介を見つめている。
目の前の人間が、あの時の人かどうか見極めるかのように。
「…何もないならもう帰るけど」
去ろうと背を向けると死柄木が口を開いた。
「…アンタ、名前は」
刺すような視線の中に懇願するようななにかが混ざっていた。
少し立ち止まって振り返る。
「…橘龍之介」
死柄木の目が大きく見開かれる。
言葉にならない声が小さく漏れた。
ただ必死に龍之介を見つめている。
龍之介は死柄木が何も発しないのを確認すると再び背を向け歩き出した。
死柄木は止めることをしなかった。
視線だけが龍之介を追い続けている。
その瞳には抑えきれない執着と依存が滲んでいた。
next▶︎▶︎▶︎