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Ⅶ「初対面」
「……そりゃどうも」
低く短い、第一声。
グレンの関心は即座に失われたようで、視線はそのままチカゼへとスライドした。
「あと、あんた、名前は……知らね。次席だったか」
「どうして順位だけ把握してるのよ。次その呼び方をしたら、貴方を呪」
「自分にかけられた呪い解けねぇ奴が、おれを呪えっかよ」
グレンが吐き捨てた言葉に、チカゼの思考が揺れる。
さらに彼は、「あんた気配が気色わりぃ」と追い打ちをかけた。
「………っ、あなた、今なんて」
「いい加減にしろ!」
誰よりも早く動いたのはレトだった。
彼は机を叩いて立ち上がり、グレンに詰め寄る。
「シュウ様の厚意を蔑ろにし、挙句にチカゼさんにその不敬。その口、縫い合わせてやろうか?」
「レト、いいよ。僕は構わないし、チカゼも気にしてない。やめるんだ」
シュウが静かに制止の声をかけた。
だがレトの指先にはすでに、縛鎖術が編み込まれている。
「おい、聞いているのか? 謝れよ。特に、今の『呪い』などという不吉な妄言についてはな!」
グレンは座って頬杖をついたまま。
謝罪どころか、思考を割く価値もないといった様子だ。
目の前で吠えるレトを、羽虫でも見るように見上げる。
そして、わずかに指先を動かす。
刹那、レトの足元が、陽炎を通り越して真っ黒な熱波に歪んだ。
予備動作も詠唱もない。
ただの視線一つで、床がパキパキと音を立てて乾いていく。
場にいた全員が、その“予備動作のない魔術”に息を呑んだ。
「……どけ。おれは、あんたに用はない」
脅しですらない、ただの「邪魔だから退かせようとした」だけ。
底知れない魔力に、レトは言葉を失って硬直する。
シュウは笑みを消し、冷徹な観察眼でグレンの魔力を見極めていた。
(……パワーバランスの崩壊。壮観ね)
チカゼは席を立ち、レトの肩に手を置いた。
「そこまでにして。至近距離で魔法を使えば停学処分よ」
チカゼの介入により、規律という現実に引き戻され、殺気が緩む。
周囲のクラスメイトたちも、彼女の言葉に同意するように頷いた。
シュウが歩み寄り、グレンの指先へ、魔法を押さえ込むように手を重ねる。
「レト、下がれ。グレン君、初日から暑苦しくてすまなかったね」
レトは不満げにしながらも拳を下ろす。
グレンは窮屈さに疲れたように背を向けた。
「……終わりましたか?」
ようやく担任が割って入る。
暫く説教が続いた後、嵐は去った。
チカゼはまだ、鳴り止まない鼓動を抑えていた。
グレンが自分に放った言葉が、抜けない棘のように突き刺さっている。
(答えの端っこどころか、答えそのものが)
牙を剥いて、真後ろに腰を下ろしたのだと悟った。