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アウダスの彼方へ 第一部 父の仮説編
とある町のとある人物
第一章 父が遺した理論
惑星フェデウの北極点には、空の裂け目がある。
人々はそこを古くから「宇宙のゆがみ」と呼んでいた。
その中では、音が光よりも早く届く。
雪も雨も降らず、風も吹かない。
この異常現象は、今も謎に包まれている。
しかし、その奥には都市があった。
現在ではここが新アウダス帝国の首都となっている。
かつての超文明の首都でもあった。
その都市の名は------------
「ノルド・アウダス」
古い石造りの神殿と、現代の高層ビル。
古すぎる文明と、新しい文明。
二つが調和する都市の一角に、研究所があった。
その中の一部屋に、若い研究員がいた。
アレクシウス・ウェンシュタイン。
彼は、父の写真を見た。
そして、研究ノートを見た。
表紙には、
「古アウダス王朝四次元移動説。」
彼の父親「アリエル・ウェンシュタイン」の仮説。
古アウダス王朝はアウダス歴0年前後に突然消滅した。
言い伝えでは、「王朝は消えていない。先に行っただけだ。」となっていた。
古アウダス王朝がどこへ消えたかの仮説だった。
学会の記事を見る。
見出しには、
「アリエルの古アウダス王朝四次元移動説?」
記事の内容は、
「現実味がない。」
「伝承を科学に持ち込むな。」
どれも父を笑いものにする発言だった。
そして、失意のまま実験の失敗で亡くなった。
彼は、父親を尊敬していたので、父を笑いものにした学会が許せなかった。
だから、彼は父の仮説を証明してやりたかった。
「またやってるな。」
後ろからの声。
ルカ・フェルディナンド・ベルティーニ。
大学時代からの親友。
そして、
父の人生最後の実験を共にしていた。
アレクシウスは共にやれなかった。
やらせてくれなかった。
きっと、失敗したときアレクシウスを巻き込みたくなかったんだろう。
「今回はどんな方法だ?」
「空間を宇宙のゆがみに近い状態にしてみる。」
「できると思う?」
「いつもそう思ってる。」
「だろうな。」
「今度の実験ではどれくらいの確率で死ぬ?」
「公式には三十%。」
「非公式には?」
「七十%。」
「じゃあ三十%の確率で成功するな。」
「どうしてそんなに手伝ってくれるの?」
「父の研究を一番近くで見ていたのは僕だったから。」
「それに、父が僕に託した想いを継がないわけにはいかない。」
だが、この研究がやがて惑星フェデウ最大の謎を解き明かすことになるとは、二人はまだ知らなかった。
第二章 十八回目の実験へ続く
第二章 十八回目の実験
今日は十八回目の実験。
北極点近くの実験施設。
「こんなところ借りて、金は大丈夫か?。」
ルカの声。
「.....テレビ解約した。」
「お前は金銭管理苦手だからそんなもんだと思った。」
二人で微笑みあった。
いつものような会話をした。
でも、その会話も当分できないことを彼らはまだ知らなかった。
機械を始動させた。
中心の球体状の機械から青白い光が漏れだした。
父の理論通りの数値の変化だった。
これまでの十七回とは違った。
「行けそう!」
アレクシウスがそう呟いたその時だった。
空間安定率50%以下!
空間異常を検知!
機械からの警報。
赤い光が点滅。
そして間もなく、あらゆるものが吸い寄せられる。
工具、電子機器、ネジ。
そして、
ルカ。
「緊急停止コードを入力して!」
「必死に入力してる!」
でも、そのころには機械は制御を失っていた。
「ルカ!手をつかんで!」
アレクシウスは叫んだ!
「近づくな!お前まで!」
彼の手は、僅かに届かずに、ルカは機械に吸い込まれていった。
いや、正確には、別次元に。
ルカとの思い出がよみがえる。
学会発表の日。
父を笑う研究者たち。
何も言えない少年時代のアレクシウス。
そこでルカが怒鳴った。
「笑うなら証明してから笑えよ」
彼だけが、父の味方だった。
でも、もう三次元にはいない。
機械の記録を見た。そこには、信じられないことが記録されていた。
3.5次元。
古アウダス王朝も研究していた領域。
ルカが吸い込まれたのは四次元じゃない。次元の狭間だった。
これまで、古アウダス王朝ですら帰還者を出せなかった3.5次元。
「救出は、絶望的です。」
帝国研究局の主任研究員が言った。
アレクシウスは、父の研究ノートを開いた。
“不可能を可能にする。それが科学だ。”
“古アウダス王朝も、不可能を可能にして四次元へ移住した。”
彼はノートを閉じた。
「やれるかどうかじゃない。やるんだ。」
彼は歯を食いしばった。
その日、彼は決めた。
古アウダス王朝ですら帰還できなかった3.5次元へ、自ら向かうことを。
第三章 理論上の計算へ続く
第三章 理論上の計算
アレクシウスはいつもの研究室で計算をしていた。
いつもなら。
いつもなら、
「コーヒー持ってきたよ。」と、
声をかけてくれるルカがいない。
一人の研究者は目を細め、寂しいと感じた。
扉が開く音。
アレクシウスは反射的に扉のほうを向いた。
ルカが帰ってきたと思った。
でも、
違った。
いや、期待してはいけないと分かっていた。
ルカは今、この三次元の世界には存在しない。
扉を開けたのは帝国研究局の主任だった。
「何の用ですか?」
彼は尋ねた。
「宇宙開発に興味はないですか?」
「それに答えて何になる?」
「現在帝国研究局では宇宙開発をするメンバーを集めてまして.....」
「それなら間に合ってます。」
帝国研究局主任を追い出した彼は計算を続けた。
「父さんのことをどうして誰も信じてくれないの?」
幼いころのアレクシウスの声が聞こえた。
ふと父の研究ノートを見る。
“3.5次元転送装置の原理”
「これだ!」
アレクシウスは確信した。
これでルカを救うことができると。
父の理論。
十八回目の実験データ。
そして、ルカを救いたいという想い。
三つが揃ったことで、一週間で装置は完成した。
何日も徹夜した。
何回も試行した。
父ですら半年かけた装置を、一週間で作った。
それほど、ルカを救いたいという思いは大きかった。
「ルカ、待っててね。」
これまで帰還した人はいない。
父ですら、失敗した。
だから、戻れる保証もない。
でも、行くんだ。
そして、アレクシウスは装置に吸い込まれた。
第四章 3.5次元の旅へへ続く
第四章 3.5次元の旅へ
アレクシウスは目を開けた。
「これが.....3.5次元.....」
そこは、美しい自然が広がっていた。
色とりどりの花が咲く丘。
緑の深い木々。
そびえ立つ山々。
でも、どこか変だった。
音はすぐに消える。
まるで、世界が音を必要としないようだった。
「音がしない。それに.....生き物がいない。」
「空は暗いのに、なぜ明るいのだろうか。」
森は風に揺れているのに「サラサラ」という音がしない。
鳥はいなく、花畑には蝶一匹もいない。
まるで、世界から生き物だけを誰かが隠したようだった。
空は紫のような、青のような、不思議な色だった。
でも、あたりは明るかった。
まず、彼は近くの山々を目指して歩くことにした。
山の方位を調べようと、方位磁針を取り出す。
針はぐるぐる回り一点に定まらない。
諦めて山々に向かった。
普通だったら四、五時間で着く距離だった。
でも、ここは3.5次元だった。
常識は通用しなかった。
彼は半日歩いた。
しかし、山からは逆に遠ざかっていた。
距離計は五十キロ歩いたことになっている。
でも、座標はそれを否定していた。
まるで、空間が曲がったかのようだった。
あたりが暗くなってきた。
これが、この世界の夜なのかもしれない。
「もうそんな時間か。」
アレクシウスは時計を見た。
おかしかった。
秒針は反時計回りに回り、分針は止まっている。
第五章 最初の夜へ続く
第五章 最初の夜
アレクシウスの3.5次元最初の夜が始まった。
彼は帝国研究局立大学で習った様に簡易的な焚火を用意した。
すると、闇の中に人影のようなものが現れた。
常に身長と体型が変化している。
どこかを指さしてる。
「そこに何かあるの?」
そこに行ってみた。
確かにあった。
工具箱が。
名前が油性ペンで書かれてあった。
「ルカ」と。
「ルカを知っている?」
振り返ると、人影は消えていた。
でも、アレクシウスは確信した。
ルカは生きてると。
一応工具箱の中を確認した。
すると、ルカの筆跡で、彼への手紙があった。
”アレクシウスへ”
”これを読んでいるっていうことは、結局来たんだな。”
”諦めが悪いところは昔から変わってないな。”
”僕は、歩くことをやめた。歩いても距離が変化して意味がない。”
”だから、僕はここから山のほうの丘の上で待ちます。”
”まあ、位置がわかっても来れないだろうけど。”
”白い塔が近づくまで。”
”ここへきてまだ一日目のルカより。”
アレクシウスはその「白い塔」を探そうと思った。
気づくと、「夜」と呼ぶべきものは終わり、
「朝」と呼ぶべきものになっていた。
アレクシウスは周りを見渡すと驚いた。
とあるものが、そこにあった。
第六章 七つの塔へ続く
第六章 七つの塔
そこにあったのは..........
七つの白い塔だった。
七つの星形の塔だった。
「七つの星…」
七つの星は古アウダス王朝の紋章。
「父の仮説は…あっていた?」
そして、その塔の奥には.....
丘。
丘の上に人影があった。
見覚えのある仕草だった。
正体は....
ルカだった。
いや、ルカの幻覚かもしれない。
「ルカ!」
アレクシウスは叫んだが、最初の法則を忘れていた。
音はこの世界は遠くの他の人に届く前に消えてしまう。
遠くだったら。
どんなに大きく叫んでも。
アレクシウスは手を振った。ルカのようなものも当然気づいた。
ルカのようなものは手を振ってくれた。
彼の頬に涙が流れた。
もし幻覚だったとしても、会えたのが嬉しかった。
そして、七つの白い塔に入ることにした。
十分歩くと、塔がこっちに来た。
距離が変わったんだ。
まるで、世界が彼の味方をするように。
塔に入った。
取り敢えず近くの「記録保存室Ⅰ」に入った。
そこは、まるで数日前まで使っていたようだった。古アウダスは数千年前に滅びたのに。
まあ、ここでは時間は信用できないけれど。
そこの記録に、一つ気になる物があった。
その記録の題名は、「第四次元観測日記」
中には職員の愚痴、同僚のこと、新しく分かったこと。食堂のメニューなどの事が書いてあった。
そして、最後の日記。
古アウダス王朝歴1437年7月21日 今日で四次元研究は中止。
四次元転送率が(焦げていて読めない。)%だからだ。
だから今日で(焦げていて読めない。)へ帰還だ。
さようなら。(焦げていて読めない。)研究施設。
大切なところだけ焦げている。
焦げ方が不自然だった。火災なら紙全体が焼ける。しかし、消えているのは必要な情報だけだった。
偶然とは思えなかった。
そして、廊下の壁に人影が映る
第七章 待っていた人へ続く
第七章 待っていた人
そして、廊下の奥から人が来ているような気配がした
急いで廊下に出たアレクシウスはつぶやく。
「アウダス....七世.....?」
「今も新アウダス帝国はあるかい?」
アレクシウスは答える。
「はい。ありますよ。」
「そうか。」
アレクシウスは歴史で習ったことを思い出す。アウダス七世とは、かつての古アウダス王朝最後の皇帝であると同時に、
新アウダス帝国の建国の父とも呼ばれる。
それは、失われた王朝の最後の皇帝だからじゃない。
現れたんだ。
数十年前。
そのころ、新アウダス帝国の一つ前の時代、ローデシア統治時代。
南方の大国に隙を突かれて攻められた後の時代。
アウダス七世が現れた時期は、反対勢力の活動が少し活発になったころだった。
そんな時期に証拠が山積みのアウダス七世が現れたら反対勢力に大きく戦況が傾いた。
おかげで今新アウダス帝国がある。
でも、新アウダス帝国を独立させたら、「私はもう役割を終えた。」と言い唐突に消えた。
かつての古アウダス王朝のように-----------
アウダス七世は言った。
「君はアリエル君の息子かい?」
「なぜ知っているんですか?父の名を」
「先へ進めばわかる。。」
アレクシウスは勇気を出し、聞く。
「なぜ.....」
「なぜ、あなたは今ここにいるんですか?」
「それは・・・」
「君たちが生きているうちにわかる。」
ゴォォォォォォォ
謎の振動が施設中に震えわたる。
まるで、3.5次元にも音があるかのように...
第八章 轟音の正体へ続く
第八章 轟音の正体
轟音の正体は....
いや、轟音のようなものの正体は....
-----------空間の亀裂が開く振動だった。
その先には、
宇宙が広がっていた。
アウダス七世は資料を見せる。
それは、「イリーナ」という科学者が書いた論文だった。
”3.5次元とは場所ではない。移動し続ける空間だ”
その下にも、実験、結果、それからわかる理論が書いてある。
アレクシウスがそれを読み、
納得する。
「確かにこの理論ならすべて成立する!イリーナさんすごい。」
「宇宙がここから見えることも説明がつく!」
そして、アレクシウスはルカのことを思い出す。
「そうだ!ルカは?」
アウダス七世は答える。
「この地図の通りに行けば会える。」
その地図は、点、線、距離。すべてが動いていた。
アレクシウスは走った。
ルカへの距離が変わる。
しかも、距離は縮まっていく。
世界が二人を祝福するように。
「ルカ!」
ルカは振り向いた。
姿は変わっていたが、確かにルカだった。
髪は伸び、服は一部破けていたけれど、確かにルカだった。
「アレクシウス?」
疑問気な声だった。
きっと幻聴が何度も聞こえたんだろう。
でも、きっとルカは見て分かった。
アレクシウス本人だと。
ルカは走ってきた。
「どれぐらい待った?」
アレクシウスの質問に答える。
「分からない。一日かもしれないし、十年かもしれない。この世界じゃ、時間は当てにならないから。」
そしてまた、白い七つの塔へ戻る。
アレクシウスはアウダス七世に最後に聞く。
「父の仮説は、あってましたか。」
第九章 父が見誤ったものへ続く
第九章 父が見誤ったもの
アウダス七世は答えた。
「君の父の仮説は.....」
「半分合っていた」
アレクシウス達は沈黙する。
「ただ…」
「半分間違っていた。」
「君の父が見誤ったものは…」
「君の父が見誤ったのは、四次元そのものではない。」
「確かに古アウダス王朝は次元研究が盛んだった。」
「我々が向かった"行き先"だ。」
「古アウダス王朝は別世界へ移住したのではない。」
「宇宙へ旅立ったのだ。」
「そ...そんな...」
アレクシウスが絶望する。
「四次元へ行ったのは、父の説の根幹なのに...」
真実は、時にある人を大きく傷つけることがある。
「まずい。もう帰らないと危ない。」
「空間が想定より早く崩れている。」
「早くこれに乗れ!」
画面にはいくつかの文章が書かれていた。
<<三次元復帰装置>>
<<残り使用回数:一回。>>
「もし失敗したら?」
アレクシウスが聞く。
「このまま崩壊に巻き込まれて確実に死ぬよりはましだ!」
「ルカ!来て!」
ルカも乗り込んだ。
アウダス七世は乗らなかった。
「私はまだやるべきことがある。」
アウダス七世はアレクシウスの背中を見送る。
最終章 父の仮説へ続く
最終章 父の仮説
次に目を開けると、フェデウの星空の下だった。
上には、雲一つない晴れた星空があった。
いつもの星に戻った。
でも、アレクシウスにとっては違った。
父の仮説は間違っていた。
アレクシウスは父の研究ノートを抱きしめる。
表紙には”古アウダス王朝四次元移動説”
昔は、その字を見るだけで誇らしかった。
なのに-----------
その時、一枚のメモがノートから落ちた。
”たとえ仮説が間違っていても、”
”誰かが真実へたどり着くことに役立てば、”
”それでいい。”
父との思い出が鮮明によみがえる。
研究室で見た星図。
「この世界にはまだフェデウの人が知らない場所がある。」
「四次元というね。」
父の言葉。
「なぜ…」
「なぜなんだ…」
「父の…」
「唯一の仮説が…」
「間違っていたなんて...」
空には古アウダスの人々が旅立った宇宙がかつてと変わらずに輝いていた。
本伝 第一部 父の仮説編 完
第二部 古アウダス宇宙内戦編へ続く
長文読むのお疲れさまでした!次も読んでくれるとありがたいです!