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アイスのお墓
あの日、私は過ちを犯した。
犯してはならない事を、ほんの少しの好奇心の中で弄ぶように。
生暖かい風が顔に吹いた。
中央に細い木の棒が突き刺さる形のアイスを食べながら、友人を待った。
やがて、黒く長髪の女の子と短い髪の男の子が手を振りながら僕の肩に手を置いた。
「ごめん、待った?」
「いいや...そんなに。アイスを食べてたから暑さもそんなに感じなかったし、大丈夫」
「えっ、いいな...2つ、残ってる?」
「あるよ。そのつもりで3つ持ってきたから」
僕はひんやりとした袋を短い髪の男の子に手渡し、もう一つを黒く長髪の女の子に手渡した。
ここから、男の子をK、女の子をA、僕をZとして語ろうと思う。
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「ね、Z...お墓遊びってしたことある?」
「...お墓遊び?」
不意にAがアイスを食べ終わった棒を見ながらそんなことを言った。そして続けて口を開く。
「えっとね...アイスの棒に名前とかを書いて、亡くなった生き物のお墓を作る遊び...知らない?」
知らない。知るわけがない。なんて残酷な遊びなのだろうとこの時は思ったものだ。
「...知らないよ」
「...そっか...」
少し気まずい雰囲気が流れた。その雰囲気を感じとったのかKが急に大声を出した。
「...お、見ろよ、当たり!当たりだ!」
僕を含めAがKに注目し、棒に書かれている「当たり」という文字に釘づけになった。
それを見て先程の空気よりもKの幸運に驚き、お墓遊びなんて残酷なものはすっかり頭から抜けていた。
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あの話から三日後、やけに近くの公園に野次馬が集っていた。その中で
「なに、してるの?」
友人の二人がその野次馬の中におり、僕は声をかけた。Aは少し青い顔をして野次馬の中央を指した。
そこにはこんもりとした土の中にアイスの棒が一本立っているだけのものがあった。
しかし、アイスの棒には手書きのような蝉の絵が描かれ、土の山の中に一種類の蝉の手足や羽が大量に見える。
背筋が凍るような感覚とお墓遊びというものが頭から沸き上がった。
あまりに異様な光景にふと、Aの顔を見る。相変わらず青い顔をしているが、少しだけ口角があがっているようにも見える。まさか、彼女が?...まるで犯人探しのような考えを急いで切って、その場を後にした。
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そこから、一週間後、また同じようなものが見つかった。
今度は図書館の裏でアイスの棒にトンボが描かれ、また同じように何匹も土に埋められていた。
この辺りで、例のお墓遊びを誰かがやっているのだと確信に変わった。
手足が千切られ、頭の潰れたパーツだけの蝉、羽を引きちぎられたトンボ。
この2つだけでも恐ろしいものだったが、更にエスカレートしていった。
次は学校の裏山。ほんの少し大きい獲物に変えたのか、アイスの棒には雀が描かれ、羽がもがれて胴体と足が切断されて3羽が埋められていた。
その次が私の家の近くの空き地だった。猫と犬が描かれ、腹が切り裂かれたような形の二匹。これは土が腹の部分だけを隠すように埋められていた。
それを見る度にAの顔が思い浮かんだ。しかし、これを君がやったのかなどと言い出すことはできず、いつものように三人で集まって夏の暑さから逃れる度にアイスを食べていた。
その中であのお墓遊び染みたことについて語ることはあったが、Aは曖昧な返事をするばかりで興味を示しているようには感じなかった。
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三日ほど経った頃だろうか。
Aが行方不明になった。急いでAの家へ行き、親に話を聞こうと敷地内に入った辺りで花壇で土の山にアイスの棒が刺さったものを見つけた。
棒には赤い猫のような絵が描かれ、近くに菊が供えられていた。
まるで、誰かがAを殺害し、お墓を建てたような考えに襲われた。
棒をよく見ると、〖《《かねこあい》》〗とAの名前が彫られていた。
これは一体どういうことだろうか。赤い猫との関連性がいまいち分からない。
もしや、並び変える?ならこれは何のために建てられたのか。
奇妙な汗が全身の毛穴から出ていくような感覚。気味が悪くなり、敷地内から飛び出してKの家へと向かった。
家に着いてご両親に挨拶をし、Kの自室に入ろうとした。
扉をノックして、声をかける。返事はない。ゆっくりとノブを回す。
案外、軽い力で扉は開いた。開いた先にいつも挟んで話す机の上に四角い箱の半分のようなものに土が山をつくり、柳の描かれたアイスの棒が一本刺さっている。
僕の名前は柳という文字が入る。その名前の頭の柳をとって、柳の絵でも描いたのか?
そうすると、次はお前だと言われているような感覚に陥る。
汗が止まることを知らず、流れ続ける。
ふらつくようにそれに近づき、アイスの棒に目を凝らす。
〖《《やなぎだぜん》》〗。確かに、僕の名前だ。
不意に後ろから床が軋むような音がした。
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「.........っ......」
私は足元に転がる長い黒髪の男の子を見た。
両足、手足をガムテープで縛られて口元も縄のようなものを噛ませられているのか言葉を発することなく地面に倒れている。
...Aがあんな話をしなければ、こんなことにはならなかった。そう思っているのだろうか。
それでも、あの遊びを始めにしたのは紛れもなく私だ。柳田がここへ来たのも、金子がいなくなったのも全て私だ。
全て、私だ。この後の私は何を思ったか自室を出ようとした。
その扉の先に母がいて、止められてしまったのだから場所を移動するという選択肢を取れば良かったのだ。
金子はまだ見つかっていないし、柳田も話すことはない。
しかし、この幼い時の好奇心というのは恐ろしいもので、彼女を手にかけた感覚は未だに頭から離れない。
だから、
あの日、私は過ちを犯した。
犯してはならない事を、ほんの少しの好奇心の中で弄ぶように。
書きたいところだけを書いたもんだから、ぐちゃぐちゃ
Kの名前に関しては柳田のプロフィールの知人・友人欄の一番下の人です