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大きな背中とチョコレート
金平糖
1. 憧れの存在が、すぐ隣にいる現実
私は高校生でダンス部、大会に向けて近くのスタジオに自主練しに来ていた。
大好きな音楽番組や雑誌でいつも見上げていた憧れの人――ラウールくんが、今、まさに目の前で私にアドバイスをくれている。テレビの向こうの眩しいスターだった人が、プライベートのパーカー姿で、こんな風に親身になって話してくれているなんて、何度考えても夢を見ているみたいだった。
「……ねえ、聞いてる?」
ふと顔を上げると、ラウールくんが私の目の前で、いたずらっぽくクスッと笑っていた。顔が近すぎて、思わず息が止まりそうになる。
2. 近すぎる距離と、高鳴る鼓動
「あ、ごめん……! ちょっと、距離が近すぎて緊張しちゃって……」
私が慌てて顔を赤らめると、彼は「え、そんなに?」と楽しそうに目を細めた。
「だって、いつもテレビやライブで見てる憧れの人だから……」
そう小声で呟いた私に、彼は少しだけ驚いたような顔をしたあと、ふっと柔らかく優しい笑みを浮かべた。
「そっか。でも、今の俺はテレビの中のアイドルじゃなくて、ただ一緒にダンスを楽しんでる一人の人間だからさ。そんなに緊張しなくていいよ」
そう言いながら、彼は私の肩にそっと手を添えて、正しいフォームへと優しく導いてくれた。大きな手のひらから伝わる体温と、ふわりと香る爽やかな柔軟剤の匂いに、頭が真っ白になりそうになる。心臓の音がうるさくて、彼に聞こえているんじゃないかと焦ってしまう。
3. 「特別」な秘密の共有
「ほら、こうやって軸をまっすぐ保つと、もっと綺麗に見えるよ」
彼の声は低くて甘くて、耳のすぐ近くで響くたびに背中がぞくっとする。でも、その教え方は驚くほど的確で、さっきまであんなに苦戦していたステップが嘘みたいにスムーズに踏めるようになった。
「わっ……本当だ! すごい……!」
私が感動してパッと顔を輝かせると、ラウールくんは自分のことのように嬉しそうに目を細めた。
「でしょ? センスあるって言ったじゃん。めっちゃ頑張り屋さんなんだね、そういうの、すごくいいと思う」
頭をポンと軽く撫でられた瞬間、恥ずかしさと嬉しさで顔の熱が一気にピークに達した。こんなの、ドキドキしすぎて練習どころじゃない。
4. 特別なおまじない
一通りの練習が終わる頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。
「そろそろ行かないと怒られちゃうから帰るね」と、彼は名残惜しそうにバッグを肩にかけた。
帰り際、彼は自分のポケットから、小さなチョコレートの袋を取り出して私の手のひらにそっと乗せた。
「はい、これお疲れ様のご褒美。またダンスで悩んだら、俺のアドバイス思い出してよ」
そして、少しだけ背伸びをしたようなイタズラな笑みを浮かべて、こう付け足した。
「それと……今度もっと上手くなった姿、いつかどこかで絶対見せてね。楽しみにしてるから」
そのまま爽やかに手を振って去っていく大きな背中を見送りながら、私は手のひらのチョコレートと、高鳴り続ける胸をぎゅっと押さえた。画面の向こうで輝いていた憧れの人は、私にとって、世界で一番優しくてドキドキする「特別な人」に変わっていた。