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第八話
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結局。イリーネの要求を断りきれなかったルークは悩みの種を2つに増やしたまま、とうとう特攻隊の部署まで着いてしまった。
「⋯スーーーーーー。⋯⋯」
速く入らなければならないのに、帰りたいという欲求が邪魔をして入れない。
イリーネがなかなか中に入らないルークを不思議そうに見ている。
ここは腹をくくって入るしかない。ルークは勢い良く息を吸って目の前のドアをノックする。
「例の資料を持ってまいりました。宰相のルークです。特攻隊最高司令隊長様はいらっしゃいますでしょうか。」
「⋯入って良いであります。」
この声は⋯なんと王国特攻隊最高司令隊長様が直々に返事をしてくださるとは。
「⋯スーーー。失礼します。」
ドアを開けて入るとそこには短く切りそろえた茶髪に堅物そうな顔の男が佇んでいた。
彼こそルークが会いたくなかった王国特攻隊最高司令隊長―――ダン・ドルゴがいた。
ダンはルークが目に入るや否やしかめっ面をした。ルークはいつもの笑顔で応戦する。
「こちら、資料となります。」
「⋯そこに置くでありますよ」
「はい。⋯ではこれで⋯」
「⋯お待ちなさい」
こんな場所からはすぐさま退場したいのだが、ここで待ったをかけた人間がいた。―――イリーネである。
イリーネはダンの方へズンズンと詰め寄る。
「あなた、階級の上の者に対して随分と態度が悪いですわね?」
「え?その⋯特攻隊は育ちが悪い者が多いでありますよ。」
「ですがあなた、確かドルゴ伯爵の次男坊でしたわよね?そんな方の育ちが悪い?伯爵は一体どんな育て方をしておられるのかしら?」
「あの、イリーネ様。もう帰りましょう?」
「いえ。宰相様。わたくし、この無礼者に物申したいことが山のようにありますの」
若干怒りを滲ませながら畳み掛けるように話すイリーネにルークもダンもタジタジだった。
「しかし、この者は元平民であります。」
「ですが、今はこの国の宰相ですわ」
「⋯素性がはっきりしないのでありますよ?」
「この方を宰相に任命したのは国王陛下ですわ。何か思うことがあるのなら陛下に直訴なさっては?」
「〜〜〜っ。この者は大勢の人を殺したのでありますよ?そんな人が陛下の側にいて安全と言いきれるのでありますか?」
「ですから。それも陛下に直訴なさってはいかがですの?」
「あ、あの。イリーネ様⋯その辺で」
「いいえ。わたくしまだまだ言い足りませんの」
ルークがダンと会いたくなかった理由―――それはなぜかダンが突っかかってくるからである。
別に嫌いというわけでもないのだが、そこそこ面倒だとは思っているぐらいの認識だ。
そして、そんなダンに突っかかるイリーネ⋯これもこれで止めるのが面倒だ。
色々考えたルークは―――
「では、イリ―ネ様。しばらくしてからお迎えにあがります。それまでダン隊長と談笑なさってはいかがでしょう?」
「えぇ。ではまた後で。」
「え!?ちょっと待て宰相殿!置いていくなでありますーーー!!」
後ろからダンの悲鳴が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。ルークはたまには王城の周りで咲き誇る花でも見て癒されることにした。
+++
「わんっ」
ルークが珍しく花を愛でていると、側で犬の鳴き声がした。
見事な赤毛に同色の目の犬は上目遣いにこちらを見ている。
まるで媚びるような仕草にルークはハァッとため息を吐きつつ屈む。
ルークはその犬の頭に手を置き⋯グリグリと強めに撫でる。
「何をしているのですか?ペス」
「痛っ痛タタタッ!おい!国が違えば動物虐待で死刑だからなっ!」
この喋る犬はペス。ちなみに本名ではない。そして元人間だ。
ロックソー魔国という魔女狩りから逃れた魔女が独立した国がある。
そこに入って取材しようとした記者こそがペスなのだ。ペスは犬に変えられる魔術をかけられたが命からがら逃げ出し、見世物小屋で見世物にされていたところをザインが引き取ったのだ。
今は犬として情報収集をしている。
「それはすみませんでした。それで?どうしてこちらに?」
「いや〜いつもは王城の庭園になんてこない宰相が花を愛でてるからどうしちゃったのかなーって心配で。」
「私だって花を愛でてることぐらいありますよ。」
「え〜?それってやっぱり⋯恋人ができたからか?たっはー!あの何にも興味がなかった宰相が恋人ができちゃって変わったか〜!いや〜良かったなぁ!それで?どこまでいったんだ?」
犬の顔に下世話な表情を浮かべるという器用なことをやってのけたペスの前足を掴んでブンブン回す。
「うぉおおお!?わ、悪かった!悪かったから!下ろしてくれぇぇぇええ!!!」
「分かればいいのです」
ルークに地面に転がされたペスはグルグルと目を回しながら「いや、本当に国が違えば死刑だからな⋯」なんて言っている。
「うぅ⋯ひどい目にあった。やっぱりコイツは悪魔だ⋯すいませんなんでもないですごめんなさい」
コキコキと手を鳴らし始めたルークにペスが伏せをする。
「では私はイリーネ様を迎えに行きますので、失礼します。」
「ヒュ~!お熱いね〜!結婚式は呼んでくれよな!」
ニマニマと鬱陶しいペスには骨を渡す。
ペスは「や、やめろっ!これやられるとしばらく骨を噛じりたくなっちまうんだよ!」なんていいながら骨でじゃれついていた。
「王国兵」を訂正して「王国特攻隊」にしました。