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太陽に妬かれた“来訪者”
ノイズ混じりに機械音声なラジオが流れる。
『...市の...にお伝えします。...で、太陽が異常な熱波と紫外線......により人々は〖来訪者〗...怪物.........お近くの......昼に決して......出ないで下さい......不要な外出は...です...』
奇妙なラジオ。そう思って何も考えなかった。
お湯で沸かしたコーヒーを飲みながら昼間の窓の外を見た。
太陽の光のもれる窓に近づいて外の様子を見ようと目を向けた時、皮膚と目が焼けるような音が響き、臭いも部屋に充満して強烈な痛みが走った。
あまりの出来事にすぐにキッチンへ駆け出して蛇口を捻り、熱くなった腕や顔を水に晒す。
「いっ...ぃた...っ...」
熱が鎮まった頃に水からあげると見事に水ぶくれになった皮膚があった。
これがもし、目だったらと考えると怖くて怖くてたまらなかった。
その後は太陽の光や反射光にすら当たらないように水ぶくれになった箇所にガーゼを巻いたりしていた。
そして、夜になって外を見た。外には青白い身体の全体にぽこぽことした水ぶくれのようなものが多く見られ、目が破裂したような跡の空洞と謎の白い液体を垂らす怪物が彷徨いていた。
それが何人も、何人いて凄く怖かった。
やがて、朝になりまたラジオが流れた。昨日より切羽詰まったような声で、機械音声は聞こえなかった。
『…っ、お伝え...本日......〖来訪者〗の特徴...青白い肌......水ぶくれ、空洞の目...人の外見そっくり...化ける...見分け方は......充血した目...不自然に白い歯...土から出...汚れた爪......になります。......お近くの建物に......決して...出ないで.........外出、なんだ、肌おかし...おま......や......!......!!...』
しばらく雑音が響き、最後にはノイズだけが流れた。
よく分からないが、その来訪者とかいうのは昨日、外にいた怪物なのだろうか。
その怪物は人に化けることができる?それが分かるのは充血した目、不自然に白い歯、土で汚れた爪?
奇妙な内容だ。現実的じゃない。デジタルの情報は当てにならない。アナログの情報を目に通さなければならない。
急いで、室内の郵便ポストを覗く。横長に広い空間には燃えたような燃えカスと紙の焦げた匂いがした。
「なんで!?」
情報がない。誰かが嫌がらせに燃やしたのか?何のために?そもそも、こんなに熱い太陽の下でまともに動ける普通の人間なんているのか?
日の当たらないところに座り込み、悩んでいると唐突に床のタイルが浮き、ドリルのようなものが飛び出す。
「......ドリル...?」
そして、続けざまに一人の男性がタイルをどけて現れた。
「どうも、お隣さん」
少し土がかかった金色の長髪を垂らした20代後半ぐらいの華奢な男性だった。
「...あの...どちらさまで...?」
「忘れたんですか?___ですよ。以前、ご挨拶したじゃないですか」
「___さん、ですか?あの隣の...」
「ええ、そこの長男です」
「すると、他の方はどちらに?」
「それが、ラジオを信じずに父と母は出掛けておりまして...弟は無事なんですよ、ちょっと待ってて下さい」
「はぁ、それは...その、お気の毒に...」
「いえいえ、明日の昼に帰ってくると思いますから...また明日、来ますね。ああ、この新聞、いります?ガスとか電気は大丈夫でしょうけど、情報はラジオ以外入ってきませんから」
「ああ、はい、どうも...」
笑顔で踵を返し、穴へ帰っていく男性を見送り太陽が強く光輝く外を見る。
植物は荒れ果てて荒野になっているが、遠くの都会の町の電灯がついていることがよく分かる。
おそらく、人は確かにいるのだろう。
そう結論づけて渡された新聞に目を通した。
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〖太陽の下に現れる?“来訪者”!〗
某月某日、某市に位置する研究所にて太陽が急激に熱を放つことが観測された。
また、強い紫外線、熱波により人間は肌が青白く水ぶくれが身体中にあり、化けることが得意になる“来訪者”へ進化を遂げると論文が発表された。
来訪者は人間に敵対的で非常に好戦的であり、一度進化すると太陽による被害を受けない。
しかし、完全に化けることは不可能で目は充血し、不自然に白い歯がある。
日中は土の中で過ごすことが多い為、土で汚れた爪でいることも特徴の一つである。
また、デジタルカメラで撮ると来訪者のみが写真に歪んだように写ることもあるらしい。
被害としては、
▪通常の人間を襲い、皮や服を剥ぎとりなって代わる(化ける)
▪家に一人でいる、または一人でいることを伝えると家に押し入る
以上であるが、前述の特徴から来訪者だと思われるものが入れば即刻、殺害に至ることが推奨される。
一度、外出から帰ってきた者や家へ入ろうとするものを確認してみるといいだろう。
対処法は以下の通りである。
▪前述の特徴に一つでも当てはまる者を殺害する
▪家に一人でいることがないようにする
▪鍵や窓を施錠し、バリケード等を立てておく
▪銃器や刃物を身の周りに置き、来訪者と疑いのある者の付近には置かないようにする
▪政府が派遣した特別調査隊の召集を待つ
(特別調査隊〖ネクローニ〗は来訪者の駆除や人間の保護を目的とした団体。保護できる人数は限られている為、訪問時には一人ずつの召集しか不可能であることを覚えていただきたい)
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おおよそ、自分が知りたい内容は書かれていた。そのまま新聞を読み漁っていると、いつしか辺りは暗くなり外には星が見えていた。
その星を見ようと外に目をやり、気づく。今まで見たより小柄の来訪者がこちらに向かって気味悪く微笑んでいるのだ。
その不気味さに視線を逸らして、すぐに窓に鍵を開け、玄関扉へ急ぐ。玄関扉の覗き窓を覗いた。
そして、扉のノックするような音と共に先程の小柄の来訪者がこちらも覗き窓を覗いていた。
瞳のあったはずの空洞から垂れた白い液体のようなものが付着した唇を開いた。
「今...ひ、独り、ですかぁ?」
答えようとして、読んだ新聞の内容が頭の中で反響した。
一人でいてはならない、一人以上でいなくてはならない。一人だと家に押し入られる。
なら、どうする?来訪者に目はないように見える。きっと、家にいるのが一人なんて分からない。
「...二人、です」
その言葉に来訪者が扉のノブをガチャガチャと回し始めた。
「独り、ですよねぇ?」
「ひ...二人です!」
「独り、だろ?」
だんだんと声が高く、女性や男性、子供の声が入り交じったように独りであることを訊いてくる。
きっと、バレている。そう考えて近くの銃器を取った。レミントンM870のような散弾銃だった。
ノック音が激しくなる中、銃器を肩にしっかりと押し当てて扉が開かれるのを待った。
その頃にはノック音は止んでいて不信に思いつつもうっすらと足音が聞こえるのを頼りに待ち続けた。
10秒。
30秒。
1分。
5分。
少し時間が経ち、肩から銃器を下げた途端に窓から来訪者が窓の破片を飛び散らせながら入ってきた。
銃器を構える暇もなく、押し倒され掴んでいた銃器を奪い取られる。
そのまま、銃口が口に入って_
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玄関へ続く廊下に脳みその破片が硝子の破片と一緒に飛び散った男性の遺体がある。
燃えるような赤毛に端正な顔立ちをした男性。昨日の昼に自分が掘った穴から出て、話した人だった。
少し黒ずんだ血に触れて後ろにいる弟に声をかける。
「気をつけろよ、窓の破片が散ってるから」
何も答えなかった。弟は一昨日、夜に出掛けたきりで昨日の夜にやっと帰ってきたばかりだった。
疲れているのだろうか。だとしても返事の一つくらい欲しいものだ。
「そういえば、昨日はどうやって帰ってきたんだ?他の家にでも泊まってたのか?」
やはり、何も答えなかった。
弟は帰ってくるなり土で汚れたような爪で晩飯につき、太陽でも見てしまったのか目が充血していた。
歯を磨く時なんかはそこまで汚れていない綺麗な白い歯をしっかりと磨いていた。
あんなに白い歯をしていただろうか。
それに...あんなに青白い肌をしていただろうか?
弟に何かを聞こうと振り向いた時、肌が青白く腕に水ぶくれのようなものができた弟だったはずのものが床に落ちた銃器を拾っていた。
直後に、銃声が閑静な家の中に響いた。
没シリーズの〖|Visitor of the midnight sun《白夜の来訪者》〗という名前のホラーミステリー、グロテスク怪物モノです。
そちらを設定が凝られすぎる、舞台が主人公の家しかない、一時期流行ったドッペル尋問間違い探しホラゲーの二番煎じという点から没になりました。
作品としてはそこそこなので〖地獄労働ショッピング〗にでもサイバーワールドや学園生活要素を本作同様、消費者の能力として載せるつもりです。
お読みいただき有り難うございました。