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花火の形9
初流
山を下り、お店の前までやってくると、見覚えのある背中が見えた。
「げ……」
僕が思わず声を漏らすと、志喜が顔を覗き込んできた。
「どうしたの?」
「いや……なんでもない」
カズだ。間違いない。今日の朝『彼女できたのかよ』とかメールしてきた、あのカズだ。
クソッ、なんでこんなタイミングでいるんだよ……!
バレないようにお店に入ろうとした瞬間――。
「お! 晴斗やん、おひさー!」
こいつに気づかれてしまった。
「よ、よお……」
「お!! その隣の子めちゃ可愛いやん! どしたん、彼女!? 彼女なん!? ヒューヒューお熱いね二人とも!」
「……ちょっと、黙ってくれるかな?」
僕はここ最近で一番の笑顔(圧力)で言った。
「ひ、ひゃい……っ!」
僕は特に何もしていない。(本当だからね!?)
「ま、まあまたサッカーしような! じゃあな!」
カズはそう叫びながら走り去っていった。ハプニングはあったが、気を取り直してお店に入る。
ドアについている鈴がチリンと鳴り、店内の涼しい空気が僕たちを優しく迎えてくれた。
「いらっしゃい! あ、晴斗くんじゃん!」
声をかけてきたのは、同じクラスの裕奈だ。まあ、同じクラスと言っても1クラスしかないんだけど。
裕奈は志喜を見て目を見開いた。
「え! もしかして隣の子、彼女!?」
「なわけないだろ。俺に彼女ができるとでも思ってんのかよ」
「あー……たしかにねー」
妙に納得したような顔で頷く裕奈。おいこいつ、許さねぇ。
「まあ、好きなところ座って!」
色々あったが、無事にテーブル席に着く。
僕は志喜に向き直り、「何にする?」と尋ねた。だが、志喜はなぜか全然こっちを見てくれない。
(あれ……もしかして何かやらかしたか……?)
僕が一人で焦っていると、志喜がポツリと言った。
「な、なんでもない……っ」
よかった、特に怒っているわけではなさそうだ。
「ここさ、バカでかいハンバーガーがあって、それがめちゃくちゃおすすめなんだよね」
しばらくの沈黙の後、志喜は意を決したように言った。
「……うん。じゃあ、それにしようかな」
注文を済ませ、ハンバーガーを待つ。
店の大きな窓からは、青い海岸が見えていた。志喜が海を見つめながら僕に尋ねる。
「ここの海って、夏なのに人が少ないね。理由知ってる?」
「ここは明日のお祭りのメイン会場だから、昨日から海に入れないんだよ」
「へー、そっか。ありがと」
波の音が静かに聞こえてくる。夏の日差しが窓から差し込み、その隣にはこんなに可愛い子が座っている。
こんな青い思い出、一生に一度できるかどうかだ。
そんなことを思っていると、志喜が裕奈に呼ばれて、何か女子同士で内緒話をしているみたいだった。
話が終わると同時に、大きなハンバーガーが運ばれてくる。
「食べるか」
「うん、そうだね」
「「いただきます」」
やっぱり大きくて、最高に美味しいハンバーガーだ。
僕があっという間に食べ終わり、志喜の方を見ると――口元を気にしながら、一生懸命頑張ってハンバーガーに食らいついていた。その姿が、たまらなく可愛かった。
志喜も食べ終わり、僕たちは店を出る。
「さっき、あいつと何喋ってたの?」
「ん……まあ、ちょっと女子同士で話してただけだよ」
そんな他愛のない話をしながら、帰り道を歩く。
歩きながら、僕はふと思い出した。
(あれ……? お祭りの会場まで連れて行くって約束してた気がするんだけど……まあいいか。今のこの時間を楽しまないと)
志喜があと一日しかここにいられないことを、僕はすっかり忘れていた。
ずっと、ずっと君といられる――少なくともこの瞬間は、本気でそう思っていたんだ。
めっちゃ長くなっちゃったけど許してちょ!