短編で出そうとしたらシリーズになってしまいました。
100話には収めます。頑張ります。
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目次
1−1 水の使い手
これを書いた時 希初はテスト帰りだったので 文章がめちゃくちゃでも 許してください。
「アクア。よく働いたから休んできなさい」
「はい。ありがとうございます」
ルーナに言われ、アクアは自室へ戻った。
誰もいない部屋。棚から本を取り出し、ベッドに座って読む。
アクアは孤児だ。物心ついた頃から神殿の孤児院に住んでいて、洗礼を受けた頃からずっとルーナに仕えている。ルーナは神殿の上級巫女で、アクアが任されるのは身の回りの世話である。
ルーナは流れるような銀髪と薄い赤の目を持ち、物語のなかに出てくるような美しい顔立ちをしている。それに加えて教養があり舞が上手だったために、神殿に一生住むことになったのだ。
(気の毒な方)
アクアはずっとそう思っていた。ルーナが窓の外に目をやっては寂しそうな表情をするのを知っている。ルーナの両親にとって、彼女の価値はお金しかないのだ。いくら彼女が寂しくても、そんなことはどうでもいいのだろう。
7歳の時からずっと仕えていたルーナを、アクアは尊敬していた。上級貴族の出だからと横柄な態度を取ったりせず、側近を大切にしてくれる彼女にいつまでも仕えたいと思っている。
アクアは本を閉じて、庭園へ向かう。
綺麗に手入れされた神殿の庭には、丁寧に植えられた綺麗な花が咲いている。
アクアは泉にぴちゃりと指先を入れた。
アクアには誰にも言えない秘密がある。
それは、アクアが水の使い手であること。
そっと水をかき混ぜると、泉全体が波打つ。手首まで水に浸からせれば、泉はしんと静まりかえる。泉の水はアクアに連動するように動く。
火、水、風、土。
神話にでてくる「使い手」の力は、聖女よりも強い。しかし、魔力を持たない平民しかなれず、この国には4人しか存在しない。一つの属性につき一人。
四神が宿ったとされる「使い手」に、自分がなってしまったのだ。
アクアは洗礼式前、散歩中に湖に落ちたことがある。服が水を吸ってどんどん沈んで行き、幼子の頭でやんわりと死を悟った。暗くなるにつれだんだんと意識が落ちて、気づいたら岸辺にいた。
年嵩の孤児は「水の女神ファンテーヌ様がお救いなさったのだ」と祈り出していたが、アクアよりも幼い孤児は、「水がアクアを持ち上げていた」と言っていた。奇跡が起きたのかな、くらいに思っていたアクアが自分の能力に気づいたのは3年後だった。
(よく考えれば、あの時水の中で息ができたことに気づけたはずね)
ルーナの隣の部屋がアクアの自室だ。ふかふかのベッドでぐっすり眠ったアクアは、気を引き締める。
午後からの奉納舞のために、ルーナの側近は大忙しだった。
朝食をとったルーナに衣装を着せ、髪を結い、小物を持たせる。舞に使う道具を小箱に入れては神殿の礼拝室へ運び、儀式の支度をする。
アクアはルーナのアクセサリーを選んでいた。
薄い水色の衣装は、透明なビーズが散りばめられ、細やかな刺繍がされている。派手に思えるほど豪華なワンピースは、美しいルーナが着ると自然に見えた。編み込みのハーフアップにされた髪は、彼女が動くたびにさらりと揺れる。
アクアはたくさんあるカチューシャの中から、サファイアとダイアモンドのものを取り出した。
(奉納舞だから、こんなにも飾り立てるのかしら)
ルーナはいつもと変わらない笑顔をしているが、瞳には疲れが表れている。彼女が毎日何時間も練習していたことを、アクアは知っていた。カチューシャをのせて、精一杯微笑む。
「ルーナ様、とてもお似合いです」
ルーナは少しだけ頬を緩めた。
「アクアも綺麗よ。私が衣装を選んだ甲斐があったわ」
午後の奉納舞で、アクアは神具を用意する係だった。
神殿には幾人もの平民が集まり、結界が張られた舞台の下に立っている。
ルーナは水の女神ファンテーヌの位置で舞う。
3つ年上のルーナはまだ20歳にも満たない。神殿に来たのが10歳の時だから、今はまだ17歳のはずだ。一生結婚できないということを、10歳の時に決められたのだ――。そう思うと、胸が締め付けられる感じがした。
舞台の袖で緊張している様子のルーナに、アクアはそっと神具の杖を渡す。いってらっしゃいませ、というとルーナはゆっくりと微笑んだ。
四人の巫女が舞台に立ち、楽師が曲を奏でる。赤、青、緑、黄、4つの色をまとった巫女達はゆっくりと舞い始めた。火の神と風の神は男性なので、二人の巫女は暖炉の女神と空の女神の役だ。
(ルーナ様、とても綺麗......)
ルーナの銀髪が舞うたびにさらりと揺れ、神具からこぼれる青色の魔力が美しさを引き立てる。軽く伏せられた睫毛は長く、細い指先が滑らかに動く。
この国では珍しい銀の髪。艷やかで、さらさらで。なんて素敵な髪だろう、と思った時、幼い頃ルーナに自分の水色の髪を褒めてもらったことを思い出した。深いブルーのこのワンピースも、彼女がわざわざ自費で作ってくれたものだ。
(ルーナ様に仕えられて良かった)
奉納舞の頃、王都では聖女の儀式が行われているはずだ。聖女の祈りと共にこの気持ちが届いたらいいな、とアクアは思った。
翌日の朝、側近仲間たちの悲鳴でアクアは飛び起きた。
彼女達に呼ばれ、慌てて着替えて外に出ると、庭園が枯れていた。
(嘘......)
泉の水は水たまり程度になり、昨日まで色とりどりの花を咲かせていた植物は茶色く干からびている。緑は消え、照りつける朝日だけが見える。
いつからこんなことに、と言う側近の声がだんだん遠くなり、アクアはその場に倒れた。
え? 主人公の名前が予告と違う? その通りでs......こほん、気の所為です。見てご覧なさい、予告の名前もアクアになっていますよ。
(変えましたすみません)
1−2 枯れた土
うーん、、、全然終わらない、、、、、、
次に出す三話の前半までの内容を、最初のプロローグ位置で書きたかったのですが......
「......っ。......」
喉の奥が焼けたようにひりひりする。苦しい。指先が干からびたような感覚がして、動く気力は湧いてこないのに、身体の奥だけが燃えるように熱い。
「っ、......はっ、......」
アクアは意識を集中させ、必死でまぶたをこじ開けた。
霞んだ視界の中、自分を心配そうに覗き込む人の姿が見える。泣きそうな顔でアクアの手を握っていたのはルーナだった。周りを動き回る侍女たちが見える。
「アクア!」
その美しい顔には普段の冷静さはなく、焦りと心配の色が浮かんでいる。
「ルーナ様……私、どうして……」
「庭園で倒れていたの。アクアも気分が悪くなってしまったのね」
ルーナの言葉に、アクアは自分の胸の奥が痛むのを感じた。
──違う。
水気がなくなったから倒れたのではない。 アクアが水の使い手だからこそ、異変の影響を受けてしまったのだ。
「ルーナ様、本当は.....」
違うのです、と続けようとした言葉は掠れ、視界が絵の具をこぼしたように暗くなる。アクアは闇の中に放り込まれ、ルーナの声も遠くなり、消えた。
次に目を覚ました時、窓の外はキラキラと明るい光に満ちていた。アクアの横には変わらずルーナがいる。
前と違って身体が軽い。熱もない。何か一緒に抜けてしまったような感覚もするが、気にしない。アクアは跳ね起きた。
「ルーナ様、わたしが倒れてからどのくらい......」
「4日よ。ずっと高熱が続いて、本当に心配したの......」
ルーナはもう一度アクアの手を握ると、本当に良かった、と言った。アクアは精一杯の微笑みを返した。
「何故、そのようなことが起きたのかしら」
アクアが頬に手を当てると、ルーナがゆっくりと言った。
「儀式で聖女様が身に着けていた水の神具が、砕け散っていたみたいなの」
「神具が、割れた......!?」
力なく頷くルーナの瞳には、重なった疲労が見て取れる。
「えぇ......。そのせいで、国のほとんどの地域で水が干上がっているそうよ。貴族社会は大混乱で、聖女さまにも神官にもどうすることも出来ないらしくて」
巫女も駆り出され、毎日のようにファンテーヌに祈っているらしい。
「あぁ、奉納舞の支度をしなければ。アクア、今日はゆっくり休みなさい」
「奉納舞って、そんな......ルーナ様の負担が......」
「いいの。水は戻らなくても、わたしが祈ることで民の希望になるのなら、わたしは喜んで舞うわ」
言葉が出てこない。何かが吹っ切れた。
あぁ、と思う。
彼女のためなら何をしたって構わない、と。
ルーナが出て行ってから、ベッドの上で考える。
やってみなければ分からないけれど、ルーナのためにやってみる価値はある。
誰も居ない自室で、アクアは密かに準備を始めた。
夜真っ暗になって、月が西に傾いてきた頃、アクアは部屋を出た。
門をくぐり、庭園の一角へ向かう。泉のあった場所。干からびた土に手を当てる。
──あ。
指先が地の深くの何かに反応している感じがする。出来る。
アクアは手にぐっと力を入れた。
「......っ!」
水を引き出そうとするたび、自分の体力が吸われていく感じがする。目がチカチカして、視界が白く染まる。額には冷や汗が浮かび、苦しさが襲ってくる。
視界が点滅するたび、ルーナの顔が浮かんだ。アクアが一生仕えると誓った人。
(水の女神ファンテーヌ様、どうかわたしに力を......!)
ぽちゃん、と水の音が響いた。底から水が溢れ始める。やがてそれは泉を満たし、庭園へと広がっていく。
頭が痛い。苦しい。でもこれでは足りない。
ルーナの愛する街全体が潤うように。
アクアは最後の最後まで力を使い切る。
「はぁっ、はぁっ......」
息を切らしたまま見渡すと、しっかりと水を蓄えた土が広がっていた。やり切った、とアクアは思う。これで少しはルーナを助けられた。
アクアは急いで自室に戻り、荷物をまとめたかばんに手をかけた。中には孤児ではない平民用の服や、お金にするための装飾品が入っている。
使い手の末路。
王都の中央神殿に閉じ込められ、必要な時以外は力を封じられ、何もできないまま一生を終える。
「わたしは、家族に抗うことができなかったけれど......アクアは自由に生きなさい」
(わたしはルーナ様に仕える生き方を選んだ。だから、ルーナ様の言ったことも守る)
そんな風に生きたくない。
アクアは深呼吸をすると、部屋の扉を開けた。
(ルーナ様、申し訳ありません......)
これでいい。アクアにできる精一杯のことはした。これからは、旅人として一人で生きていく。
そう、決めた。
足音を立てないように、気をつけながら歩く。門の扉にそっと手を掛けた、その時だった。
「ここで何をしているの?」
小さな声が響く。主の──ルーナの声が。
読んでくれてありがとうございました!
書くのにかれこれ1時間かかってしまいました。悲しい......
1−3 別れ
ほんっとに終わらない。
これ、100話に入るかな。どうにかしよう。
ひっと声にならない息が漏れる。振り向くことができずに、アクアは立ち止まっていた。
見つかった。
よりにもよって、一番見つかりたくない人に。
「......アクア......」
名前を呼ばれる。
ルーナの声があまりにも弱々しくて、悲しげで、アクアは胸がきゅっと締め付けられる感覚がした。振り向いていいのか分からない。振り向いてしまえば、ついさっきアクアがやったことも、アクアの決意も、その全てが壊れてしまう。大切な主のために。
このまま残れば、中央神殿に入れられ、アクアは主を失う。このまま振り向かず出ていっても、ルーナを失うのは変わらない。
ルーナを失いたくない。
ルーナ様、と呟いたとき、頭の中を色々な場面が駆け巡った。
「まぁ、貴女がアクアね。とても素敵な髪」
「無理しなくていいのよ。貴女が元気なだけで、わたしも元気が出るの」
「アクアに手を出さないで。彼女はわたしの筆頭側仕えであり友人です。弁えなさい」
初めて会ったとき。
病気になったとき。
他の上級巫女の側近に虐げられていたとき。
一言一言がアクアの頭の中でぐるぐると回る。
神官たちの命令で仕えることになったアクアのことを、ルーナは友人だと言った。主従関係だけではないと、家族同然だと言ってくれた。
(......そのルーナ様を、置いていくの?)
アクアは迷わず振り向き、ルーナに駆け寄った。
ルーナは泣いていた。
「ルーナ様っ......!」
ルーナはしゃくり上げることもなく、ただ静かにほたほたと涙を流していた。月明かりに照らされる白い頬を、しずくが伝う。慌てて自分のハンカチを取り出そうとしたアクアを、ルーナはそっと止めた。窓の外にそっと手を置いて、潤った庭園を眺める。
「そう......やっぱり、アクアが」
そっと目を伏せた彼女は、水の使い手? とアクアに尋ねる。アクアはこくんと頷いた。
「やっぱり」
「気づいていたのですか?」
「少し、ね。アクアがよく泉に行っているのを見ていただけよ」
驚いた。ルーナはずっと前から感づいていたのだ。
でも、言わなければならない。
神殿を出ていくと。
ルーナから離れると。
喉の奥で引っかかったままの言葉を言えずにただ立っていると、彼女は寂しげに微笑んだ。
「またわたしは失ってしまうのね」
その言葉にひゅっと息を呑む。
ルーナは10歳の時に家族と離れ、失った。そしてアクアに出会い、家族同然として生きてきた。それなのに、また失いかけているのだ。ルーナがアクアを引き止めようとするのは当たり前だ。
アクアは何もできず、ただおろおろしながら主を見つめる。
旅人として生きると、ルーナから離れると決めた。
けれど。
(本当に、それでよかったの?)
置いていけない。
泣いている主を残して出ていくなんてできない。
中央神殿に入れば、ルーナに会えなくても、支えることはできるかもしれない。
このまま神殿に残ろう、と思った時、ルーナはアクアの目を見つめ、言った。
「行きなさい、アクア」
──え。
反論すら出てこなくて、アクアはぽかんとしてルーナを見る。
真っ赤に泣き腫らした目は、力強くて、優しくて。
ルーナはするりと小指からリングを外した。
「これを渡すわ。お守りよ」
水晶がはめこまれた、銀色のリング。ルーナはそっとアクアの手を取り、左手の小指にはめる。ルーナの指輪は驚くほどぴったりで、暗闇の中月明かりを反射してきらりと光った。
「見送って......くださるのですか?」
「アクアの選んだことよ。止めるわけがないわ」
ほんの少しだけ、ルーナは微笑んだ。旅立つ決心がつかないまま、アクアは指にはまったリングを反対の手で包む。
「ずっと、大切にします」
ルーナはまた泣いていた。笑って泣いていた。
「わたしには分からないけれど、きっとこれから大変なこともあると思う。それでも、どんなことがあったとしても......」
貴女の無事を祈る人がいることを、忘れないで。
アクアは泣き崩れた。
離れたくない。こんな風に言ってくれる人を、ルーナ以外に知らない。二度と会えないなんて嫌だ。
ルーナはアクアの手を握った。
「さぁ、もう行かないと見つかってしまうわ。アクアの行く先には新しい世界が待っているのよ」
そうだ。
ルーナの言葉を守るために、神殿を出ると決めたのだ。
今更それを変えてはならない。
アクアは立ち上がった。まだ溢れてきそうな涙をこらえて、少し後ろに下がる。そっと跪いてルーナの手を取り、そっと頬に当てた。ルーナが目を見開く。
尊敬の意味だ。
幸運の女神ラルフレッテ様のご加護がありますように。
心から祈る。小さく呟いてから、また立った。
涙が溢れるのは止めようがなくて、ぐしゃぐしゃの顔のままルーナの目を見た。ルーナの頬にもまだしずくが伝っている。
ルーナは下町の言葉に慣れているけれど、神殿で生粋の貴族と接するうちに覚えた挨拶だ。声が震えないように、精一杯言う。
「別れの女神レイトミリエ様がおいでなさったようです。時の女神グラストノーラ様に導かれることはなくても、神々の御加護とともに健やかに過ごされますよう」
「えぇ、貴女にも神々の御加護がありますように」
ルーナの微笑みに、アクアは精一杯の微笑みを返した。
振り返らずに、神殿を出た。
冒頭にも書いた通り。
終わりません。
完結の未来は思い描いてるのですが、一生終わらない気がします。
皆さんは何話ぐらいならいいか教えてください。
1-4 旅人として
あぁ、、、
冗談抜きで終わるのか心配になってきた。
アクアは走った。
どこを目指すでもなく、ひたすら走る。
走る。
ただ、走る。
走って走って走り疲れた時には、後ろに見える神殿の明かりは小さくなっていた。
(でもまだ、足りない)
もっと走らなければ追いつかれる可能性がある。アクアは再び走り出した。
何時間走ったか分からない。神殿はとっくに見えなくて、月は西に傾いている。動かし続けた足は悲鳴を上げて、目がチカチカする。
アクアは自分の足を引きずるように、近くの林に駆け込んだ。
糸がぷつりと切れたように、アクアはそのまま倒れ込んだ。そしてそのまま、寝てしまった。
目が覚めると朝日が眩しくて、鳥のさえずりが聞こえた。アクアは嬉しくなって立ち上がる。その途端、木の繊維に引っかかったスカートの裾が嫌な音を立てた。
(......いけない。着替えなければ)
こんなに上質な貴族用のドレスだと、間違いなく目立つ。鞄から平民用の質素なスカートを取り出したアクアは、誰かに見られていないかひやひやしながら着替える。こんなところで着替えるなんて、と思いつつも、もう神殿の常識は通用しないのだと思い直す。我慢して慣れるしかない。なるべく木の陰に隠れながら着替えると、羊の皮でできた地味な色の靴を履いた。
見下ろせば自分でもだいぶ平民らしいと思う。が、問題は髪だ。
アクアの髪は鮮やかな色で目立つ上に、寝ている時のままでハーフアップだ。これでは平民とは言えない。
鏡さえあれば、と思うアクアはうろうろする。どうしたらいいか分からない。鏡がなかったらどうする?
アクアはひらめいてぽんと手を打った。
地面に手を当てて、水を呼び出す。水たまり程度でいい。前みたいに多くなくていい。
アクアは集中する。こぽこぽと音がして、目を開ければ水の鏡ができていた。
水たまりを見ながら、アクアはハーフアップを外す。
(印象を変えないと、よね)
貴族なら似顔絵を配ったりしかねない。髪色がたまたま似ているだけだと言えるように、話し方や性格、見た目まで変える必要がある。
アクアは少し考えたあと、髪をまとめてお団子にしてみた。どうやって結ぶのか分からないまま、ほどいた紐の中で一番シンプルなものを選び結ぶ。いつもは下ろしていた横髪も束ね、すっきりさせてみた。
随分と印象が違う。顔は同じなのに、別人のようだ。水たまりを覗き込みながら、アクアは思った。ルーナ様が居たら可愛いと言ってくれるだろうか、と思った途端、アクアはどきりとした。胸の奥がキリリと痛む。
左手の小指のリングを撫でた。
いつだってルーナ様が守ってくれている。
そう思うと、少しだけ気が楽になった。水たまりをそっと覗き込む。
自分が今まで会った平民がそうであったように、ちょっと気の強そうな顔をしてみる。一度やってみたら怒ったような顔になって、アクアは吹き出してしまった。上手くいかないけれど、感情のない貴族のような表情は消えた。その顔で平民のような物言いをしてみる。
難しくて何度も練習しているうちに、辺りは随分と明るくなっていた。
神殿の中で必死に調達したものを、全て鞄に入れてある。宝石の入った革袋は腰から下げ、手に地図と鞄を持って歩き出した。
もうすぐ、ルパという街につく。
神殿のあるサントルの街からは、随分と遠いはずだ。
アクアは歩きながら、自分の偽の経歴を考えていた。幼い頃読み聞かせてもらっていた本の主人公を思い出し、彼女を参考にする。
大きな川の側にある村に住んでいて、漁業も農業も盛ん。
そこの村長の親戚で、家は裕福。
けれど、母が死に、父が結婚した新しい母にいびられるようになった。
辛くて逃げたくても、家の者は手伝ってくれなくて、家出みたいに村を出た──。
多少無茶な設定でも仕方がない。裕福な家の出にすれば、髪艶の良さも肌の白さも動作の丁寧さも誤魔化しやすい。あとは大人しい少女を演じるだけだ。
(名前は......)
今後何と名乗ろうか。アクアが昔好きだった本──主人公の少女が、家出をしてあちこちを冒険する本──の主人公は、エルーシアだったはずだ。
(ちょっと似せてみようかしら)
継母にいじめられて旅に出た少女。
名前は、アリシア。
近くにルパの街が見える。
アクアの今日やることは、宝石を売ってお金にすること、食事をとること、宿を探すこと。ついでに、しばらく滞在するつもりのルパの街の住民と親しくなること。
まずは宝石を売る。なるべく安そうな宝石を売ったほうが、平民として馴染みやすい。
アクアは街に足を踏み入れた。
しばらく歩くと商店街のようなところがあって、ずらりと店が並んでいる。とても大きな街のようだ。あたりはがやがやしていて、いい匂いが漂っている。ただ、やっていない店が多くあった。干ばつのせいかもしれない。
アクアは宝石を買ってくれそうな店を探して歩いた。手前の方は質素な出店のような感じだったのに、奥に行くにつれてだんだんとしっかりした建物になっていく。
アクアは一軒の店の前で足を止めた。扉を開けると、からころとベルが鳴る。外装よりも質素な感じだ。この店もそこまで裕福ではないのかもしれない。
「こんにちは」
なるべくはきはきとした声を心がけて、店主の男性に声を掛ける。
「やぁ、いらっしゃい。お嬢さん。宝石を買いに来たのかい?」
「ううん。宝石を売りたいんだけど、いいかしら?」
店主は目を丸くしたあと、もちろんと頷いた。優しげな人で、アクアは胸をなで下ろす。彼に連れられてアクアはカウンターの前に来た。
「それにしても、お嬢さん、見慣れない顔だね」
「そうね。つい最近、旅人になったばかりなの」
平民っぽい口調を心がけてアクアは言った。あまり身なりが良いとはいえない格好のアクアでも馴染めそうな店で良かったと思う。アクアは革袋からいくつかのラピスラズリを取り出して並べた。
「最近かい? それはどうして?」
「家族と、上手くいかなくて」
アクアは悲しそうな顔をしながら、偽の経歴を話す。宝石にルーペを近づけながら、へぇ、と興味深そうに聞く店主の顔を見れば、この人は世間話をしているわけではないと分かった。探っているのだ。
喉が引きつって、平民言葉のイントネーションがおかしくなる。
「......というわけ。そのせいで、まだ慣れていないの」
「そうかい。まぁゆっくり馴染んでいけばいいさ」
その言葉にアクアは笑顔で頷く。貴族と接していれば分かる。彼はアクアを警戒しているのだ。
「あぁ、なかなか上等な宝石ばかりだったよ。全部で大銀貨6枚と小銀貨3枚。はいどうぞ」
「ありがとう」
アクアは反射的に左手を出した。銀貨がどのぐらいの価値か分からないが、パンでも買えばわかるだろう。笑顔でお金を受け取った途端、店主の目がきらりと光った。
「おや、ずいぶんと高価な指輪をしてるじゃないか。どこで貰ったんだい?」
また世間話のような笑顔。けれど店主の目だけは笑っていなくて、ルーナにもらった水晶の指輪をじっと見ていた。
今回は長めでした!すみません
なんでこんな長くなっちゃうんだろ。
短編、向いてないかも(´;ω;`)終わらんって
1−5 食事
今日は詰め込みまくったので文が読みづらいかもしれないです。
すみません!
まずい、とアクアは思った。
アリシアがどこでリングをもらったか、考えていない。
よく分かっていなさそうな笑顔を貼り付けながら、必死で考える。
確かに質の良さそうな宝石ではあるが、ルーナが普段遣いしていたのでそこまで価値が高いと思わなかった。伏し目がちで悲しそうな表情をして、言葉を選ぶような仕草をして時間を稼ぐ。
(えぇと、アリシアは村長の親戚よね。それなら......)
「わたしの祖母が昔、お屋敷に仕えていたことがあったみたいで。亡くなる前に、もらったの」
形見だと言えば、いつも付けていても不審に思われないはずだ。
「そうかい。それは大変だったねぇ」
店主がそれ以上探ってこなかったので、アクアは胸をなで下ろす。祖母の形見、という言葉がルーナと重なって、チクリと胸が痛んだ。
お金を袋に入れ、店主にお礼を言って店を出る。この店に来ることはもうないだろう。
(お腹が空いたわ)
アクアは太陽を見る。このぐらいの時間なら、朝食と昼食を兼ねて食べればよいだろう。来た道を戻りながら何を食べようか考える。
今までの食事と近いものがいいな、と思って歩いていると、肉のいい匂いがしてきた。ミートパイだろうか。
アクアの頭の中で今日のメインメニューはミートパイに決定した。あとはスープとパンが食べられれば良いだろう。
「すみません、ミートパイを一ついいかしら?」
「あいよ。大銅貨三枚」
革袋に手を突っ込んでから、小銀貨と大銀貨しかないことを思い出す。思わず謝りたくなるが、なるべくドライな感じを出してアクアは言った。
「あいにく小銀貨しかないの。これでいいかしら」
「ったく。めんどくせーな。ほら」
言葉遣いの悪さに顔をしかめそうになりつつも、表情は崩さない。男の悪態は無視だ。出来立てのミートパイを受け取って、アクアはさっさと歩き出した。
目を凝らしながらポタージュのようなものが無いか探してみる。
しばらく歩くと、くり抜いたパンの中に温かそうなポタージュが入ったものを売っている店があった。これなら2つ同時に食べられる、と思ったアクアはその店へ向かう。大銅貨4枚で買えた。
(椅子に座って机の上で食べたいわ)
アクアはまた目を凝らした。やっと「集会所」という看板を見つけて、フードコートのような場所に座った。
テーブルクロスが無い剥き出しの木のテーブル。こんなところに食事を置くなんて最悪だと思いながら、アクアはミートパイとポタージュのパンを並べる。
アクアはまず、紙に包まれたミートパイに手を伸ばした。いい匂いだ。カトラリー無しで食べるのに引け目を感じながらかぶりついた途端、思わず顔をしかめた。
脂っこい。
アクアが今まで食べてきたミートパイとは比べ物にならない。肉は筋張っているし、臭みが強い。それをハーブで誤魔化しているようで、生地はラードが多いせいで重い。
「......」
アクアは無言でミートパイを置き、ポタージュのパンを手に取った。見慣れた白いパンではない。黒パンだ。
そっとポタージュを飲んだ途端、むせかけた。
(塩を入れすぎよ)
しょっぱい。甘みはほぼ無くて豆の味がする。もしかしたらクリームではなく大豆でとろみをつけたのかもしれない、と思うとがっかりした。器のパンをちぎって食べてみると、硬くてアクアにはとても食べづらかった。
最悪だと思いながら、アクアは我慢して食べる。お腹が空いたら何もできない。
(平民は皆こんな物を食べているのかしら)
そうは思いつつも、アクアも平民だ。孤児でルーナの筆頭側仕えだったから貴族に近い生活ができただけで、身分は平民より低いかもしれない。
宿屋を探してうろうろしていたら、真上にあった太陽は西に傾いていた。庶民向けの宿は少し離れたところにあったみたいで、アクアはため息をつく。
「すみません、ここに泊めてもらえますか」
「はぁい。ちょっと待ってね」
話し方を意識するのも疲れた。受付のような場所に座っていると、奥から恰幅の良い女性が出てきた。
「あら、可愛い子じゃない。泊まってくの? 今日だけ?」
「あ......しばらく泊まりたいのだけれど、どうしようかしら......」
「まだ決まってないの? 旅人?」
「そんな感じ、です」
曖昧に答えると、女将は「こんなに若いのにどうして」と色々と聞いてきた。アクアはアリシアと名乗り、アリシアとしての経歴を話す。継母に虐められていたと言うと、女将は辛そうな顔をした。
「それは大変だったねぇ。じゃあ、後払いでいいから、安い部屋を用意しておくね」
女将が準備をしに出ていったので、壁にかかった絵をぽーっと眺めていた。親切な人だなとアクアは思った。見た目は気が強そうだけれど、いい人なのかもしれない。宝石屋の店主と違って。
(安いのはありがたいけれど、部屋はきっと、狭いわよね)
そんなことを考えていると、女将は思っていたより早く戻ってきた。
「ほら、ついておいで」
女将が用意してくれた部屋は、狭い一人部屋だった。それでも、寝れるところがあるだけで一安心だ。
女将にお礼を言ったアクアは、ぽすんとベッドに寝転がった。
本当はこのまま寝るとこまで書きたかったけど文字数オーバーしちゃうから(´;ω;`)
読んでくれてありがとうございました!
続きもお楽しみに。次回はたぶん月曜日に投稿します!
1-6 ルパの街の宿屋
今回も詰め込んだせいで文章がおかしくなりました!
上達するまでお待ちください
アクアはベッドに転がったまま、天井を眺める。
疲れた。
今になって走り疲れた足が悲鳴を上げて、ぎんぎんと痛む。ベッドは信じられないほど硬くて、布の中に藁でも詰めたのだろうか、土台の木の硬さがまったく和らいでいない。
大銀貨6枚と小銀貨3枚をもらって、今日は大銅貨7枚を使った。長旅をすることを考えれば、もう少し節約した方が良いかもしれない。まだよく分かっていないが、恐らく大金貨、小金貨、大銀貨、小銀貨、大銅貨、小銅貨の6つがあるのだろう。
(食事も美味しくなかったし、快適とは程遠いけれど......初日にしては、頑張った方よね)
色々なことがあったけれど、なんとか乗り切れた。
アクアはリングを撫でる。
ルーナのことだから、神殿であれこれ時間稼ぎをしているのだろう。噂が広まらないように気をつけたり、王都や中央神殿に連絡が行くのを遅くしたり。
何の効力もなかったとしても、このリングがあるだけで、アクアは頑張れる気がした。
ルーナの努力を無駄にしないために、絶対に諦めないと思えた。
そう考えたとき、ふっと睡魔が襲ってきて、アクアは抗わず目を閉じた。
「う......」
カーテンを閉めずに寝ていたせいで、部屋が明るい。夏の終わりの日はまだ長くて、少し早起きしてしまったみたいだ。
アクアはのそのそと起き上がった。背中が痛い。よくこんな硬いベッドで寝れるなと思う。
アクアは鞄を開けた。昨日の朝着替えた神殿の服がそのまま入っている。上質な生地でできたそのワンピースは皺だらけだった。仕方がない、と呟いて、麻袋の中に無理矢理服を押し込む。
大したものは入っていなかった。軽く整理してからアクアが鞄を置くと、鳥がチチチと鳴いた。髪が脂っぽい感じがして、アクアは顔をしかめる。
「湯あみが、したい......」
お風呂に入りたい。そう思ったとき、はっとする。全然気づいていなかったけれど、今は干ばつなのだ。
変なことを言ってはいけない。気を引き締めて、そっとドアを開けた。
人の少ないロビーには、座り心地の悪いソファーがいくつか置いてあった。アクアは何も考えずにソファーに座ってぼーっとする。
「おやおや、早いじゃないか」
奥の扉から女将がやってきたので、アクアは無言で頭を下げる。アリシアだっけ? と笑顔で言う女将の顔をじっと見つめた。昨日の言動からしていい人そうだけれど、何を考えているのか分からない。
「朝食はどうする? 食べに行くのかい?」
「はい。今から行っても大丈夫ですか?」
「いつでもいっておいで。好きなときに出かけていいからね」
「ありがとうございます」
アクアは鞄をとって、そそくさと宿を出た。街を歩きながら、考える。
(今日は何を食べようかしら)
ポタージュのパンは硬かったので、あれだけは食べたくない。パンを買うならばもっと柔らかくないと、アクアの顎が外れてしまう。
昨日のパンは黒色だった。アクアが普段食べていたのは白色だったから、多少高くてもそっちに近い方を選ぶべきではないだろうか。
アクアは散々悩んだ末に、肉の様子がわかる串焼きと、ベリー系のジャムがのったパンを買った。肉は昨日より臭みが少なかったし、ハーブも少なくて美味しかった。パンも昨日より柔らかく、ジャムは野苺の味がした。
街の人の話は、水不足のことばかりだった。
「アリシア。おかえり」
「ただいま......です」
ただいま戻りました、と言いかけて慌てて口をつぐむ。ですを付けて適当に誤魔化した。声が小さくて聞こえていなかったのか、女将は気にする様子がない。今度から声を大きくするように気をつけなければ、と思った。
「どう? 美味しかった?」
神殿の食事に比べたら美味しくはない。けれど、昨日よりは良かった。アクアは笑顔を浮かべて「美味しかった」と言った。何を食べたか聞かれたので、肉の串焼きとジャムパンだと答えておく。
「お金は持ってるの?」
「はい。宝石を売った時のお金だけですけど」
深刻な顔で頷く女将に、アクアは首を傾げた。何か考えているのだろうか。
「それは大変だねぇ。とりあえず、部屋に荷物を置いてきな。そしたら、少し話したいことがあるからまた戻ってきてちょうだい」
アクアはよく分からないまま、部屋とロビーを往復した。
「さて......アリシア。余計なお世話かもしれないけど、このままだと、アリシアのお金は底を尽きるだろう」
そう言う女将に、アクアはこくんと頷く。その通りだ。高そうな宝石は持ってきたつもりだが、限界はある。長いこと働かずに暮らすことはできない。
「だから、しばらくここで働いたらいい」
え、とアクアは目を瞬いた。
(働く......?)
アクアにとっての「働く」は、ルーナに仕えて食事と部屋をもらうことだ。ルーナ以外の誰かのために働くなんて、想像がつかない。
「まぁ、うちとしても人手が増えたらありがたくてね。お金はやれないけれど、住むところと食事だけは保障できるよ。どうかい?」
アクアは女将を見た。
(もしかして......これ、とても良い提案なのではないかしら)
アクアは日中暇だ。その時間をこの宿屋の手伝いに使うだけで、食事代と宿泊代が浮く。すごく魅力的ではないだろうか。
決めた。
アクアが「ぜひ、お願いします」と言うと、女将は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「よかった。ただ、部屋はうちで雇ってる子達と相部屋になっちゃうけど、いいかい?」
「大丈夫です」
荷物を見られたりしなければ問題ない。そんなマナーのない人は恐らくいないと思うが、念のため気をつけておこう、とアクアは思った。
「じゃあ、ついておいで」
アクアは立ち上がった。女将のあとに続く足音は、不思議と前日より軽やかだった。
読んでくれてありがとうございました!
更新遅れて申し訳ありません。
1-7 日常が始まる
頑張って書きました!( ・´ー・`)どや
「よ、嬢ちゃん。3泊してくけどいくら?」
「安いのがいいですか? 今空いている一番狭い相部屋だと小銀貨2枚です」
「ん。はい」
受付に座るアクアは、時折やってくる客からお金を受け取っていた。
「ごゆっくりどうぞー」
宿屋で働き始めてから一週間。仕事にも慣れ、平民の生活に馴染んできた。アクアは頬杖をついて受付の机に寄りかかる。
(小銀貨2枚でギリギリ3泊ってことは......1泊いくら?)
お金の感覚を身に着けようとしているが、難しい。まだよく分かっていない。
「アリシア、お疲れ様。交代ね」
「はぁい」
薄橙色の短い髪を揺らしながら、リューヌが来た。もう交代の時間だ。アクアは立ち上がり、自分の相部屋に向かった。
アクアの部屋はとても狭くて、二段ベッドが2つあるだけだ。女将──メイルが色々と配慮してくれたようで、部屋のメンバーは皆年が近い。
「アリシア! おかえりっ」
たったっとフルールが走り寄ってきた。彼女はアクアと同じ14歳で、淡い紫色の髪に薄桃色の瞳がとても美しい少女だ。新しくやって来たアクアによく懐き、「大人っぽい」と尊敬しているらしい。アクアは、おっとりしているけれど真っ直ぐで明るいフルールが好きだ。
自分のベッドに座っているネージュは、「あぁ、なんだ、来たのね」という顔をした後、また本を読み始める。無愛想なのに、顔立ちは綺麗。灰色の髪がよけいにそれを引き立てる。
アクアはネージュが何の本を読んでいるのかずっと気になっていた。高価な本を、住み込みで働く16歳の少女が持っているわけがないのだから。
ついさっき交代したリューヌは、明るくて無邪気なお転婆だ。まだ13歳の彼女を諌めるのがネージュの役割になっている。リューヌの気が強いところはネージュに似ているけれど、おしゃべりが好きな所は真逆だ。そんなリューヌは聞き手に徹することが多いフルールとよく話している。
フルール、リューヌ、ネージュ。
これがアクアの部屋のメンバーだ。
「ねぇ皆、知ってる? 向こうのサントルっていう街は、一夜のうちに水に満たされて|泉《オアシス》になってるらしいよ」
「知ってる。5日ぐらい前に客が言ってた」
「わたしも最近聞いた! びっくりだよね」
就寝の時間に、リューヌがベッドから身を乗り出して言った。ネージュとフルールも同意したので、アクアは笑顔を浮かべて相槌を打つ。
「ねぇ。わたしも一昨日ぐらいに聞いたけど、えっ? って思った」
宿屋で働き始めてから、口調もだいぶ変わった。フルール達3人の話し方を真似するだけでこんなに変わると思わなかった。
「やっぱもう知ってるか。それでね、噂で聞いたから本当かどうか知らないけど、まだ未成年の少女がその日の晩に失踪したんだって! 絶対何かあるよね?」
「えー、もしかしてその人実は貴族で魔法が使えたとか?」
「お貴族様が一人居て元に戻るなら今頃わたしらはこんな苦労してないって。お風呂入りたい」
「なんかお風呂入れないと変な感じするよね」
(......「失踪した」人がわたしだって気づきませんように)
楽しげに会話する三人と一緒に笑いながら、アクアは頬が引きつるのを感じた。
自然な感じを装っているとはいえ、干ばつの話題になるとアクアはいつもひやひやする。バレたら終わりだ。バレるくらいならその前にこの街を出ていかなければ、アクアが神殿から逃げた意味がなくなる。
それでも、この時間は単純に心地よかった。皆と話せるのが楽しいと、アクアは思っていた。
「あ、そうそう。今日わたしね......」
おしゃべりは続く。アクアが眠りについたのは、夜遅くなってからだ。
住み込みの者が毎日食べるこの味の薄い食事にも、埃と木材の匂いが混じった建物にも、だいぶ慣れた。アクアが神殿を出たあの日から、二週間が経っていた。
平和だった生活は、不穏になりつつあった。
貴族達が、サントルの街を泉にした人を探している──失踪した神殿の側仕えを探しているという噂は、広まっていた。気づいたのだ。|彼女《アクア》がやったのだと。
アクアは宿屋から出ないし、髪は変わらずアップにしている。あの頃から髪も顔も随分と汚れたので、水色の髪は青っぽく、白い肌は茶色く見えているはずだ。ありがたいことに、誰もアクアが神殿の者だと思っていない。
それでもアクアは、なるべく受付の仕事を減らそうとしていた。人に会わないようにするためだ。「髪色が水色の少女を探している」となった時、手下の情報収集でアクアのことを話されたら困る。だから、使い終わった部屋の片付けや掃除、料理の手伝いなど、人目につかない仕事を好んでやっていた。
「じゃあ、四人でお皿を下げて洗っておいて」
「分かりましたー」
基本的にフルール、リューヌ、ネージュ、アリシアでセットにされることが多い。アクアは「わたし、お皿洗ってくるね」と言って急いで食堂から出た。
客達が部屋に戻り、片付けが終わればその日の仕事は終わりだ。アクア達四人はそろって階段を登る。他愛ない話をする時間が増えて、アクアは嬉しかった。
いつもと変わらない穏やかな笑顔のフルールが、そうそう、と話を切り出す。
「皆、属性の使い手って知ってる?」
アクアの笑顔が凍る。
普段通りのテンションのリューヌとネージュ。アクアだけが、笑顔を引きつらせていた。
新しい名前がいっぱいですね。
ちなみに、女将さんの名前メイル(本来はメール)は母という意味です!
フルール、リューヌ、ネージュも同じようにフランス語になっています。花、月、雪です。
可愛い子達だけど、、、出番はあるかしら(考えてない)