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目次
1 氷の継母
私は今までの自分が嫌いだった。
母には虐げられ、父に罵倒され、妹に居場所を奪われた。
それでも何も言い返せず、看過してしまう自分が大嫌いだった。
ある日のことだった。
いつものように私は雑務をしている時に、執事長が慌てた様子で父の部屋の扉を開けた。
「ご主人様! たった今連絡が参りました。……奥様とセリーナ様がご乗車していらした馬車が山賊に襲われ、今は療養室で寝ていらっちゃるそうです」
「な、なんだと!?」
父は掃除をしていた私のことは見向きもせず、一階へと駆け下りていく。
「あの……お嬢様……」
恐る恐る話しかけてきたのは専属メイドのウェーランだった。
「私が行っても嫌がられるだけですわ」
「……あぅ……ぁ……」
彼女は何か言おうとしたが、口を閉じ、掃除を始めた。
翌日。
私が朝起きると、なんだかホールがざわざわしていた。
「何があったのかしら……」
ぼそりと呟いて、少し眺めていると、いつの間にか礼服を着た父が私の後ろに立っていた。
「何をしているんだ? ネージュ、お前は雑務でもしていろ。こんなところで立ち止まっていては通行の妨げだ」
父はどん、と私のことを突き飛ばす。
「きゃっ」
「本当にお前は使えないな。母親と妹が死んだというのに、表情一つ変えない! お前はこの家の恥だ!」
(死んだんだ。まあ知らなかったし、どうでもいい)
私がよいしょっと立ち上がると、父はチッと舌打ちをすると、一階へ降りて行った。
「大丈夫ですか……っ、お嬢様」
「ええ、大丈夫よ……っ」
ズキ、と鈍い痛みが腰に走る。
「お嬢様っ……!」
「大丈夫よ。どうせ医者を呼べ、と言ったところで誰も動いてはくれないわ」
「……そう……ですね……」
メイドも困らせてしまっている自分が嫌になってしまう。
「ごめんなさいね」
「……っいえ……っ」
私はウェーランの顔をまともに見ることができず、走って逃げてしまった。
ウェーランの制止する声も聞かず、私は屋敷の裏庭まで走った。
けれど、腰の痛みは走るたびに強くなり、やがて足がもつれてその場に膝をつく。
「……っ、痛……」
誰も来ない。
誰も心配しない。
それが当たり前だった。
私は小さく息を吐き、庭の隅にある古い東屋へ向かった。
幼い頃、まだ母や父が今ほど冷たくなかった頃に一度だけ来たことがある場所だった。
そうだ、昔、セリーナが階段から落ちた時、罪を擦り付けられてから、母と父は冷たくなったな。
「私……泣いてないのね」
母と妹が死んだ。
普通なら悲しむべきことなのだろう。
だが涙は一滴も出なかった。
いつもなら、この時間には厨房の手伝いをしている頃だろう。
だが今は身体を動かす気力がなかった。
「お嬢様!」
遠くから聞こえた声に、私は顔を上げた。
ウェーランだった。
息を切らしながらこちらへ走ってくる。
「やっと見つけました……!」
「どうして追いかけてきたの?」
「心配だったからです。今日は主人が応接間でお客様のお相手をしていらしているので、秘密ですよ」
にっこりと微笑んだウェーランのバスケットには、パンが二つと、リンゴが入っていた。
「……っ、これ、私の?」
「はい。朝から何も召し上がっていないでしょう?」
ウェーランはそう言って、少し潰れてしまったパンを差し出した。
私は思わず目を見開く。
この家で、私のために用意された食事など、いつぶりだろう。
「でも、これを持ってきたら怒られるんじゃ……」
「大丈夫です。余り物ですから」
そう言いながらも、ウェーランは少しだけ目を逸らした。
おそらく嘘だ。
彼女が自分の昼食を削ったのだろう。
けれど、それを指摘することはできなかった。
「ありがとう」
小さくそう言うと、ウェーランはぱっと表情を明るくした。
「はい!」
私はパンを一口かじった。
少し硬かった。
それでも温かかった。
その温かさが、なぜか胸に染みる。
気付けば視界が滲んでいた。
「お、お嬢様!?」
「変ね……」
たった一つパンをもらっただけで、涙が溢れてくる。
「私……情けないわね」
「そんなことありません!」
「ふふ」
思わず笑みが漏れた。
ウェーランが持ってきてくれたパンを食べ終える頃には、私の涙も少しだけ落ち着いていた。
「落ち着きましたか?」
「ええ……見苦しいところを見せてしまったわね」
「そんなことありません!」
ウェーランはぶんぶんと首を横に振る。
「さあ、お嬢様。お屋敷に戻りましょう」
ウェーランに促され、私はゆっくりと立ち上がった。
「……そうね」
立ち上がった瞬間、腰に鈍い痛みが走る。
「っ……」
思わず顔をしかめると、ウェーランが慌てて駆け寄った。
「やっぱりお医者様を……!」
「無理よ」
私は小さく首を振る。
「呼んだところで、父は許可しないわ」
その言葉に、ウェーランは悔しそうに唇を噛んだ。
二人はゆっくりと屋敷へ戻った。
途中、何人かの使用人とすれ違ったが、誰も私に声をかけない。
むしろ見ないふりをして足早に去っていく。
それがいつもの光景だった。
しかし今日は、一人だけ違った。
厨房で働く年配の女性が、私を見るなり小さく頭を下げたのだ。
「お嬢様」
「……え?」
私は思わず立ち止まる。
女性は周囲を気にしながら、小さな紙袋を差し出した。
「焼き菓子です。余ったものなので」
それだけ言うと、慌てて厨房へ戻っていった。
私は呆然と紙袋を見つめる。
中には小さなクッキーが数枚入っていた。
余り物。
たぶん、それも嘘だろう。
今日だけで二回も嘘をつかれている。
自分のための優しい嘘を。
「……変な日ね」
ぽつりと呟く。
母と妹が死んだ日なのに。
「ウェーラン、いる? ちょっとこっちの手伝いして」
と、母の部屋からメイド長が顔を出した。
「は、はい!」
慌てて返事をしたものの、彼女はちらりと私を振り返る。
「お嬢様、お部屋までお送りします」
「大丈夫よ。一人で行けるわ」
そう言って微笑むと、ウェーランは少しだけ迷うような顔をした。
「本当に?」
「ええ」
「……無理はなさらないでくださいね」
私は頷く。
それを確認すると、ウェーランは小走りで母の部屋へ向かっていった。
母の部屋の扉が閉まる音が廊下に響く。
握りしめた紙袋からは、焼き菓子の甘い香りがほのかに漂っていた。
「……私のため、なのよね」
誰に聞かせるでもなく呟く。
そんな当たり前のことが信じられず、何度も確かめたくなってしまう。
やがて私は自室へ向かった。
屋敷の最上階にある、小さな部屋だった。
公爵令嬢の部屋とは思えないほど質素で、家具も最低限しかない。
「はぁ、痛い……」
さっきからいつもの速さで歩いていたせいか、腰の痛みがひどくなってきている。
と、コンコン、とドアが叩かれた。
「はい」
私がすっとドアを開けると、最近入ってきたばかりの新人メイドのファリィだった。
「あら、ファリィ。どうしたの?」
「あの、ネージュ様、腰を痛めていらっしゃるでしょうか……? よければこちらを……どうぞ」
ファリィは周囲を気にするように何度か廊下を見回すと、小さな瓶を差し出した。
「これは……?」
「湿布代わりの薬草をすり潰したものです。母がよく腰痛の時に使っていて……。医者の薬ほどではありませんが、少しは痛みが和らぐと思います」
私は瓶を受け取り、目を瞬いた。
「ありがとう」
そう言うと、ファリィは少し頬を赤くした。
「い、いえ! それでは失礼します!」
ぺこりと頭を下げると、彼女は慌ただしく去っていった。
部屋に残された私は、手の中の小瓶を見つめる。
「……本当に、変な日ね」
私はベッドに腰掛け、そっと薬草を塗る。
すると少しだけ痛みが和らいだ気がした。
「少し……楽かも」
久しぶりに柔らかい寝台へ身体を預ける。
ここ数年、まともに休むことなどほとんどなかった。
目を閉じると、すぐに意識が沈んでいった。
---
それから三日が過ぎた。
母と妹の葬儀は滞りなく終わったらしい。
私は参列を許されなかった。
父が「来るな」と言ったからだ。
けれど屋敷の空気は少しずつ変わっていた。
「ネージュお嬢様、お茶です」
「ありがとう」
「本日のお食事はこちらになります」
「助かるわ」
使用人たちの態度が、明らかに柔らかくなっていた。
もちろん全員ではない。
だが以前のような露骨な無視や嫌がらせはほとんどなくなった。
母とセリーナが亡くなったからだろうか。
それとも、ただの気まぐれなのだろうか。
その答えは数日後に判明することになる。
ある日の昼下がり。
屋敷中が朝から慌ただしかった。
使用人たちは廊下を忙しなく行き来し、玄関ホールには新しい花まで飾られている。
「何かあるのかしら」
私が厨房へ向かう途中、ウェーランがこっそり耳打ちしてきた。
「お嬢様、ご存じありませんか?」
「何を?」
「新しい奥様がお見えになるそうです」
ネージュは足を止めた。
「新しい……奥様?」
「はい。旦那様が再婚されるそうです」
あまりにも突然だった。
まだ母の葬儀から一週間ほどしか経っていない。
だが驚きはしなかった。
父ならそうするだろう。
むしろ予想より遅かったくらいだ。
「そう」
「はい。それで今から到着されるそうで……」
ウェーランはどこか緊張した様子だった。
「そんなに怖い人なの?」
「その……お噂では」
ウェーランは声を潜める。
「『氷の伯爵夫人』と呼ばれている方だとか……」
「氷の?」
「とても厳格なお方で、笑ったところを見た人がほとんどいないそうです」
私は少し考える。
(別に今より悪くなることもないでしょう)
そう結論づけた。
どうせ自分は家族ではなく使用人同然なのだ。
継母が誰であろうと関係ない。
その時だった。
外から馬車の音が聞こえた。
「来た!」
誰かの声が響く。
玄関ホールが慌ただしくなる。
好奇心に負けた私は二階の吹き抜けからそっと下を覗き込んだ。
大きな扉が開かれる。
まず降りてきたのは護衛たちだった。
そして最後に。
一人の女性が馬車から姿を現した。
黒色の髪。
深い赤色の瞳。
黒いドレスを纏った美しい女性。
年齢は三十代半ばほどだろうか。
その姿には圧倒的な威厳があった。
(この方が私の、母になる人ね)
2 氷の継母2
義母は少し、辺りを見回す。
目があったような気がしたが、気のせいだったようだ、護衛を引き連れて屋敷の中へ入ってしまった。
(すごく、綺麗な人だったわ)
きりっとした目に、少しも乱れていない髪の毛。美しい姿勢と顔には妖しささえ覚えるような完璧な人だった。
公爵といえど、あんなだらけた父とは大違いだ。
(あの方のマナー講座を受けてみたいわ)
そうすれば少しはこの家の待遇も変わるかもしれない。
まあ、無理だろうが。
「お嬢様、夫人に呼ばれては大変ですから、ドレス、着ますよ」
「はい」
ウェーランに呼ばれ、私は鏡台の前に立つ。
私はウェーランにコルセットを締めてもらいながら聞いた。
「ねえ、ウェーラン? 私は今までメイド同然の生活をしていたのに、コルセットだけはつけていたのってなぜかしら?」
「……ああ、それは……セリーナ様が万が一、結婚したくない方から縁談が来てしまった場合……お嬢様をお嫁に出すため、です。粗相があってはいけませんから」
「なるほど。まあ、そのおかげでこうやって本当に必要になった時、辛くないからまあ、いい……のかしらね?」
「……お嬢様次第です。……さあ、お嬢様、パニエは何枚に致しますか?」
「……2枚で」
「これから先はもっときつくなりますよ?」
「じゃあ、3枚」
「承りました~」
ウェーランは今までより高い声でだんだん履かせていく。
「……うぐぅ」
「それでは一人前にはなれませんよー。ドレスを着せますね」
ウェーランは手際よくドレスを整えると、最後に淡い銀色のリボンを結んだ。
「はい、完成です」
鏡に映った自分の姿を見て、私は少しだけ目を瞬かせた。
「すごくお似合いですよ、お嬢様!」
「ウェーランは私を買いかぶりすぎよ」
「そんなことありません。お嬢様は元々とてもお綺麗です」
さらりと告げられてしまい、私は少しだけ視線を逸らした。
コンコン。
部屋の扉が叩かれる。
「入ってもよろしいでしょうか」
少し慌てたような執事長の声が聞こえる。
「どうぞ」
ウェーランが答えると、すぐにドアが開いた。
「奥様がお呼びです。……そちらのドレスは、セリーナ様のものでは?」
執事長はもともとセリーナのお付きの執事だったようで、顔をしかめた。
その反応だけで、私はなんとなく察してしまった。
このドレスも、本来なら私のために用意されたものではないのだ。
ウェーランが眉をひそめる。
「ですから何だと言うのですか? セリーナ様がお亡くなりになった以上、誰かが着なければ保管されるだけでしょう」
「そういう問題ではない」
執事長は不快そうに言った。
だが私は首を振る。
「大丈夫よ、ウェーラン」
もともと期待していなかったことだ。
私は静かに立ち上がる。
「お義母様がお呼びなのよね?」
「……はい」
執事長は一礼した。
執事長に案内され、私は応接間へ向かった。
---
応接間の前に到着すると、執事長がノックをした。
「奥様。ネージュ様をお連れいたしました」
「入りなさい」
広い部屋の中央には、黒いドレスを纏った義母が優雅に腰掛けている。
父はその隣に座っていたが、どこか落ち着かない様子だった。
私は静かに頭を下げる。
「お初にお目にかかります、お義母様。ネージュ・アルセリアでございます」
私が礼をすると、部屋にはしばし静寂が落ちた。
まるで、品定めをしているかのようだ。
と、不意に義母が口を開いた。
「顔を上げなさい」
「はい」
言われた通り顔を上げる。
その瞬間、義母の赤い瞳がわずかに見開かれた。
「……そう」
ぽつりと呟く。
「……すぅ……あなた、その腰はどうしたの? 少し曲がっているわ、怪我をしているのではないかしら? あと、そのドレスはサイズが合っていないわ。誰かのおさがりなのかしら。執事長、すぐにネージュにあったドレスの用意と医者の手配をお願いします。……ネージュ、あなたお作法の授業はあった? そのあいさつでは相手に失礼だわ」
私は一瞬、何を言われているのかわからなかった。
腰、ドレス、それに挨拶のことまで。
一度に言われすぎて頭が追いつかない。
「え、あ……」
思わず言葉に詰まる。
義母は小さく眉をひそめた。
「返事は?」
「は、はい」
「違うわ」
「……え?」
「はい、ではなく『はい、お義母様』。相手に敬意を示す時は言葉を省略しないものよ」
厳しい口調だった。
義母の言葉に、私は反射的に背筋を伸ばした。
「は、はい、お義母様」
「よろしい」
義母は頷く。
その様子を見ていた父が、どこか困惑したように口を開いた。
「エレオノーラ、公爵家の挨拶としては十分だろう」
「十分ではありません。エディルオ、彼女がきちんとしたあいさつをすることによってわたくし達の面子も立ちますわ」
ぴしゃりと言い切られ、父は口を閉ざした。
義母は優雅に紅茶を口へ運ぶ。
そしてカップを置くと、私へ視線を向けた。
「ネージュ」
「はい、お義母様」
「あなた、今まで家庭教師はついていた?」
「いいえ」
「音楽は?」
「少しだけ独学で」
「外国語は?」
「近隣三か国の読み書きなら」
義母の眉がぴくりと動いた。
「独学で?」
私はそこで待ってました、と言わんばかりの食いつきで息を吸った。
「いいえ、幼いころから私の専属メイドであるウェーランに習いました」
「メイドに!?」
「はい」
義母の声がわずかに大きくなった。
父も執事長も、揃ってウェーランのほうを見た。
当のウェーランは応接間の隅で控えていたのだが、突然全員の視線を浴びてびくりと肩を震わせる。
「ウェーランと言ったわね」
「は、はい」
「あなたがネージュに外国語を?」
「す、少しだけです!」
ウェーランのことを驚いたような目で見つめると、義母は私の方を見た。
「ネージュ、近隣三か国語の読み書きはどの程度できるの?」
「新聞程度なら問題なく」
「手紙は?」
「隣国の王族を招待する手紙ぐらいなら書けます」
今度は義母が天を仰いだ。
父も天を仰いだ。
執事長まで天を仰いだ。
なぜだろう、今日の応接間は首に悪そうな人が多い。
「ネージュ、その場で隣国の言葉を話してみなさい」
「どこの国の言葉でしょうか」
義母は数秒沈黙したあと、小さく息を吐いた。
「南方連合語で」
「承知いたしました」
私は流れるように南方連合語で挨拶した。
さらに義母がいくつか質問を投げてくる。
私は普通に答えた。
そのやり取りが終わる頃には、応接間が妙な静けさに包まれていた。
父など口が半開きである。
「……」
「お義母様?」
「今度は西方王国語」
「はい」
同じように返答する。
さらに東部諸侯国語。
そちらも問題なく答えた。
義母はふぅ、と息を吐く。
「家庭教師を三人。礼儀作法、歴史学、政治学。音楽教師も必要ね」
「お義母様?」
「ドレスは十着ほど作らせましょう。部屋の家具も交換。食事はわたくしと一緒に取りなさい」
父は勢いよく立ち上がった。
「おい待て、エレオノーラ! そこまでする必要はないだろう!」
義母はカップを置き、静かに父を見た。
「必要で。「家庭教師なしで三か国語を習得し、礼節も最低限は身についている。才能も努力もある子です。それを放置する理由がわたくしには理解できません」
「……好きにしろ」
どこか投げやりな声だった。
しかし義母は満足そうに頷く。
「ええ、そうさせていただきます」
そして再び私へ向き直った。
「ネージュ」
「はい、お義母様」
「あなたは自分の価値を理解していないようね」
「価値、ですか?」
私が問い返すと、義母はやわらかくも崩れないような完璧な笑みを浮かべた。
「あなたは今日から毎日わたくしのところへ来なさい」
「え?」
「価値観の矯正が必要だわ」
「か、価値観の矯正ですか?」
「重症ですもの」
(重症……? 何の話かしら……!?)
私が混乱していると、義母は再び紅茶を口に運んだ。
「例えばよ、ネージュ」
「はい、お義母様」
「もし誰かが三か国語を話せて、礼儀作法も独学で学んでいて、家中の仕事をこなし、文句一つ言わず努力していたとするわ」
「はい」
「その人物をどう評価する?」
私は少し考えた。
「……とても優秀な方だと思います」
「そうね」
義母は頷いた。
そして指を一本立てる。
「その人物があなただとしたら?」
「違うと思いますわ。私は失敗も多いですし、要領も悪いですし、顔も普通ですし、家事しかできません」
私は口を閉じた。
義母は深々とため息をつく。
「まず一つ教えてあげる」
義母はまっすぐ私を見た。
「虐げられて育った子は、自分を過小評価する癖がつくの」
私は目を見開く。
「周囲から価値がないと言われ続ければ、それを信じてしまう。あなたはその状態よ」
「……」
「だから今のあなたの自己評価は当てにならないわ」
「もし、本当に価値がある人間なら……どうして誰もそう言ってくれなかったのでしょう」
義母の赤い瞳がわずかに細められた。
「簡単な話よ、周囲が間違っていたから」
「才能のある子に教育を与えず、怪我をしても医者を呼ばず、まともな服も食事も与えない。それを育成とは呼ばないわ」
「三か月後、王都で夜会が開かれるの」
「そうなのですね」
「あなたも参加するわ」
私は固まった。
「む、無理です! というかダメです!」
「だから勉強するのよ。大丈夫。あなたなら出来るわ」
私は不意に胸が熱くなるのを感じた。
信じてもらえる、という当たり前のことが、どうしてこんなにも嬉しいのだろう。
気付けば視界が少し滲んでいた。
「まったく」
義母は小さく呟く。
「この家は、本当に宝石の扱いを知らなかったのね」
3 氷の継母と授業
「ネージュ、もっと姿勢を伸ばして!」
「っはい!」
私は今絶賛義母のマナー講座中である。
なんでも夜会では第一印象が重要らしい。
立ち方、歩き方、扇子の持ち方、笑みの浮かべ方。
毎日毎日、朝から晩まで叩き込まれていた。
最初こそ地獄だった。
正直、庭の草むしりの方が百倍楽だったと思う。
「肩に力が入りすぎよ、あと顎を引きなさい!」
「ふぁい、お義母様……」
「次は引きすぎよ! 極端だわ」
私が涙目になりながらもやり続けていると、ウェーランが「お嬢様は何事にもまじめですから……」と苦笑する。
「ウェーラン……、それはもう悪口……」
思わず声を上げると、義母はふっと口元を緩めた。
私は思わず固まる。
「どうしたの?」
「いえ」
「言いなさい」
「今、笑いませんでした?」
義母は数秒ほど沈黙したあと、優雅に咳払いした。
「気のせいよ」
「でも」
「気のせい」
「はい」
ものすごい圧だった。
なるほど、この方を氷の伯爵夫人と呼ぶ理由が少し分かった気がする。
---
それからさらに一か月が経った。
ネージュ・アルセリアの日常は一変していた。
朝は礼儀作法。昼は歴史。午後は政治学。夕方はダンス。夜は外国語。休憩代わり
にピアノや刺繍、たまに乗馬。
正直に言えば、私は毎日死にそうだった。
---
ある日の午後。
私は仕立て屋の集団に囲まれていた。
「腕を上げてくださいませ」
「はい」
「今度は一回転を」
「ひゃっ」
「素晴らしいです!」
何が素晴らしいのか分からない。
仕立て屋たちは目を輝かせながら私の周りをぐるぐる回り、寸法を測ったり布を当てたりしている。
「この銀髪でしたら淡い青もお似合いですわ」
「いや、純白も捨てがたい」
「夜会用なら濃紺も……!」
まるで私ではなく人形を見ているような盛り上がり方だった。
---
その日の夕食後。
私はふらふらになりながら義母の書斎へ向かっていた。
「失礼します」
扉を開けると、義母は書類に目を通していた。
「来たわね」
そう言って机の上に一枚の紙を置く。
「これは?」
「夜会の招待客一覧よ」
私は紙を見る。
王族、公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家に男爵家、有名な商会の名前。
知っている名前がずらりと並んでいた。
「うわぁ……」
思わず声が漏れる。
「緊張する?」
「はい」
「そう」
義母はあっさり頷いた。
「なら慣れなさい」
「無茶をおっしゃいますね」
私が苦笑すると、義母は少しだけ口元を緩めた。
最近ようやく分かってきた。
この人は意外と冗談を言う。
表情がほとんど動かないので分かりにくいだけだ。
---
さらに一か月。
夜会まで残り一か月となった頃だった。
その日は政治学の授業だった。
「では、ネージュ嬢」
家庭教師が微笑む。
「隣国との関税を引き下げた場合の利点と欠点を述べてください」
私は少し考える。
そして答えた。
「利点は交易の活性化です。物資の流通が増え、商人も利益を得られます」
教師が頷く。
「欠点は?」
「国内産業が圧迫される可能性があります。また、特定の国への依存が強まれば、有事の際の危険も増します」
「……はぁ」
先生はため息をついた。
(あ、間違えた、これは授業初の間違……)
「二カ月で、その答えがすらすらとでるのは本当に素晴らしいことですよ!」
「はあ、ありがとうございます」
---
授業が終わり、私は教材を抱えて廊下を歩く。
すると角を曲がった先で、父と義母が話している声が聞こえた。
いや、正確には父が一方的に文句を言っていた。
「だから言っているだろう。夜会に出すのはまだ早い」
「何度も申し上げていますが、十分ですわ」
「エレオノーラ、お前は買いかぶりすぎだ」
私は思わず足を止める。
聞いてはいけない気がしたが、名前が出ている以上、そのまま通り過ぎることもできなかった。
「買いかぶりなどではありません」
義母の声音はいつも通り静かだった。
「むしろ今まで正しく評価されていなかっただけです」
「だとしても社交界は甘くない」
「知っています」
「失敗したら家の恥になるぞ」
その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。
やっぱり父はそう思っているのだろう。
「ではお聞きします」
義母はぴしゃりと言った。
「今のネージュに政治学で勝てるのですか?」
「それは……」
「外国語は?」
「……」
「礼儀作法は?」
父が黙る。
義母は容赦しなかった。
「あなたはネージュの何を知っているのです?」
私は思わず息を呑む。
「ネージュは努力家です。才能があるだけではありません。誰よりも努力をする子です。だからこそ、わたくしはあの子を夜会へ連れて行きます」
私は慌ててその場を離れた。
盗み聞きをしてしまった後ろめたさもあったが、それ以上に胸の奥が妙に熱かった。
(やっぱり、お義母様はお優しい方だわ)
---
その日の夜。
私は自室で歴史書と格闘していた。
「第七次南方戦役……」
ぱたん、と本を閉じる。
「覚えられない……」
歴史だけは苦手だった。
誰がいつ何をしたのか。
名前も年代も似たようなものばかりだった。
「アルベルト二世とアルベルト三世ってなんなの……」
もう一人いるの、と思わず呟いてしまう。
「あぁ~! 歴史なんか大っっっ嫌い!!」
思わず叫んだ瞬間だった。
部屋の扉が叩かれた。
「はい!」
「わたくしよ」
私は静かに人生の終わりを悟りながら扉を開けた。
「お義母様、こんばんは」
「こんばんは」
義母は机の上に積み上がった本へ視線を向けた。
「歴史、嫌いなの?」
「だ、大好きです」
「嘘ね」
「嫌いです……どちらかといえば大嫌いです……」
「そう、素直ね」
怒られるかと思った。
けれど義母は意外そうな顔もせず、ただ静かに頷いた。
「嫌いな理由は?」
「覚えられません……、アルベルト二世と三世がいるなら最初から別の名前にしてほしいです」
「それはそうね」
義母が同意した。
「どこが分からないの?」
「全部です」
「範囲が広すぎるわ」
「歴史そのものが苦手なんです……」
義母は数秒考えた。
そして意外なことを言った。
「では人物で覚えなさい」
「人物?」
「歴史は人間の失敗の記録よ」
私はぽかんとする。
義母は本を開いた。
「例えばこのアルベルト二世は戦争を起こした」
「はい」
「なぜ?」
「……領土が欲しかったから?」
「そう」
義母は頷く。
「つまり欲張りだったのよ」
「たし……、かに」
「三世は?」
「税金を上げて反乱を起こされた人です」
「つまり?」
「お金にうるさかった」
「そういう覚え方で十分よ」
私は目をぱちぱちさせた。
なんだろう。
急に覚えられそうな気がしてきた。
「歴史は年代を暗記する学問じゃないわ」
義母は続けた。
「人が何を考え、何を失敗し、何を成し遂げたのかを学ぶものよ」
「……」
「だからまず人を覚えなさい」
私は思わず感心した。
さすがお義母様である。
説明が上手い。
「返事は?」
「はい、お義母様!」
4 氷の継母と授業2
お茶会まであと二週間。
私はずっとそわそわしていた。
(王族に会うなんて緊張するわ。同じ公爵家の友達もできるかしら……)
「今からでも楽しみだわ!」
私は新しく与えられた自室のベッドで抱き枕を抱きながら、満面の笑みを浮かべた。
---
翌日。
「ネージュ嬢」
政治学の家庭教師がにこやかに微笑む。
「今日はテストですよ」
一瞬、私の頭の中が真っ白になる。
(は、え、抜き打ち?)
思わず固まる私を見て、家庭教師はにこりと微笑んだ。
「ご安心ください。普段の復習です」
「先生、それを世間では安心できないと言うんです」
「では始めましょう」
私は震える手で問題用紙を受け取った。
税制、外交、商会との関係、領地経営。
最初の頃なら一問も解けなかっただろう。
けれど今の私は違う。
---
一時間後。
私は答案を提出した。
「終わりました」
「お疲れ様です」
授業はそれで終わりだったが、緊張で胃がキリキリしていた。
(この不安に苛まれながら私はこの一日を過ごさなければいけない……)
---
昼食の時間。
「お嬢様、本日は鶏の香草焼きです」
「ありがとう」
料理は———味が全く分からない。
「お嬢様、お口に合いませんでしたか?」
ウェーランが心配そうに尋ねる。
「違うの」
私は遠い目になった。
「テストの結果が気になって」
「ああ……」
ウェーランは納得したように頷いた。
「大丈夫ですよ」
「何を根拠に?」
「お嬢様ですから」
何の答えにもなっていない。
---
運悪く、今日の午後は義母の礼儀作法の授業だった。
「ネージュ」
「はい、お義母様」
「カップを持つ角度が二度ほどずれているわ」
「申し訳ありません」
いつもなら即座に修正できる。
しかし今日は違った。
頭の中がテストでいっぱいなのである。
(あの問題、第三問目の答え逆だったかしら)
「ネージュ」
「はい、お義母様」
「聞いていないわね」
「聞いておりました」
「言ってみなさい」
私は沈黙した。
義母が呆れたように目を閉じる。
「テストの結果が気になるの?」
「はい……」
「そう」
義母は紅茶を飲んだ。
「なら仕方ないわね」
(お義母様、優しい……)
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そして夕方。
家庭教師が答案を抱えてやって来た。
見た瞬間、私の心臓が嫌な音を立てる。
(来たわ……)
逃げたい。
今すぐ遠くへ逃げたい。
できることなら三日ほど逃亡したい。
しかし家庭教師は容赦なく答案を机の上へ置いた。
「採点が終わりました」
「はい……」
「結果ですが」
私はごくりと唾を飲み込む。
横ではウェーランが祈るように手を組み、義母は静かに紅茶を飲んでいた。
そして家庭教師は微笑んだ。
「百点です」
(ひゃ……ひゃく? ……聞き間違えかな? そうだよ、多分下一桁9だけ聞こえたんだわ!)
「すみません、先生、下一桁しか聞こえませんでした」
「……? いや、百点です」
「……!?」
私は答案をひったくるように受け取り、震える手で確認する。
端から端まで、綺麗な赤丸で埋め尽くされていた。
「ほ、本当に百点だわ……」
信じられない。
だって二か月前まで、私は関税が何かもまともに説明できなかったのだから。
「おめでとうございます、お嬢様!」
ウェーランが勢いよく拍手した。
「やりましたね!」
「え、ええ……」
その時、ぱたん、と義母が静かにティーカップを置いた。
「よく頑張ったわね」
それだけの言葉だったのに、私の胸はじーんと温かくなった。
目頭が熱くなり、ぎゅっと手で押さえる。
「……ありがと……ございます……」
泣くつもりなんてなかったのに、どんどん涙があふれてくる。
ただ、誰かに努力を認められることが、こんなにも嬉しいとは思わなかった。
すると家庭教師が咳払いをする。
「お祝いムードのところ申し訳ありませんが」
嫌な予感がした。
「来週は歴史の確認試験です」
私は静かに天を仰いだ。
「神様っていらっしゃらないのね……」
「お嬢様、百点取った直後に言う言葉ではありません」
ウェーランが呆れたように言う。
義母は紅茶を一口飲みながら頷いた。
「その通りね」
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数日後、歴史のテストの前日夜。
私はノートを見返していた。
「……アルベルト二世は欲張りで、アルベルト三世はお金好き。リヒャルト一世……戦争大好きおじさんで、カロリーヌ女王は、外交ガチ勢……」
私はぱら、と次のページへ送る。
「で、今の国王のルドヴィッグに繋がってくると」
「失礼です、ネージュ」
「ぎゃっっ」
いつの間にか後ろに立っていた義母に叫ぶ。
「あ。申し訳ございません」
「ふっ」
(お義母様って笑うと美少女すぎる……)
「余計なことは考えない」
「は、はい」
義母は机の上のノートを覗き込んだ。
「復習は順調?」
「……七割くらいは覚えました」
義母は私の隣へ腰掛けた。
「さあ、確認するわよ。建国歴54年……」
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今は歴史のテスト後である。
なぜ飛ばしたかと言うと、今までの私は、文字にするのもおぞましいほどひどい状態だったからだ。
昨日なんて義母が帰った後3回戻したし……というのは置いておいて。
横ではウェーランがそわそわしているし、義母はいつも通り優雅に紅茶を飲んでいる。
この人だけ世界が違う気がする。
絶対緊張とかしないタイプだ。
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「では、こちらが答案です」
「は、はひ……」
私は問題用紙に挟まっている答案用紙を恐る恐る取り出した。
(九十五点……きゅうじゅうご?)
「うおおおぉぉぉぉ」
一番初めに叫んだのはウェーランだった。
「やりました、やりましたよお嬢様ぁあああ!!」
「九十五点……!! ……あと五点……」
「お嬢様!?」
ウェーランが叫んだ。
「そこは喜ぶところです!」
「喜んでいるわよ!? 喜んでいるけどあと五点だったの! 悔しぃ……」
「よい心構えですね、ネージュ嬢」
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数日後
歴史の試験結果に浮かれていた私だが、現実は甘くない。
なぜなら。
「ダンスです」
義母がそう告げたからである。
「……ダンスですか」
私は遠い目になった。
礼儀作法も歴史も政治学も勉強すればどうにかなった。
だがダンスだけは違う。
覚えたと思ったら足を踏み外す。
回れと言われれば回りすぎる。
止まれと言われれば勢い余ってよろける。
つまり壊滅的だった。
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「ネージュ、右足」
「はい」
「違うわ、今動かしたの左足よ」
「え?」
「自覚もないの?」
「ありません」
「重症ね」
お義母様が額を押さえた。
横で見ていたウェーランが肩を震わせている。
(笑うな……!)
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お茶会まであと3日。
私は一曲ぐらいなら通せるぐらいの体力がついた。
今までは回るときや、ステップを踏むときにコルセットが腰と胸に刺さりまくっていて、ダンスどころではなかったのだ。
「ネージュ、今日はテストです。……ウェーラン、ネージュの相手をしてください。私はこちらで見ています」
義母は椅子に座ると、鑑定するかのようにじっとこちらを見ていた。
((緊張するぅ……))
義母がちらり、と演奏団の方を見ると、音楽が流れ始める。
(相手の目を見つめながら、ハイ、みーぎ、ひだり、みーぎ、ひだり、くるくるー。そしたらぎゅってやって、またくるくるー。ハイ、みーぎ、ひだり……)
心の中で数えながらやっていると、ス、と音楽が止まった。
「終わった……」
「ネージュ、まあまあな出来ですね。これならお茶会後の舞踏会も余裕でしょう」
私はぱあっと顔を明るくする。
義母の「余裕」は、合格だ。
「はい、お義母様!」
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「緊張しました、お嬢様ぁ……」
ウェーランは私の部屋に帰ってきてからずっとこの調子だ。
「もう、ウェーラン。ここまでにして」
「ハイっ!」
切り替え早いなぁ、と苦笑していると、「あ」とウェーランが時計を見た。
「夕食の時間です」
「じゃあ、すぐ行きましょう」
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いつものように義母とウェーラン、執事長とともにご飯を食べていると、義母がふと言った。
ちなみに、父は私たちとは別の時間帯に食べているらしい、かっこ悪い。
「ネージュ、わたくしはあなたのその能力を公にさらすつもりはございません」
「は、はぁ……」
「ですから! ネージュも外では外国語を話してはなりませんし、万が一、政治の権利がある者がこの国の不利益となることを言っていても、絶対に口を挟んではなりませんよ」
「それはつまり、私の能力が王族に知られれば、取り込まれてしまう可能性がある……と」
「はい」
私は政治学は好きだけれど、実際に自分が政治を動かすことができるようになった時、もしミスをしてしまったら、と考えるとそれだけで嫌になる。
「勿論です。私も、政治に何か参加したくありませんもの」
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ついに、お茶会当日。
珍しく義母はそわそわしていた。
(小動物みたいでかわいい……)
「顔に出ていますよ。にやにやするのはやめなさい」
「すみません」
私がカーテシーを行うと、「少し腰を落としなさい。あと、もっと顎を引いて」といつものように注意される。
変わらない幸せとはこのことかもしれない。