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Ⅸ「そばに」
昼食を終えたチカゼは、シュウと雑談を交わしながら外廊下を歩く。
中庭の修復は、想定の数倍早く完了していた。
以前よりもいっそう美しく整えられた庭園。
ここには、涼やかな風がさらさらと吹き抜けている。
「あの日、君が列からいなくなったと気づいた時は……」
「あら、やっぱり気づいてたのね。心配しなくても、退避魔法の準備くらいしてたよ。先生にバレないよう、すぐ戻ったし。おかげで数十年ぶりに動いたっていうロア様の像までは拝めなかった」
チカゼはふと足を止めた。
そこはちょうど、禁庫の扉の前だった。
青々と茂る樹木に遮られたその禁庫は、壁面に封印用の蔦が張り巡らされ、その上部には初代学園長ロアの銅像が鎮座している。
堂々たる立ち姿で、二人を……禁庫に近づく不届き者を、逃すまいとして見下ろしている。
チカゼの平然とした様子に、シュウは苦笑した。
「チカゼ、この件は一緒に調べよう。お互い手の内を隠して競い合うより、情報を持ち寄った方が早く真相にたどり着けると思うんだ。そういう約束はできないかな」
それは、好奇心旺盛なパートナーに振り回される、お人好しの顔。
甘い誘惑のような、それでいて、絶対的な自信に裏打ちされている。
彼の蒼い瞳が祈るような光を宿していた。
(約束するフリをすべきかしら)
彼の手を取れば、氷晶家が独占する領域へのパスポートが手に入る。
あの名家は、このカリスティア島唯一の連絡船や島の政治を握っている。
「うん、約束する。じゃあ私、今日の放課後は図書館で炎の魔法構成について徹夜で調べるから。あなたは一人で帰っていいよ。あ、船の時刻表、明日までに揃えといて……って言ったら、どうする?」
チカゼは試すような笑みを浮かべ、彼の顔を覗き込む。
「……シュウ?」
ふ、とシュウの視線が揺れた。
耐えきれなくなったように。
「ご、ごめん。約束とかもっともらしいこと言って、恥ずかしくなってきただけ」
うつむいた彼の首筋が、木陰の中でも分かるほど赤く染まっている。
繋いでいた指が、滑り落ちるように離れる。
触れていた場所が、夜露に打たれたように冷え込む。
(…………?)
チカゼの返事は、喉の奥で止まったままだ。
「どうしたの?」
シュウが心配そうに声を潜め、彼女の言葉を待つ。