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第1話:『始まりのそよ風』
タヌキ
薄暗い視界。鼻を突く焦げ臭い匂い。
あの日の記憶は、今でも俺の夢にこびりついて離れない。
「逃げろ……っ! 迅(じん)、前を見るな、走れ!」
血まみれになりながら俺をかばったのは、優しかった恩師の背中だった。
その背中を、容赦なく【漆黒の雷】が貫く。
「がはっ……!」
「先生……っ!!」
崩れ落ちる恩師。その向こう側に立っていたのは、世界のすべてをあざ笑うかのような冷たい目をした『悪魔』だった。
「悲しむ必要はない。お前もすぐに同じ場所へ送ってやる」
男が再び手を掲げた瞬間、恩師は最後の力を振り絞って、俺を突き飛ばした。
それが、俺の見た恩師の最後の姿だった。
あの日、俺の心は死んだ。そして、あの悪魔への復讐と、奴の仲間である『3人の悪魔』を全員この手で葬るという誓いだけが、俺を動かす唯一の原動力になった。
「――次、Dクラス。迅。測定を始めろ」
教官の冷淡な声で、俺は過去の記憶から現実に引き戻された。
ここは能力の高さで全てが決まる実力主義の『対魔特務学校』。
周囲の天才たちが炎や雷を派手に出す中、前に出た俺に向けられるのは、冷え切った落胆の視線とクスクスという嘲笑だ。
「あいつ、またあの『そよ風砲』だろ?」
「よくこの学校に入れたよな。そんなに一般人と変わんないのに」
言わせておけばいい。
俺の視線の先にあるのは、目の前の測定用ターゲットじゃない。恩師を殺した悪魔とその仲間の首だけだ。
「ふぅ……」
深く息を吐き、右拳を引く。
――ただの衝撃波? ああ、そうだよ。
だったら、その『ただのそよ風砲』で、世界の頂点までぶち抜いてやる。
フォォーーーヌ!
手のひらから放たれた目に見えない空気の塊が、測定器に当たった。
だが、表示されたランクは無情にも最低評価の『D』。
「ハハハ! そんなものか!」
笑い声を上げたのは、背後で腕を組んで立っていた、学園の上位ランカー。
数キロ先から目に見えない速度の圧縮した水の弾丸を放つ天才ガンナーのレンだった。
レンは昔からの悪友で、顔を合わせればいつもこうして俺をバカにしてくる。……そういう奴だ。
「何? バカにするなら帰ってよ」
俺はムッとして、肩をすくめた。
「まぁまぁ、そんなキレんなって。悪かったよ」
レンはひらひらと手を振りながら、いつもの軽い調子で俺の頭をぽんぽんと叩いてなだめてくる。この呆れるほどのマイペースさも、いつものことだった。
―――その日の放課後
「今日の迅の家の夕飯なに〜?」
そんな何気ない会話をしていると、数キロ先にある高層ビルの工事現場から悪魔アラームが鳴り響いた。
「悪魔だっ……! あんな遠くに!?」
まだ逃げ遅れている人が多くいる。このままでは被害が出る。今から走っても絶対に間に合わない。
そんなことを考えて焦る俺の横で、レンがすっと真剣な顔になる。
―――レンが能力を使う。
指先を銃の形に構え、遥か遠くの悪魔に狙いを定めた。
「『ウォーターガン』」
ドォン!! と激しい破裂音が響く。
レンが放った目に見えない速度の超圧縮された水の弾丸は、空間を切り裂き、一瞬で数キロ先の悪魔の核を真っ向から貫いた。
「ギ、ガッ……!?」
悪魔は悲鳴を上げる暇もなく、黒い霧となって消滅していく。
「ふぅ。楽勝だな」
す、すごすぎる。こんなに離れた場所から、一瞬で倒してしまうなんて。
その後、警察や救急隊が駆けつけ大事にならず終わった。
そして帰ろうとしたとき。
「……レン。俺を強くしてくれ」
と言った。自分でも何で言ったか分からない。だが――
「フッ。しょうが無いな。俺がいないとできないもんな〜」
俺が初めて頼ってきたのが嬉しいのか、レンは少し煽りながら、でも本当に嬉しそうに笑った。
「フン」
俺は顔をムスッとさせたけど、内心は本当に嬉しかった。
「じゃあこれから、毎日5時間は練習な」
ニッコニコの満面の笑顔で言われ、俺は恐怖のあまりその場で気絶した。
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