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第5話:不意の襲撃と、三位一体(トリニティ)
タヌキ
第5話:不意の襲撃と、三位一体(トリニティ)
「おい迅! 背筋が曲がってるぞ! あとスクワット500回!」
「死ぬ……! 本当に、筋肉がちぎれる……!」
極上地獄門の道場に、俺の悲鳴が響き渡る。
厳十郎さんの地獄の筋トレメニューが始まってから数日。俺の体は毎日バキバキの筋肉痛で、立っているのすら奇跡に近い状態だった。レンがプロテインを片手にニヤニヤと見守り、氷華が冷たい視線でカウントを進める。それが俺の新しい日常だ。
―――その時だった。
ガガガガガッ!!! と、道場の強固な結界が激しく揺れ、悲鳴のような音を立てて破られた。
凍てつく猛吹雪とともに、道場の入り口から不気味な黒い影が立て続けに滑り込んでくる。
その数、5体。
禍々しい角を生やし、世界を脅かす3体の大ボスの紋章を胸に刻んだ、強力な悪魔の配下たちだった。
「チッ、大ボスの差し向けた刺客か……! こんなところまで嗅ぎつけてきやがったか!」
レンがすっといつものチャラさを消し、指先を銃の形に構える。氷華もまた、その綺麗な瞳に絶対零度の殺気を宿して片手を掲げた。
襲いかかる5体の悪魔を前に、俺もボロボロの体に鞭打って拳を握りしめる。
だが、その時。こたつでぬくぬくと茶をすすっていた厳十郎さんが、ふがふがと笑いながら声を放った。
「ほう、ちょうどいい動く標的が来たのう。おぬしら3人、協力してあの5体をすべて片付けるのじゃ。これは、おぬしらのコンビネーション力を鍛える実戦修業じゃ。儂は一歩も動かんぞ?」
「なっ……!?」
ジジイは本当に手伝う気がないらしく、こたつから出る気配すら見せない。
「ハハッ、言うねえジジイ! 面白そうじゃん! 氷華、迅、行くぞ!」
「レン、私に指示を出さないで。……神凪、足を引っ張ったら凍らせるわよ」
天才2人が一瞬で戦闘モードに切り替わる。
筋トレでボロボロの俺、最強の銃を誇るレン、すべてを凍らせる氷華。
異色の3人による、初めての共同戦線が幕を開けた――!
「ゼノン様、そして三魔神の御名において……この地を滅ぼす!」
5体の悪魔が一斉に耳を劈(つんざ)く咆哮を上げ、猛烈なスピードでこちらへ突進してきた。
筋トレでボロボロの俺の体が一瞬すくむ。だが、俺の両隣に立つ2人の天才が、同時に地を蹴った。
「まずは足止めだ! 氷華、やっちまえ!」
「指示を出すなと言っているでしょう! ――『フリーズバインド』!」
氷華が冷徹な声を響かせ、床に片手を叩きつける。ガガガガガッ!と凄まじい氷の奔流が道場を駆け抜け、突進してきた悪魔たちのうち3体の足を一瞬で分厚い氷塊へと封じ込めた。
「ギ、ガァッ!?」
「よし、動けねえ奴から蜂の巣だ!」
レンが不敵にニヤリと笑い、指先から超圧縮された水の弾丸を連射する。
ドン、ドン、ドン、と激しい銃声が響き、跳弾の技術を駆使した予測不能な弾道が、氷漬けになった悪魔たちの弱点(コア)を正確に撃ち抜いていく。一瞬で3体の悪魔が黒い霧となって消滅した。
圧倒的な強さ。だが、残った2体の悪魔が、レンと氷華の隙を突いて、凄まじい速度で回り込んできた。その爪が、まだ動けない氷華へと迫る。
「しまっ――」
「させねえよ……ッ!!」
体が動かないなら、毎日1万回繰り返した『型』で動く。
厳十郎さんの言葉が脳裏に蘇る。足の裏で畳を掴み、腰の回転、体重のすべてを、引き絞った右拳へと一本の線で繋ぐ。
今こそ、レンのアドバイスとジジイの教えを一つにする。
エネルギーを一点に「シュッ」と集め、肉体のすべてを乗せて「パンッ」と弾けさせる!
「おおおおおッ!! 『そよ風砲(インパクト)』ォォォッ!!!」
―――ドッパァァァンッ!!!!
道場全体の空気が爆発したかのような、これまでで一番激しい轟音が炸裂した。
俺の拳から放たれた目に見えない「烈風の針」は、迫り来る悪魔の肉体を真っ向から貫き、その後ろにいたもう1体をも巻き込んで、2体同時に粉砕した。
「ギ、ガハッ……!?」
悪魔たちは悲鳴を残し、完全に消滅していく。
「はぁ……はぁ……っ!」
激痛。でも、さっきのように腕の骨が軋むような痛みじゃない。正しい体の使い方をしたおかげで、自分の放った衝撃の負荷に、肉体がちゃんと耐えきっていた。
悪魔が消え去った静寂の中、レンと氷華が呆然とした顔で俺を見ている。
「おいおい……今の、本当に『そよ風』かよ……?」
レンが引きつった笑みを浮かべ、氷華もまた、驚きで言葉を失ったように俺の拳を見つめていた。
道場の奥では、こたつに入ったままの厳十郎さんが、満足げに目を細めてふがふがと笑っていた。
「ほう……合格じゃ。おぬしら、なかなか良いコンビネーションじゃったな」