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第3話:氷の洗礼
タヌキ
第3話:氷の洗礼
「――で、その『シュッとやってパンッ』をいつでも再現できるように、今日から新しい特訓相手を連れてきたぜー」
翌日の放課後。また呼び出された地下演習場。
黒鉄レンがいつもの軽い調子でドヤ顔を見せる後ろから、コツン、コツンと冷たい靴音が響いた。
入ってきた人物を見て、俺の心臓が一瞬跳ね上がる。
透き通るような白髪のロングヘア。モデルと見紛うほど端正な顔立ち。
しかしその瞳は、周囲のすべてを拒絶するかのように凍りついている。
学園最高峰のAランク能力者であり、誰もが恐れる『氷の女王』ーー氷室氷華(ひむろひょうか)。
「レン、説明してくれる? あなたが私の貴重な時間を奪ってまで、わざわざここに連れてきた『面白い男』の正体を」
氷華は、最低ランクの制服を着た俺(迅)を一瞥すると、侮蔑すら含まない、ただ冷え切った声で言った。
「……冗談はやめて。なぜ私が、こんなDランクの『そよ風砲』の相手をしなければならないの?」
「いやいや氷華、こいつ昨日の夜、演習場の残滓悪魔をワンパンで消し飛ばしたんだって。な? 迅!」
レンが俺の肩に腕を回してニシシと笑うが、氷華の冷たい眼光は一切緩まない。
「その壊れた鉄板が証拠だと言うなら、私が今ここで、直接確かめるわ。……神凪 迅、構えなさい」
氷華がすっと片手を掲げた瞬間、演習場の空気が一気に凍りついた。ガキガキガキッ! と凄まじい速度で床が凍りつき、俺の足元を強固な氷塊が覆う。
「なっ……動けねえ!?」
「私の氷は、生半可な熱や衝撃じゃ砕けない。口だけじゃないことを見せて」
足が完全に固定された絶体絶命の距離。
氷華の鋭い視線が俺を射抜く。
(くそ……やるしかねえ!)
俺は覚悟を決め、昨日掴んだあの感覚を思い出しながら、右拳を限界まで引き絞った。
昨日掴んだ感覚を思い出しながら放たれた、目に見えない空気の塊。それが、俺の足元を縛る絶対の氷を激しく揺らした。
―――ドォン!!!
凄まじい衝撃音が地下室に反響する。
だが、巻き上がった白煙の先、俺の視線に入ってきたのは、相変わらず美しく君臨する傷一つ無い氷だった。
「無理だったか……」
俺は愕然として、その場に立ち尽くした。Aランクの壁は、今の俺にはまだ高すぎる。
そんな俺の様子を見て、氷華が冷徹な歩みで近づいてくる。
「……やっぱりダメね。Dランクの『そよ風砲』に、私の氷を壊せるわけが無いわよね」
彼女が落胆混じりの声を響かせ、背を向けようとした、その時だった。
「いや……これは……」
横で見ていたレンが、信じられないものを見るような目で呟きながら氷に近づく。そして、その指先でそっと氷の表面に触れた。
パキィ……。
小さな音を立てて、強固だったはずの氷が、まるで砂細工のようにボロボロと音を立てて崩れ落ちていく。
「ど、どういうこと……!?」
絶対の自信を持っていた氷華が、目を見開いて驚きの声を漏らした。
レンは崩れ去った氷の破片を拾い上げ、ニヤリと、でもどこか戦慄したような笑みを浮かべる。
「これは、衝撃波で『割れないギリギリ』の超高圧が、内部に加わってたんだよ。外側は無傷に見えて、中身はとっくに限界を迎えてた。だから、俺が微弱な力で触れただけで、一気に崩壊したんだ」
レンの解説を聞きながら、氷華は呆然と俺の右拳を見つめていた。その綺麗な瞳には、さっきまでの侮蔑は一切なく、ただ圧倒的な衝撃だけが揺らめいている。
「ただの……そよ風じゃ、ない……?」
「ほら、やっぱり迅はすごいだろ〜?」
自分のことのように嬉しそうな顔をして、レンが氷華に向かって自慢げに胸を張る。
「……所詮、触れなきゃ崩れないようじゃダメね」
氷華はフンとそっぽを向いて、まだ厳しい言葉を口にする。
「そんな……」
やっぱり認められないのかと、俺が絶望して立ち尽くしていると。
「…………でも、極めればどんなものでも一撃で破壊できるような、とんでもないモノになるかもね」
そう言って、氷華が初めて少しだけ、悪戯っぽく微笑んだ。
張り詰めていた緊張が一気に解け、俺は思わずその場にぺたりと座り込んでしまった。
「おぉ〜、あの氷の女王を笑わせるなんて、迅はすごいな〜」
レンが少しからかうような、でも本当に嬉しそうな響きを乗せて俺を褒めてくれる。
「……だけど、その力を極めるために、私が昔修行した『極上地獄門(ごくじょうじごくもん)』に行きましょうか」
名前ヤバすぎだろ……と俺が心の中で戦慄していると、
「お、じゃあさっそく行くか!」
と、まるで遠足にでも行くかのような明るさで、レンが先頭に立って歩き出した。そのあまりのマイペースさに、俺は呆れつつも思わず笑ってしまった。
「フッ……じゃあ、行こう」
そうして俺たちは、さらなる強さを手に入れるため、伝説の修行場『極上地獄門』に向かった。
【ファンレターをくれた あさまるさんへ!】
素敵なファンレターありがとうございます!めちゃくちゃ嬉しかったです!
ファンレターだと直接お返事が返せなかったので、ここに書きますね。
ぜひネッ友になってください!これから小説の話などたくさんできると嬉しいです。