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第6話:魔界への門と、おかしな双子
タヌキ
第6話:魔界への門と、おかしな双子
5体の悪魔を退けた興奮が冷めやらぬ道場で、厳十郎さんはこたつからゆっくりと腰を上げた。その片目がすっと鋭く見開かれ、伝説の戦士としての覇気が道場を満たす。
「おぬしら、見事な戦いじゃった。神凪の小僧、おぬしの『そよ風』はもう、ただの風ではない。これならば、三魔神が第1のボス――空間を支配する悪魔【歪魔(わいま)ガミジン】のいる異世界『魔界』でも戦えるじゃろう」
「ついに本拠地に乗り込むわけか。熱いじゃん!」とレンが不敵に笑う。
だが、厳十郎さんは首を横に振った。
「ただし、魔界の強固な結界を破って門を維持するには、おぬしら以外にもう一人、強力なAランク能力者の魔力が必要じゃ」
「もう一人……? Aランクの知り合いなんてそう簡単に――」
俺が言いかけたその時、道場の扉がガラッと勢いよく開いた。
「はーい! 噂を聞きつけて、超天才Aランクのウチらが助っ人に来てあげたよー!」
「来てあげたの。お姉ちゃん、アメちょうだい」
入ってきたのは、ゴスロリ衣装に身を包んだ姉と、パンク系の服を着た妹の、小柄な双子の女の子だった。いつもカラフルなお菓子をモグモグと食べている、学園最年少のエリート双子だ。
「なんだ、お前らも行くのか。相変わらず生意気そうなツラしてんなぁ」
レンがひらひらと手を振ると、姉のほうが俺を指さしてケラケラと笑った。
「だって魔界に行くんでしょ? 楽しそうじゃん! それよりレン、なんでそのDランクの『そよ風砲』のザコも連れてくの? 悪魔の顔に涼しい風でも当てる気? ギャハハハ!」
「そうなの。そよ風くん、お菓子のゴミ飛ばすのには便利そうなの」
妹までポテチを食べながら無表情に煽ってくる。カチンときたが、氷華がすっと間に入った。
「口を慎みなさい、二人とも。……でも、実力だけは保証するわ。行きましょう」
厳十郎さんが漆黒の鍵を空間に突き立てると、ガキィン!と空間が引き裂かれ、禍々しい紫色の光を放つ『魔界の門』が現れた。双子がそこへ魔力を流し込むと、門の維持が安定する。
「門の向こうは弱肉強食の世界じゃ。息災でな」
俺たちは光の中へと飛び込んだ。
視界が強烈な光に包まれ、次に目を開けたとき――そこは、紫色の不気味な雲が流れ、大地がひび割れた、異様で広大な『魔界』の世界だった。
「おっと、さっそくお出迎えだぜ」
レンの視線の先、魔界の凶暴な野生の悪魔たちが数十体、ヨダレを垂らしながら一斉にこちらへ突進してきた。
「よし、俺の烈風のインパクトで――」
俺が前に出ようとした瞬間、双子が「どいてどいてー!」と俺を突き飛ばして前に出た。
「ウチらの足引っ張らないでよね、そよ風くん! 『シュガー・ニードル』!」
姉がペロペロキャンディを掲げた瞬間、空中に無数の、ダイヤモンド並みに硬く鋭いアメの針が生成され、豪雨のように悪魔たちに降り注いだ。悪魔たちの肉体がガガガガッと一瞬でハチの巣にされていく。
「はい、次はウチの番。『チューイング・ボム』」
妹が口で膨らませたピンク色のガムをぷっと吹き飛ばす。ガムは悪魔たちの群れの中心に張り付いた瞬間、ドガァァァン!!! と、空間を吹き飛ばすほどの凄まじい大爆発を起こした。
爆風が吹き荒れ、数十体いた悪魔の群れが一瞬で消滅する。
「ふぅ、お腹すいた。お姉ちゃんポテチちょうだい」
「はい、ガムあげるー」
何事もなかったのようにお菓子交換を始める双子の背中を見て、俺は完全に呆然と立ち尽くしていた。
「な、なんだあいつら……。あんなふざけた能力なのに、バリくそに強ぇ……!」
「だろ? だからAランクなんだよ」とレンがニヤニヤ笑う。
氷華も特に驚いた様子はなく、「あの二人の前衛制圧能力は、学園でもトップクラスよ。……でも、魔界の野生はこれだけじゃ終わらないわ」と、鋭い視線をさらに奥へと向けた。
氷華の言葉が現実となるのに、時間はかからなかった。
地響きが鳴り響く。
爆発の煙が晴れた大地の裂け目から、先ほどの雑魚どもとは明らかに格が違う、体長5メートルを超える巨大な【魔界獣】が3体、濁った眼光を光らせて姿を現した。三魔神ガミジンの魔力が濃いこのエリアでは、原生生物すら化物クラスに肥大化しているらしい。
「あーあ、また来た。ウチ、もうアメの在庫切れそうなんだけどー」
姉のゴスロリ少女がケラケラと笑いながらも、再びペロペロキャンディを掲げる。
「ウチもガム噛みすぎて顎痛い。……そよ風くん、ちょっとは盾になってよ」
妹のパンク少女が無表情に俺を煽りながら、ぷっと膨らませた爆弾ガムを放った。
だが、今度の魔界獣は手強かった。
放たれたガムの爆発を、巨大な爪の一振りで真っ向から掻き消し、爆風を突き破って凄まじい突進を仕掛けてきたのだ。
「うそ、弾かれた!?」
「お姉ちゃん、危ない!」
爆弾が通用せず、初めて双子の顔に焦りが走る。突進の軌道上には、魔力を使い果たしかけた二人がいる。今からレンの水弾や氷華の結界を張っても、間に合うかどうかという絶望的なタイミング。
(動け……! 何のためにジジイの地獄の筋トレに耐えてきたんだ!)
俺の肉体が、思考よりも先に爆音を上げて地を蹴った。
筋肉痛で引き裂けそうな全身の繊維が、厳十郎さんに教わった『完璧な連動』を再現する。足裏から腰、肩、そして右拳へと、すべてのエネルギーが一寸のブレもなく一本の線で繋がっていく。
「ウチらの前に出ろって言ってない――」
姉が叫ぶ声を、俺の突き出した右拳の風圧が掻き消した。
引き絞ったエネルギーを、肉体の回転とともに一点へ。シュッ、と集めて、パンッ、と弾けさせる!
「ナメんな……っ! これでも喰らいやがれぇぇぇッ!!!」
―――ドッパァァァンッ!!!!
地下道場で放った時とは比べ物にならない、空間そのものを震わせるほどの烈風の衝撃波が、俺の拳から炸裂した。
超圧縮された見えない「空気の杭」が、突進してきた魔界獣の脳面を真っ向から捉える。
外側は無傷――だが、次の瞬間。
パキィン、と硬質な音が響いた。
魔界獣の巨体が、内部からの圧倒的な圧力に耐えきれず、まるでガラス細工のようにボロボロと音を立てて内側から崩壊し、黒い霧へと霧散していったのだ。
「……え?」
双子の口から、間抜けた声が漏れる。
「よし、トドメは任せな!」
その隙を逃さず、レンが指先から放った超高速の水弾が残りの2体の核を正確に撃ち抜いた。氷華の氷結がその死体を完全に凍らせて粉砕する。
静寂が戻った魔界の大地で、ゴスロリとパンクの双子は、呆然とした顔で俺と、俺の右拳を交互に何度も見つめていた。
「な、なにあれ……今のそよ風じゃないじゃん、ただの暴力じゃん……」
「そうなの。ウチらの爆弾より、中身がグチャグチャになっててエグいの」
「ハハハ! だから言ったろ、迅の『そよ風』は突風なんだって」
レンが俺の肩を叩いて豪快に笑う。氷華もまた、ふっと口元を緩めて俺を見た。
「合格ね、神凪。魔界でも、あなたの力は十分に通用するわ」
「はぁ、はぁ……っ」
右腕は激しく痺れている。だけど、壊れてはいない。俺の肉体は、確実にあの烈風のインパクトに耐えられる強さを手に入れていた。
「……行くぞ。三魔神ガミジン、まずはあいつを引きずり出す」
俺は拳を強く握り直し、紫の雲が渦巻く魔界の奥地へと歩み出した。バカにしてきた双子も、今度は何も言わずに、俺の背中の後ろを大人しくついてくる。
落ちこぼれのそよ風が、世界を揺るがす大嵐に変わる旅路。その本当の激闘が、今ここから始まった。
これからは毎週日曜日に一話ずつ出したいと思っております。これからもよろしくお願いします。