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バゥムクゥヘン・エンドロゥル 第六話
「……光野、羽香……っ!」
翌日の朝。闇宮光は、登校するなり一直線に光野羽香の席へと向かった。
黒髪ショートの隙間から覗く目は血走り、目の下のクマはかつてないほど色濃い。頭のハサミ型のリボンは、まるで今すぐ眼前の敵を切り刻まんとするかのように、凶悪な角度で逆立っていた。
やさぐれた心の限界を超え、絶望と憎悪に支配された光の手には、1本の小さなハサミが握りしめられていた。
「もう我慢できない……お前が裏で私のことをどう言いふらそうが勝手だけど、これ以上、私の心を弄ぶな!」
激昂する光の怒鳴り声に、早朝の教室が静まり返る。
だが、机の前に立つ羽香は、相変わらず地面から五ミリメートル浮いたまま、感情の消えた瞳で光を見つめ返すだけだった。ツインテールの羽の髪飾りも、ピクリとも動かない。
「……光ちゃん。私はただ、あなたと友達になりたかっただけだよ」
羽香の声には、怒りも悲しみもなかった。ただただ、どこまでも「上の空」で、空虚だった。
一度も光を睨んだことのなかった彼女が、今は何も映さないガラス玉のような目で、まっすぐに光を見つめている。そのディスコミュニケーションそのものが、光の心をさらに狂わせた。
「嘘をつくな!!」
光がハサミを突き出した、その瞬間。
「キャッ!? やめて、闇宮さん……!」
鋭い悲鳴と共に、二人の間に割って入った影があった。
柊蛇惡だ。彼女はサイドポニーテールの蛇の髪飾りを激しく揺らしながら、いかにも「クラスメイトの刃傷沙汰を止めに入った勇敢な少女」の顔をして、光の腕を掴み損ねたフリをした。
プッ、と小さな音がして、蛇惡の白い頬に一筋の赤い線が走る。
「あっ……」
光が息を呑む。ハサミの先が、蛇惡の顔をかすめていた。
目つきが悪くていつも誰かを睨んでいると誤解される蛇惡が、今は怯えた瞳で涙を浮かべている。
「う、嘘……柊さん、ごめん、私……」
「ひどいよ、闇宮さん……私はただ、二人に仲良くしてほしくて、相談に乗っていただけなのに……っ」
蛇惡は顔を覆って泣き崩れた。
だが、その手の隙間から覗く口元は、誰も見ていない床に向かって、狂おしいほどの歓喜で歪んでいた。
人の不幸は蜜の味。
自分の仕掛けた完璧な|嘘《レイヤー》の上で、光が勝手に踊り、羽香が壊れ、そして今、自分が「完全な被害者」として舞台の真ん中に立った。これ以上ない、極上の破滅の劇だ。
「……最低」
背後から、氷のように冷たい羽香の声が響いた。
地面から五ミリメートル浮いたまま、羽香は初めて、軽蔑に満ちた目で光をまっすぐに睨みつけた。
第六話 END
見てね。見てくれたら泣き叫んで発狂する(しません)。
六話来た…!