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雲ひとつない空と赤と白の約束
れもん
「うわあ、最高の運動会日和!」
5月の土曜日。葵(あおい)は朝、窓を開けて青空を見上げ、思わず声をあげた。雲ひとつない、抜けるような青空だ。お母さんが朝早くから作ってくれたお弁当のいい匂いが、部屋中に漂っている。
今年の4年1組は、赤組と白組に別れた。葵は赤組、陸(りく)は白組だ。
「陸くん、白組かぁ……」
クラスメイトと競い合うのは少し寂しいけれど、陸は足が速いから、白組でもきっと大活躍するに違いない。
学校に着くと、グラウンドはすでに熱気に包まれていた。色とりどりの万国旗が風になびき、スピーカーからは元気な行進曲が流れている。赤組と白組のテントからは、それぞれの応援団の声が響いていた。
葵はダンスの発表を終え、少し息を切らしながらテントに戻ってきた。
「葵、おつかれ! ダンス、すごく上手だったよ!」
隣のテントにいた陸が、スポーツドリンクを飲みながら声をかけてくれた。白組のハチマキが、陸の少し日焼けした肌によく似合っている。
「ありがとう、陸くん! 陸くんの徒競走、すごかったね。1位だったじゃん!」
「へへ、まあね。でも、次はもっと大事な種目があるからさ」
陸は少し真剣な顔つきになった。
「学年対抗リレー、白組のアンカーなんだ」
「えっ、アンカー!? すごい!」
「でも、赤組のアンカー、隣のクラスの佐藤くんだろ? あいつ、めっちゃ速いから……」
陸は少し不安げにグラウンドを見つめた。佐藤くんは学年で一番足が速いと評判の男子だ。
葵は陸の横顔を見て、胸が少し痛くなった。
「陸くん、大丈夫だよ。陸くんだってすごく速いし、毎日練習してたの、私知ってるよ」
葵は陸の目を見て、まっすぐに言った。
「私、赤組だけど……陸くんのこと、応援してるから。絶対に、1位になれるよ!」
陸は葵の言葉を聞いて、少し驚いたような顔をしたあと、ニカッと笑った。
「ありがとう、葵! 葵に応援してもらえるなら、佐藤くんにだって勝てる気がしてきた!」
そう言って、陸は白組のテントの奥へと戻っていった。
午後。いよいよ、4年生の学年対抗リレーが始まった。
グラウンドの中央には、各クラスの代表選手たちが並んでいる。葵は赤組の応援席で、心臓がバクバク鳴るのを感じていた。
「位置について、よーい……」
パァン!
ピストルの音とともに、第1走者が一斉に飛び出した。バトンが次々と渡されていく。赤組と白組は、ほぼ横一線だ。
「いけー! 赤組!」
「負けるなー! 白組!」
応援の声がグラウンド中に響き渡る。
そして、いよいよアンカーにバトンが渡される。白組は陸、赤組は佐藤くんだ。
バトンを受け取った陸は、弾かれたように走り出した。佐藤くんもほぼ同時に走り出す。
二人は競り合いながら、トラックを一周する。
「陸くん、がんばれ……!」
葵は両手を固く握りしめ、陸の背中を見つめた。
最後の直線。陸と佐藤くんは、ほぼ並んでいる。
「いけえええええええええ!!」
グラウンド中から歓声が上がる。
ゴールテープまで、あと少し。
陸は最後の一歩で、佐藤くんをわずかにかわし、ゴールテープを切った。
「やったあああああああ!!」
白組のテントから、割れんばかりの歓声が上がる。陸はそのままグラウンドに倒れ込み、チームメイトたちが駆け寄ってきた。
葵は赤組の席にいたけれど、胸が熱くなるのを感じた。陸が頑張っている姿を見て、すごく誇らしかった。
運動会が終わった後、夕暮れのグラウンドで。
「陸くん!」
葵が声をかけると、陸は少し疲れた様子だったけれど、晴れやかな笑顔で振り返った。
「あ、葵。……どうだった?」
「すごくカッコよかったよ! アンカー、本当にすごかった!」
「ありがとう。……葵のおかげだよ。応援してくれたから、最後まで諦めずに走れたんだ」
陸はそう言って、メダルを少し照れくさそうに見せてくれた。
「今度は、赤組も勝てるといいな」
「うん! 来年は、赤組も白組も、一緒に1位になろうね!」
ふたりは夕暮れの空の下、笑い合った。
運動会は、少し悔しかったけれど、陸の頑張る姿を見ることができて、葵にとって忘れられない思い出になった。