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まぶしい太陽と、ひみつのビート板
れもん
7月中旬、梅雨が明けて本格的な夏がやってきた。
今日の4年1組の体育は、みんなが楽しみにしていたプール授業だ。
「キャー!」「冷たーい!」
水しぶきと歓声がプールいっぱいに広がる。真夏の太陽が水面に反射して、キラキラと眩しく輝いていた。
葵(あおい)はプールサイドに座り、足だけをバタバタと水につけていた。実は葵、泳ぐのが少しだけ苦手だった。
(けのびはできるけど、バタ足になるとすぐ沈んじゃうんだよね……)
「葵ー! なにボーっとしてるの?」
水の中からバシャッと音がして、濡れた髪をかき上げながら陸(りく)が顔を出した。陸は水泳が得意で、すでにプールの深めのゾーンで友達と勢いよく泳いでいた。
「あ、陸くん。ううん、なんでもないよ」
「もしかして、25メートルテスト緊張してる?」
陸はプールサイドに両手をついて、葵を下から覗き込んだ。葵の気持ちを見抜いたようなまっすぐな目に、葵は思わず視線を泳がせる。
「……うん。バタ足すると、足が重くなっちゃって」
小声で明かすと、陸は「そっか」と呟き、水の中から赤いビート板をひとつ持ってきてくれた。
「あのさ、力が入ると沈んちゃうんだよ。腕をまっすぐ伸ばして、お腹に少し力を入れると浮くよ」
陸はビート板の持ち方を優しく教えてくれた。
「ちょっとやってみなよ。俺、横で見張ってるから!」
「えっ、でも……」
「大丈夫、深くなったらすぐ引っ張り上げてあげるからさ」
陸のニッと笑う顔を見て、葵は勇気を出してドブンと水に入った。冷たい水が心地いい。
教わった通りにビート板をギュッと握り、お腹に意識を集中させてバタ足をする。
「そうそう! 足の甲で水を叩く感じ! すごく上手!」
隣を並んで泳ぎながら、陸が声をかけてくれる。
いつもはすぐに沈んでしまう足が、今日はすーっと前に進んでいく。プールの端まで泳ぎ切ったとき、葵は思わず笑顔になった。
「できた……! 陸くん、私泳げたよ!」
「な! 言っただろ? 葵、筋がいいんだよ!」
陸は自分のことのように嬉しそうに笑い、水の中でパチンとハイタッチをした。陸の大きな手が葵の手と重なり、冷たい水の中でも胸の奥がカッと熱くなった。
授業が終わり、着替えを済ませて教室へ戻る廊下。
プール上がりの濡れた髪から、まだ少しだけ消毒液の匂いが漂っている。
「葵、今日のテスト、絶対合格できるよ」
陸が後ろから並んで歩きながら言った。
「ありがとう、陸くんのおかげだよ。……すごく教えるの上手なんだね」
「へへ、妹に教えてるからね。でも……葵が頑張って泳いでるの見たら、俺も嬉しくなっちゃってさ」
陸は少し照れくさそうに首の後ろをかいた。
「夏休み、もしよかったら市民プールにも一緒に行こうよ。もっと速く泳げるコツ、教えてあげるから」
「本当!? 行きたい!」
葵が嬉しそうに答えると、陸は「よし、約束ね!」と嬉しそうに頷いた。
窓から差し込む夏の日差しの中で、ふたつの影が仲良く並んで揺れていた。夏休みまで、あと少し。